DIC(4631)の目標株価は?AI半導体材料で復活する「インキ世界首位」を3シナリオで分析

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この記事は2026年7月14日時点の情報に基づいています。株価・指標データの取得日は記事末尾の「データ・出典」をご確認ください。

目次

なぜ今、DICなのか

DIC(4631)と聞いて、多くの個人投資家が思い浮かべるのは「印刷インキの会社」でしょう。実際、DICは印刷インキで世界首位の企業です。しかし、いま市場がDICに注目している理由はインキではありません。

AI半導体向けの材料です。

2026年12月期の第1四半期決算で、DICは営業利益が前年同期比87.7%増、純利益にいたっては214.7%増という驚きの数字を叩き出しました。その原動力のひとつが、AI需要で沸く半導体市場向けの「パッケージ基板・封止材向けエポキシ樹脂や硬化剤」の出荷増加です。

「印刷インキの成熟企業」という古いイメージと、「AI半導体材料サプライヤー」という新しい実態。このギャップこそが、当サイトが好んで探している構造的に割安なまま放置されている銘柄の典型パターンです。

この記事では、DICの直近決算を深掘りし、強気材料・弱気材料を整理したうえで、3シナリオの目標株価を検討します。

DICはどんな会社か

DICは1908年創業の総合化学メーカーです。旧社名は大日本インキ化学工業。印刷インキで世界トップシェアを持ち、アジア・欧米にも幅広く展開しています。

事業は大きく3つのセグメントに分かれます。

① パッケージング&グラフィック
祖業の印刷インキと包装材料。出版・商業印刷向けは構造的に縮小していますが、食品パッケージなど包装用途は底堅い分野です。

② カラー&ディスプレイ
顔料と液晶材料。ディスプレイのカラーフィルタ用顔料などを手掛けます。2021年に買収した独BASFの顔料事業(Colors & Effects)を含み、化粧品向けなど高付加価値顔料も展開しています。

③ ファンクショナルプロダクツ
今回の主役である半導体パッケージ基板・封止材向けエポキシ樹脂はここに含まれます。PPSコンパウンドなどエンジニアリングプラスチックも手掛けています。

ポイントは、「インキの会社」でありながら、利益成長のドライバーが電子材料・機能材料側に移りつつあることです。

直近決算を深掘りする

2025年12月期:3期連続増益への布石

まず前期(2025年12月期)の着地から確認します。

  • 連結経常利益:442億円(前の期比16.7%増)
  • 年間配当:1株200円(普通配当120円+特別配当80円。前期100円から大幅増)

化学セクター全体が原料高と中国市況の低迷に苦しむなかで、DICは高付加価値製品へのシフトと価格対応、コスト管理の徹底で増益を確保しました。特に注目すべきは株主還元姿勢の変化です。特別配当80円を含むとはいえ、普通配当も100円→120円へ引き上げ、総還元性向40%以上・配当下限120円という方針を打ち出したことは、資本政策の転換シグナルと読めます。

2026年12月期 第1四半期:サプライズ決算

そして今期の第1四半期(2026年1〜3月)です。

項目実績前年同期比
売上高2,825億円+7.8%
営業利益245億円+87.7%
純利益191億円+214.7%

営業利益がほぼ倍増、純利益は3倍超。しかも全セグメントで増益という内容の良さです。

決算短信で示された好調の背景は次のとおりです。

  • 半導体市場が旺盛なAI需要を背景に好調で、パッケージ基板・封止材向けのエポキシ樹脂や硬化剤の出荷が増加
  • モバイル機器向け工業用テープが、ハイエンド機種中心に採用拡大
  • ディスプレイ用カラーフィルタ用顔料も、パネルメーカーの稼働改善で出荷が前年超え
  • 各セグメントで価格対応とコスト管理を徹底

つまり、AI・半導体という追い風を受けるファンクショナルプロダクツが牽引しつつ、従来苦戦していたカラー&ディスプレイも底打ちしてきた、という構図です。

5月15日の上方修正

この勢いを受けて、DICは2026年5月15日に通期業績予想を上方修正しました。

  • 売上高:1兆1,000億円(期初計画から増額、19期ぶりの過去最高更新見込み)
  • 純利益:330億円(当初予想から大幅増額)

期初の会社計画では「今期最終利益は2%増」という控えめな見通しでしたが、Q1の好調を受けて早々に増額に踏み切った形です。第1四半期だけで純利益191億円を稼いでおり、修正後の通期330億円に対する進捗率は約58%。Q1時点で通期の6割近くを稼いでいる計算になり、8月10日予定の第2四半期決算で再上方修正の可能性も視野に入ります。

DICの連結経常利益推移と2026年12月期第1四半期の前年同期比グラフ

強気材料:DICを買える5つの理由

① AI半導体材料という「本物のテーマ」に乗っている

AIデータセンター投資の拡大は、GPUやHBMといった半導体そのものだけでなく、パッケージ基板・封止材といった周辺材料の需要を押し上げています。DICのエポキシ樹脂・硬化剤はまさにこの領域です。

当サイトでは、PCB(プリント基板)やパッケージ基板のサプライチェーン銘柄を継続的に追っていますが、DICはその川上に位置する材料メーカーとして、テーマの持続性を享受できるポジションにいます。しかも時価総額約4,700億円の大型株でありながら、「AI関連」としての認知度はまだ高くありません。ここに認知ギャップがあります。

② 下限120円を明示した株主還元

2025年度の年間配当200円は普通配当120円+特別配当80円の合計で、2026年度の会社計画は年140円(株価4,616円に対する利回り約3.0%)です。会社は総還元性向40%以上・配当下限120円を明示しており、普通配当も前期の100円から着実に引き上げられています。特別配当込みの利回りを前提にはできませんが、下限設定が下値の安心材料になる構造です。

③ PBRはなお1倍近辺

IRBANK掲載データ(2026年6月2日時点)でPBRは0.97倍。直近の株価上昇を織り込んでもおおむね1倍近辺です。19期ぶりの過去最高売上を更新しようという企業が、解散価値並みの評価しか受けていない。東証がPBR1倍割れ企業に改善を要請している流れのなかで、資本効率改善へのプレッシャーは追い風になります。

④ 進捗率の高さと再上方修正の芽

前述のとおり、Q1で通期純利益予想の約58%を稼いでいます。季節性を考慮しても余裕のある進捗で、8月10日の中間決算は再増額のチャンスです。「上方修正を織り込みにいく夏」というシナリオが描けます。

⑤ 事業ポートフォリオ再編による資本効率改善

決算短信では、持分法適用関連会社の非公開化に伴い保有株式を譲渡する基本契約の締結にも言及されています。資本投下の見直しが進めば、資金配分の柔軟性が高まり、成長分野(電子材料)への集中投資や株主還元の原資になり得ます。

弱気材料:見て見ぬふりをしてはいけないリスク

① 原料価格と中東情勢

インキも樹脂も、原料はナフサをはじめとする石油化学品です。決算短信でも中東情勢に伴う原料調達や物流の不安定化によるコスト変動がリスクとして明示されています。2026年前半はナフサ高騰が話題になっており、原料高が転嫁しきれなければ利益率は圧迫されます。Q1の好決算は「価格対応がうまくいった」結果でもあり、この綱渡りが続く保証はありません。

② 有利子負債の重さ

2025年Q3時点で有利子負債は約4,630億円。自己資本比率は33.5%まで改善してきたものの、時価総額に匹敵する負債を抱えています。BASF顔料事業買収の後遺症ともいえるバランスシートの重さは、金利上昇局面では逆風です。日銀の利上げが続けば、支払利息の増加が利益を削ります。

③ 祖業インキの構造的縮小

出版・商業印刷向けインキは、ペーパーレス化で構造的に縮小しています。世界首位とはいえ、縮む市場の首位です。包装用途やデジタル印刷への転換は進んでいるものの、祖業が成長ドライバーに戻ることは期待しにくい状況です。

④ 景気敏感株としての宿命

化学セクターは典型的な景気敏感業種です。AI投資がもし一巡・減速すれば、いま絶好調のエポキシ樹脂も数量減に転じます。「AIテーマの川上」であることは、裏を返せば「AI設備投資サイクルに連動する」ことでもあります。

⑤ 株価はすでに底値から大きく上昇済み

年初来(2025年4月)安値2,447円から、直近4,616円まで約1.9倍になっています。2026年3月には4,632円の高値も付けており、足元の株価はQ1好決算と上方修正をある程度織り込んだ水準です。「誰も見ていない割安株」のフェーズは過ぎつつあり、ここからは業績の伸びが評価に追いつくかの勝負になります。

バリュエーションと目標株価:3シナリオ

前提を整理します。

  • 株価:4,616円(2026年7月13日時点・株探)
  • 会社予想純利益:330億円(2026年5月15日修正後)
  • 予想EPS:約350円前後(IRBANK掲載の予想PER・時価総額からの逆算概算値)
  • 予想PER:約13倍前後
  • PBR:約1倍近辺
  • 配当利回り:約3.0%(2026年度計画 年140円ベース。2025年度実績200円は特別配当80円込み)

化学大手の予想PERはおおむね10〜15倍のレンジで、電子材料比率の高い企業ほど高PERが許容される傾向があります。これを踏まえ、3つのシナリオを置きます。

強気シナリオ:目標株価 5,600円(+21%)

前提:8月の中間決算で再上方修正。AI半導体材料の成長が継続し、「電子材料株」としての再評価が進む。

再増額で予想EPSが上振れ、かつ市場がDICを「化学株」から「AI材料株」へ見直せば、PER16倍程度までの評価切り上がりは十分あり得ます。EPS350円×PER16倍=5,600円。増配が重なればさらに上値余地が広がります。

中立シナリオ:目標株価 4,900円(+6%)

前提:業績は会社計画どおりに進捗。原料高は価格転嫁でおおむね吸収。

現在の予想PER13倍が14倍程度まで緩やかに切り上がる想定です。EPS350円×PER14倍=4,900円。配当利回り4%超が下値を支えつつ、業績の確認を待ちながらじり高、というイメージです。

弱気シナリオ:目標株価 3,850円(−17%)

前提:中東情勢悪化による原料急騰、またはAI設備投資の減速で数量が失速。

景気敏感株として売られる局面では、PER11倍程度までの調整は覚悟が必要です。EPS350円×PER11倍=3,850円。ただしこの水準では利回り(計画140円ベース)が3.6%程度まで上昇し、下限120円の配当方針が下値の支えとして意識されやすくなります。

シナリオまとめ

シナリオ目標株価現値比主な前提
強気5,600円+21%再上方修正+AI材料株への再評価
中立4,900円+6%会社計画どおり進捗
弱気3,850円−17%原料急騰・AI投資減速

まとめ:DICは「第二のUnitika型」になれるか

DICの投資ストーリーを一言でまとめると、「古い看板の下で、中身が入れ替わりつつある会社」です。

  • 市場の認識:印刷インキの成熟企業、PBR1倍割れの重厚長大株
  • 実態:AI半導体パッケージ材料が牽引し、19期ぶり最高売上・3期連続増益へ向かう会社

このギャップが埋まる過程こそがリターンの源泉です。一方で、株価は底値から約1.9倍まで戻しており、「見つかっていない割安株」の段階は終わりつつあります。ここから買うなら、8月10日の中間決算が最初の関門です。Q1の進捗率58%が本物なら再上方修正、そうでなければ「Q1に特殊要因があった」ことの確認になります。

原料高と有利子負債という化学株特有の重さを受け入れられるか。配当利回り約3%と下限120円の還元方針を「待ち賃」と考えられるか。この2点を自分のリスク許容度と照らして判断したい銘柄です。

データ・出典

  • 株価・指標取得日:2026年7月13日(出所:株探・4,616円)/PER・PBR・時価総額は2026年6月2日時点(出所:IRBANK)
  • 参照資料:2025年12月期 決算短信(2026年2月16日発表)、2026年12月期 第1四半期決算短信、2026年5月15日 通期業績予想の修正(売上高1兆1,000億円・純利益330億円)
  • 企業IRページ:DIC株式会社 IR情報
  • 市場データ出所:株探(かぶたん)、みんかぶ、Yahoo!ファイナンス、IRBANK

目標株価の算出前提

  • 評価手法:予想PER × 予想EPS
  • 予想EPS:約350円(会社予想純利益330億円と、IRBANK掲載の予想PER・時価総額からの逆算概算値。発行済株式数ベースの厳密値ではありません)
  • 前提シナリオ:強気5,600円(PER16倍)/中立4,900円(PER14倍)/弱気3,850円(PER11倍)
  • 想定期間:6〜12か月
  • 注記:2024年12月期の経常利益379億円は「2025年12月期442億円(前の期比+16.7%)」からの逆算概算値です。

※本記事はあくまで個人の分析・見解です。投資判断は最終的にご自身の責任でお願いします。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。

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