本記事は宇宙関連株シリーズの「第3部」です。第1部で市場スケールとイーロンの世界線を、第2部で米国プレイヤーを見ました。この第3部では、日本の宇宙関連株を「全体マップ」として整理します。
株探の「宇宙開発関連」テーマには約94銘柄が含まれます。ただしこれをそのまま並べても株価の見方にはつながりません。重要なのは「宇宙だけで動く専業銘柄」と「本業が別にある大手・部品・素材銘柄」を分けて考えることです。
1.まず「日本の市場規模と政策」を押さえる
日本の宇宙政策の土台にあるのが、「宇宙基本計画」(令和5年6月改定)です。ここでは、国内の宇宙産業の市場規模(宇宙機器+宇宙ソリューションの合計)を、「2020年の約4兆円から、2030年代の早期に2倍の約8兆円へ拡大する」という政府目標が掲げられています(出典:経済産業省・内閣府、本稿執筆時点2026年6月)。経産省はこれを「3つのゴール」——①市場の拡大(4兆円→8兆円)、②地球規模・社会課題の解決、③フロンティア開拓——として整理しています。
その「政策マネー」の中核が、JAXAに設置された「宇宙戦略基金」です。これは最大10年・総額1兆円規模の国家ファンドで、「輸送」「衛星等」「探査等」の3分野を中心に、スタートアップを含む民間企業や大学の技術開発を資金面で支えます(出典:JAXA宇宙戦略基金・内閣府)。栄えて、財務の薄い宇宙スタートアップにとっては、国からの受注や補助金が「売上」と「資金調達」の両方を支えるため、株価視点ではこの政策マネーの流れが重要になります。
「宇宙戦略基金」はどこにお金が流れるのか(株価との接点)
宇宙戦略基金は、内閣府・文部科学省・経済産業省・総務省の4府省が制度設計し、JAXAが「資金配分機関」として公募・採択を担う仕組みです。輸送(ロケット)・衛星等・探査等の領域ごとにテーマが設定され、採択された企業は複数年度(最大10年)にわたって開発資金を受け取れます。株価視点では、採択テーマの公表やステージゲート評価(進捗に応じた継続審査)が、関連銘柄の「受注期待」を動かすイベントになりやすい点がポイントです(出典:JAXA宇宙戦略基金・令和7年3月基本方針)。
【深掘り①】これまでに「どこに・いくら」流れたのか(第1期・第2期の実績)
宇宙戦略基金は「10年・1兆円」を一気に出すわけではなく、期ごとの公募で順次配分されます。まず第1期(令和5年度補正予算で措置)は、約約3,000億円規模が出そろいました。採択は全「輸送・衛星等・探査等・分野共通」の複数テーマにわたり、採択機関は合計27件(大手企業9件、中小・スタートアップ21件、大学・国研等7件など)に及びました(出典:経済産業省・内閣府・JAXA資料、宙畑のまとめ、2025年2〜3月)。大手とスタートアップの両方が含まれているのが特徴です。
株価視点で重要なのは、「どの銘柄が・どのテーマで・いくら採択されたか」です。とくにスタートアップにとっては、数十〜数百億円規模の採択が「複数年の開発資金」を意味し、財務を大きく左右します。代表例を以下に示します(いずれも各社公表・報道による、本稿執筆時点2026年6月)。
ただし注意点もあります。第1期は「競争環境が不十分(応募が少ないテーマがあった)」という指摘を受け、第2期以降は公募方式の見直しが進められています。また補助金は「売上」ではあるものの、テーマ達成条件やステージゲート評価で途中停止・見直しもあり得るため、「採択=将来の収益確定」と読み違えないことが重要です(出典:朝日新聞・各府省資料、2025年)。
【深掘り②】「8兆円」の根拠と、その先の展望
「なぜ8兆円なのか」の根拠は、宇宙基本計画(令和5年6月改定)で示された「2020年実績の4.0兆円を起点に、2倍にする」という考え方です。その背景には、世界の宇宙産業市場が2035年に2023年比で約3倍の1.8兆ドル(約288兆円、世界経済フォーラム見通し)へ拡大するという大きな流れがあります。日本の8兆円は「この世界的な拡大に乗り遅れない」ための目標値と位置付けられます(出典:宇宙基本計画、世界経済フォーラム、日本経済新聞、2026年6月)。
達成時期は「2030年代早期」とされており、その先は世界市場の拡大と連動してさらなる伸び余地が見込まれます。ただし、この「2倍」はあくまで政府目標であり、実際の達成には打ち上げ能力・衛星データ活用・輸出競争力などの課題をクリアする必要があります。株価視点では、「8兆円」をゴールとして直接使うより、それを支える政策・受注・需要が個別銘柄にどう落ちるかを見るのが現実的です。
【深掘り③】専門メディア(日経・株探)は宇宙をどう扱っているか
日本経済新聞は2026年に入って、「宇宙株ビッグバン」「宇宙世紀元年」といった連載で宇宙セクターを重点的に取り上げています。「35年に市場規模280兆円」「ニッポンの宇宙関連株、通信・素材で脳光」「AI×衛星にマネー集中」など、「世界市場の拡大×スペースX上場×日本の通信・素材銘柄」という文脈での報道が中心です(出典:日本経済新聞、2026年5〜6月)。
一方、株探(カブタン)では「宇宙開発関連」が人気テーマランキングの2〜3位に常連で入り、「スペースX上場カウントダウンでテーマ物色再燃」「新興市場見通し:短期トレード活発化」といった記事が目立ちます。つまり株探の見方では、日本の宇宙専業銘柄(アストロ/Synspective/ispaceなど)は「業績よりテーマ・需給で動きやすい材料株色」が強いという性格も読み取れます(出典:株探・みんかぶ人気テーマランキング、2026年5〜6月)。
【深掘り④】赤字はいつ黒字化するのか——そして黒字化後の「規模感」
投資家が最も知りたいのは「この産業はいつ黒字になるのか」だと思います。結論から言うと、日本の宇宙専業銘柄は「一律赤字」ではなく、黒字化のフェーズにバラつきが出始めています。鍵を握るのは「補助金・政府調達が黒字化までの橋渡しになるか」と「量産・運用規模がコストを下回る水準まで伸びるか」の2点です(以下は各社決算・四季報・報道による、本稿執筆時点2026年6月)。
つまり業態としては、まず「衛星データ(SAR)系」が先に黒字化し、QPSがその先頭、Synspectiveが補助金・防衛需要をテコに続く、という順番が見えてきています。一方で、月面探査(ispace)のように「ミッションの成否が業績に直結する」タイプは、黒字化までの道のりが長く、ボラティリティも高くなります。この「黒字化の順番とスピード」の違いが、同じ「宇宙専業」でも株価の動き方を大きく分けるポイントです。
・ 世界全体:2023年 約6,300億ドル(約101兆円) → 2035年 1.8兆ドル(約288兆円、約3倍)
・ 意味するところ:今は「数十億〜数百億円の売上」規模の専業銘柄が多いが、市場が数倍に拡大すれば、黒字化後の売上・利益規模も桁が変わる余地があります
・ ただし注意:これは「市場が計画通り拡大し、各社がシェアを取れた場合」の上限イメージであり、個別銘柄の理論値を保証するものではありません
まとめると、「政策マネー(宇宙戦略基金・防衛調達)」が赤字期の資金と売上を支え、「量産・データ活用」が進むとQPS・Synspectiveのように順に黒字化していく——というのが、現時点で見えているストーリーです。その先の「規模感」は、日本8兆円・世界288兆円という天井が目安になります。ただし、どの銘柄がそのパイのどれだけを取れるかは未確定であり、ここから先は個別銘柄のシェア・収益性を個別記事で見ていく必要があります。
政府の宇宙関連予算と「軍需(防衛)」の視点
ここまで見た「宇宙戦略基金」は政策マネーの一部にすぎません。株価視点で重要なのは、政府全体としていくらの宇宙関連予算が動いているのか、そしてその中で急拡大している「軍需(防衛)」がどこへ向かうのかです。なぜなら、赤字が続く宇宙ベンチャーにとって、政府の継続発注は「売上の土台」そのものだからです。
まず全体像です。令和8年度(2026年度)の宇宙関係予算は、総額1兆446億円と初めて1兆円を超えました(前年比+1,081億円/+12%)。内訳は当初予算案4,967億円に補正予算などを加えたもので、宙畑(sorabatake)は「安全保障・通信インフラ・サプライチェーン・衛星データ利活用・国際連携」の5軸で予算が拡大したと整理しています。とりわけ防衛省と総務省の伸びが大きいのが特徴です(出典:内閣府「宇宙関係予算」、宙畑)。
「軍需」の視点①――防衛省は宇宙で何をしているのか
宇宙が「成長テーマ」であると同時に「安全保障テーマ」でもある点は、株価を考える上で外せません。日本の防衛費は令和8年度予算案で整備計画対象経費8兆8,093億円(米軍再編費等を含む全体で8兆8,459億円)と過去最大規模が続いており、その中で宇宙領域は増額が続く重点分野に位置づけられています。
- 防衛費全体:令和8年度予算案で整備計画対象経費 8兆8,093億円(SACO・米軍再編関係費を含む全体で8兆8,459億円)。GDP比2%への増額路線が継続。
- 宇宙領域の位置づけ:陸・海・空・サイバー・電磁波と並ぶ「領域横断(クロス・ドメイン)作戦」の柱の一つ。宇宙は今後数年かけて増額が続く分野とされます。
- 組織の格上げ:自衛隊初の宇宙専門部隊「宇宙作戦隊」(2020年5月新編)→「宇宙作戦群」→「宇宙作戦団」→将官(空将)が指揮する「宇宙作戦集団(仮称)」へ拡大。航空自衛隊は2026年度に「航空宇宙自衛隊」へ名称改編される方向。
- 株価への含意:防衛宇宙は「単年で終わらない継続予算」であり、受注した銘柄には複数年の売上が積み上がる。短期テーマではなく中期の業績ドライバーになり得ます。
「軍需」の視点②――アメリカ宇宙軍との関係性
日本の宇宙安全保障は、米国との連携を前提に設計されています点が決定的に重要です。市場規模も予算も、米国が世界の中心であり、日本はその枠組みに組み込まれる形で動いています。
- 米宇宙軍の予算規模:FY2026の米空軍省予算338.8億ドルのうち、宇宙軍分は約711億ドル(約11.4兆円)と過去最大。トランプ政権はミサイル防衛構想「ゴールデン・ドーム」と合わせ、宇宙軍予算の大幅拡大を要求しています。日本の宇宙予算(約1兆円)の10倍超という桁の違いがあります。
- 日米の協力枠組み:2013年に「日米宇宙状況監視(SSA)協力取極」を締結(米国がオーストラリアに次いで早期に結んだ相手)。日本のSSAシステムは、空自・JAXAのレーダー/望遠鏡に加え、米宇宙コマンドからの情報を集約して運用します。
- 共同演習:米宇宙コマンド主催のSSA机上演習「グローバル・センチネル」に自衛隊が参加。米国は約30のセンサーから成る宇宙監視網(SSN)を持ち、日本はその一翼を担う形で連携します。
- 株価への含意:日米連携は「日本が独自にゼロから作る」のではなく、米国の巨大な需要・標準に組み込まれることを意味します。SSA衛星・地上局・センサーを担う日本企業(三菱電機・NEC・スカパーJSAT等)には、米国主導の安全保障マネーが間接的に流れ込む構図。
防衛需要と「2,831億円」の衛星コンステレーション——複数銘柄をつなぐ大型案件
政策マネーを象徴するのが、防衛省の「衛星コンステレーション整備・運営等事業」です。2026年2月に公表されたこの事業は、契約金額が総額2,831億円(税込)という大型案件で、特別目的会社「トライサット」(三菱電機・スカパーJSAT・三井物産ほか7社が参画)が受注しました。契約期間は2026年2月から2031年3月末までの約5年間です(出典:三菱電機・スカパーJSAT・Synspectiveの各社公表、2026年2月)。
・ 受注主体:特別目的会社「トライサット」
・ 主な参画企業:三菱電機(6503)、スカパーJSAT(9412)、三井物産ほか計7社(SAR衛星はSynspective(290A)も関与)
・ 契約期間:2026年2月〜2031年3月末(約5年)
・ 株価視点:複数銘柄に中長期の受注残高をもたらす「政策マネー」の具体例。ただし収益貢献の時期・規模は各社の長期工事として平準化される点に注意
このような大型案件は、「宇宙専業」だけでなく、三菱電機・三井物産のような大手や、SAR衛星のスタートアップまでを横断して動かす点が重要です。さらに、H3ロケットの打ち上げ成功による国産基幹ロケットの信頼性回復も、打ち上げ・部品・衛星の各銘柄にとっては「需要の土台」になります。以下では、こうした政策・需要を踏まえた上で、個別銘柄を「宇宙専業」と「それ以外」に分けて整理します。
2.「宇宙専業」プレイヤー――個別で見るべき銘柄
まず、売上のほぼ全てが宇宙事業である「宇宙専業」銘柄です。これらは「宇宙が伸びればそのまま業績に直結する」ため、株価の動きも最もダイレクトです。その分、ボラティリティも高くなります。
このうちアストロHD(186A)は当ブログでもアクセス最上位の注目銘柄で、すでに個別記事で詳しく考察しています。他のispace(9348)、QPS研究所(464A)、Synspective(290A)、アクセルHD(402A)についても、今後それぞれ個別記事で「何をやっていて、どんな成長ロードマップを描いているか」を検証していきます。
3.「宇宙専業ではない」関連銘柄――業績への影響度で見る
次に、テーマには含まれるものの「宇宙が本業ではない」銘柄です。たとえば三菱重工や三菱電機は日本の宇宙開発の中核ですが、会社全体から見れば宇宙は事業の一部です。つまり「宇宙が盛り上がっても株価への影響は限定的」になりやすいということです。
以下に、株探「宇宙開発関連」テーマに含まれる94銘柄の全リストを掲載します(コード順)。「専業」バッジ付きが本記事で「宇宙専業」として個別に見るべき銘柄、それ以外は「大手・部品・素材」グループです。
株価視点でのポイントは、このグループは「テーマでは動くが、業績の重心は別にあります」という点です。短期的なテーマ上げには乗りやすいものの、中長期では本業の業績が株価を決めます。「宇宙テーマだから」という理由だけで買うのはリスクがあり、個別の業績精査が必要です。
4.今後上場が想定される企業
未上場でも注目されるのが、インターステラーテクノロジズ(国産ロケットベンチャー)などのスタートアップです。こうした企業が将来IPOすれば、新たな「宇宙専業銘柄」としてマーケットの注目を集める可能性があります。
ただし上場時期や条件は未定であり、現時点ではあくまで「概念・期待」の段階です。上場が近づけば関連銘柄(既存の出資先・取引先など)が動くこともありますが、これも予測の域を出ません。
5.シリーズとしてのまとめ
日本の宇宙関連株は、「宇宙専業(ダイレクトに動くがボラティリティも高い)」と「大手・部品・素材(本業が別にあります)」に明確に分けて見るのが出発点です。その上で、第2部で見た米国プレイヤーと「売上規模・成長性・バリュエーション」を見比べると、各銘柄の位置づけが見えてきます。
本シリーズでは、以降「宇宙専業」各社の個別記事を順次公開していきます。いずれも「その会社の株価はどう動きうるか」という視点を軸に、事業・業績・リスクを整理していきます。
📄 参考・出典
- 株探(kabutan.jp)――各銘柄の株価・業績・財務データ
- 各社公式サイト・IR資料(決算短信・有価証券報告書)
- 各種報道・公開情報
⚠ 免責事項
本記事は公開情報・各社開示・報道等をもとに整理した研究記事であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。銘柄の分類・評価は筆者の見解であり、テーマ構成銘柄は変更されることがあります。本文中にドル表記がある場合の円換算は1ドル=160円想定の概算です。株価・業績・テーマ区分は執筆時点(2026年6月)のものです。投資の最終判断は、最新のIR・有価証券報告書等をご確認のうえ、ご自身の責任で行ってください。

