「造船国策」に株式市場から乗ろうとすると、意外な事実にぶつかります。国内1位の今治造船も2位のJMUも非上場──純粋な造船株として買える上場企業は、実質ひと握りしかないのです。
その筆頭が、名村造船所(7014)。手持工事は2028〜2029年納期まで埋まり、直近決算は経常利益295億円で過去最高、今期は3期連続の最高益更新と10円増配を計画しています。造船セクター全体の分析記事の個別深掘り編として、この会社を数字で解剖します。
✅ この記事でわかること
- 名村造船所が「上場で最も純度の高い造船株」である理由
- 過去最高益の中身:Q4利益率19.7%に表れた船価上昇の威力
- 佐世保重工というもう一つの顔:防衛艦船修繕とクランクシャフト増産
- 目標株価の3シナリオ(強気・中立・弱気)
この記事は2026年7月28日時点の情報に基づいています。データ取得日・出典は記事末尾をご確認ください。
名村造船所はどんな会社か──伊万里の大型ドックと「造船純度」の高さ
名村造船所は1911年創業の造船専業メーカーで、東証スタンダード上場。佐賀県伊万里市の大型ドックを主力拠点に、VLCC(超大型タンカー)やばら積み船(バルカー)など大型商船の建造を得意とします。2003年に佐世保重工業を傘下に収め、九州に建造・修繕の複数拠点を持つグループです。
事業は大きく3本柱です。
① 新造船事業(主力)
売上・利益の中核。タンカー・バルカーの大型船に強く、直近は伊万里事業所の大型船建造へのシフトを進めています。2026年3月期には大型ばら積み運搬船10隻の新規受注を獲得し、2027年3月期からは大型LPG船(VLGC)の建造も追加。より付加価値の高い船種構成(プロダクトミックス)への移行期にあります。
② 修繕船事業
佐世保重工を中心とする船の修理・改造。ここには防衛省の艦船修繕が含まれ、安定収益源であると同時に、防衛費増額の恩恵を受け得る立場です。
③ 機械・鉄構事業
佐世保重工が手掛ける舶用機械(船舶エンジンの心臓部品クランクシャフト)と橋梁など。2026年3月期は営業利益3.48億円(前期比+203.1%)と急回復しました。地味ですが、後述するとおり国策との接点があるパーツです。
決算を深掘りする──過去最高益と「Q4利益率19.7%」の衝撃
2026年3月期:減益予想から一転、過去最高益で着地
| 項目 | 2026/3期実績 | 前の期比 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,590億円 | ▲0.1% |
| 営業利益 | 280.9億円 | ▲4.7% |
| 経常利益 | 295億円(過去最高) | +0.1% |
| 年間配当 | 50円(期中に40円から増額) | ─ |
ポイントは3つあります。第一に、経常利益295億円は従来予想の260億円を大きく上回り、減益予想から一転して増益・過去最高益で着地したこと。会社の保守的な計画を実績が上回るパターンが続いています。
第二に、四半期の利益率です。1〜3月期(Q4)の経常利益は前年同期比74.1%増の78.6億円、売上営業利益率は14.7%→19.7%へ大幅上昇。造船業は「売価の7割が材料費」と言われる薄利の世界ですが、2021年以降に受注した高船価案件が売上化するにつれ、利益率が階段状に切り上がっている──これが数字で確認できます。セクター記事で紹介した「受注単価30〜50%上昇」の利益化が、まさに今進行中です。
第三に、影の部分。主力の新造船が堅調だった一方、修繕船事業の落ち込みが全体の足を引っ張りました。3本柱がすべて好調というわけではない点は覚えておくべきです。
2027年3月期予想:3期連続の最高益+10円増配
今期(2027年3月期)の会社予想は、売上高1,700億円(+6.9%)、営業利益290億円(+3.3%)、経常利益300億円(+1.6%)。3期連続の過去最高益・4期連続増益の計画です。配当は前期比10円増の年60円を予定し、財務も自己資本比率51.3%まで改善しています。
増益率+1.6%は一見地味ですが、これは「高原状態」と読むべき数字です。手持工事が2028〜2029年納期まで埋まっているため、数年先までの売上がほぼ確定しており、業績の予見性が極めて高い。今期はVLGC追加などプロダクトミックスの移行期であり、その移行が完了した先の利益水準が次の焦点になります。

もう一つの顔──佐世保重工と「防衛×国策」の接点
名村を「タンカーの会社」とだけ見ると、半分しか見ていないことになります。傘下の佐世保重工業には、投資的に重要な2つの顔があります。
① 防衛艦船の修繕拠点
佐世保は海上自衛隊・米海軍の艦船が集まる軍港であり、佐世保重工は艦船修繕の受け皿です。防衛費のGDP比2%への拡大が進むなか、艦艇の維持・整備需要は構造的に増える分野。派手な新造艦の受注がなくても、修繕という形で防衛予算の恩恵を継続的に受けられる立場です。
② クランクシャフトの増産──国策のボトルネック解消役
船舶エンジンの心臓部品であるクランクシャフトは、国内で製造できる企業が限られる部品です。佐世保重工は今年度に前年比3割の増産を計画していると報じられており、背景には政府の「国内建造量倍増」方針があります。建造量を2倍にするには、船体だけでなくエンジン部品の供給力も2倍近く必要──つまり佐世保のクランクシャフトは、国策実現のボトルネックを解消する側にいます。この報道を受けて株価が大幅続伸する場面もあり、市場もこの文脈に気づき始めています。
📌 ここまでの要点
- 経常利益295億円で過去最高、今期300億円で3期連続最高益+60円へ増配
- Q4利益率19.7%=高船価受注の利益化が進行中、受注残は2028〜29年分
- 佐世保重工が防衛修繕とクランクシャフト増産という国策の2つの接点を持つ
強気材料──「予約済みの利益」と国策の追い風
① 数年先まで売上が「予約済み」
手持工事量は2028〜2029年納期まで確保済み。ドックの枠が埋まっているため受注時の船価交渉でも強気に出られ、受注単価は2021年以前比で30〜50%上昇したとの分析があります。低船価時代の案件消化が完了し、これから売上化するのは高船価案件──利益率の階段はまだ上り切っていません。
② 会社計画を上回り続ける実績
2026年3月期は従来予想260億円に対し実績295億円。保守的に計画を置き、実績で上回るパターンが定着しており、今期計画300億円にも上振れ余地を意識できます。
③ 国策・再編の中心にいる
建造量倍増ロードマップ・3,500億円基金・特定重要物資指定という国策パッケージは、造船専業の名村にとってすべて追い風です。業界が1〜3グループへ集約される再編構想の中で、上場造船専業という希少な立場は、再編の主役にも対象にもなり得ます。
④ 株主還元の改善が続く
40円→50円への期中増額、今期60円への増配と、利益成長に合わせた還元強化が明確です。自己資本比率51.3%と財務も健全化しており、還元余力は増しています。
弱気材料──見て見ぬふりをしてはいけないリスク
① 利益成長の「高原化」
今期の経常増益率は+1.6%。最高益とはいえ伸びは鈍化しており、「造船ブームの利益はもう株価に織り込まれた」と市場が判断すれば、上値は重くなります。次の成長ドライバー(VLGC・船価のさらなる上昇・防衛拡大)が数字で見えるかが勝負です。
② 鋼材高が利益を蝕む構造
船価の約7割は材料費で、受注後(船価確定後)に鋼材を調達するため、物価上昇局面では利益が圧迫されます。造船業界と鉄鋼業界の厚板価格を巡る対立は現在進行形であり、鋼材価格の想定以上の上昇は今期計画の下振れ要因です。
③ 修繕船事業の不振
前期に全体の足を引っ張った修繕船の回復が確認できるまでは、「3本柱のうち1本が欠けた状態」が続きます。防衛修繕の拡大がこれを打ち返せるかは、四半期ごとのセグメント開示で確認が必要です。
④ 株価は既に大きく上昇、円高も逆風
株価は直近4,400円前後と、この1年余りで大きく水準を切り上げました。造船は輸出比率が高くドル建て契約が中心のため、為替が円高に振れると採算が直撃されます。また、中国が世界の新造船受注の7割超を握る構図は不変で、中国発の船価下落リスクは常に頭の片隅に置くべきです。
バリュエーションと目標株価:3シナリオ
前提を整理します。
- 株価:4,395円(2026年7月27日時点・松井証券)
- 会社予想:2027年3月期 経常利益300億円(+1.6%)、年間配当60円(利回り約1.4%)
- 予想EPS:約290円(経常利益300億円に実効税率等を勘案した税引後利益の概算を、発行済株式数約7,000万株で除した当サイトの逆算概算値。会社開示のEPS予想ではありません)
- 参考:2026年5月時点の外部分析ではPER11.9倍との評価。直近株価ベースの概算PERは15倍前後
造船株のPERは歴史的に一桁が定位置でしたが、国策と受注残の可視性が「シクリカル割引」を縮小させつつあるのが現在地です。これを踏まえ、3つのシナリオを置きます。
強気シナリオ:目標株価 5,200円(+18%)
前提:Q1決算から計画超の進捗。クランクシャフト増産・防衛修繕・VLGCの寄与が可視化され、「国策銘柄」としての再評価が進む。
EPS約290円×PER18倍≒5,200円。実績が計画を上回り続ける会社だけに、経常が310〜320億円ペースで進めば、EPS上振れとPER切り上がりのダブルで上値を試す展開です。
中立シナリオ:目標株価 4,400円(±0%)
前提:業績は計画どおり。国策の続報を待ちながらの値固め。
EPS約290円×PER15倍≒4,400円。現値近辺は「最高益と国策期待をほどよく織り込んだ水準」と評価でき、次の材料(Q1決算・再編報道・防衛関連の受注)待ちのレンジ推移を想定します。
弱気シナリオ:目標株価 3,200円(−27%)
前提:鋼材高・円高で計画未達懸念が浮上、またはテーマ物色が剥落してシクリカル評価(PER一桁台)へ回帰。
EPS約290円×PER11倍≒3,200円。造船株が歴史的定位置に戻るケースです。ただしこの水準なら配当60円の利回りは1.9%程度に上昇し、受注残の厚さを考えれば長期目線の拾い場と考えることもできます。
シナリオまとめ
| シナリオ | 目標株価 | 現値比 | 主な前提 |
|---|---|---|---|
| 強気 | 5,200円 | +18% | 計画超の進捗+国策銘柄への再評価(PER18倍) |
| 中立 | 4,400円 | ±0% | 計画線・材料待ちの値固め(PER15倍) |
| 弱気 | 3,200円 | −27% | 鋼材高・円高・テーマ剥落でPER一桁台へ回帰(PER11倍) |
まとめ:造船ルネサンスの「本命上場株」、勝負は利益率の階段が続くか
名村造船所の投資ストーリーを一言でまとめると、「数年分の受注残という保険を持ちながら、船価上昇の利益化と国策・防衛という2つの上乗せを狙える、上場唯一級の造船専業」です。
- 確認できた事実:過去最高益・Q4利益率19.7%・受注残2028〜29年・60円への増配・佐世保の防衛/クランクシャフト
- 残る論点:今期+1.6%という伸びの鈍化、鋼材高・円高への耐性、修繕船の回復
当面のチェックポイントはQ1決算(例年8月上旬)での進捗率と船価・鋼材価格の動向、そして国策・再編の続報です。テーマで買われた後の造船株は「業績で選ぶフェーズ」に入っています。その物差しで見たとき、計画を上回り続ける実績と数年分の受注残を持つ名村は、セクター内で最も検証に耐える1社だと考えます。
データ・出典
- 業績・配当:2026年3月期 決算短信(2026年5月14日発表):売上高1,590億3,500万円(▲0.1%)・営業利益280億8,500万円(▲4.7%)・経常利益295億円(+0.1%、従来予想260億円から上振れ・過去最高)、2027年3月期予想:売上高1,700億円(+6.9%)・営業利益290億円(+3.3%)・経常利益300億円(+1.6%、3期連続最高益)、配当は2026/3期50円(40円から増額)→2027/3期予想60円(出所:株探決算速報・みんかぶニュース 2026年5月14〜15日)/Q4経常78.6億円(+74.1%)・売上営業利益率14.7%→19.7%(株探)/機械・鉄構の営業利益3.48億円(+203.1%)・大型ばら積み船10隻受注・VLGC建造追加・自己資本比率51.3%(決算短信および決算解説ブログzosenblogの整理)
- 株価:4,395円(2026年7月27日・松井証券)/PER11.9倍・配当利回り1.63%は2026年5月時点の外部分析(note「造船関連銘柄27選」)の記載であり、直近株価では水準が異なります
- 受注残・船価:手持工事2028〜2029年納期・受注単価30〜50%上昇・防衛艦船修繕(note「造船関連銘柄27選」2026年5月)/佐世保重工のクランクシャフト前年比3割増産報道と株価反応(Yahoo!ファイナンス掲載の市況記事)
- 国策・業界環境:国土交通省「造船業再生ロードマップ」(2026年1月)、日本造船工業会資料(2026年3月)、みずほ銀行産業調査部「Mizuho Industry Focus Vol.255」(2026年7月27日)の鉄鋼・船舶向け需要見通し
- 関連記事:造船セクター全体の分析記事(当サイト)
目標株価の算出前提
- 評価手法:予想PER × 予想EPS
- 予想EPS:約290円(会社は2027年3月期の純利益・EPSの詳細を本記事執筆時点で当サイトが確認できた範囲では引用しておらず、経常利益300億円×実効税率勘案の税引後概算÷発行済株式数約7,000万株による当サイトの逆算概算値です)
- 前提シナリオ:強気5,200円(PER18倍)/中立4,400円(PER15倍)/弱気3,200円(PER11倍)
- 想定期間:6〜12か月
- 注記1:2025年3月期の経常利益294.7億円は「2026年3月期295億円(前の期比+0.1%)」からの逆算概算値です。
- 注記2:造船業は為替(ドル建て売上)と鋼材価格の影響が大きく、前提が変われば目標株価は大きく変動します。
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