① レアアース(希土類)とは何か
レアアース(希土類)は、17種類の元素の総称です。ネオジム、ジスプロシウム、プラセオジムなどが代表的で、ごく少量を加えるだけで材料の性能を大きく高める「産業のビタミン」とも呼ばれます。
とくに重要なのが、強力な永久磁石「ネオジム磁石」の材料としての用途です。ネオジム磁石は、EVやハイブリッド車の駆動モーター、風力発電機、ロボット、エアコン、ハードディスクなど、高性能なモーターが必要なあらゆる製品に使われています。脱炭素や電動化が進むほど、レアアースの需要は増えていきます。
レアアースは地球上の存在量としては必ずしも極端に少ないわけではありません。問題は、採掘・精錬(製錬)が技術的・環境的に難しく、採算が合う形で生産できる国・企業が限られている点にあります。だからこそ供給が偏り、「戦略物資」となります。
② なぜいまレアアースが注目されるのか
EV・電動化・脱炭素による需要増
EVや風力発電の普及で、ネオジム磁石向けのレアアース需要が伸びています。電動化が進むほど高性能モーターの搭載が増え、レアアースの重要性が高まります。フィジカルAI(ロボット)の普及も、モーター需要を通じて長期的な追い風となり得ます。
供給の偏りと経済安全保障
レアアース、とくに精錬(製錬)工程は中国に大きく依存しているのが現状です。過去には供給をめぐる地政学的な緊張が価格高騰を招いたこともあり、近年は各国が輸出管理の対象としたり、供給網の多様化を急いだりしています。こうした「供給リスク」が意識されるたびに、関連銘柄が物色されやすくなります。
③ 供給リスクと日本の取り組み
日本は、過去のレアアース供給をめぐる経験から、供給源の多様化やリサイクル、代替材料・省レアアース技術の開発に取り組んできました。具体的には、海外の鉱山・製錬プロジェクトへの参画、使用済み製品からのレアアース回収(リサイクル)、磁石に使う重希土類の使用量を減らす技術などです。
経済安全保障の観点から、政府も重要鉱物(レアアースを含む)の安定供給確保を政策課題として位置づけています。とはいえ、製錬を含むサプライチェーン全体での脱・特定国依存は容易ではなく、長期的な課題です。
③-2 世界のレアアース供給――中国はどれだけ「握って」いるのか
レアアースは「採掘」と「精製・分離・磁石化」という二つの工程に分かれます。中国の強さは、このうち特に下流の精製・分離工程をほぼ独占している点にあります。米地質調査所(USGS)の2024年推計では、中国は鉱山での採掘量で世界の約7割を占め、国際エネルギー機関(IEA)の試算では精製量で世界の9割超を握るとされます。
採掘だけ見れば、米国が2位、ミャンマーが約8%で3位、オーストラリアやタイも産出しています。タイの2024年生産量は前年比260%以上増の約1.3万トンと急伸したと報じられました。ただし、採掘された鉱石を実際に使える素材へ仕上げる精製・分離は中国にほぼ依存しており、「中国を通さずにレアアースを使う」のが難しい構造になっています。
③-3 トランプ関税ショックと中国の輸出規制――いま何が起きているか
2025年は、米中の通商摩擦のなかでレアアースが「交渉カード」として前面に出た年でした。トランプ政権が関税で圧力をかけると、中国はレアアースの輸出規制と報復関税で応じ、世界のサプライチェーンが揺れました。その後の経緯を、報道をもとに時系列で整理します。
③-4 日本の切り札①――南鳥島沖の「レアアース泥」
中国依存から抜け出す国産資源として、いま最も注目されているのが南鳥島(日本最東端)沖の海底に眠る「レアアース泥」です。水深約6,000メートルの深海底に堆積した泥の中に、高濃度のレアアースが含まれているとされ、報道では南鳥島周辺の埋蔵量は重希土類を含めて相当量(一部試算で1,600万トン超)、国内需要の数百年分に相当するとも伝えられています。放射性物質の含有量が低く、扱いやすいという品質面の優位性も指摘されています。
開発は内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)などのもとで進み、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が中心となっています。2026年1月には地球深部探査船「ちきゅう」を使った揚泥試験が始まり、内閣府とJAMSTECは2026年2月2日、水深約6,000メートルの海底からレアアースを含む泥の引き揚げに成功したと発表しました。経産省・JOGMECが目標とするのは日量3,500トン規模の連続採掘で、まずは技術と採算性の検証段階にあります。
③-5 日本の切り札②――政府・経産省の戦略と権益確保
政府・経産省は、レアアースを含む重要鉱物を経済安全保障上の戦略物資と位置づけ、複線的に手を打っています。第一に南鳥島の海洋資源開発(SIP・JOGMEC)。第二に海外権益の確保で、JOGMECは2025年12月、マレーシア東海岸経済地域(ECER)での探査・開発を進める動きを示すなど、中国外の供給源づくりに関与しています。第三に、リサイクル(都市鉱山)や代替材料・省レアアース技術の開発、備蓄の積み増しです。経産省は2026年2月の審議会資料でも、重要鉱物・部素材の課題として中国の輸出管理強化への対応を中心テーマに掲げています。
③-6 製錬・分離プラントを担うエンジニアリング企業
レアアースの国産化やリサイクルで意外と見落とされがちなのが、「鉱石や泥から目的の元素を取り出す精製・分離プラントを誰が建てるのか」という点です。ここで存在感を持つのが、日本の大手エンジニアリング(プラント建設)企業です。中国が握る精製工程を国内外で代替するには、こうした分離・製錬プラントの設計・建設力が鍵になります。
日揮ホールディングス(1963)はLNGをはじめプラント建設で世界的な実績を持つ最大手で、重要鉱物・資源分野への展開も視野に入ります。東洋エンジニアリング(6330)、千代田化工建設(6366)も化学・資源プラントの設計建設を手がける大手で、レアアースの精製・分離設備や関連インフラの担い手となり得ます。ただし、いずれもレアアースは事業全体のごく一部であり、「レアアース専業」ではない点には注意が必要です。
③-7 今後のレアアース市場はどうなるか
今後の見方を整理すると、強気・弱気の両面があります。強気材料は、EV・風力発電・ロボット・防衛など高性能磁石の需要が構造的に伸びること、そして各国が「脱・中国依存」のために中国外の採掘・精製能力へ投資を加速していることです。弱気材料は、中国が過剰生産による価格低迷に悩んできた歴史があり、政治判断で供給・価格をコントロールできるため、新規参入の採算が読みにくいことです。重希土類について「5~10年で枯渇」といった見方を紹介する報道もありますが、これらは予測であり確定情報ではありません。
投資テーマとしては、(1)中国の輸出規制ニュースに反応しやすい関連株の「テーマ株」的な値動き、(2)南鳥島など国産化プロジェクトの進捗、(3)磁石・精製・エンジニアリングといった「中国外サプライチェーン」を担う企業の中長期の成長、という三つの軸で見ると整理しやすいでしょう。いずれも政策・地政学に大きく左右されるため、短期の急騰急落リスクと、計画の遅延リスクの両方を意識しておく必要があります。
④ レアアース関連の主な銘柄
ここからは、レアアースに関連する事業を持つ国内の上場企業を整理します。前提として、いずれもレアアースが事業の一部であり、株価がレアアースだけで動くわけではない点に注意してください。
関連銘柄を「層」で整理する
⑤ 主要関連銘柄の指標一覧
以下は関連銘柄の株価・指標の一覧です。株価・時価総額・PER・PBR・配当利回りはいずれも2026年6月18日時点の株探調べです。「-」はデータが取得できなかった項目を示します。
⑥ 主な関連銘柄の特徴
信越化学工業(4063)
世界的な化学・素材大手で、希土類磁石(レアアース磁石)も手がけています。ただし最大の主力は半導体シリコンウエハーや塩ビなどであり、レアアースは事業の一部です。財務体質が強固なことで知られる優良企業です。
TDK(6762)
電子部品大手で、ネオジム磁石などの磁性材料・磁石も手がけてきました。MLCCやスマホ向け電池など事業は多角化しており、レアアース単独の影響は相対的に小さくなります。
住友金属鉱山(5713)/三井金属(5706)
いずれも非鉄金属の製錬・素材を手がける大手です。銅やニッケル、各種金属・素材を扱い、レアアースを含む重要鉱物のサプライチェーンに関連します。株価は金属市況や為替に大きく左右されます。
アサカ理研(5724)
貴金属やレアメタル・レアアースのリサイクル(回収・精製)を手がける企業です。テーマ性が意識されやすい一方、規模が小さく、業績・株価の変動が大きい点には留意が必要です。
⑦ 投資する際の注意点
レアアース価格は供給不安や地政学リスクで急変します。関連銘柄もそれに連動して大きく動きやすく、短期的な過熱と反動に注意が必要です。
国内の関連銘柄はいずれもレアアースが事業の一部にすぎず、株価は主力事業や金属市況に左右されます。「レアアース関連だから上がる」という単純な発想は危険です。
輸出管理や重要鉱物政策など、政策・規制の動向がテーマの強弱を大きく左右します。ニュースに過度に振り回されないことが大切です。
⑧ まとめ
レアアース(希土類)は、EVや風力発電、ロボットなどに不可欠なネオジム磁石の材料であり、電動化・脱炭素の進展とともに需要が伸びる戦略物資です。供給が特定国に偏っているため、経済安全保障の観点からも注目され、供給リスクが意識されるたびに関連銘柄が物色されます。
一方で、価格変動が大きく、国内に純粋なレアアース専業の大型株は乏しいのが現状です。関連銘柄に関心を持つ場合も、各社の本業や財務、株価指標を冷静に確認し、テーマの過熱には十分注意したいところです。
当ブログでは、フィジカルAI(ロボット)やMLCC、データセンターなど、レアアース需要に関連するセクター記事も公開しています。あわせてご覧ください。
📄 参考・出典
⚠ 免責事項
本記事は公開情報をもとにした情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。記載した株価・指標等は執筆時点(2026年6月18日時点・株探調べ)のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。適正株価や目標株価に類する記述は一定の前提に基づく参考値であり、将来の株価を保証するものではありません。投資の最終判断は、ご自身の責任において行ってください。

