はじめに――AIの熱狂の「足元」で進む、冷却と電源の静かな革命
生成AIの普及は、GPUやサーバーへの爆発的な需要を生みました。けれども、その演算能力を支えるには「冷やすこと」と「電気を送ること」という、地味ではありますが不可欠なインフラが必要です。AIサーバーは従来の数倍の電力を消費し、その大半が熱に変わります。空気で冷やす空冷では限界が見え、液体で直接冷やす「液冷」、さらにサーバーごと特殊な液体に沈める「液浸冷却」へと、データセンターの冷却は進化を迫られています。
本稿は、この「冷却・空調・電源」というテーマで、AIデータセンター時代の主役級となりうる日本の8銘柄を取り上げます。当研究所の方針として、各社の関与は株探のテーマ登録・各社公式情報・決算データという一次/準一次ソースで確認し、さらに読者の皆さまが最も知りたいであろう「株価をどう考えるか」に踏み込むため、各社にEPS(1株利益)×PERの感応度分析を付けました。これは目標株価の提示でも売買推奨でもなく、「いまの株価が、どの利益水準・どの評価倍率を織り込んでいるのか」を冷静に測るための道具です。本稿は銘柄研究であり、投資の最終判断はご自身でお願いいたします。
テーマ背景――「空冷→液冷→液浸」という不可逆の流れ
データセンターの消費電力のうち、冷却が占める割合は決して小さくありません。AIサーバーの高密度化により、従来の空調だけでは熱を捌ききれなくなりつつあります。そこで、サーバーの発熱部に直接冷却液を当てる液冷(ダイレクト液冷)や、サーバーごと絶縁性の液体に浸す液浸冷却が現実的な選択肢として浮上しています。この流れは、冷却装置・精密空調・熱交換部品・電線/電源といった裾野の広い産業に新たな需要をもたらします。本稿の8銘柄は、いずれも株探で「データセンター」「サーバー冷却」などのテーマに登録されている企業から、ファンダメンタルズと需給の観点で取り上げました。
以下、各社とも基礎データ・業績推移・EPS感応度・需給・強気/弱気材料の順に整理します。数値はすべて執筆時点(2026年6月12日)の株探・IRBANKに基づきます。
① 古河電気工業(5801)――光ファイバと「冷却ヒートパイプ」の二刀流
電線3強の一角で、光ファイバで世界有数。AIデータセンター向けの光ケーブル需要に加え、公式プレスリリースで「データセンタ冷却用高性能ヒートパイプの開発」を公表しており、液冷の熱輸送部品でも一角を占めます。株探のテーマにも「データセンター」「サーバー冷却」が登録されています。
基礎データ(2026/6/12、出典:株探・IRBANK)
株価42,090円/時価総額2兆9,744億円/予想PER36.1倍(過去3年平均20.89倍)/PBR7.1倍/予想ROE19.66%/配当利回り0.52%。株式分割を予定(2026/5/12開示)。
EPSベースの想定株価(感応度分析) ― 会社予想EPS1,165円を起点。
読み解き:現在のPER36倍は過去3年平均20倍台を大きく上回り、AI・データセンター期待をかなり織り込んだ水準。直近1年で株価が大きく上昇した反動で値動きも荒く、過去平均PERまで戻ると理論株価は大きく下振れする計算になります。「成長を買う」局面の典型で、業績の伸びが期待に追いつくかが焦点です。
② 荏原製作所(6361)――ポンプと半導体装置、そして冷却水循環
ポンプ総合メーカーで半導体研磨装置も手掛けます。データセンターの液冷では冷却水・冷却液を循環させるポンプが不可欠で、株探テーマに「サーバー冷却」が登録されています。業績も好調です。
基礎データ(2026/6/12、出典:株探・IRBANK)
株価5,506円/時価総額2兆5,177億円/予想PER25.3倍(過去3年平均18.55倍)/PBR4.85倍/配当利回り1.20%/信用倍率16.62倍。
EPSベースの想定株価(感応度分析) ― 会社予想EPS217.9円を起点。
読み解き:来期+31%の最終増益見通しが評価の支え。現在PER25倍は過去平均18倍より高いものの、利益成長率を勘案すれば極端な割高とは言い切れない水準。半導体装置・ポンプの受注動向が鍵です。
③ ダイキン工業(6367)――空調の世界王者、データセンター冷却の本命格
エアコンで世界トップ級。データセンターの精密空調・熱管理で中核を担いうる存在で、株探テーマに「データセンター」「サーバー冷却」が登録されています。財務は堅実です。
基礎データ(2026/6/12、出典:株探・IRBANK)
株価23,030円/時価総額6兆7,504億円/予想PER23.1倍(過去3年平均22.39倍)/PBR1.97倍/配当利回り1.56%/信用倍率4.55倍。
EPSベースの想定株価(感応度分析) ― 会社予想EPS998.8円を起点。
読み解き:現在PER23倍は過去平均とほぼ一致し、評価の歪みは小さい「適正圏」。増益率は1桁台と派手さはなく、データセンター空調が業績全体を押し上げるにはなお時間を要する見方が無難です。世界の空調需要と為替が主因。
④ 新晃工業(6458)――業務用空調の中堅、データセンター空調の隠れた一角
業務用空調機の中堅で、大型機種に特化。株探テーマに「データセンター」「サーバー冷却」が登録され、低PER・高配当が特徴の中小型株です。
基礎データ(2026/6/12、出典:株探・IRBANK)
株価1,235円/時価総額896億円/予想PER11.5倍(過去3年平均12.85倍)/PBR1.31倍/配当利回り4.05%/信用倍率65.45倍。
EPSベースの想定株価(感応度分析) ― 会社予想EPS107.2円を起点。
読み解き:PER11倍・配当利回り4%と、バリュー株的な魅力がある一方、時価総額896億円と小型で、信用倍率65倍と需給は加熱気味。データセンター空調が業績にどれだけ効くかが再評価の分かれ目です。
⑤ HPCシステムズ(6597)――AIサーバーを”組んで届ける”小型グロース
科学・工学向け高性能コンピュータ(HPC)のソリューション企業。GPUサーバーの設計・構築を手掛け、株探テーマに「エヌビディア関連」「サーバー冷却」が登録されています。時価総額187億円の小型グロース株です。
基礎データ(2026/6/12、出典:株探・IRBANK)
株価4,280円/時価総額187億円/予想PER34.5倍(過去3年平均20.55倍)/PBR6.73倍/配当利回り0.75%/信用倍率675倍。
EPSベースの想定株価(感応度分析) ― 会社予想EPS124.1円を起点。
読み解き:PER34倍は過去平均20倍を大きく上回り、AI期待を強く織り込んだ水準。信用倍率675倍と需給は極端に買い長で、値動きの荒さは随一。利益額が小さいぶん、わずかな業績変動で株価が大きく動きやすい点に最大の注意が必要です。
⑥ 三櫻工業(6584)――自動車配管の技術を「冷却」へ転用するPBR0.7倍株
自動車用チューブ・集合配管の独立系メーカー。配管・熱交換の技術をデータセンター冷却へ応用する文脈で、株探テーマに「データセンター」「サーバー冷却」が登録されています。PBR0.68倍と資産評価が低い点が特徴です。
基礎データ(2026/6/12、出典:株探・IRBANK)
株価918円/時価総額341億円/予想PER21.9倍(過去3年平均13.80倍)/PBR0.68倍/配当利回り3.05%/信用倍率3.89倍。
EPSベースの想定株価(感応度分析) ― 会社予想EPS41.9円を起点。資産価値の観点でPBR基準も併記します。
読み解き:本業は自動車部品で利益水準は低く、PERで見ると割高に映ります。一方PBR0.68倍は「解散価値割れ」で、資産面では割安。データセンター冷却という新規テーマが本業に上乗せされるかが、低PBR是正のカギを握ります。
⑦ 日立製作所(6501)――AIインフラを丸ごと担う総合電機の巨人
総合電機・重電トップ。データセンター、電力インフラ、ITサービスを束ね、AIインフラの恩恵を最も広く受けうる一社。株探テーマに「データセンター」「サーバー冷却」「エヌビディア関連」「生成AI」が登録されています。時価総額21兆円超の大型株です。
基礎データ(2026/6/12、出典:株探・IRBANK)
株価4,657円/時価総額21兆1,221億円/予想PER24.6倍(過去3年平均25.16倍)/PBR3.18倍/信用倍率12.10倍。
EPSベースの想定株価(感応度分析) ― 会社予想EPS189.6円を起点。
読み解き:現在PER24倍台は過去平均25倍とほぼ同水準で、評価の歪みは小さく「適正〜やや割安」圏といえます。AIインフラ全体の成長を取り込める総合力が魅力ですが、事業が広いぶん「液冷の純粋なテーマ株」ではない点は理解しておきたいところです。
⑧ 三菱重工業(7011)――液浸冷却システムの「装置側の本命」
総合重機最大手。各社公式サイトを一次ソースで点検した結果、液浸冷却システムそのものを自社開発・実証・製品化している主体として最も明確だったのが三菱重工です(2023/6「ラック型液浸冷却システム」新開発など、出典:三菱重工業ニュースリリース mhi.com)。株探テーマにも「データセンター」「サーバー冷却」が登録されています。
基礎データ(2026/6/12、出典:株探・IRBANK)
株価3,540円/時価総額11兆9,427億円/予想PER31.3倍(過去3年平均34.28倍)/PBR3.85倍/予想ROE12.3%/信用倍率31.53倍。
EPSベースの想定株価(感応度分析) ― 会社予想EPS113.1円を起点。
読み解き:液浸冷却の装置側では一次ソースが最も明確ですが、株価を主に動かすのは防衛・原子力・ガスタービンなど巨大な本業です。液浸は数ある事業の一部にすぎず、「液浸の本命だから買い」という単純な話ではない点には注意が必要です。信用買い残の積み上がりも需給上の留意点です。なお三菱重工は、姉妹編の「液浸冷却」記事でも装置側の主役として詳しく取り上げています。
テーマ全体の強気材料・弱気材料(両論併記)
強気材料:AIデータセンターの電力・発熱問題は構造的で、空冷→液冷→液浸という技術進化は不可逆だと考えられます。冷却装置(ダイキン・新晃工)、冷却水循環(荏原)、熱輸送部品(古河電・三桜工)、AIサーバー構築(HPC)、総合インフラ(日立)、液浸装置(三菱重工)と、バリューチェーンの各層に日本企業が存在しています。
弱気材料:古河電・HPCなど一部はPERが過去平均を大きく上回り、期待先行で値動きが荒くなっています。大型株(日立・ダイキン・三菱重工)はデータセンターが業績全体に占める比率がまだ小さく、「純粋なテーマ株」とは言いにくい面があります。中小型株(新晃工・HPC・三桜工)は信用倍率が高く、需給が過熱しやすい点にも注意が必要です。テーマの将来性と、足元の業績・バリュエーションは切り分けて見る必要があります。
結論――「バリューチェーンのどの層か」と「EPSの現在地」で冷静に
冷却・空調・電源というテーマは、AIインフラの土台として息の長い需要が見込まれます。ただし8銘柄は、バリューチェーン上の位置(装置/部品/空調/総合)も、株価の評価水準(割安〜期待先行)も大きく異なります。本稿のEPS感応度表は、各社の株価が「どの利益・どの倍率を織り込んでいるか」を測るための物差しであり、目標株価でも売買推奨でもありません。テーマの物語に乗る前に、各社の現在地を数字で確かめる――その一助になれば幸いです。
本記事の参照ソース(一次情報・データ)
- 古河電気工業「データセンタ冷却用高性能ヒートパイプの開発」furukawaelectric.com ↗
- 三菱重工業「ラック型液浸冷却システム」新開発mhi.com(2023/6/16) ↗
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄・売買を推奨するものではありません。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。将来の値動きや利益を保証するものではありません。
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📄 参考・出典
⚠ 免責事項
本記事は、公開情報(各社公式発表・株探・IRBANK・日本経済新聞等)をもとにした銘柄研究・情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。EPS感応度表は株価の現在地を測るための機械的な試算であり、目標株価を示すものではありません。記載の数値は執筆時点(2026年6月12日)のものです。投資の最終判断はご自身の責任でお願いいたします。

