株価指数が急反発すると、「ツバイク・ブレッドスラストが点灯した」と紹介されることがあります。しかし、指数が大幅高になっただけでは成立しません。見るのは指数の上昇率ではなく、上昇銘柄が市場全体へどれほど速く広がったかです。
古典的なツバイク・ブレッドスラスト(Zweig Breadth Thrust、ZBT)は、NYSEの上昇銘柄数を上昇・下落銘柄数の合計で割り、その日次比率を10日指数平滑移動平均(EMA)にします。その値が0.40未満から0.615超へ10営業日以内に上昇したとき、強気のスラストが成立します。0.614で止まる、11営業日目に超える、単純移動平均で計算する、といった場合は古典条件と同じではありません。
先に結論:ZBTは個別株の買いサインではなく、米国市場の参加銘柄数が弱気から強気へ急転したことを測る市場全体の指標です。成立を確認しても、その日の終値へ無条件に飛び乗らず、対象指数の価格構造、翌日の執行価格、撤退点、1回の許容損失から数量を決めます。NYSE以外の銘柄群へ同じ閾値を移す場合は派生版として別に検証します。
ツバイク・ブレッドスラストとは?「上昇の広がり」と速度を見る指標
ツバイク・ブレッドスラストは、米国の投資家・著者Martin Zweigに結び付けられている市場ブレッドス指標です。Zweigの著書『Winning on Wall Street』の書誌情報には、相場平均、金融環境、モメンタム、強気・弱気相場などを扱う構成が確認できます。現在の実務では、ZBTという名称で0.40、0.615、10営業日の条件が広く実装されています。
StockChartsが2026年4月3日に公開したZBTの公式解説は、NYSE上昇銘柄数を上昇銘柄数と下落銘柄数の合計で割った値の10日EMAを使い、0.40未満から0.615超へ10日以内に上がることを成立条件としています。本稿もこの仕様を基準にします。
| 見る対象 | ZBTが測るもの | ZBTだけでは分からないもの |
|---|---|---|
| 銘柄数 | 上昇銘柄の割合と急回復 | 時価総額の寄与 |
| 市場全体 | 上昇参加の広がり | 特定銘柄の適正価格 |
| 終値ベースの日次集計 | 弱気から強気への速度 | 場中の約定順序 |
| 古典的にはNYSE | 同じ母集団内の騰落 | 日本株へ移した場合の有効性 |
計算式:日次比率を作り、10日EMAへ入れる
日付tの上昇銘柄数をAt、下落銘柄数をDtとします。まず日次の上昇銘柄比率Rtを計算します。同値銘柄を分母へ含めない古典的な表記なら、式は次のとおりです。
Rt = At ÷(At + Dt)
次にRを10日EMAへ変換します。10期間EMAの平滑化係数αは2÷(10+1)=0.1818…です。StockChartsのEMA公式解説も、10期間の係数を18.18%とし、前日のEMAを使う再帰計算と、十分な過去データが必要なことを説明しています。
ZBTt = ZBTt−1 + 0.1818… ×(Rt − ZBTt−1)

| 項目 | 古典仕様 | 変えると起きること |
|---|---|---|
| 母集団 | NYSEの上昇・下落銘柄 | 指数構成・上場基準の影響 |
| 日次値 | A÷(A+D) | 同値を含めると水準変化 |
| 平滑化 | 10日EMA | SMAでは反応速度が変化 |
| 下限 | 0.40未満 | セットアップ数が変化 |
| 上限 | 0.615超 | 成立頻度が変化 |
| 期限 | 10営業日以内 | 遅い回復まで混入 |
0.40、0.615、10営業日を別々に確認する
最初の条件はZBTが0.40を下回ることです。0.40ちょうどを含めるかは実装仕様を固定します。二つ目は、その起算点から10営業日以内に0.615を上回ることです。「以上」と「超」は境界値で結果が変わります。表示が小数第3位までなら、内部値0.6146が0.615と丸め表示されても、0.615超ではありません。
10日という期間も暦日ではなく取引日で数えます。土日や休場日は進めません。起算日を1日目に含めるか、翌日を1日目にするかで最終日が一日ずれるため、検証コードとチャートサービスの定義を照合します。StockChartsの2026年記事は、3月20日の直近の0.40割れを起点に「9日が経過」として翌営業日を期限としており、期限切れの近接例を別扱いにしています。

| 状態 | ZBT | 期限 | 判定 |
|---|---|---|---|
| セットアップ前 | 0.40以上 | 未開始 | 待機 |
| セットアップ | 0.40未満 | 起算 | 成立ではない |
| 進行中 | 0.40〜0.615 | 10営業日以内 | 候補 |
| 成立 | 0.615超 | 期限内 | ZBT点灯 |
| 近接未成立 | 0.615以下 | 期限終了 | 古典条件では不成立 |
| 遅延超え | 0.615超 | 期限後 | 派生条件なら別検証 |
架空の数値例:指数が上がっても成立しない場合
以下は計算手順を示す架空例です。実際のNYSEデータや過去成績ではありません。セットアップ日のZBTを0.392とし、その後に日次上昇銘柄比率Rが改善したとします。Rが高くても、EMAは過去値を含むため一日で同じ水準へは上がりません。
| 営業日 | 日次比率R | 10日EMA(架空) | 判定 |
|---|---|---|---|
| 起算日 | 0.31 | 0.392 | 0.40未満 |
| 2日目 | 0.62 | 0.433 | 進行中 |
| 4日目 | 0.70 | 0.505 | 進行中 |
| 7日目 | 0.68 | 0.574 | 進行中 |
| 10日目 | 0.66 | 0.608 | 近接だが未成立 |
| 11日目 | 0.70 | 0.625 | 期限後の上抜け |
この例では指数が大幅高になり、上昇銘柄も多い日が続いています。それでも10日目のZBTが0.608なら古典条件は不成立です。11日目に0.625へ上がっても、速度条件を外れます。「ほぼ同じだから成立」と後から条件を緩めると、検証対象が変わります。近接例を研究したいなら、古典ZBTとは別の列へ記録してください。
なぜ価格指数の上昇だけでは足りないのか
時価総額加重指数は、大型株数社の上昇で全体が強く見えることがあります。ZBTは銘柄数を等しく数えるため、指数が上がっても下落銘柄の方が多ければ日次比率は低くなります。反対に、指数の上昇率が小さくても、多数の銘柄が同時に上がれば比率は高くなります。指数の大きな数字に目が行くときほど、その裏で何社が参加したかを見ておきたいです。強い数社と広い回復では、持ちたい期待も変わります。
ただし、銘柄数を等しく扱うことも万能ではありません。小型・低流動性銘柄と大型株を一銘柄ずつ数え、上昇幅も出来高も反映しません。上場銘柄の構成、REITやファンドを含むか、優先株を含むか、取引停止や新規上場をどう扱うかで母集団が変わります。価格指数、騰落銘柄数、出来高、セクターの広がりを役割別に見ます。
データ会社で値が違う6つの理由
同じ日付でもZBTの値が一致しない場合、計算ミスとは限りません。まず母集団と日次騰落数を比べます。普通株だけか、ETFや優先株を含むか、同値銘柄を分母から除くか、訂正値を遡及反映するかでRが変わります。次にEMAの初期値と表示丸めを確認します。
| 差の原因 | 確認項目 | 記録方法 |
|---|---|---|
| 母集団 | NYSE全体・普通株のみ等 | シンボル一覧と日付 |
| 騰落判定 | 前日終値比・調整値 | データ会社の定義 |
| 同値銘柄 | 除外・分母へ追加 | 式を明記 |
| EMA初期値 | 最初の10日SMA等 | ウォームアップ期間 |
| 訂正 | 速報値・確報値 | 取得時刻と再取得 |
| 丸め | 内部値・表示桁 | 判定は内部値 |
10日EMAは、表示開始から10日分だけ計算すれば完全に一致するわけではありません。EMAは前日のEMAを引き継ぐため、StockChartsも十分な過去データを使う必要性を明記しています。バックテストでは少なくとも数百営業日のウォームアップを用意し、最初の期間を判定対象から外します。
日本株へそのまま移植してよいか
古典ZBTの対象はNYSEです。東証の上昇・下落銘柄数から同じ式を作ることはできますが、それは「東証版ZBT」という派生指標です。上場銘柄数、プライム・スタンダード・グロースの構成、値幅制限、ストップ高・安、売買停止、ETF・REITの扱いが異なるため、0.40と0.615が同じ意味になる保証はありません。
日本株で検証するなら、東証全銘柄、プライムのみ、TOPIX構成銘柄など母集団を固定し、過去時点の構成銘柄を使います。現在の構成銘柄だけで過去へ遡ると、上場廃止銘柄を除く生存者バイアスが入ります。配当・分割調整は個別価格の騰落判定にも影響するため、データ仕様を保存します。
| 仕様 | 古典ZBT | 日本株派生版 |
|---|---|---|
| 市場 | NYSE | 東証などを別定義 |
| 閾値 | 0.40・0.615 | 流用せず感度分析 |
| 期限 | 10営業日 | まず同条件、その後別検証 |
| 名称 | Zweig Breadth Thrust | 対象市場を併記 |
| 成績 | 米国データで検証 | 日本株データで再検証 |
成立後の使い方:価格確認、注文、撤退を分ける
ZBTの成立日は、市場全体の内部状態が急改善した日です。個別株の購入価格、損切り位置、利確位置は示しません。実務では、①対象指数が直近安値を切り上げたか、②20日・50日移動平均を回復したか、③高値圏でなく押し目余地があるか、④売買するETFや個別株の流動性が十分かを確認します。
入口は三つに分けられます。成立日の翌営業日に成行で入る方法は機会を逃しにくい一方、窓を開けると高値で約定します。指数やETFの押しを指値で待つ方法は価格を制限できますが、強い上昇では未約定になります。成立後の高値突破へ逆指値を置く方法は方向を再確認できますが、滑りを受けます。Investor.govの注文種別の公式解説が示すように、成行は執行を優先して価格を保証せず、指値は価格を制限しても約定を保証しません。

| 入口 | タイミング | 利点 | 主な弱点 |
|---|---|---|---|
| 翌営業日成行 | 成立後の次の注文機会 | 参加しやすい | 窓・滑り |
| 押し目指値 | 価格帯まで調整 | 価格を制限 | 未約定 |
| 高値突破 | 成立後高値を更新 | 方向を再確認 | 入口が遠い |
| 分割 | 成立・押し・再上昇 | 判断を分散 | 管理が複雑 |
撤退条件:ZBTの再低下だけを待たない
ZBTは市場全体の10日EMAなので、個別株の損失管理には遅すぎる場合があります。価格が成立日安値を割る、対象指数が回復した移動平均を終値で再び割る、個別株が直近押し安値を割る、指定日数で上昇しない、といった価格・時間条件を先に決めます。
「ZBTは長期強気だから損切りしない」と考えると、指標の役割を越えます。市場全体が強くても、決算や増資、業績下方修正で個別株は下がります。市場シグナルに賭けるなら流動性の高い指数ETF、個別材料に賭けるならその銘柄の価格構造と開示を別に管理します。
| 撤退条件 | 例 | 長所 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 成立日安値割れ | 終値または場中 | 客観的 | 値幅が広い場合 |
| 移動平均再割れ | 20日線を終値で下回る | トレンドと連動 | 横ばいで往復 |
| 個別株の押し安値 | 直近安値割れ | 銘柄構造に沿う | 市場指標と不一致 |
| 時間切れ | 10営業日で進展なし | 資金拘束を抑制 | 直後に上昇する場合 |
| 最大許容損失 | 口座の0.5%等 | 損失額を固定 | 値動き根拠と併用 |
数量計算:強気シグナルでも口座リスクは一定にする
架空例です。口座資金300万円、1回の許容損失率0.5%なら許容損失額は1万5,000円です。ZBT成立後、指数ETFを買値2万1,000円、撤退2万500円、滑り・費用余裕50円で計画すると、1口リスクは550円です。理論数量は27口で、実際は売買単位と余裕を見て切り下げます。
許容損失額 = 口座資金 × 許容損失率
数量 = floor{許容損失額 ÷(買値 − 撤退価格 + 想定コスト)}
| 架空条件 | 数値 | 計算 |
|---|---|---|
| 口座資金 | 3,000,000円 | 基準額 |
| 許容損失率 | 0.5% | 任意の検証値 |
| 許容損失 | 15,000円 | 300万円×0.5% |
| 買値 | 21,000円 | 実行予定価格 |
| 撤退 | 20,500円 | 価格構造から設定 |
| 費用余裕 | 50円 | 1口リスク550円 |
| 理論数量 | 27口 | 15,000÷550を切り下げ |
この数字は推奨値でも過去成績でもありません。翌朝2万1,500円へ窓を開ければ、同じ撤退価格までの幅は1,000円以上となり、数量を再計算する必要があります。最小売買単位でも許容損失を超える場合は見送ります。売買手数料だけでなく、スプレッド、滑り、金利、税金の扱いもバックテストへ入れます。
バックテストで外せない条件
ZBTの「成立後成績」を検証するときは、成立日の終値で売買できたことにしません。騰落銘柄数の確報とEMA判定が終値後に確定するなら、最短の実行は翌営業日の寄り付き以降です。成立日の終値を使うと未来情報を含む可能性があります。
さらに、同じ弱気局面で0.40を何度も下回った場合に起算点を更新するか、成立後の再点灯を何日抑制するか、0.615を一度超えればよいかを固定します。検証の途中で最も成績がよい数え方へ変えると過剰最適化になります。バックテスト全体の注意はバックテスト入門、期待値と最大ドローダウンは勝率・期待値・最大ドローダウンで説明しています。
| 検証項目 | 避けたい処理 | 再現可能な処理 |
|---|---|---|
| 情報時点 | 成立日の終値で即時約定 | 翌営業日の実行可能価格 |
| 母集団 | 現在の構成銘柄で過去計算 | 当時点構成または市場全体 |
| EMA | 直前10日だけで開始 | 十分なウォームアップ |
| 閾値 | 結果を見て0.614へ変更 | 0.40・0.615を事前固定 |
| 期限 | 近接例だけ11日に延長 | 営業日数の数え方を固定 |
| コスト | ゼロ | 手数料・滑り・スプレッド |
| 出口 | 都合のよい高値 | 保有日数・終値・撤退条件 |
組み合わせるなら役割を重ねない
ZBTは市場の広がりと速度を担当します。組み合わせる指標は別の役割にします。対象指数の200日線は長期トレンド、VIXはオプション市場が織り込む予想変動、出来高は取引参加の大きさ、セクター騰落は偏りを確認します。同じ騰落銘柄数から作る指標を何個も重ねても、独立した確認が増えたとは限りません。
| 組み合わせ | 役割 | 確認例 | 誤解 |
|---|---|---|---|
| 価格指数 | 方向と節目 | 直近高値・安値 | ZBT成立なら高値更新確定 |
| 200日線 | 長期トレンド | 上向き・回復 | 線上なら安全 |
| VIX | 予想変動率 | 急低下・高止まり | 低下なら損失なし |
| 出来高 | 参加量 | 反発日の増加 | 多ければ上昇継続 |
| セクター | 偏り | 何業種が参加 | 全業種同時上昇が必須 |
見送るべき場面
次の場合は、強気の見出しだけで売買しません。データ会社によって成立・不成立が分かれる、母集団が不明、内部値がなく丸め表示しかない、期限の数え方を確認できない、翌朝の窓で撤退幅が広がった、対象ETFのスプレッドが大きい、重要イベント直前で想定損失を管理できない、といった場面です。
- 0.40割れだけで、0.615超を満たしていない
- 0.615へ届いても10営業日を過ぎている
- SMA版や別市場版を古典ZBTと同じ成績で説明している
- データ履歴が短く、EMA初期値が安定していない
- 成立日終値で売買した検証しかない
- 撤退価格を決めると最小数量でも許容損失超過
- 個別株の決算・増資など固有材料を確認していない
よくある質問
0.40を割らず、0.615を超えた場合は成立ですか?
古典条件では成立しません。弱気な広がりから強気へ急転する「距離」と「速度」の両方が必要です。上限だけを超えた日は、市場の広がりが強い状態として別に観察できます。
10日EMAではなく10日SMAでもよいですか?
計算自体は可能ですが、別の指標です。EMAは直近値へ大きな重みを置くため、急回復をSMAより早く反映します。SMA版を使うなら、閾値と成績を独立して検証します。
ZBT成立日に個別株を全部買えばよいですか?
個別株の固有材料、価格位置、流動性、撤退点が異なるため一括判断はできません。ZBTは市場環境フィルターとして使い、個別の入口と損失管理を別にします。
弱気のZBTはありますか?
古典的なZBTは急速な上昇参加の拡大を捉える強気シグナルとして知られています。上下を単純反転した弱気版は、同じ根拠や成績を持つとは限りません。作るなら独立した派生ルールとして検証します。
まとめ:閾値より先に、データ仕様と期限を固定する
ツバイク・ブレッドスラストは、NYSEの上昇銘柄比率を10日EMAにし、0.40未満から0.615超へ10営業日以内に移る急回復を捉えます。ポイントは「強い上昇の日」ではなく、弱気だった市場の広がりが短期間で強気へ変わる速度です。私なら、指標が成立したという話を読むときに、比べた市場と日付、条件を残します。回復してほしい自分の気持ちを数字の判定へ混ぜず、広がりがどう続くかを追いたいと思います。
実務では、母集団、同値銘柄、EMA初期値、丸め、営業日の数え方を固定します。成立後は価格指数で方向を確認し、入口、撤退、数量を別に決めます。近接未成立や日本株派生版を研究するのは有用ですが、古典条件と混ぜずに記録してください。
※本記事はテクニカル指標の仕組みを解説するもので、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資には元本割れの可能性があります。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。記載の数値は、本文中に示した日付時点の決算短信・会社のIR資料などの公開情報に基づきます。最新の情報は各社の開示でご確認ください。

