会社を手放すかどうかを決める経営者にとって、相談相手選びは一度きりの重い判断です。M&A仲介会社の利益は、そうした相談をどれだけ成約まで導けるかで決まります。
ストライクグループは2026年8月28日、2026年9月期の通期業績予想を上方修正しました。7月と8月に複数の大型案件が成約し、営業利益予想は83億円、純利益予想は57億円へ引き上げられています。7月30日の第3四半期決算に掲載された旧予想を使うと、現在の株価評価を正しく比較できません。
一方、M&A支援企業の業績は、相談や受託が増えるだけでは決まりません。実際の取引が完了し、売上と利益へ転換することが必要です。成約の時期が数週間ずれるだけで四半期業績が変わる可能性があるため、成長する市場という説明と、会社が今期に稼ぐ利益の間を確認する必要があります。
株価は2026年9月4日終値1,401円、情報確認日は9月5日を基準とします。修正後の会社予想EPS98.94円に対するPERは約14.2倍、年間配当予想65円に対する利回りは約4.64%です。
今回の上方修正で確認できること
| 項目 | 8月28日修正後の予想 | 前回公表予想 |
|---|---|---|
| 売上高 | 245億円 | 225.23億円 |
| 営業利益 | 83億円 | 73.16億円 |
| 経常利益 | 83億円 | 73.43億円 |
| 純利益 | 57億円 | 50.25億円 |
| EPS | 98.94円 | 87.24円 |
売上予想の引き上げ率は8.8%、営業利益は13.4%です。成約の積み上がりによって、売上以上に利益を増やす見通しとなりました。会社は取引実行が翌期にずれる可能性のある一部の期末案件を、今回の予想へ織り込んでいないとも説明しています。ただし、その案件が必ず追加利益になると断定することはできません。8月28日の業績予想修正
筆者が評価するのは、案件の実行が進んだ結果に基づく上方修正である点です。将来の相談増だけを理由に利益が増えると予想している状態より、今期利益の見通しを確認しやすくなっています。それでも、翌期に同じ大型案件が繰り返されるとは限らないため、次の受託と成約の積み上がりを追う必要があります。
M&Aを使う企業側の評価を知りたい場合は、ナトコの買収と業績分析も参考になります。支援会社の売上になる取引が、買い手企業にとってどのような投資判断なのかを理解すると、案件が成立する条件を考えやすくなります。
M&A支援はどの段階で価値を生むのか
企業の譲渡や買収は、相手を見つければ終わる取引ではありません。売り手が何を望み、買い手がどの価値を求めるのかを整理し、価格や条件を調整しながら実行へ進めます。支援会社は相手先探索、情報整理、交渉の支援などを通じて、当事者だけでは進めにくい取引を具体化する役割を担います。
事業承継を考える経営者にとっては、価格だけでなく従業員や取引先、会社の将来も関心事になります。買い手側は取得後の収益、資金負担、統合の難しさを考えます。両者の希望が一致しなければ、相談件数が増えても成約は進みません。支援の質は、情報量と交渉力を使って現実的な条件を整えられるかに表れます。
ストライクグループは仲介に加えて、FAや戦略コンサルティングなども展開しています。取引の一方を支援するFAと、売り手・買い手の双方と契約する仲介では、役割や契約の数え方が異なります。事業の幅が広がることで顧客の課題に対応しやすくなる可能性がありますが、連携や人材育成の費用も必要です。
会社が売上を伸ばす経路は、受託案件が増えること、成約へ進む割合が高まること、案件規模や付加価値が上がることなどに分けられます。どれが利益を動かしたのかを確認すると、成長の再現性を考えやすくなります。一度の大型成約と、幅広い案件が継続して成約する状態では、将来利益の見通しやすさが違います。
成約212組と408件は同じ数え方ではない
第3四半期累計の成約組数は212組、成約件数は408件、新規受託は927件でした。組数は取引単位の数、件数は成約に至った契約の数です。仲介では一つの取引で売り手と買い手をそれぞれ1件として数えるため、408件を408件の独立したM&A取引と説明することはできません。第3四半期決算短信
| 指標 | 3Q累計 | 数字の意味 |
|---|---|---|
| 成約組数 | 212組 | 支援したM&A取引の数です |
| 成約件数 | 408件 | 成約した契約数で、仲介では原則双方を数えます |
| 大型案件 | 39組 | 1組当たり売上1億円以上と会社が定義しています |
| 新規受託 | 927件 | 新たに契約し、案件として進める入口の指標です |
新規受託と成約は、必ずしも同じ時期に始まった案件ではありません。そのため212組を927件で割り、その数字を厳密な成約率として使うことはできません。今期に成約した案件には前期以前に受託したものが含まれる可能性があり、今期受託した案件は翌期以降に成約する場合があります。
受託が増えることは将来の仕事量を支える材料になりますが、案件の質も重要です。条件が難しく成約まで長い案件が増えているのか、買い手が見つかりやすい案件が増えているのかで、収益への距離が変わります。会社が受託数を増やした後に、成約数と利益も追いつくかを確認する必要があります。
大型案件は利益を押し上げる力がある一方、少数の取引が四半期の数字を大きく動かします。大型案件の多さに加えて、中小規模の案件が幅広く進んでいるかも確認する必要があります。案件規模の上昇だけに頼ると、翌期の比較対象が高くなり、成長率が急に鈍く見える可能性があります。
3Qの利益率と4Qに必要な水準
3Q累計売上高は160.03億円、営業利益は51.25億円、経常利益は51.10億円、純利益は34.06億円でした。営業利益率は約32.0%です。顧客へ提供する専門サービスによって高い利益率を確保している一方、人材や案件獲得の費用を継続して負担する事業であることを理解する必要があります。
8月28日の修正予想から累計実績を差し引くと、7~9月の第4四半期に必要な売上高は84.97億円、営業利益は31.75億円、純利益は22.94億円です。必要な営業利益率は約37.4%となり、3Q累計より高い計算になります。ただし修正時点で7月と8月の大型成約が進んでいるため、まだ何も実現していない将来目標だけではありません。
それでも残る期末案件の実行時期は確認が必要です。会社は一部案件を翌期へずれる可能性を見込んで予想から外していますが、予想に入れた案件にも変動余地はあります。契約条件の最終調整や当事者の判断によって、実行が前後することはあり得ます。利益が見込まれる案件と、実績として計上された案件を区別します。
今回の修正後計画は通期営業利益率約33.9%です。この水準を翌期以降の標準と考えるには、人件費や紹介料などが増える中でも、成約を効率よく積み上げられることが必要になります。会社の規模が拡大すれば管理や教育も必要になり、売上が増えた分が毎回同じ割合で利益になるとは限りません。
なお、当期は持株会社体制への移行などに伴って連結決算を開始しており、会社は前年の連結増減率を記載していません。本記事では前年の単体実績と当期の連結実績を混ぜ、同じ基準の前年比として表示していません。前期比較をする場合は、連結範囲と費用の変化をそろえる必要があります。
税理士団体との提携は案件の入口を広げる
会社は7月14日、47都道府県の税理士団体との連携体制を構築したと公表しました。税理士は企業の経営や財務の相談を受ける立場にあり、事業承継や成長投資の課題が顕在化する前から接点を持つ場合があります。こうした接点とM&A支援を結び付けることは、案件獲得の入口を広げる可能性があります。税理士団体との提携完了
ただし、全国の団体と提携したことが全国の企業から独占的に相談を得られることを意味するわけではありません。紹介する側も、顧客に適した支援かを考えます。提携契約の数より、実際の相談、受託、成約へつながる関係を維持できるかが重要です。
紹介ルートが増えると広告などによる直接獲得と組み合わせて案件を集めやすくなる可能性があります。一方、紹介には費用や協業の調整が伴う場合があります。案件の入口を広げた結果として売上が増えても、獲得費用が大きく上がれば利益率は低下します。売上原価や販管費の動きと一緒に確認する必要があります。
地域のネットワークが強みになるかは、支援の実績によって確かめられます。成立した取引が当事者の目的に合い、紹介元の信頼を維持できれば、次の相談につながる可能性があります。この関係は短期の営業拡大だけでは築きにくく、会社の長期競争力を考えるうえで重要な要素になります。
次の相談へつながる信頼は、時間をかけて築かれるものです。地域の関係が、どんな支援の実績になるかが焦点です。
SMARTの海外展開を利益へどうつなげるか
9月4日にはM&Aプラットフォーム「SMART」のグローバルサイト公開が発表されました。相手先を探す接点が広がれば、国内だけでは見つけにくい候補との取引機会を増やせる可能性があります。ただしサイトが公開された段階と、実際に海外関連の成約が増える段階には距離があります。SMARTグローバルサイト公開
プラットフォームの価値は、掲載情報が多いことだけではありません。売り手と買い手の条件を整理し、検討可能な相手へつながることが重要です。候補が増えても条件が合わない問い合わせばかりなら、担当者の作業負担が増える場合があります。情報の整理と実際の支援を結び付けることで、効率が改善するかを確認します。
海外を含む取引では、言語、商慣行、資金調達、取得後の運営など、国内取引とは異なる検討が必要になります。取引の規模が大きくなる可能性がある一方、成約までの時間や専門人材の費用が増える場合もあります。本記事では、サイト公開による未開示の売上寄与を会社予想へ追加していません。
また、SMARTを運営するからといって、会社全体が毎月一定の利用料を積み上げるSaaS企業と同じ利益構造になるわけではありません。M&A支援の売上は案件の進行と成約に左右されます。デジタル化で効率が上がる可能性を評価しつつ、収益認識の仕組みを別の事業モデルへ置き換えないことが大切です。
人材の増加が利益へ結び付くまでの時間
専門サービス企業では、人材が成長の中心になります。採用人数を増やせば将来の対応能力を広げられる可能性がありますが、入社直後から経験者と同じ成約を生むとは限りません。教育、同行、案件の引き継ぎなどの期間は費用が先行します。人員増加と利益増加の時間差を理解する必要があります。
会社は新卒社員の活用などを通じて組織の活性化を進めています。短期では一人当たり売上が低下する場合があっても、将来の専門人材が育つなら意味のある投資になります。一方、十分に育成できず退職が増えれば、採用費や教育費が回収されにくくなります。人数だけでなく、生産性と定着の状況を確認する必要があります。
ここでの一人当たり売上を計算する際も、全従業員とコンサルタントを混同してはいけません。管理や支援の人員が含まれる総従業員数を使う場合、営業担当者一人の成約能力を直接表す指標にはなりません。会社が公表する人員区分を確認したうえで、同じ定義の数字を継続して追う必要があります。
業績が拡大すると、管理、情報保護、品質確認にも投資が必要になります。こうした費用は短期利益を抑える場合がありますが、取引の信頼性を支える役割を持ちます。費用が少ないことを一律に良いと判断せず、取引量の増加に対応した管理ができているかを見ることが長期の評価につながります。
競合比較では成約と費用の定義をそろえる
| 比較対象 | 比較したい観点 | 数字を見る際の注意 |
|---|---|---|
| 日本M&AセンターHD | 紹介ネットワークと案件の規模・件数 | 成約の集計方法と事業範囲をそろえます |
| M&Aキャピタルパートナーズ | 案件単価・大型成約・担当者の生産性 | 少数大型案件の時期による変動を確認します |
| ストライクグループ | 提携・直接獲得・SMARTと支援機能 | 連結移行と成約組数・件数の違いに注意します |
同業比較でありがちな間違いは、会社ごとに定義の異なる成約件数をそのまま並べることです。取引単位、売り手・買い手の契約単位、対象期間が違えば、数字の大小だけでは規模を比較できません。手数料体系や扱う案件の規模も利益率へ影響するため、営業利益と費用の構成を合わせて確認します。
財務面では、3Q末の自己資本比率は83.3%、現金及び預金は約202.84億円です。製造業のような大規模な工場投資を必要としにくい事業であることが、資金余力につながる可能性があります。ただし、人材投資や成約に伴う報酬、税金、配当などの支払いもあるため、現金残高をすべて余剰資金として扱うことは適切ではありません。
大型の設備を持たないことは、利益が景気に左右されないことを意味しません。買い手の資金調達が難しくなったり、売り手と買い手の価格期待が開いたりすれば、成約が遅れる可能性があります。固定資産の軽さと、案件収益の変動は別の性質として理解する必要があります。
配当65円は分割後の数字で比較する
2026年9月期の年間配当予想は65円です。会社は4月1日付で1株を3株にする株式分割を実施しています。前期の180円配当は分割前の数字で、分割後へ換算すれば60円相当です。180円から65円への大幅減配と読み違えないよう、株式数の基準をそろえます。
基準株価1,401円に対する利回りは約4.64%で、株主還元は投資判断の一つの支えになります。一方、修正後EPS98.94円に対する配当性向は約65.7%です。利益の相応の部分を配当へ回す水準であり、今後の利益が下がれば配当性向は上がります。配当予想が維持されるかは業績と資金の両方から確認する必要があります。
たとえば利益が弱気ケースのEPS80円になり配当65円が続くと仮定すると、配当性向は約81%になります。これは会社が減配すると予想するものではありません。現在の利回りを将来も一定と考える前に、利益変動に対する余裕を計算するための例です。
また、配当の権利を得る前後には権利落ちがあり、配当額に相当する価格調整が理論上生じます。高い配当を受け取れば、その分が無条件に利益へ加わるわけではありません。株価の変化と配当を合わせた総収益で比較し、税金や手数料も考慮する必要があります。
目標株価を利益と倍率で試算する
以下は今後6~12か月を検討するための筆者の条件付き試算です。基本EPSは8月28日修正後の会社予想98.94円を採用します。弱気・強気EPSは利益未達と翌期成長を仮定し、PERも過去平均や市場の合意ではなく、事業の継続性に対する評価を比較するために設定しています。
| シナリオ | 仮定EPS | 仮定PER | 計算上の株価 | 1,401円比 | 主な前提 |
|---|---|---|---|---|---|
| 弱気 | 80円 | 11倍 | 880円 | 約-37.2% | 成約の遅れと人材費増で利益が後退 |
| 基本 | 98.94円 | 16倍 | 約1,583円 | 約+13.0% | 今期計画を達成し、案件供給が続く |
| 強気 | 115円 | 20倍 | 2,300円 | 約+64.2% | 翌期増益と成約の安定性が評価される |
強気ケースのEPS115円は会社予想を約16.2%上回ります。大型案件だけでなく通常案件も積み上がり、採用や提携の投資が利益へ結び付く必要があります。さらにPER20倍を置くため、案件の長期化に対応できることや、翌期の利益が見通しやすくなることが条件になります。
基本ケースでは株価の上昇余地は約13%です。配当利回りは総収益を支えますが、表の騰落率には配当、税金、手数料を含めていません。利回りが高いから下値が一定に支えられると考えず、利益が変わった場合のEPSと配当性向を確認する必要があります。
弱気ケースでは、成約の遅れが費用の増加と重なることを想定します。案件が翌期へずれるだけでも、その四半期に発生した人件費は残るため、利益が大きく変動する場合があります。市場の長期需要があるという説明だけでは、短期の利益変動を吸収できません。
チャートと次の開示の確認ポイント
9月4日終値1,401円に対し、5日単純移動平均は約1,409円、25日単純移動平均は約1,348円です。終値は25日線の上にありながら5日線を下回り、上方修正後の上昇がいったん落ち着いている形です。短期の上昇を断定するより、利益予想の改善が価格の定着につながるかを見る段階と考えます。株価時系列
直近の上側の観察点は9月1日の高値1,456円、下側は9月2~3日の安値1,375~1,376円前後です。これらは過去の取引から整理した候補帯であり、必ず反発や反落が起きる水準ではありません。終値が上側を超えた後も買いが続くか、下側を割った場合にすぐ戻せるかを確認します。
業績面では9月期末の成約実績と、翌期計画が最優先です。今期予想を上回っても、翌期の受託と成約の見通しが弱ければ高い評価は続きにくくなります。逆に期末案件の一部が翌期へずれても、取引の成立自体が近く、次期の利益を支えるなら、短期の減速と中期の価値を分けて考えられます。
SMARTや提携の進捗は、発表数より受託・成約へのつながりを確認します。人材面では採用した社員の育成が進み、費用の増加に売上が追いつくかが重要です。これらを同じ項目で記録し、成長投資が利益になっているかを継続して検証することが重要です。
まとめ
ストライクグループは大型案件の成約を背景に通期予想を上方修正し、会社予想EPSは98.94円となりました。提携ネットワークとSMARTの展開は将来の案件供給を広げる可能性がありますが、受託から成約までの時間と、人材・案件獲得費用の管理が利益を左右します。
私が追うのは、大型成約の後に続く相談と人材の動きです。ネットワークの広がりが利益へ届くまでには、時間もかかります。
筆者の試算は基本約1,583円、強気2,300円、弱気880円です。予想配当利回り約4.64%は魅力の一つですが、成約の変動と配当性向も確認する必要があります。成約組数と件数を区別し、最新の修正予想を使って評価することが、この銘柄を分析する際の基本です。
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