なぜいま宇宙関連株なのか|1.8兆ドル市場をEPS視点で読み解く

なぜいま宇宙関連株なのか|億り人研究所

2026年6月12日、スペースXがナスダックに上場しました。公開価格は1株135ドル、想定時価総額は約1.77兆ドル(約283兆円)で、これは史上最大級のIPOです。上場初日には株価が一時二割近く上げ、時価総額は約2.1兆ドル(約336兆円)に乗せました。この一件をきっかけに、日本でも「宇宙関連株」への関心が一気に高まっています。

ただ、ここで立ち止まって考えたいことがあります。そもそも、なぜいま宇宙なのか。そして、その盛り上がりは「テーマ株のお祭り」なのか、それとも構造的な裏付けがあるのか。この記事(宇宙株シリーズ第1部)では、報道の熱量をなぞるのではなく、市場規模の予測やスペースXの開示・各社の計画といった一次情報・公的試算を拾って、「物語」(期待)と「数字」(事実)の距離を測っていきます。

本シリーズは3部構成です。第1部(本記事)が「なぜいま宇宙か――市場スケールとイーロンの世界線」、第2部が「米国の宇宙プレイヤー――売上・時価総額・成長性」、第3部が「日本の宇宙関連株――事業・ロードマップ・上場予備軍」です。いずれも「結局、株価にどう効くのか」という読者の関心軸をぶらさずに進めます。

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なお、本記事の金額は規模感をつかみやすくするため、ドル表記に加えて1ドル=160円想定で日本円を併記しています。為替は常に動くため、円額は「おおよその規模感」としてご覧ください。

目次

① 宇宙経済は「半導体産業に匹敵」する規模へ――市場スケールの全体像

まず、いちばん大きな絵から確認します。世界経済フォーラム(WEF)とマッキンゼーが2024年4月に公表した共同報告「Space: The $1.8 Trillion Opportunity」によると、世界の宇宙経済は2023年の約6,300億ドル(約101兆円)から、2035年には約1.8兆ドル(約288兆円)へ拡大すると予測されています。年平均成長率は約9%で、これは世界GDP成長のおよそ2倍。規模としては半導体産業に匘敵する水準で、上振れシナリオでは2.3兆ドル(約368兆円)にのぼる可能性も示されています。

重要なのは、成長の半分以上が「ロケットや衛星そのもの」ではなく、それらを使う地上の産業(通信・測位・地球観測を活用する物流、保険、農業、防衛、小売など)から生まれるとされている点です。宇宙は一部のベンチャーだけの話ではなく、裾野の広い産業になりつつある、という見立てです。

📊 世界の宇宙経済の市場規模予測
区分2023年2035年予測成長の目安
世界の宇宙経済(WEF×マッキンゼー)約6,300億ドル(約101兆円)約1.8兆ドル(約288兆円)年率約9%=世界GDP成長の約2倍
上振れシナリオ約2.3兆ドル(約368兆円)打上コスト低下が新産業を開く
日本の宇宙産業(政府目標)約4兆円(2020年)8兆円(2030年代早期)さらに2040年に13兆円目標へ前倒し論
軌道上サービス(OOS)約2〜3億ドル(約320〜480億円)約8〜12億ドル(約1,280〜1,920億円)デブリ除去・延命などの構造需要
※円換算は1ドル=160円想定の概算。出所:WEF×マッキンゼー(2024)、宇宙基本計画等。

この拡大を現実にした最大の要因が、再使用ロケットによる打ち上げコストの劇的な低下です(同報告は過去20年で約10分の1になったと指摘)。「宇宙に物を運ぶ」値段が下がったことで、衛星通信や地球観測だけでなく、宇宙インフラを維持・運用・片付けする新産業までが経済的に成り立つようになりました。スペースX上場が宇宙株全体を刺激しているのは、この「コスト低下が新産業を開く」という大きな物語が市場で共有されているからです。

② イーロンの「世界線」とスペースX――何が期待の中心にあるのか

宇宙への期待の中心には、つねにスペースXとイーロン・マスクの構想があります。ここは数字と切り分けて、まず「どんな物語が語られているのか」を整理します(年限はすべて「うまくいけば」という枕詞つきで読んでください。宇宙開発のタイムラインは恒常的にずれます)。

火星・月――構想の一番奥にあるもの

マスクはStarshipによる初の無人火星行きを2026年末に目指すと表明し、その先には2050年頃に火星へ人口100万人の自立都市を築くという長期目標を置いています。月でも、NASAの有人月帰還計画アルテミスでStarshipの月面仕様(HLS)が着陸船に採用されています。荒唐無稽に聞こえますが、Starlinkもロケット回収もかつては「無理だ」と言われ、いずれも現実になりました。市場が火星という物語にも一定の値段をつけにいくのは、この実績ゆえです。

Starlink――「物語」を支える現金製造機

壮大な構想を支える資金源がStarlinkです。運用中の衛星は1万機を超え、加入者は2025年前半に1,000万人を突破。2025年の売上は約114億ドル(約1.8兆円)で、これはスペースX全体の約6割を占め、しかも同社内で唯一安定して黒字の部門です。火星構想やAI部門の赤字を、この現金製造機が支えている――これがスペースXの財務の実像です。

📊 スペースXの上場と財務(2026年6月)
項目数値メモ
IPO価格1株135ドル想定時価総額約1.77兆ドル(約283兆円)=史上最大級のIPO
上場初日終値約160〜161ドル(+約19%)時価総額は約2.1兆ドル(約336兆円)へ
2025年 売上約187億ドル(約3.0兆円)うちStarlinkが約114億ドル(約1.8兆円、約6割)
Starlinkの収益性営業利益約44億ドル(約7,040億円)SpaceX内で唯一安定して黒字の部門
全社の最終損益巨額の最終赤字火星・AI部門などへの先行投資が要因
※円換算は1ドル=160円想定の概算。出所:S-1・報道ベース。

ここは投資の観点で示唆的です。スペースXほどの会社でも、宇宙事業の収益化には「先に走り続ける現金製造機(Starlink)」が必要でした。後段で扱う日本のベンチャーの多くは、まだそれに相当する収益柱を持ちません。世界線の壮大さと、足元の損益計算書の距離――この視点は、個別株を見るときに何度も効いてきます。

③ 新しい争点――「宇宙にデータセンター」とAI時代の宇宙需要

2025〜2026年にかけて、宇宙の物語に新しいテーマが加わりました。AIのデータセンターを軌道上に置くという構想です。軌道上では太陽光が地上の数倍降り注ぎほぼ途切れず、地上のデータセンターが直面する電力・水・土地の制約から解放される、というのが推進派の主張です。

これはマスクだけの話ではありません。グーグルは軌道上AIデータセンター研究「Project Suncatcher」を発表し、試作衛星の打ち上げを2027年初頭に予定。スタートアップのStarcloud(Nvidia等が出資)は評価額11億ドル(約1,760億円)で1.7億ドル(約272億円)を調達し、将来的に8.8万基規模の構想をFCCに申請しています。Nvidiaも宇宙用コンピュートモジュールを発表しました。市場予測でも、宇宙データセンター市場は2026年の約14.4億ドル(約2,304億円)から2034年に約38.1億ドル(約6,096億円、年率約13%)へ伸びるとの試算が出ています。

ポイントは、SpaceX・グーグル・Nvidia・アマゾンといった顔ぶれが、そろって「軌道上に計算資源を置く」方向を向き始めたという地殻変動です。これが本物になれば、衛星・打上げ・軌道上サービスの需要は構造的に押し上げられます。ただし大半はまだ「2027年に試作機を打ち上げる」段階で、収益化はその先。ここでも物語と数字の距離は大きい、と冷静に置いておきます。

④ 「軌道の混雑」が生む構造需要――そして、それが株価にどう効くのか

これらの世界線が前に進むほど、共通して起きることが一つあります。軌道が混雑することです。Starlinkが数万機、アマゾンのKuiperが数千機、各国の防衛衛星、商業ステーション、そして軌道上データセンター――その全部が同じ低軌道に積み上がっていきます。混雑と衝突リスクは、もはや抽象的な懸念ではなく運用上の現実になりつつあります。

そして混雑した軌道で必要になるのが、給油・延命・デブリ除去・点検という「軌道上の整備サービス(OOS)」です。FCCが運用終了後の衛星廃棄期限を「25年→5年」に短縮するなど規制も需要を生んでいます。世界線が壮大であるほど、後片付けと整備の需要が構造的に増える――この領域こそ、日本のアストロスケールなどが立つ土俵です。

投資家視点でまとめると、宇宙関連株の物色は「打上げコスト低下→新産業の経済性成立→市場が兆ドル級へ拡大→軌道混雑で整備需要も発生」という、一本の構造ストーリーに支えられています。これがテーマ株の単なるお祭りと違うところです。ただし――次の点が決定的に重要です。

⑤ 投資の視点――「期待は本物、ただし時間軸を忘れない」

市場規模が兆ドル級へ向かうという大きな物語は、誇張ではなく公的機関の試算が示す方向です。しかし、株価という観点では3つの注意が要ります。

第一に、時間軸です。OOS市場が本格的に立ち上がるのは2030年前後からで、宇宙データセンターの収益化も2027年以降。多くの純粋系ベンチャーが本格的な黒字化を見込むのは数年先で、足元はまだ赤字・投資先行です。「市場が10倍になります」話と「来期の決算」は別物です。

第二に、バリュエーションです。赤字段階のグロース株はPERが意味をなさず、PBRや時価総額で将来を大きく先取りしています。これは「安いから買う」割安株ではなく「将来を買う」テーマ株であり、期待が剥落したときの下落も大きくなりがちです。

第三に、需給です。成長投資のための資金調達(増資・CB・新株予約権)が繰り返され、希薄化やヘッジ売りが上値を抑える局面が頻繁に訪れます。個別株では、この需給の読みが株価を大きく左右します(この点は第3部で各社ごとに掘り下げます)。

まとめ――第2部・第3部へ

宇宙関連株が注目される理由は、「コスト低下が兆ドル級の新産業を開きつつある」という構造にあります。スペースX上場はその象徴であり、火星・Starlink・宇宙データセンター・軌道整備という複数の物語が同時に走っています。期待のスケールは本物。けれど、それが各社の数字に落ちてくる時間軸は数年先――この距離感を持っておくことが、宇宙株と付き合ううえでの出発点です。

続く第2部では米国の宇宙プレイヤーを売上・時価総額・成長性の観点で、第3部では日本の宇宙関連株(上場予備軍・買収シナリオ含む)を事業・ロードマップの観点で、それぞれ具体的に整理していきます。

📄 参考・出典

  • 株探(kabutan.jp)――各銘柄の株価・業績・財務データ
  • 各社公式サイト・IR資料(決算短信・有価証券報告書)
  • 各種報道・公開情報

⚠ 免責事項

本記事は公的機関の試算・各社開示・報道等をもとにした宇宙セクターの研究記事であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。本文中の数値は各出所の概算であり、円換算は1ドル=160円想定のものです。市場規模の予測や将来構想は不確実性を伴い、為替・株価・業績数値は執筆時点(2026年6月)のものです。投資の最終判断は、最新のIR・公的資料等をご確認のうえ、ご自身の責任で行ってください。

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