① ペロブスカイト太陽電池とは何か
ペロブスカイト太陽電池は、「ペロブスカイト」と呼ばれる結晶構造を持つ材料を使った、次世代型の太陽電池です。現在主流のシリコン系太陽電池とは異なり、薄い膜を塗って作れるため、薄く・軽く・曲げられるのが最大の特徴です。
この特性により、これまで太陽電池を設置しにくかった場所――ビルの壁面、耐荷重の低い工場や倉庫の屋根、曲面など――への設置が期待されています。製造工程もシンプルになりうるため、将来的な低コスト化の可能性も指摘されています。
ペロブスカイト太陽電池は、桐蔭横浜大学の宮坂力特任教授が原理を見いだした、日本発の技術として知られています。基礎研究で日本が世界をリードしてきた分野であり、その実用化・量産化に注目が集まっています。
①-2 従来の太陽電池と何が違うのか
一般的な太陽電池は、結晶シリコンを基板に使う「シリコン系」が主流です。高い変換効率と耐久性を持つ一方、製造に高温・高真空の大がかりな設備が必要で、パネルは重く硬い板状になります。これに対しペロブスカイト太陽電池は、「ペロブスカイト」と呼ばれる結晶構造(ABX3型)を持つ材料を発電層に用い、塗って乾かすように薄膜を形成できるのが最大の違いです。
この「軽い・曲がる・低コストで作れる」という特徴により、これまで太陽電池を設置できなかった場所――ビルの壁面、窓、耐荷重の小さい工場屋根、曲面など――に貼れる可能性が開けます。日本のように平地が限られ、建物が密集する国にとっては特に相性のよい技術と期待されています。
①-3 日本発の技術――宮坂力氏とヨウ素という強み
ペロブスカイト太陽電池は、桐蔭横浜大学の宮坂力(みやさか つとむ)特任教授が2009年に考案した、まさに日本発の技術です。発明から十数年を経て、いまや世界中の企業・研究機関が実用化を競う次世代太陽電池の本命となっています。
日本にはもう一つ大きな強みがあります。ペロブスカイトの主原料ですヨウ素です。シリコン系パネルの原料は中国依存が大きい一方、ヨウ素は日本が世界第2位の産出量(世界シェア約30%)を誇り、その多くが千葉県の地下かん水から採れます。原料を国内で確保できることは、サプライチェーンの安全保障という観点でも重要な意味を持ちます。
② なぜいまペロブスカイト太陽電池が注目されるのか
脱炭素と「設置できる場所」の拡大
脱炭素(カーボンニュートラル)の達成には、再生可能エネルギーの大幅な拡大が必要です。しかし国土の狭い日本では、平地に大規模な太陽光発電所を増やす余地が限られています。軽量・フレキシブルなペロブスカイト太陽電池は、ビル壁面など「これまで設置できなかった場所」を発電所に変えられる可能性があり、再エネ拡大の切り札として期待されています。
エネルギー安全保障と国産化
現在主流のシリコン系太陽電池は、生産が海外(特に中国)に大きく偏っています。これに対しペロブスカイトは、日本発の技術であり、主原料のヨウ素も日本が世界有数の生産国です。「国産のサプライチェーン」を築ける可能性があることが、経済安全保障の観点からも重視されています。
③ 量産・実用化に向けた動き
政府は、ペロブスカイト太陽電池を次世代の重要技術と位置づけ、量産化・社会実装を後押ししています。グリーンイノベーション基金などを通じた支援のもと、企業による量産ラインの構築やビル・公共施設などでの実証設置が進められています。
③-2 政府・経産省の戦略と期待される発電量
政府はペロブスカイト太陽電池を、エネルギー安全保障と脱炭素を同時に進める「国策」と位置づけています。経済産業省は2024年11月、2040年度に20ギガワット(GW)を導入するという目標を正式に発表しました。これは大型原発およそ20基分に相当する規模で、発電コストは政策経費を含まないベースで15円/kWh台半ば(一部報道では14円/kWh台)を目指すとされています。
調査会社の予測でも市場拡大が見込まれており、富士経済はペロブスカイト太陽電池の世界市場が2040年に大きく成長すると試算しています。導入が進めばCO2削減効果も大きく、一部試算では大規模導入時に年間数億トン規模の削減も見込まれています。政府は次世代型太陽電池戦略のもとで、量産技術の確立と国内サプライチェーンの自立化を支援する方針です。
③-3 中国の進展と世界動向――なぜ中国が技術を持つのか
「日本が生み出した技術なのに、なぜ中国が強いのか」という疑問は本質的です。答えは、発明と量産は別の競争だという点にあります。中国は太陽光発電の製造能力で、川上の原料から川下のパネルまで世界全体の約8割を握る圧倒的な基盤を持っています。この既存のシリコン太陽光の製造インフラ・人材・サプライチェーンを、そのままペロブスカイトの量産競争に転用できるのが中国の強みです。
実際、報道によれば中国では100社以上がペロブスカイトを開発し、車載電池大手のCATLやBYDも参入しています。協鑫光電(GCL)は1GW級工場を稼働させ、2025年内に香港でのIPO(ペロブスカイトで世界初の上場企業)を目指すと報じられています。装置メーカーの邁為科技は数百億円規模の投資を表明するなど、国家的な支援のもとで大規模量産による価格競争力を築こうとしています。中国勢はガラスを基板にすることが多く、軽量な「フィルム型」を強みとする日本(積水化学など)とは技術アプローチが異なります。
変換効率の面でも競争は激しく、量産品で17%台、研究レベルのタンデム型(シリコンと積層)では世界記録が27%台後半に達するとされます。米国・欧州でもタンデム型の高効率化やBIPV(建材一体型太陽光)への応用が進んでおり、世界全体で「発明国・日本」と「量産大国・中国」を軸に主導権争いが繰り広げられています。
③-4 技術コアと部材・原材料――どこに価値があるのか
ペロブスカイト太陽電池の競争力は、単一の部品ではなく複数の要素技術の組み合わせにあります。投資対象を考えるうえでは、「発電層の材料」「基板・封止」「製造プロセス」「原料」という層ごとに、どこに強みを持つ企業かを見極めることが重要です。
とりわけ日本が握る「ヨウ素」は、ペロブスカイト材料に不可欠な原料であり、この上流を国内企業が押さえている点は他国にない強みです。一方で、鉛を含む組成の環境対応や、屋外での長期耐久性、大面積での品質安定といった課題が残っており、これらを解決する部材・プロセス技術にも価値が集まります。
③-5 関連企業を「層」で整理する――部材・原料まで
既存の本文(後述④以降)で取り上げる積水化学・カネカ・ENEOSに加え、部材・封止・原料の層にも注目すべき関連企業が多数あります。代表例を整理します(網羅的なものではありません)。
部材・原料プレイヤーの指標一覧(2026年6月18日時点)
株価・時価総額・PER・PBR・配当利回りは株探から取得した参考値です。「—」は取得できなかった、または算出されない項目です。
部材・原料銘柄の特徴
フジプレアム(4237):光学フィルターや太陽光発電システムを手掛け、ペロブスカイトの封止・モジュール化技術で関連銘柄として注目されています。時価総額が小さく、テーマ性で値動きが大きくなりやすい点に注意が必要です。
伊勢化学工業(4107):AGCグループのヨウ素生産大手。報道によれば国内シェア約45%、世界シェア約15%とされ、ペロブスカイトの主原料を供給する立ち位置です。業績はヨウ素の国際市況に左右されます。
K&Oエナジーグループ(1663):天然ガスとヨウ素を手掛け、国内のヨウ素供給力で存在感を持ちます。ヨウ素需要拡大の恩恵を受けうる一方、エネルギー事業全体の動向にも影響されます。
日本触媒(4114):機能性化学品の大手で、ペロブスカイト向けの材料供給が期待されます。ただし主力は別事業であり、ペロブスカイトは事業の一部にとどまります。
④ ペロブスカイト関連の主な銘柄
ここからは、ペロブスカイト太陽電池に関連する事業を持つ国内の上場企業を整理します。前提として、いずれもペロブスカイトが事業の一部であり、株価がペロブスカイトだけで動くわけではない点に注意してください。
関連銘柄を「層」で整理する
⑤ 主要関連銘柄の指標一覧
以下は関連銘柄の株価・指標の一覧です。株価・時価総額・PER・PBR・配当利回りはいずれも2026年6月18日時点の株探調べです。
⑥ 主な関連銘柄の特徴
積水化学工業(4204)
フィルム型ペロブスカイト太陽電池の量産・実用化で先行する代表的な企業です。住宅・建材や高機能プラスチックなどを主力とする化学メーカーで、ペロブスカイトは将来の成長分野として位置づけられています。
カネカ(4118)
太陽電池や高機能フィルム・素材を手がける化学メーカーです。太陽電池関連の技術・素材で関連づけられますが、医薬・食品・素材など事業は幅広く多角化しています。
ENEOSホールディングス(5020)
石油元売り最大手で、再生可能エネルギーや次世代エネルギーへの取り組みも進めています。ペロブスカイトを含む再エネ・発電事業の文脈で関連づけられますが、業績の中心は石油精製・販売であり、原油市況の影響を強く受けます。
⑦ 投資する際の注意点
耐久性やコスト、量産技術など課題が残り、本格普及はこれからです。計画の遅延や見直しのリスクがあり、テーマ性が先行しやすい点に注意が必要です。
国内の関連銘柄はいずれもペロブスカイトが事業の一部にすぎず、株価は主力事業(化学・エネルギー)に左右されます。「ペロブスカイト関連だから上がる」という単純な発想は危険です。
普及初期は政府の支援策に依存する面があり、政策動向が業績見通しを左右します。海外勢との競争激化のリスクもあります。
⑧ まとめ
ペロブスカイト太陽電池は、薄く・軽く・曲げられる次世代太陽電池で、ビル壁面など新たな場所での発電を可能にする脱炭素の切り札として期待されています。日本発の技術であり、主原料のヨウ素も国産できることから、エネルギー安全保障の観点でも重要なテーマです。
一方で、量産・普及はこれからの段階で、国内に純粋な専業大型株は存在しません。関連銘柄に関心を持つ場合も、各社の本業や財務、株価指標を冷静に確認し、テーマの過熱には十分注意したいところです。
当ブログでは、核融合発電やSMR、データセンターなど、エネルギー・脱炭素に関連するセクター記事も公開しています。あわせてご覧ください。
📄 参考・出典
⚠ 免責事項
本記事は公開情報をもとにした情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。記載した株価・指標等は執筆時点(2026年6月18日時点・株探調べ)のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。適正株価や目標株価に類する記述は一定の前提に基づく参考値であり、将来の株価を保証するものではありません。投資の最終判断は、ご自身の責任において行ってください。

