① 造船業とはどんな産業か
造船業は、貨物船やタンカー、コンテナ船、LNG運搬船などの大型船舶を建造する産業です。世界の貿易の大半は海上輸送が担っており、その「足」となる船をつくる造船業は、世界経済を支える基幹産業の一つです。
かつて世界一を誇った日本の造船業は、韓国・中国の台頭により厳しい価格競争にさらされ、長く「構造不況業種」とされてきました。しかし近年、その状況に変化の兆しが見えています。
② なぜいま造船業が再評価されるのか
環境規制と「次世代燃料船」への建て替え
最大の追い風は、船舶の環境規制です。国際海事機関(IMO)は、船舶からの温室効果ガス(GHG)排出を削減する目標を掲げており、従来の重油を燃やす船から、より環境負荷の低い燃料を使う船への移行が求められています。これにより、世界中で大量の船を「次世代燃料船」に建て替える需要が見込まれています。
新造船価の上昇と受注環境の改善
建て替え需要を背景に、新造船の価格(新造船価)は上昇傾向にあり、造船各社の受注環境も改善しています。長く低迷していた業界の採算が改善し、業績・株価が見直される動きにつながっています。
経済安全保障・防衛の観点
造船は、艦艇など防衛装備とも関わりが深い産業です。経済安全保障や防衛力強化の流れの中で、国内の造船・重工メーカーが注目される面もあります。
③ 脱炭素時代の「次世代燃料船」
次世代燃料船とは、従来の重油に代わる、より環境負荷の低い燃料で動く船のことです。代表的な候補には次のようなものがあります。
・LNG(液化天然ガス):重油より排出が少なく、移行期の現実解として普及
・メタノール:取り扱いやすく、対応船の発注が増加
・アンモニア:燃焼時にCO2を出さず、本命候補の一つ(技術開発段階)
・水素:将来的な選択肢として研究が進む
どの燃料が主流になるかはまだ定まっておらず、各社が技術開発を競っています。日本の造船・重工メーカーは、こうした次世代燃料船の技術で存在感を発揮できるかが、再評価が続くかどうかの鍵を握ります。
②-2 2024年のブームから2年――いま造船はどうなっているのか
造船セクターが株式市場で再評価され始めたのは2024年でした。海運市況の回復や脱炭素に伴う代替燃料船への需要、そして長く続いた供給過剰の解消で、世界的に新造船の発注が活発化したことが背景です。あれから約2年が経過した2026年前半時点では、テーマは「一過性のブーム」から「構造的な再評価」へと性格を変えつつあります。
日本勢の業績は、円安と手持ち工事量(受注残)の積み上がりを追い風に改善が続いています。一方で、世界の発注の大半は中国・韓国に流れており、「市況は良いが、日本のシェアは低いまま」という構図が鮮明になりました。この2年間で、政府が造船を「経済安全保障・国策」として位置づけ直す動きが加速したのが最大の変化です。
②-3 世界市場の構図――中国71%・韓国14%・日本8%
世界の造船市場における日本の立ち位置を、まず数字で押さえておきましょう。国土交通省の資料などによれば、建造・受注シェアは次のような構図です。
かつて世界首位だった日本のシェアは、15〜16%で推移していたものが2024年には約8%まで低下しました。中国は2024年に世界の受注の7割超を獲得し、市場支配を強めています。さらに、これまで韓国の独壇場だったLNG運搬船でも、中国のシェアが2011年の約4%から2025年には約19%へ拡大し、2027年には25%に達するとの見通しもあります(日本海事協会等)。「韓国一強に中国が割り込む二強時代」へと構図が変わりつつあります。
②-4 韓国造船のいま――最高益とMASGA(米韓協力)
ライバルである韓国は、いまや絶好調です。韓国の3大造船会社であるHD韓国造船海洋、ハンファオーシャン、サムスン重工業は、高付加価値のLNG船などを軸に好業績を続けています。報道によれば、3社合算の営業利益は2025年第3四半期に約1,600億円(前年同期の約3倍)、2026年1〜3月期には2兆ウォン(約2,200億円、前年同期比+66.8%)を超えました。
韓国の動きで特に注目されるのが、米国との造船協力「MASGA(Make American Shipbuilding Great Again)」です。これは韓国が米国に約1,500億ドル規模の投資枠を示し、米国内での造船・艦艇建造やメンテナンス(MRO)を担う構想です。ハンファは米フィラデルフィアの造船所に巨額投資(報道で7兆ウォン規模)を進め、米海軍艦艇のMRO事業も受注しています。中国の台頭に対し、「米韓連合」で対抗する構図が強まっています。
②-5 日本の国策――造船業再生ロードマップと骨太の方針2025
こうした危機感を背景に、日本政府は造船を明確に「国策」として後押しする姿勢を強めています。中心となるのが、国土交通省が2025年末に取りまとめた「造船業再生ロードマップ」です。中国・韓国に比べて事業所の規模が小さく、鋼材高で船価が高いといった日本造船業の構造課題を直視し、生産能力の回復や次世代船への集中を図る内容とされます。
また、政府の「骨太の方針2025」にも海事クラスター(造船・海運・舶用工業が集積する産業群)の強靭化が盛り込まれました。自民党内でも造船業再生の議論が本格化し、再生基金や設備投資支援などの政策が検討されています。さらに、造船は日米交渉のカードとしても浮上しており、中国に対抗する経済安全保障の観点から、官民連携での復活が国家的なテーマになっています。
②-6 今後の世界・日本市場の展望
今後の見方を整理すると、世界市場では建造需要そのものは中長期的に増加するとみられています。背景には、(1) 老朽船の代替(解撤)需要、(2) 環境規制強化による次世代燃料船への置き換え、(3) 海運市況・エネルギー輸送(LNG等)の拡大があります。需要は伸びるものの、その多くを中国・韓国が取り込む構図が当面続く可能性が高いと見られます。
日本にとっての勝ち筋は、量で中韓と張り合うのではなく、アンモニア・水素・メタノールなどのゼロエミッション船や、高品質・省エネ船といった付加価値の高い領域で存在感を出すことだとされます。国策による生産能力の回復と次世代船への集中投資が実を結ぶかが焦点です。日経新聞や東洋経済、NewsPicksなどの報道も、「日米連携と次世代船が日本造船復活の鍵」というトーンで取り上げています。
②-7 関連銘柄の拡充――舶用エンジン・船舶塗料・中堅造船
造船セクターは、大手造船・重工だけでなく、船を動かすエンジン(舶用機関)や、船底の汚れ・腐食を防ぐ船舶用塗料、中堅の専業造船所など、裾野の広い関連企業群で成り立っています。以下は、本体の重工・造船大手に加えて押さえておきたい関連銘柄です。
内海造船(7018): 広島県を地盤とする中堅造船所。フェリーやRORO船(貨物車を積む船)などに強みを持ち、国内の建造需要を取り込む専業の造船銘柄です。
ダイハツディーゼル(6023): 中小型船舶向けのディーゼルエンジン(舶用機関)で実績を持つメーカー。船そのものではなく「船の心臓部」を担う関連銘柄で、次世代燃料エンジンの動向も注目されます。
中国塗料(4617): 船舶用塗料の世界的大手。船底の防汚・防食塗料は燃費(=CO2排出)にも直結するため、環境規制強化が追い風になり得ます。社名の「中国」は中国地方(広島)を指し、中華人民共和国とは無関係です。
④ 造船関連の主な銘柄
ここからは、造船に関連する事業を持つ国内の上場企業を整理します。重工系の企業は造船以外の事業(防衛・航空・機械など)の比重が大きく、株価が造船だけで動くわけではない点に注意してください。
関連銘柄を「層」で整理する
⑤ 主要関連銘柄の指標一覧
以下は関連銘柄の株価・指標の一覧です。株価・時価総額・PER・PBR・配当利回りはいずれも2026年6月18日時点の株探調べです。
⑥ 主な関連銘柄の特徴
三菱重工業(7011)/川崎重工業(7012)/IHI(7013)
いずれも造船を含む総合重工メーカーです。ただし、これらの企業は防衛・航空エンジン・産業機械など多角的な事業を抱えており、造船は事業の一部です。近年は防衛関連としても注目され、株価はそうした複数のテーマの影響を受けます。
三井E&S(7003)
船舶用エンジンや舶用機械、港湾クレーンなどを手がける企業です。造船・舶用との関わりが深く、環境規制対応や次世代燃料エンジンの文脈で関連づけられます。事業再編を経て収益構造が変化してきた企業でもあります。
名村造船所(7014)
専業に近い造船会社で、新造船価の上昇や受注環境の改善の影響をストレートに受けやすい銘柄です。その分、海運市況や受注動向によって業績・株価が大きく変動しやすい特徴があります。
⑦ 投資する際の注意点
造船は海運市況や世界貿易の動向に強く左右される、循環的な産業です。受注環境が良いときと悪いときの差が大きく、業績・株価の変動も大きくなりがちです。
三菱重工・川崎重工・IHIは防衛・航空など他テーマの比重が大きく、株価は造船以外の要因でも動きます。「造船関連だから」という単純な見方は危険です。
韓国・中国勢との激しい競争が続いており、為替(円安・円高)や鋼材価格の影響も受けます。次世代燃料船の技術で優位を保てるかが長期的な鍵です。
⑧ まとめ
日本の造船業は、IMOの環境規制を背景とした次世代燃料船への建て替え需要と、新造船価の上昇によって再評価が進んでいます。LNG・メタノール・アンモニアなど、どの燃料が主流になるかをめぐる技術競争が、今後の業界の行方を左右します。
一方で、造船は海運市況に左右される循環産業であり、重工系の関連銘柄は造船以外のテーマの影響も強く受けます。再評価の流れを踏まえつつ、各社の事業構成・財務・株価指標を冷静に確認することが大切です。
当ブログでは、SMRや核融合などのエネルギー、フィジカルAIなど、産業の構造変化に関連するセクター記事も公開しています。あわせてご覧ください。
📄 参考・出典
⚠ 免責事項
本記事は公開情報をもとにした情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買や投資を推奨するものではありません。記載した株価・指標等は執筆時点(2026年6月18日時点・株探調べ)のものであり、最新の情報とは異なる場合があります。適正株価や目標株価に類する記述は一定の前提に基づく参考値であり、将来の株価を保証するものではありません。投資の最終判断は、ご自身の責任において行ってください。

