「JDIに、何が起きた?」
2026年3月、ジャパンディスプレイの株価を見て、そう思った方もいるのではないでしょうか。
3月9日、株価は前営業日の27円から52円へ急騰。翌10日には82円となり、わずか2営業日で約3倍になりました。きっかけとなったのは、対米投融資の候補として、JDIに米国の最先端ディスプレイ工場の運営が打診されているという報道でした。
長く経営不振が続いていた会社に、突然、米国での大型事業という話が持ち上がったのです。
「まだ、そんな可能性が残っていたのか」
この値動きで、久しぶりにJDIを調べ直した方もいると思います。ただ、株価が急騰したからといって、会社の利益が急に増えたわけではありません。
では、市場は何に期待したのでしょうか。
その背景をたどると、一人の政治家の発信が目に留まります。小林鷹之氏、通称「コバホーク」です。
3月10日、小林氏はXで、経営が悪化してもJDIには液晶・有機ELの技術が残っていることに言及。中国への依存を減らしたい米国の利益に合うなら、米国での事業展開は経済安全保障の観点から合理的だと評価しました。投稿内容は当時の転載記録で確認できます。
株価は投稿の前日から上昇しているため、小林氏の投稿だけを急騰の原因とすることはできません。それでも、経済安全保障に関わってきた政治家がJDIを取り上げた意味は、掘り下げる価値があります。
なぜ、小林氏は赤字が続くJDIの技術に期待したのか。
調べていくと、今回初めて注目したわけではないことがわかりました。
2019年3月。小林氏はすでに国会でJDIを名指しし、有機EL技術の海外流出を懸念して、国として守る必要があるのではないかと政府に問いかけていたのです。
7年前に、失うことを懸念していた技術。その技術を、今度は米国の供給網づくりに生かす可能性が浮上した。
この流れを知ると、春の急騰で注目されたJDIの姿が、少し違って見えてきます。
もちろん、私たち株主が知りたいのは、その先です。
JDIの技術が必要とされるとして、それは会社の利益につながるのか。そして、今の株価から上がる余地はあるのか。
まず現在の業績と株価を確認し、そこから政府との関係、米国事業、新しい商売をたどります。最後に、復活した場合の利益とEPSを計算し、株価の上昇に必要な条件を考えてみます。
まず、今のJDIはどれくらい稼いでいるのか
JDIの現在の主な商売は、車載や民生・産業機器向けのディスプレイです。バイオや衛星の話が目立ちますが、直近4〜6月の売上約239億円のうち、車載が約192億円を占めています。新しい事業の芽を育てながら、今はまだ既存の表示製品が売上を支えている会社です。
業績を見ると、赤字はかなり小さくなりました。
| 項目 | 2026年3月期・通期 | 2027年3月期・4〜6月 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,323.28億円 | 239.22億円 |
| 営業利益 | −186.92億円 | −12.14億円 |
| 最終利益 | −198.10億円 | −34.54億円 |
| EPS(1株当たり利益) | −3.20円 | −0.54円 |
通期と四半期では期間が違うので、表の左右をそのまま比較はできません。ただ、前年4〜6月の営業赤字は91.54億円でした。それが今回は12.14億円まで縮んでいます。売上が減るなかでも、工場の整理や固定費削減が利益改善につながってきました。
ここは、復活を考えるうえで前向きに見られるところです。会社が小さくなっているだけなら、売上が減るほど苦しくなります。JDIは、売上の縮小と一緒に費用も減らし、赤字を抑えるところまでは進んできました。
ただし、現金の動きにはまだ厳しさが残ります。4〜6月の営業キャッシュフローは約74億円のマイナスでした。6月末の現金・現金同等物は約200億円です。赤字が減ったことと、自力で現金を増やせる会社になったことの間には、もう一段階あります。
では、この業績にPER10〜15倍を当てはめると、適正株価はいくらでしょうか。
現在はEPSがマイナスなので、この方法では算定できません。 今期の会社予想も非開示です。したがって、「会社予想EPSに対して46円は安い」という買い方は、現時点ではできません。
将来の黒字を予想して、そこから株価を考える必要があります。
その前に、JDI特有の点を一つだけ押さえておきます。JDIは普通株だけでなく、利益を分け合う権利を持つE種優先株も発行しています。会社のEPS計算にも、この優先株の換算分が含まれています。
本稿では、9月28日時点の普通株と優先株の換算分を合わせた約70億株で将来EPSを計算します。利益を分ける株数が多いため、1株の利益を増やすには、会社全体でかなりの金額を稼ぐ必要があるのです。
46円をPER15倍で説明するにはEPS約3.07円、年間の最終利益は約215億円。PER10倍ならEPS4.60円、最終利益は約322億円が必要になります。
これが、JDIの復活を考える出発点です。少し黒字へ戻るだけでは、46円を利益で説明するところまでは届きません。
会社の計画は、どこまで信じられるか
JDIが現在示しているのは、工場の集約、固定費削減、資産売却、新規事業の立ち上げを進め、FY27に営業黒字化を目指す流れです。ここでいうFY27は、2027年4月から2028年3月を指します。
営業赤字が実際に縮小しているので、改善の方向には裏付けがあります。一方、今期の売上・利益予想はまだ公表されていません。新規事業や財務施策の時期によって業績が大きく変わるため、と会社は説明しています。
つまり、今の段階で「会社予想が保守的だから、上方修正を狙える」とまでは言えません。比べる相手となる利益予想がないからです。
また、以前の中期経営計画には注意が必要です。2022年に作った「METAGROWTH 2026」では、最終年度に売上4,735億円、営業利益833億円という大きな目標を掲げていました。
しかし、その計画で営業利益480億円を目指していた年度の実績は、約187億円の営業赤字でした。その後、工場の生産終了や売却が進み、事業の姿も変わっています。古い目標をそのまま将来EPSに入れると、現在とは違う会社の株価を計算することになってしまいます。
足元の評価で重要なのは、直近の赤字縮小と新しい契約です。黒字化への道が見え始めたことは評価できる。ただ、その先に年間200億円、300億円を稼げる姿があるかは、これからの事業を見ないと分かりません。
コバホークがJDIに注目していた理由は、7年前にさかのぼる
ここまで数字を見て、「それでも、なぜ政治家がこの会社に期待するのか」と感じた方もいると思います。その答えを探すには、JDIの生まれ方まで戻る必要があります。
JDIは2012年4月、ソニー、東芝、日立製作所の中小型ディスプレイ事業を統合して事業を開始しました。中心にいたのは官民ファンドの産業革新機構、INCJです。2,000億円を上限とする増資を引き受け、上場前には株式の70%を保有していました。
各社の技術と生産能力を集め、世界で戦えるディスプレイメーカーをつくる。「日の丸液晶」と呼ばれた背景には、この構想があります。
だからこそ、経営が苦しくなったときには、一企業の再建に加え、公的資金を投じて育てた技術をどう残すかという問題も浮かび上がりました。
国会で問われたのは、技術を失うことだった
2019年3月13日の衆議院・経済産業委員会。当時、中台企業連合によるJDIの買収が報じられるなか、小林氏は有機ELパネルの技術を持つJDIを名指しし、国として守る必要があるのではないかと政府に質問しました。
さらに、公的資金が入った企業の買収に対する事前届け出や審査も提起しています。このやり取りは、国会会議録で確認できます。
私たち投資家は、売上や利益を見て会社を評価します。赤字が続けば、「この会社は大丈夫なのか」と考えます。
小林氏の問いには、もう一つの物差しがあります。
この会社が持つ技術を失ったら、日本は何を失うのか。
経営が悪化した企業が買収され、その技術を誰が使い、どこで育てるかを決める力まで海外へ移る。小林氏は、その問題を懸念していました。
守ろうとしていた「有機ELの技術」とは
国会で挙げられたのは有機ELパネルの技術で、特定の製法や特許名まで指定した発言ではありません。ただ、当時の会社資料から、その技術の中身をたどることはできます。
有機ELは、画面の小さな点が自ら光る仕組みです。その発光部分を細かく正確につくり、必要な電気を流して均一に光らせる。ここに画質や消費電力、寿命を左右する技術が詰まっています。
JDIは2020年1月の公式資料で、「Advanced SBS」という独自の発光層形成方式を説明しています。高精細、低消費電力、長寿命化に強みがあるとし、2019年12月から初の量産品を出荷していました。国会質問のあとの資料ですが、当時の開発内容を知る手掛かりです。小林氏がこの方式を指していたとまでは確認できません。
その土台には、LTPS、低温ポリシリコンを使った回路技術があります。画面の一つひとつの点を精密に動かすための技術、と考えるとわかりやすいでしょう。JDIは2018年にこれを自社のコア技術と位置付け、有機EL、VR用ディスプレイ、センサーなどへの展開を紹介していました。
独自性があるのは、有機ELやLTPSという分野そのものを独占しているからではありません。JDI固有の設計や製造方法、それを安定した製品に仕上げるノウハウにあります。
当時協業していたJOLEDの印刷方式有機ELと、JDI自身の蒸着方式も区別が必要です。また、現在注目されるeLEAPの量産技術確立発表は2022年。2019年の発言を「eLEAPを守ろうとしていた」と読み替えることはできません。
JDIの価値を考えるときには、売っている画面の奥にある、設計と製造の蓄積まで見る必要があります。
2026年、米国との連携がその技術の使い道になるか
7年後のX投稿で小林氏が評価したのは、JDIに残る技術を、中国依存を減らしたい米国の供給網づくりに生かす可能性でした。
2019年には海外への技術流出を懸念し、2026年には米国との事業展開を評価する。この二つは、日本の技術を誰と、どの条件で活用することが国益になるかという共通の問いで捉えることができます。
当時の小林氏は自民党政調会長で、2022年の経済安全保障推進法成立時の担当大臣でもありました。2026年3月19日の公式会見でも、日本企業の海外展開を後押しし、有志国を含めて供給網を強くする政策を説明しています。JDIの米国構想は、その方向性と重なる部分があります。
ただし、小林氏がJDI案件を主導したことや、政府支援を取り付けたことまでは確認できません。X投稿の内容は当時の転載記録2件で照合しましたが、原文は今回直接取得できていません。
ここで見たいのは、政策への期待が事業の条件をどう変えるかです。外部の資金で工場を建設できるか。長期の顧客を確保できるか。JDIが技術や運営の対価を受け取れるか。その組み合わせによって、「技術はあるが、事業を大きくする資金が足りない」という壁を越える可能性が出てきます。
なお、かつてのINCJによる直接支援が、そのまま続いているわけではありません。2023年の再編でJDIのINCJからの借入残高はゼロとなり、INCJは2025年3月に保有株式の売却も完了しています。
2019年の国会答弁でも、世耕経産大臣は技術流出への注意を認める一方、INCJは経営不振企業の救済や、競争力を失った技術の温存を目的に投資するものではないと説明していました。
国にとって重要なのは技術や供給網を残すことです。その方法が、既存株主に最も有利な形になるとは限りません。だからこそ次に、米国での事業からJDIに何が残るのかを見ていきます。
米国事業で変わるのは、売上より「稼ぎ方」かもしれない
JDIは2025年2月12日、OLEDWorksとの資本業務提携と米国工場設立に向けた協業を発表しました。小林氏の投稿より1年以上前から、企業側にも具体的な下地がありました。狙う用途は防衛、車載、医療などです。
一方、業界調査会社UBI Researchは、初期投資2,000億円、総額2兆円という規模や、Applied Materialsによる設備供給への期待を報じています。大きな話ですが、この2兆円がJDIの売上になるわけではありません。JDIが全額を負担する計画として確定した数字でもありません。
会社が4月28日に認めたのは、工場の運営や技術支援を検討しているという点です。今回確認した資料では、JDIの投資負担、報酬、利益配分、稼働時期までを確定できませんでした。
それでも、ここには調べる価値があります。
従来は、自分で工場を持ち、設備を買い、人員を抱え、製品を売って投資を回収する商売でした。設備が動かなければ、費用だけが重くなります。
もし今後、外部の資本が工場建設を支え、JDIは技術や運営ノウハウを提供して継続報酬を得る形になれば、売上と利益の関係が変わる可能性があります。大きな売上を取り戻さなくても、利益を残せるかもしれません。
moomooの「JDI ― 夜明け前の静けさ」も、この点を考える手掛かりになります。売上が昔の規模へ戻るかだけでなく、設備負担と利益の残り方が変わるかを見る。その問いを加えると、米国案件の意味がはっきりします。
例えば、JDIに毎年100億円の追加税引前利益が残ると仮定します。税負担を30%とすれば最終利益は70億円増え、約70億株で割った追加EPSは約1円です。PER10〜15倍なら、利益による評価に10〜15円分の違いが生まれます。
これなら、株価を考えるうえで無視できない大きさです。ただし、100億円の利益が入る契約を確認したわけではありません。工場の総額より、毎年JDIに残る利益が大事だという規模の例です。
知財にも確認が要ります。JDIは一部の知財を移した会社をいちご側へ譲渡し、対象技術を無償で使える権利を得る枠組みを作っています。技術を使えることと、その技術のライセンス料を受け取れることは同じではありません。新規事業などの一部特許はJDIに残っていますが、どの契約の利益がどの会社に入るのかを確認する必要があります。
米国案件で見たいのは、「巨大工場ができる」という続報の先にある、報酬、費用、権利、期間です。そこまで見えてくれば、将来EPSを今よりずっと具体的に計算できます。
バイオ、衛星、赤外線。新しい商売はどこまで育つか
米国工場は規模が大きい一方で、まだ条件が見えません。それに対して新規3事業は、何を作り、誰に供給するかが少しずつ具体化しています。
意外に見えるかもしれませんが、バイオ、衛星、赤外線には共通点があります。JDIがディスプレイで磨いてきた、ガラスの上に細かな回路を作り、多数の場所を精密に制御する技術を使えることです。
画面の小さな点を動かす技術が、液滴の操作やアンテナの制御、熱を読み取るセンサーへ広がる。無関係な新事業を一から始める話とは違います。
バイオは、研究室の手作業を減らす商売
CyteSiのBPUという装置は、小さな液滴を電気で動かし、混ぜたり、分けたり、反応させたりするものです。研究者がピペットで行う操作の一部を、装置とソフトウェアで自動化するイメージです。JDIは、その制御を支えるガラス基板を作ります。
実験時間や試薬の使用量を減らせれば、研究室には購入する理由があります。大事なのは、展示会で注目されることから先へ進み、研究者の日常の仕事に組み込まれることです。
Xや外部投稿では「2031年3月期に売上45億円を目指す」という情報が流れています。ただ、今回は原資料と数値の対象範囲を照合しきれていません。基板だけなのか、装置販売まで含むのかで利益の見方が変わるため、正式な会社予想としては採用していません。
仮に45億円の売上が得られ、営業利益率25%、税負担30%と置くと、最終利益への寄与は約7.9億円、EPSでは約0.11円です。この事業一つでJDI全体が大きく変わるというより、利益の出る新しい商売を一つ育てる意味があります。
その先に、装置の普及に応じて部品が繰り返し買われる仕組みまであれば、成長の見え方は変わります。ただし、JDIの基板が頻繁に交換される仕様かは確認が必要です。「バイオだから消耗品が売れ続ける」とは決められません。
競合には、Sharp Life Scienceと組むNucleraなどがあります。JDIにも技術の蓄積がありますが、顧客は実験の使いやすさ、費用、再現性を比べます。普及台数と継続注文が、次の判断材料になります。
衛星通信は、アンテナの中にJDIの技術が入る
Kymetaとの協業は、衛星通信アンテナ向けのガラス基板です。JDIが衛星を打ち上げるのではなく、通信端末の中核部材を供給します。
Kymetaが目指すのは、複数の通信帯域や衛星網を利用する次世代の平面アンテナです。移動中の通信や、安定した回線が必要な用途で使われることが期待されます。商用化の予定は2027年です。
株価の材料としては「衛星通信に進出」で目を引きますが、業績を読むなら、端末が年間何台売れ、そのうちJDIの部品がいくらを占めるかが重要になります。
例えば、年間5,000端末分に部品を供給し、JDIの売上が1台当たり20万円なら年10億円です。これは実際の単価や受注数量ではなく、売上の大きさを考えるための例です。年10億円を60億円へ伸ばすには、数量か単価、あるいは両方が大きく変わらなければなりません。
また、Kymetaの米国防総省向け2,000万ドル受注は既存端末と通信サービスの契約です。それをJDIの新製品への注文と読み替えることはできません。競合にはALL.SPACEやIntellianなどがあり、通信性能だけでなく、価格、重量、消費電力でも選ばれる必要があります。
赤外線は、「暗くても見える」を安く広げられるか
Obsidianとの協業は、物体の熱を画像にするセンサーです。暗い場所の監視や移動体の認識などで使われます。JDIの製造技術を使い、高解像度の製品を量産することを狙っています。
Obsidianは米陸軍の開発プログラムへの選定を発表し、対象となる高解像度製品は2027年の計画です。利用先の具体性は増しています。
ただ、Obsidianには別の製造パートナーもいます。相手企業が成長すれば、その売上がすべてJDIへ回ってくるわけではありません。JDIが担当する製品と数量を確認する必要があります。
FLIRやLYNREDなど、実績のある競合もいます。ガラスを使った大量製造で、性能を保ちながら価格を下げられるなら勝負になります。試作品の性能に加えて、量産時の品質と採算が問われる事業です。
大きな市場でも、利益になるまでには時間がかかる
3事業が向かう市場には広がりがあります。調査会社の参考値を1ドル150円で換算すると、広いバイオ分析用チップ市場は2030年に約1.7兆円、平面衛星アンテナ市場は2026年に約3,700億円。非冷却の熱画像センサー市場は2024年に約1,440億円、数量で約320万個とされています。
ただ、これらには完成装置や他社製品も含まれます。JDIが部品や製造を担当する場合、市場全体の何%という掛け算だけで売上を作ると大きくなりすぎます。
例えば、赤外線でJDIの製造分が年間5万個になれば、2024年の世界市場数量に対して約1.6%。30万個なら約9.4%です。将来、市場自体も成長するでしょうが、後者はかなり大きな採用拡大を必要とします。会社が公表したシェア目標ではなく、数量の重みを見る比較です。
資金も要ります。2025年6月の資金使途計画には、センサー設備へ4年間で合計40億円を投じる想定がありました。既存設備を使える強みはありますが、設備の追加や改良が不要になるわけではありません。
この40億円は過去の計画で、現在までに使った金額ではありません。2026年3月期の設備投資実績は全社で約14億円でした。3事業ごとの投資額は公表されていません。
時間の見方としては、まずバイオの量産・供給を追い、2027年には衛星や赤外線の商用化・量産が進むかを見る。その後に、採用台数と継続注文の積み上がりが利益を左右する、という順番です。今、新規事業の名前が増えたから、次の決算ですぐ大きな利益になるという話ではありません。
ここで茂原工場の売却が効いてきます。
9月30日に決まった相手は新光電気工業で、引渡し予定は2027年3月31日です。買い手は先端半導体パッケージ向けの工場として活用する計画を示しています。
JDIが発表した514億円は売却価格ではなく、計上を見込む売却益です。一度きりの利益なので、毎年続くEPSとしてPERを掛けることはできません。それでも、売却が財務を改善し、借入返済や事業転換を進める余地を広げる可能性はあります。
売却後に買い手が稼ぐ製品売上は、買い手のものです。JDIにとっての意味は、新しい事業を育てるための資金と時間を確保できるかにあります。実際にいくら返済し、量産準備へいくら回せるかが、次に見たいところです。
では、復活したら株価はいくらになるのか
春の急騰から始まり、政府との関係、米国の構想、新しい商売まで見てきました。ここで、最初の問いに戻ります。JDIが復活したら、今の46円からどれだけ上がる余地があるのでしょうか。
会社は今期予想を公表していません。また、新事業の数量や米国契約の収益も未確定です。そのため、現時点で「最も起こりそうなEPS」を一つに決めるだけの根拠はありません。
そこで、量産や契約が進んだ2028〜2030年ごろの年間利益を考えるため、3段階の条件を置きました。会社予想でも、各ケースの実現確率を示すものでもありません。どのくらい稼げれば、46円から先の評価が見えてくるかを確かめる計算です。
一つ目は、既存事業が黒字へ定着する場合です。
既存売上1,000億円、営業利益率5%で営業利益50億円。新規3事業の売上を13億円、そこから残る営業利益を20%の2.6億円と置きます。金融費用などを20億円、税負担を30%とすると、最終利益は22.82億円です。
これは前期の約198億円の最終赤字から見れば、大きな改善です。それでもEPSは約0.33円にとどまります。
二つ目は、既存事業と新規事業が伸び、米国からも利益が入る場合です。
既存売上1,200億円、営業利益率10%で120億円。新規売上100億円から25億円の営業利益。さらに米国から年間100億円の収入が入り、費用を引いて70億円が残ると置きます。
営業利益は合計215億円です。金融費用など20億円と税負担30%を差し引くと、最終利益は136.5億円、EPSは約1.95円になります。
この段階でも、既存事業の高収益化、新規事業の大口採用、米国の高採算契約という、複数の成功が必要です。
三つ目は、株価上昇を利益から説明するために、さらに大きな成長を置いた場合です。
既存売上1,500億円、営業利益率15%で225億円。新規売上300億円、利益率30%で90億円。米国収入250億円から80%の200億円が残ると置けば、営業利益は515億円になります。
同じく金融費用など20億円、税負担30%で計算すると、最終利益は346.5億円、EPSは約4.95円です。この条件まで来て、46円を上回る評価が見えてきます。
| 将来の条件 | 最終利益 | EPS | PER10〜15倍の株価 | 46円との差 |
|---|---|---|---|---|
| 既存事業の黒字定着 | 22.82億円 | 約0.33円 | 3.26〜4.89円 | 約−93〜−89% |
| 新規事業・米国も成長 | 136.5億円 | 約1.95円 | 19.51〜29.26円 | 約−58〜−36% |
| さらに大規模な利益成長 | 346.5億円 | 約4.95円 | 49.52〜74.27円 | 約+8〜+61% |
表の下段は「61%上がる予想」ではありません。そこまでの評価を作るには、今の会社からこれほど大きく利益が変わる必要がある、という逆算です。特に新規売上300億円、米国収入250億円、その高い利益率には、現時点で契約による裏付けがありません。
金融費用20億円にも、返済などで負担が減ることを期待しています。税負担も実際には変わります。費用が想定以上に残ればEPSは下がりますし、想定以上の継続契約が取れれば上がります。
また、表の上段や中段は、その価格まで株価が下落するとの予想ではありません。市場はさらに先の成長や政策期待も評価します。ただ、示した利益とPERだけでは46円を説明できない、という結果です。
この計算から、調べるべき点も絞れます。既存売上1,200億円に対して利益率が1ポイント改善すると、税負担30%なら最終利益は8.4億円増えます。一方、米国などから追加で100億円の税引前利益を得られれば、最終利益への寄与は70億円です。どちらも重要ですが、株価上昇を支える利益の規模は違います。
50%上昇した69円をPER15倍で説明するには、年間約322億円の最終利益。2倍の92円なら約429億円です。JDIに期待するなら、どの事業がこの利益を作るのかまで考えておきたいところです。
会社が復活しても、1株の利益が同じように増えるとは限らない
ここで最後に、株数の問題があります。
JDIは新株予約権による資金調達を進めています。9月28日時点の未行使分がすべて行使されると、今回のEPS計算に使う株数は約70億株から約100億株へ増えます。
先ほどの最終利益346.5億円が変わらなくても、EPSは約4.95円から約3.45円へ下がります。PER10〜15倍なら34.51〜51.76円。46円との差は、約−25〜+13%です。
新しく入った資金が借入返済や利益成長に役立てば、その効果も加える必要があります。資金調達が悪いという話ではありません。ただ、会社の利益が増える速さと、利益を分ける株数が増える速さを、一緒に見なければなりません。
再建を支える大株主いちごも、株主であると同時に資金提供者です。借入の返済、株式の価値、移管された知財など、関わり方は一つではありません。「大株主が支えるから安心」で終わらず、最終的にJDIの普通株主へどれだけ利益が残るかを見ていきます。
時間も同じです。数年先に74円相当の利益を稼げるとしても、その間に追加資金が必要になるかもしれません。将来の到達株価と、今買って待つ価値は、分けて考える必要があります。
次の決算・開示で確認すること
春の急騰を入口に調べてみると、JDIには、決算の赤字だけでは見えない背景がありました。小林氏は2019年から有機EL技術の流出を懸念していました。その技術の蓄積に、米国での事業や新しい用途という使い道が生まれようとしています。
既存事業の赤字縮小も進んでいます。政策上の関心、企業の協業、実際の業績改善。この三つがあることは、復活を期待する理由になります。ただし、それぞれが最終的にどれだけの利益へつながるかは、まだ見極める段階です。
ただ、今の46円を利益面から割安だと言うには、継続的に稼ぐ金額の裏付けがまだ足りません。
次の決算の確認点は、本業の改善が続き、現金の流出も落ち着いてくるかです。次に、バイオ、衛星、赤外線の協業が、実際の量産と継続注文へ進むか。そして米国案件で、JDIが負担する額と受け取る利益が見えてくるかです。
直近の確認機会は、11月12日予定の中間決算になります。会社が目指す営業黒字化と、株価を支える最終利益の間が、どれだけ近づくかを確かめたいと思います。
先回りして買いたい気持ちと、もう少し確かめたい気持ち。その両方が出てくる銘柄です。利益が見える頃には株価が動いているかもしれませんし、期待した事業が育たない可能性もあります。
今のJDIの焦点は、政策と技術への期待が、株主に残る利益へ変わるかです。春の期待を業績が裏付けられるかが、株価を考えるうえでの分かれ目です。
復活を期待する理由はあります。その期待が毎年の利益へ変わり、増える株数を上回って1株の利益が育つなら、株価上昇の根拠も強くなります。次の大きな見出しだけでなく、その先の数字まで一緒に確かめていきたいところです。
参考にした資料
政府との関係・技術史:2019年3月13日・衆議院経済産業委員会、INCJ・設立経緯と上場、2023年・INCJからの借入解消、INCJ・保有株式売却完了、JDI・2018年の技術紹介、JDI・Advanced SBSの説明、eLEAP関連発表、2026年3月19日・小林政調会長会見、JDI・2025年2月のOLEDWorks提携。
業績・EPS・会社計画:2026年3月期決算短信、2027年3月期第1四半期決算短信、同説明資料、旧中期計画。
米国・3月の動き:JDIの4月28日開示、OLEDWorksの発表、UBI Researchの記事、JPX・3月9日、JPX・3月10日、小林氏のX投稿URL、当時の転載記録、別の転載記録。
新規事業:JDI・CyteSi協業、Nuclera・Sharp提携、Kymeta・JDI提携、Kymeta・次世代端末、既存端末の受注、JDI・Obsidian協業、Obsidian・米陸軍プログラム。
市場規模:Grand View Research、QYResearch、Yole。対象範囲が異なる調査会社の推計で、為替は比較用に1ドル150円としています。
資金・株数:茂原売却契約、新光電気の取得計画、9月28日の新株予約権行使、知財移管、設備投資の資金使途計画、有価証券報告書。EPS試算の基準株数は6,997,734,675株、残存予約権を全て行使した比較では10,041,165,751株を使用しています。
外部分析など:moomoo「JDI ― 夜明け前の静けさ」、バイオ売上目標の流通例、株価時系列、IRカレンダー。
執筆:Moon/更新:2026年10月4日。株価の比較には10月2日終値46円を使用しています。
本記事は情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。記載の数値は、本文中に示した日付時点の決算短信・会社のIR資料などの公開情報に基づきます。最新の情報は各社の開示でご確認ください。将来の業績・株価の試算は筆者が置いた条件に基づき、利益や値上がりを保証しません。本サイトには広告・PRを含みます。

