ispace(9348)の理論株価は?月面着陸ビジネスの黒字化シナリオ

ispace(9348)の株価分析|億り人研究所

「月面に民間で着陸する」という壮大な夢を掲げるispace(9348・東証グロース)は、日本の宇宙関連株の中でも最も知名度の高いベンチャーの一つです。一方で、株価の値動きの激しさ・赤字の大きさ・度重なる増資という点で、投資対象としての性格はSAR衛星勢(QPS・Synspective)とまったく異なります。本記事は当ブログの宇宙関連株シリーズの個別編として、ispaceの事業構造、ミッションの歩み、「いつ・どう黒字化するのか」、そして株価評価の考え方を、公開情報をもとに株価視点で整理します。

※本記事は研究・整理を目的とした内容であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。理論株価は前提を置いた試算として扱います。

📋 併せて読みたい
💡 この記事の要点(先に結論)
  • ispace(9348・東証グロース)は、月面への輸送(ランダー=月着陸船)と月面データ事業を手がける日本発の宇宙ベンチャー。「月経済圏」をテーマにした夢の大きい銘柄。
  • これまでの月着陸ミッション(ミッション1:2023年、ミッション2「RESILIENCE」:2025年)はいずれも月面着陸を成功させられていません。次のミッション3は2027年予定。
  • 黒字化の時間軸は、本シリーズで扱う宇宙専業銘柄の中で最も遠い水準です。2027年3月期も会社予想で営業△177億円・最終△130億円と赤字拡大の見込み
  • 株価は業績よりも「ミッションの成否」というイベントで大きく動く投機性の高い銘柄。増資による資金調達と希薄化も繰り返しています。
  • SAR衛星勢(QPS・Synspective)が「機数=売上」の積み上げ型なのに対し、ispaceは「一発勝負のイベント型」。リスクの質がまったく異なる点を理解することが重要。
  • 本記事は研究目的の整理であり、売買推奨ではありません。理論株価は前提を置いた試算として扱います。
目次

ispaceとは――民間で「月経済圏」に挑む輸送ベンチャー

ispaceは、月面への輸送サービスを事業の核とする宇宙ベンチャーです。具体的には、自社開発のランダー(月着陸船)に他社や政府機関の機材(ペイロード)を載せて月へ運び、将来的には月面でのデータ取得・資源探査へと事業を広げる「月経済圏」の構築を掲げています。日本・米国・欧州に拠点を持つグローバル体制で、米国子会社はNASAの月面輸送プログラム(CLPS)の枠組みにも関与しています。

ここで重要なのは、ispaceのビジネスが「衛星を多数機並べて売上を積み上げる」SAR衛星型とは構造が違うという点です。事業は1回のミッション(月着陸)の成否に大きく左右され、株価も業績よりも「ミッションの結果」というイベントで動きます。

ispace(9348)の基本データ(2026年6月時点)
項目内容
上場市場東証グロース(コード9348)。2023年4月上場
事業月面輸送サービス(ランダー=月着陸船の開発・運用)、月面データ・ペイロード輸送、月面探査
時価総額約690億円
PER算定不能(赤字)
PBR約4.6倍
配当無配
財務現金約297億円(増資で積み上げ)、有利子負債約294億円、自己資本比率31.6%(2026/3)
🌙 ispaceの「強み」と事業の位置づけ
  • 「月経済圏」の先行者:民間で月面輸送に挑む数少ない企業の一つ。世界的にも米Intuitive Machines、米Astrobotic等と並ぶ先駆者ポジション。
  • グローバル体制:日本・米国・欧州(ルクセンブルク)に拠点を持ち、米国子会社はNASAの月面輸送プログラム(CLPS)の枠組みに関与する立ち位置。
  • ペイロード輸送モデル:他社・政府機関の機材を月へ運ぶ「輸送サービス」が収益の柱。着陸成功の実績を積めば、受注単価・回数の拡大が見込める。
  • テーマ性の強さ:「月」というわかりやすい夢があり、スペースX上場期待などの宇宙テーマが盛り上がるたびに資金が集まりやすいです。

ミッションの歩み――まだ「月面着陸の成功」に至っていない

ispaceを評価する上で避けて通れないのが、これまでの月着陸ミッションの結果です。フラットに言えば、2023年のミッション1、2025年のミッション2「RESILIENCE」とも、月面着陸の成功には至っていません。技術的な難易度の高さを示す結果であり、株価もその都度、期待先行から失望売りへと振れてきました。

ispaceの月面ミッションの歩み
ミッション時期結果株価への影響
ミッション12023年月面着陸を試みるも未達(降下中に喪失)期待先行→失望売り
ミッション2「RESILIENCE」2025年月面着陸を試みるも達成できず再び失望売り。技術的課題が意識される
ミッション32027年予定米国子会社のランダー/ローバーで挑戦予定成否が次の最大カタリスト

次の挑戦となるミッション3は2027年に予定されており、その成否が次の最大のカタリストになります。着陸成功は信頼・受注・株価のすべてを押し上げ得る一方、失敗が続けば事業シナリオそのものが揺らぐという、ハイリスク・ハイリターンの構図です。

業績と「黒字化」の実態――本シリーズで最も赤字が大きい

投資家が最も知りたい「いつ黒字になるのか」について、ispaceは正直に言って黒字化の時間軸が最も遠い銘柄です。QPSやSynspectiveが補助金込みとはいえ経常・最終の黒字化を見込むのに対し、ispaceは補助金を入れても黒字化に届かず、当面は大幅赤字が続く見込みです。

ispaceの業績推移(IFRS・会社予想ベース)
区分売上高営業利益最終利益
2024年3月期23.6億円△55.0億円△23.7億円
2025年3月期47.4億円△98.0億円△119.5億円
2026年3月期33.1億円(△30%)△116億円△81.5億円
2027年3月期 会社予想33億円△177億円△130億円

2026年3月期は売上33.1億円・最終損失81.5億円。続く2027年3月期も会社予想で営業△177億円・最終△130億円と、赤字はむしろ拡大する計画です(出典:会社決算資料、IRBANK)。ランダー開発の費用が先行するため、売上原価率が100%を大きく超える年もあります。手元現金は増資により約297億円まで積み上げていますが、有利子負債も約294億円に増え、営業キャッシュフローは恒常的に大幅マイナス(2026年3月期△135.7億円)です。

🔍 なぜ「黒字化が最も遠い」のか
  • ビジネスが「打ち上げ」単位:SAR衛星のように機数を増やせば売上が積み上がる構造ではなく、1回のミッション(着陸)の成否に事業が大きく左右されます。
  • 開発費が先行:ランダーの開発・製造・打ち上げに巨額の費用がかかり、2027年3月期も営業損益は△177億円と赤字が拡大する見込み。売上原価率が100%を大きく超える年もあります。
  • 補助金でも埋まらない赤字:QPS・Synspectiveは補助金で経常・最終が黒字化しますが、ispaceは赤字幅が大きく、補助金を入れても黒字化していません。これが決定的な違いです。
  • 株価視点の含意:黒字化を業績で測るより、「ミッションが成功し、月面輸送の単価×回数が立ち上がるか」「米国政府(NASA/CLPS)案件を獲得できるか」という事業マイルストーンで見るべき銘柄。

最新の会社計画と数値目標――「黒字化の数値目標」はなく、ミッション計画で読む

ispace(9348)は4社のなかで最も「中期の数値目標」を示しにくい銘柄です。月面着陸・輸送という事業の性質上、収益は個別ミッションの成否と契約獲得に大きく左右され、会社も最終年度の売上・利益率といった数値目標は開示していません。公式に示されているのは、(1)ミッションのスケジュール、(2)単年度の業績予想、(3)NASA・SBIR補助金や宇宙戦略基金といった資金の見通し、です。

区分会社公表の数値・計画時期・出典
通期業績予想(2027年3月期・IFRS連結)売上33億円/営業△117億円/経常・最終△130億円2027年3月期会社予想(2026/5/15発表)
2026年3月期実績売上33.07億円(前期比△30.3%)/プロジェクト収益58.9億円(+18%、ミッション3のSBIR補助金増)/最終△81.5億円2026年3月期
ミッション計画ミッション1(2023)・ミッション2 RESILIENCE(2025)は着陸未達成、ミッション3を2027年に予定
増収ドライバー日本ミッションのSBIR補助金・宇宙戦略基金、米国CLPS関連2027年3月期見込み
足元の契約JALUX/JALグループと月面輸送サービス契約(2026/5)2026年5月
図表:ispaceが公式に開示している主な数値・計画(2026年6月時点、会社開示・適時開示ベース)

注意すべきは、2027年3月期は売上が横ばい(33億円)の一方で最終赤字が△130億円へ拡大する見通しである点です。これはミッション3に向けた開発費の先行計上が主因で、「黒字化はまだ視野に入っていない」段階です。QPS・Synspectiveが「機数が積み上がれば黒字」という構造なのに対し、ispaceは「ミッション成功の実績を積み、月経済圏が立ち上がる」という、より長期かつ不確実なストーリーに賭ける銘柄だと整理できます。

メディア報道まとめ――日経・専門メディアは何を伝えているか

ispaceをめぐる主要メディアの報道を、出典URL付きで要点のみ整理します(本文は著作権に配慮し要約にとどめます。詳細はリンク先をご確認ください)。

主なメディア報道(出典URL)

報道の論点は、「赤字が拡大するなかで、ミッション3の成否と契約の積み上がりをどう評価するか」です。JALグループとの提携や補助金増は将来の収益基盤として好感される一方、過去2回の着陸未達成と最終赤字の拡大はリスクとして繰り返し指摘されており、株価は「期待(年初来高値)」と「赤字の現実」の間で振れやすい銘柄として語られています。

月面着陸失敗の詳細――ミッション1・2はなぜ着陸できなかったか

ispaceの株価を語るうえで避けて通れないのが、これまで2度挑戦していずれも月面の軟着陸に至っていないという事実です。技術ベンチャーゆえに失敗は織り込み済みとはいえ、原因と再発防止策、そして次の挑戦時期は、株価を見るうえで最重要の情報です。会社の公式分析と報道をもとに整理します。

ミッション時期結果特定された主因(会社・報道ベース)
ミッション1(HAKUTO-R M1)2023年4月着陸直前に通信途絶しハードランディング着陸ソフトが月面クレーターの高度差を異常値と誤認し、実際より高い高度と判断。燃料を使い切り落下したとされます
ミッション2(RESILIENCE/レジリエンス)2025年6月6日十分に減速できず軟着陸未達レーザーレンジファインダー(LRF=高度計)のハードウェア異常。想定より低い高度から測定が始まり、必要な速度まで減速できなかっました
図表:ispaceの月面着陸チャレンジと失敗要因(ispace公式の技術要因分析・報道より筆者整理)

ミッション2について、ispaceは2025年6月24日に技術要因分析を公表しました。それによると、推進系の異常・LRFの取付方向の誤り・姿勢異常などは否定され、LRF(高度計)のハードウェア異常が主因と特定。その背景としては、宇宙環境(放射線・真空・温度・熱サイクル等)の影響が可能性として挙げられています。2度の失敗はいずれも「降下中の高度認識」に関わる問題であり、ここの信頼性確保が次回成功の最大の焦点です。

月面着陸失敗の原因に関する主な出典

今後のスケジュールと主要案件――ミッション3(2027年)・4(2028年)

2度の失敗を経て、ispaceは次の挑戦を米国子会社が開発する大型ランダー(APEXシリーズ)で行う計画です。直近の資金調達も、この2027年以降のミッションに充てる前提で設計されています。

ミッション・案件内容・目的時期・規模感
ミッション3米国子会社が手がける大型ランダー「APEX 1.0」での月面着陸に挑戦2027年打ち上げ予定
ミッション4さらなる月面輸送ミッション(米欧の顧客ペイロード輸送を想定)2028年打ち上げ予定
月面輸送の受注NASA関連プログラムや民間顧客のペイロード輸送契約を積み上げプロジェクト収益(売上)は年30億円台で推移
図表:ispaceの今後の主要ミッション(IR・報道より筆者整理)

ispaceの売上モデルは、QPS・Synspectiveのような「衛星データ販売」ではなく、「ランダーで顧客の荷物を月へ運ぶ(単価×回数)」という輸送ビジネスです。したがって株価の最大のカタリストは決算よりも「次のミッションが着陸に成功するか」というイベントそのもの。成功すればアジア民間初の快挙として一気に見直され、失敗すれば再び大きく売られる、という荒い値動きになりやすい点が他のSAR銘柄と決定的に異なります。

資金調達の状況――海外投資家と国内事業会社からの大型調達

ispaceは赤字で手元資金を取り崩す局面が続くため、ミッションのたびに大型の資金調達を繰り返しています。普通株式に加えて新株予約権を組み合わせる手法が中心で、希薄化は本シリーズの中でも大きい部類です。

時期手段調達額(概算)割当先・使途
2024年10月〜2025年3月第三者割当(普通株式+新株予約権)最大約237億円米Heights Capital Management等。普通株1,100万株・新株予約権11万個。ランダー開発費用
2025年10月公募増資+第三者割当増資最大約183億円高砂熱学工業・栗田工業等の国内事業会社。2027年ミッション3・2028年ミッション4の開発費・打ち上げ費・手元資金
図表:ispaceの主な資金調達(各社IR・報道より筆者整理)

2025年10月の183億円は、まさに2027年以降のミッションを前提とした「次への投資」です。裏を返せば、ミッションが成功して月面輸送が収益事業として立ち上がるまでは、増資による希薄化が続く前提と読めます。現金は約297億円・自己資本比率31.6%(直近)で、当面の開発は賄える一方、成功の遅れは追加調達=さらなる希薄化に直結します。

リスク――「イベント型」ゆえの値動きの荒さ

ispaceは夢の大きさゆえにテーマ人気を集めやすい一方、その夢が数字になるまでの道のりは長く、不確実です。とくに「ミッションの成否」という一発勝負のイベントで株価が乱高下する点は、SAR衛星勢とはリスクの質が決定的に異なります。

ispaceの主なリスク(株価の下振れ要因)
リスク内容インパクト
ミッション失敗着陸の失敗が続けば信頼・受注・株価すべてに打撃非常に大
赤字の長期化黒字化が最も遠く、当面は大幅赤字が続く見込み
希薄化(増資)資金を増資で賄うため、新株発行による1株価値の希薄化が続く
イベント依存の値動き業績より「ミッションの成否」で乱高下。投機性が高いです
競合米Intuitive Machines等との月面輸送競争

会社四季報で見るispace――黒字化シナリオと「ミッション成否」が左右する資産価値

以下は会社四季報(2026年3集・夏号/2026年6月17日発売)で公表された業績予想・財務データをもとに、編集部が独自に整理・要約したものです。数値やコメントをそのまま転載したものではなく、月面輸送ビジネスの黒字化条件と資産価値を読み解く参考として作成しています。実際の数値・前提は必ず四季報や同社IRなど一次情報でご確認ください。

ここからはispaceの株価をどう捉えるかを整理します。同社は黒字化前で赤字額が本シリーズで最も大きく、PER(株価収益率)が使えないため、まず会社四季報の業績予想と財務をもとに「赤字の規模と黒字化の道筋」「純資産という資産価値」を確認し、続いて月面輸送が事業化した場合の理論株価へとつなげていきます。

① 業績推移――売上は横ばい、赤字は当面拡大が続く前提

決算期売上高営業損益1株損益
2025年3月期47.4億円-98.0億円-124.3円
2026年3月期33.1億円-115.8億円-66.0円
2027年3月期 予33.0億円-177.0億円-88.9円
2028年3月期 予55.0億円-90.0億円-29.4円

四季報予想では、2027年3月期は売上がほぼ横ばいの一方、ミッション3のランダー研究開発費や新エンジン開発中止に伴う減損(約36億円)が重しとなり、営業赤字がいったん最大規模まで拡大する見通しです。翌2028年3月期には売上が増え赤字が縮む計画ですが、依然として営業赤字が続く前提であり、黒字化の時期は四季報上も明示されていません。月面輸送は「ミッションの成否」で業績が大きく振れる点が、他の宇宙株以上に強いです。

② 黒字化の条件――「月面着陸の成功」と輸送案件の積み上げが前提

ispaceの黒字化は、(1) ミッション3以降で月面着陸・データ取得を実際に成功させ事業としての信頼を確立すること、(2) ペイロード(顧客の荷物)輸送やデータ提供の受注を継続的に積み上げ売上を伸ばすこと、(3) 1回あたりのミッションコストを下げて粗利を確保すること、の3条件が揃って初めて視野に入ります。四季報でも新エンジン開発を断念し旧ミッション3の打ち上げを2027年度から2030年度へ後ろ倒しするなど、スケジュールは流動的で、黒字化までの距離は本シリーズの宇宙株のなかでも長いと位置づけられます。

  • 最優先課題:ミッション3以降での月面着陸成功(過去のミッション1・2は着陸に至らず)
  • スケジュール:新エンジン開発断念により旧ミッション3を2027→2030年度へ延期、旧ミッション4を3へ繰り上げ
  • 財務負担:有利子負債は約294億円、自己資本比率31.6%と、継続的な資金調達が黒字化前の生命線

③ 資産価値の目安――1株純資産103円・実績PBR4.2倍をどう見るか

指標四季報ベースの数値コメント
1株純資産(BPS)約103.0円大幅赤字が続けば純資産は目減りする方向
実績PBR約4.2倍株価の大半は「将来の月面経済圏」への期待で構成
自己資本比率約31.6%有利子負債294億円と財務負担は重め
時価総額約634億円売上規模に対し時価総額は大きく、期待先行の評価

黒字化前で赤字が大きいため、純資産(PBR)だけで株価の妥当性を測ることはできません。実績PBRが4倍超という水準は、市場が「月面輸送ビジネスがいずれ立ち上がる」というシナリオを相応に織り込んでいることを示します。裏を返せば、ミッションの失敗や資金調達による希薄化が起きれば、この期待主導の評価は大きく振れやすいです。

💡 ポイント

ispaceは宇宙株のなかでも「イベント型」の色が最も濃く、黒字化の時期は四季報でも示されていません。投資の際は、(1) 次のミッションの着陸成否、(2) 輸送・データ案件の受注積み上げ、(3) 手元資金と追加調達の有無、の3点をニュースと四半期決算で追うことが現実的な評価軸になります。

⚠ 注意

本セクションの業績整理・黒字化シナリオは四季報の公表値をもとにした編集部独自の試算であり、黒字化の達成や時期を保証するものではありません。同社は四季報上も「継続前提に関する重要事象」が付されており、ミッション失敗・希薄化・資金繰りなどのリスクを含みます。投資判断の際は必ず最新のIR資料・四季報など一次情報をご確認ください。

もし月面輸送が事業として立ち上がったら――理論株価の試算

仮にミッションが成功し、月面輸送が「単価×回数」で収益化したら株価はどこまで評価され得るのか。ispaceは赤字が大きく利益での評価ができないため、ここでもPSR(株価売上高倍率)で将来の売上規模から理論時価総額を逆算します。ただし他のSAR銘柄以上に前提の不確実性が高い試算である点を、強く断っておきます。

もし月面輸送が事業として立ち上がったら――PSRによる理論株価の試算
前提シナリオ想定売上(年・将来)想定PSR理論時価総額想定株価(試算)現在(約690億円)との比較
保守ケース50億円8倍約400億円約270円約△42%
中心ケース100億円10倍約1,000億円約680円約+45%
強気ケース200億円12倍約2,400億円約1,630円約+248%

将来の年間売上を50〜200億円、PSRを8〜12倍と仮定すると、理論時価総額はおおむね400〜2,400億円(中心1,000億円前後)。現在の時価総額(約690億円)は、保守と中心の間に位置し、「将来の成功をある程度織り込みつつ、フル達成は織り込んでいない」水準とも読めます。ただしこの試算は「ミッション成功」を前提にしており、失敗すれば前提自体が崩れる点で、SAR銘柄の試算よりはるかに脆い数字です。

⚠️ 試算にあたっての注意

この理論株価は「ミッションが成功し、月面輸送が事業として軌道に乗った場合」という極めて楽観的な前提に立ったPSR(株価売上高倍率)ベースの試算であり、業績予想でも目標株価の推奨でもありません。ispaceは赤字が大きく利益での評価ができないため売上倍率で上限イメージを描いていますが、他のSAR銘柄以上に前提の不確実性が高い点に注意が必要です。ミッションが失敗すれば売上シナリオ自体が崩れ、希薄化も継続します。あくまで「すべてうまくいった場合の天井イメージ」にすぎません。本試算は特定銘柄の売買を推奨するものではありません。

予想EPS・適正株価は試算できるのか(推測と限界)

結論から言うと、ispaceは現時点でPERベースの理論株価を計算することができません。会社予想自体が大幅な最終赤字(2027年3月期△130億円)であり、黒字化の時期・水準を会社が示していないため、「予想EPS×PER」という通常の手法が成立しないからです。ここでは、それでも株価の妥当性を考えるための代替的な見方を、推測として2つ示します。

アプローチ考え方算出される目線現値 約470円との関係
PSR(株価売上倍率)時価約691億円 ÷ 売上33億円 ≒ PSR約21倍。宇宙専業のなかでも突出して高いです売上が数倍に伸びない限り正当化しにくい水準現値470円は将来の大幅増収を前提とした株価
現金・純資産アプローチ現金約297億円・自己資本比率31.6%。赤字で現金を取り崩す局面資産価値だけでは時価を説明できない(=期待で買われています)BPS(純資産)は現値を大きく下回る
オプション価値「月経済圏が立ち上がれば巨大」という将来価値への賭け成功確率次第で価値は大きく変動(=ハイリスク・ハイリターン)現値470円はミッション成功期待を織り込んだ水準
図表:ispaceの株価をどう捉えるかと現値(2026/6/18終値 約470円)との関係(筆者整理・推測。ispaceは赤字でEPS・PER算出不能のため、他社のような理論株価レンジは提示できません)

つまりispaceの株価は、足元の利益や売上ではなく「将来の月面輸送・月経済圏という巨大市場の期待値」を織り込んだものです。仮に2030年前後に年間売上100〜200億円規模(複数ミッション+輸送+データ)に到達し、黒字化できれば、現在の時価691億円は正当化され得ますが、それはミッション成功の連続が前提です。逆に着陸失敗が続けば、増資による希薄化と現金流出で株価は大きく下押しするリスクがあります。

⚠️ 試算にあたっての注意
ispaceは黒字化の数値目標が示されておらず、PERによる理論株価は算出できません。本セクションのPSR・資産・オプション価値はいずれも「株価の妥当性を考えるための補助線」であり、目標株価ではありません。とりわけ、(1)ミッションの着陸成否、(2)赤字継続による度重なる増資(希薄化)、(3)月経済圏という市場自体の立ち上がり時期、という3つの不確実性が極めて大きく、4社のなかでも最もハイリスクな銘柄です。本試算は売買推奨ではなく、ミッションの進捗と資金繰りを継続的に確認することが前提です。

まとめ――「ミッションの成否」で評価が一変する銘柄

ispace(9348)は、民間で月面輸送に挑む数少ない先行者であり、「月経済圏」という壮大なテーマを背負った銘柄です。しかし、これまでの月着陸ミッションは成功に至っておらず、黒字化の時間軸は本シリーズの宇宙専業銘柄の中で最も遠い位置にあります。

SAR衛星勢(QPS・Synspective)が「機数=売上」を積み上げる安定成長型なのに対し、ispaceは「ミッションの成否」という一発勝負で評価が一変するイベント型です。増資による希薄化も繰り返しており、投機性が高い点を理解した上で向き合う必要があります。

したがって現実的な向き合い方は、業績の黒字化を待つというより、ミッション3(2027年)の準備進捗・着陸の成否・米国政府(NASA/CLPS)案件の獲得・資金繰り(増資の頻度)といった事業マイルストーンを一つずつ確認していく、というスタンスになります。着陸の成功という「実績」が積み上がって初めて、ispaceの夢は株価評価の確かな土台へと変わっていきます。

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📄 参考・出典

  • 株探(kabutan.jp)――株価・業績・財務データ
  • ispace 公式サイト・IR(ispace-inc.com)/ミッション情報
  • ispace 2026年3月期 通期決算短信・決算説明資料(IFRS、適時開示)
  • 株探/Yahoo!ファイナンス|ispace(9348)の株価・業績
  • IRBANK|ispace(9348)決算・財務データの時系列

⚠ 免責事項

本記事は公開情報および会社開示資料をもとにした情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。本文中の「予想」「計画」は会社が公表した値であり、実績を保証するものではありません。株価・指標・業績数値は執筆時点(2026年6月)のものです。ドル建ての数値は1ドル=160円で換算しています。投資の最終判断はご自身の責任で行ってください。

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