同じ20日移動平均線でも、EMAからDEMAやTEMAへ切り替えると、株価に近い場所を動く線になることがあります。DEMAとTEMAは、EMAを繰り返して計算し、その結果を足し引きすることで、値動きに対する遅れを小さくしようとする指標です。単に二回、三回と平均して滑らかにする線とは異なります。
ただし、遅れが小さいことと、売買の判断が正しくなることは同じではありません。株価へ素早く近づく線は、小さな揺れにも反応しやすくなります。急上昇が止まったあと、線だけが株価を上回ることもあります。この記事では、二つの計算式を小さな数値例でほどき、EMAとの比較、初期値の違い、実際の売買条件へ使う際の注意点まで整理します。
移動平均の基本から確認したい場合は、移動平均線の傾きと位置の読み方、重みの考え方はEMA・WMAの計算と使い分けが参考になります。
1.DEMA・TEMAとは何か
DEMAはDouble Exponential Moving Average、TEMAはTriple Exponential Moving Averageの略称です。日本語では二重指数移動平均、三重指数移動平均などと呼ばれます。どちらも過去と現在の価格から計算する移動平均の仲間で、将来の株価や投資家の注文を直接観測しているわけではありません。
名前の「二重」「三重」は、仕組みを誤解しやすい部分です。価格から一段目のEMAを作り、そのEMAから二段目を作り、必要に応じて三段目も作ります。しかし最終的に表示するのは、二段目や三段目そのものではなく、それらを組み合わせた値です。TradingViewの公式説明でも、DEMAとTEMAはそれぞれ異なる線形結合として定義されています。[出典1][出典2]
一般に、同じ期間のEMAをそのまま使う場合よりも、変化への追随を早めることを狙います。その代わり、線の滑らかさ、急変後の振れ方、レンジ相場での交差回数なども変わります。見た目だけで上位互換と考えるより、「どの遅れを減らし、その結果どんな動きが増えたか」を確かめると理解しやすくなります。
| 線の名前 | 計算の要点 | 読み違えやすい点 |
|---|---|---|
| EMA | 価格を一定の係数で取り込み、前のEMAを残す | 期間Nより前の履歴も小さく残る |
| 二段目のEMA(E2) | EMAをさらにEMAで平滑化 | DEMAそのものではない |
| DEMA | 2×E1−E2 | 価格の範囲内に必ず収まるわけではない |
| TEMA | 3×E1−3×E2+E3 | 三段目のEMAを単独表示する線ではない |
たとえば20日EMAと20日DEMAを比べる場合、入力する期間の数字は同じでも、過去の各価格へ最終的に掛かる重みは同じではありません。「20日」というラベルだけで、同程度の滑らかさや同じ保有期間になると想定しないことが大切です。
2.まずEMAを一段ずつ計算する
終値をP、期間をN、平滑化係数をαとすると、一般的なEMAは「α=2÷(N+1)」「今日のEMA=α×今日の終値+(1−α)×前日のEMA」で求めます。直近の価格を取り入れながら、過去のEMAを一部残す再帰的な計算です。
ここでは一段目をE1、E1を入力にしたEMAをE2、E2を入力にしたEMAをE3と呼びます。三つとも同じNとαを使います。今日のE2を計算するときに入力するのは今日のE1であり、今日の終値ではありません。同様に、今日のE3には今日のE2を入力します。
この順序を逆にしたり、E2とE3だけ異なる期間にしたりすると、この記事で扱う標準的なDEMA・TEMAとは違う系列になります。表計算では、終値、E1、E2、E3、DEMA、TEMAの順に列を並べると、参照先の取り違えを見つけやすくなります。
EMAは最初の値をどこに置くかで序盤の数値が変わります。最初の終値を使う方法、最初のN本の単純平均を使う方法などがあり、利用するサービスやライブラリの仕様を確認する必要があります。DEMA・TEMAではそのEMAを重ねるため、初期化や読み込んだ履歴の違いが比較結果へ影響します。[出典3]
3.DEMAは「2倍したEMAから二段目を引く」
DEMAの式は「DEMA=2×E1−E2」です。これは「E1+(E1−E2)」と書き換えられます。E1よりさらにゆっくり動くE2との差を、E1へ付け足す形です。上昇が続いてE1がE2より高い場合、その差を足すことで、DEMAはE1より上に位置しやすくなります。
下落が続いてE1がE2より低ければ、差はマイナスになります。そのためDEMAはE1より下へ移り、下落する価格へ近づきやすくなります。これは将来の価格を先読みしているのではなく、すでに現れた二つの平滑化系列の差を使う補正です。
具体例として、価格が長く100円で安定したあと、110円へ上がった場面を考えます。期間N=3、α=0.5、前日までのE1・E2・E3をすべて100円とします。上昇した当日のE1は105円、E2は102.5円です。DEMAは2×105−102.5=107.5円となり、E1の105円より新しい終値110円へ近づきます。
翌日も終値が110円なら、E1は107.5円、E2は105円、DEMAは110円です。二日目にたまたま価格へ一致しましたが、すべての値動きで二日後に追いつくわけではありません。期間、変化幅、変化前の履歴に依存する結果です。
4.TEMAは三段階のEMAを組み合わせる
TEMAの式は「TEMA=3×E1−3×E2+E3」です。三段目のEMAだけを表示する方法とは、符号も係数も違います。三回平均したものなら変化は一般に鈍くなりますが、TEMAでは引き算を組み込んで遅れを補正します。[出典2]三回ならしただけなら遅くなるのに、引き算を使うと話が変わります。線の名前より、この計算の違いが興味深いところでした。
先ほどと同じ上昇初日では、E3は0.5×102.5+0.5×100=101.25円です。したがってTEMAは3×105−3×102.5+101.25=108.75円になります。この場面では、EMAの105円、DEMAの107.5円、TEMAの108.75円という順で110円へ近づきます。
二日目はE3が103.125円となり、TEMAは110.625円です。終値は110円のままなのに、TEMAがそれを上回りました。このように、変化への反応を早める仕組みには、価格を一時的に行き過ぎる性質が伴います。これをオーバーシュートと呼びます。
| 時点・価格 | E1/E2/E3 | DEMA/TEMA |
|---|---|---|
| 変化前:100円 | 100/100/100 | 100/100 |
| 初日:110円 | 105/102.5/101.25 | 107.5/108.75 |
| 二日目:110円 | 107.5/105/103.125 | 110/110.625 |
| 計算条件 | 期間3、係数0.5、初期値100 | 端数は計算途中で丸めない |
表は計算の仕組みを見るための架空例です。100円と110円しか入力していないのに110円を超える値が出る点は、理解しておきたい特徴です。最終的な重みに負の部分が含まれ得るため、期間内の最高値と最安値の間に必ず収まる平均とは扱えません。

この性質を知らないと、「線が株価より高いから上値余地がある」「移動平均を下回ったから急落の前兆だ」と読み違えやすくなります。急変後の行き過ぎなのか、その後の価格下落なのかは、実際のローソク足と合わせて確認します。
5.同じ価格で比べると何が見えるか
比較するときは、銘柄、終値などの入力価格、足の時間軸、調整方法、期間をそろえます。そのうえで、EMA・DEMA・TEMAを同じ図へ重ねます。違う銘柄や違う期間の線を並べても、計算方式が原因なのか、入力の違いが原因なのか分かりません。
図2は、上昇、横ばい、下落をつないだ架空の価格系列へ、同じ期間の三方式を適用した比較です。トレンドが続く場面では、遅れを補正した線が価格へ近づく様子を確認できます。一方、横ばいへ移った直後や方向が急に変わった場所では、線同士の上下関係が入れ替わります。

ここで数えるべきなのは、「一番早く曲がった線」だけではありません。曲がったあとに元へ戻った回数、価格との交差回数、想定した発注時刻から約定までのずれも必要です。線が一日早く反応しても、その日の終値が確定してから注文するなら、同じ終値で買えるとは限りません。
また、価格へ近い線ほど押し目で割り込みやすくなることがあります。上昇中に価格が線の下へ出る回数が増えれば、売却と買い直しが増える可能性があります。追随の速さが望ましいかどうかは、自分の保有期間と、何をもって手仕舞いにするかで変わります。
6.レンジ相場では「早さ」が負担になることもある
株価が狭い範囲を往復しているときは、方向が続くことを前提にした読み方がかみ合いません。DEMAやTEMAも価格の上下に反応するため、上抜けを買い、下抜けを売る単純な条件では、短時間に売買が繰り返されることがあります。
同じ架空の往復価格を使った図3では、平均線へ近づくことと、売買に使いやすいことを分けて考えます。線が価格に近いほど常に交差が多いと決めつけることもできません。価格の周期と設定期間の組み合わせによって変わるため、実際のルールで回数を集計する必要があります。

たとえば「終値が線を上回ったら買う」では、前日の終値もすでに上だった場合まで毎日買う条件になります。新しい上抜けだけを使うなら、「前日の終値は前日の線以下、今日の終値は今日の線より上」と定義します。売買の条件を文章と数式で一致させるだけでも、検証の取り違えを減らせます。
交差のたびに売買しないため、傾き、直近高値の更新、値幅などを追加する方法はあります。ただし条件を増やすほど良くなるとは限りません。取引を絞ることで損失も利益も減る可能性があり、検証した期間にだけ都合よく合う危険も大きくなります。
7.期間と初期値をそろえても、表示が一致しない理由
同じ「DEMA20」でも、チャートサービス間でわずかに値が違うことがあります。まず入力が終値なのか、始値と終値の平均なのか、高値・安値・終値の平均なのかを確認します。次に、株式分割や配当の調整、取引時間、日足の区切りが一致しているかを調べます。
計算方式の確認では、初期値、計算を始める履歴の長さ、欠損値の処理、表示桁数を見ます。TA-Libの実装では、DEMAが内部でEMAを重ね、必要な過去データの長さを考慮して出力を始めることが確認できます。[出典3] 画面に20本だけ表示したとしても、計算内部で20本だけを使っているとは限りません。
本記事の図は比較条件を明確にするため、冒頭に一定価格の準備区間を置き、各EMAの初期値をその価格にそろえています。これは図の再現条件であり、すべての証券会社やチャートサービスの初期化を再現したものではありません。
一方、検証用のプログラムで最初の数値を一致させるために未来の平均値を使うと、その後の成績に未来情報が混ざります。初期化にも、その時点までに利用できる情報だけを使います。十分な履歴を用意し、準備区間の売買を集計から外す方法なら、最初の数本に引きずられる問題を減らせます。
| 違いの原因 | 先に確認する項目 | 実践上の意味 |
|---|---|---|
| 入力価格 | 終値・平均価格・調整の有無 | 同じ日でも別の数列になり得る |
| 初期化 | 最初の終値か、一定本数の平均か | 序盤のEMAと多段計算がずれる |
| 履歴 | 準備区間と読み込んだ本数 | 表示本数と計算本数は別 |
| 判定時点 | 未確定足か確定足か | 場中の交差は消えることがある |
8.実際の判断では、線より先に売買条件を決める
DEMA・TEMAを使う際は、方向の確認、売買のきっかけ、手仕舞いのいずれを任せるかを決めます。一つの線へ全部を任せると、買う理由がなくなっても「まだ上向きだから」と保有したり、単なる小さな交差で予定外に売ったりしやすくなります。
たとえば、日足DEMAの上向きを方向の条件、直近高値を終値で更新したことを買いの候補条件とする設計は考えられます。この場合、DEMAを上回っただけでは発注しません。候補が出た日の確定後に、翌営業日の価格、出来高や売買のしやすさ、決算日なども確認します。これはルールを具体化するための例で、収益性が確認された手法ではありません。
撤退条件は、線を下回ることに限定する必要はありません。直近安値を割る、想定した値幅を超える、一定期間たっても条件が進まないなど、買いの仮説と整合する形で定義します。平均線が毎日動く場合は、どの日の値を基準に注文するかも明確にします。
数量は、線への期待の強さから決めるのではなく、許容する損失から逆算します。たとえば資金100万円、1回の許容損失を5,000円、買値1,000円、想定撤退価格975円とします。価格差25円で割れば200株ですが、この計算には手数料や滑りが含まれていません。
仮に往復の費用・滑りの余裕を1株あたり5円と置けば、1株あたりの見込み損失は30円となり、5,000÷30は約166株です。100株単位で取引する例なら100株へ切り下げます。実際の売買単位は銘柄と取引方法で確認し、急な値飛びで想定損失を超える可能性も織り込みます。
上抜けた翌日に大きく高く始まり、予定した買値から離れていれば、数量を増やして追いかける理由にはなりません。見送りの基準をあらかじめ持つほうが、同じ指標を使っても一貫した取引になります。資金の計算はポジションサイズの決め方も参照してください。
9.検証では「EMAより良い」を細かく分ける
比較の基準を一つに絞ると、違う弱点を見落とします。総損益だけでなく、取引回数、平均利益、平均損失、最大ドローダウン、連敗、保有日数、費用の影響を並べます。最大ドローダウンは、途中の資産の高値からどれだけ落ち込んだかを表す値です。
勝率が上がっても、一回の大きな損失で利益を失う可能性があります。逆に勝率が下がっても、利益側の値幅が十分大きければ総損益は良くなることがあります。「TEMAのほうが早いから勝率も高いはず」と結び付けず、同じ期間、同じ注文条件で確かめます。
期間を10、15、20、25と変え、良かった一点だけを採用する方法にも注意が必要です。近い設定で成績が大きく崩れるなら、偶然の値動きに合わせすぎている可能性があります。設定を選ぶ期間と、選んだ設定を試す別の期間を分け、上昇・下落・横ばいの各場面で確認します。
また、日足の終値で条件が成立したことを知りながら、その日の終値で必ず売買できたとして計算すると、現実より有利な結果になる場合があります。翌日の寄り付き、指値が成立した場合だけの約定など、情報を得た時刻と注文できる時刻の順序を守ります。
| 検証項目 | 比べる内容 | 見落としを防ぐ記録 |
|---|---|---|
| 反応 | 転換日・クロス日・行き過ぎ | 何への反応が早いのかを定義 |
| 売買回数 | 往復相場での繰り返し | 費用と滑りを含める |
| 損失 | 平均損失・連敗・最大ドローダウン | 総損益だけで選ばない |
| 再現性 | 別期間・近い設定・別銘柄 | 選択に使わなかった期間も確認 |
10.よくある疑問
「TEMAはDEMAより必ず早いですか」と聞かれたら、一定の値動きではそう見えても、すべての転換やクロスで同じ順番になるとは限らない、と整理できます。何に対して早いのかを、価格の上抜け、線の傾きの変化、高値からの反転などに分けて確認します。
「TEMAなら遅れはゼロですか」という疑問には、過去と現在のデータから計算する線であり、未来を知る仕組みではないことが答えになります。一定の変化への遅れを補正できても、急変や不規則な往復に対して完全に先回りできるわけではありません。
「20日DEMAを10日EMAで代用できますか」という点も、見た目が似る局面があることと、計算が同じであることを区別します。DEMAは差を足す構造、EMAは固定係数で過去を残す構造です。上昇中に似ていても、急変後や横ばいで位置が離れる可能性があります。
「三重に平滑化したEMAやTRIXと同じですか」という疑問では、最終的に何を表示するかが重要です。TEMAは3×E1−3×E2+E3という価格水準の線です。三重平滑化した系列そのものや、その変化率を扱う指標と混同せず、名称だけでなく計算式を確認します。
11.迷ったら、目的を一つにして比較する
DEMA・TEMAを追加するときは、いま使っているEMAで何に困っているかを言葉にします。方向が変わってから気づくまでが遅いのか、押し目で何度も売ってしまうのか、線を増やしすぎて条件が曖昧なのかで、試すべき変更は違います。
反応を早めたいなら、まずEMAと同じ期間・同じ価格で比べます。売買の回数が増えすぎるなら、期間や条件を一つずつ変えます。同時に期間、銘柄、撤退、時間軸を変えると、何が改善したのか分からなくなります。比較のたびに変更点を一つ記録するだけでも、次の判断に再利用できます。
DEMAは2×E1−E2、TEMAは3×E1−3×E2+E3です。この二つの式と、行き過ぎが起こり得ることを理解したうえで、確定足、発注時刻、撤退価格、数量まで一続きの条件にします。移動平均の種類を選ぶ作業は、当たる線を探す作業ではなく、観察したい値動きに合う道具を選ぶ作業です。同じ価格データでEMAと比較し、反応の差と売買判断への影響を記録します。
指標全体の役割はテクニカル分析の全体像、手仕舞いの設計は利確と損切りのルールで整理できます。新しい線を足す前に、何を見たら行動し、何を見ても行動しないのかを一つずつ決めてください。
参考・出典
公式資料の確認日:2026年9月22日。図・数値例は編集部作成の架空例です。公開ソースコードの仕様は変更される場合があります。
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本記事は指標と検証方法の一般的な解説で、特定銘柄や売買を推奨するものではありません。計算例は将来の利益や約定を保証しません。投資判断は最新情報を確認のうえご自身で行ってください。本記事には広告・アフィリエイトリンクを含みます。アイキャッチの人物は生成イメージです。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。記載の数値は、本文中に示した日付時点の決算短信・会社のIR資料などの公開情報に基づきます。最新の情報は各社の開示でご確認ください。

