旧シャープ堺工場跡地に建設されるKDDIのAIデータセンターについて、改めて以下にまとめてみました。
かつて液晶パネル生産で知られたシャープ堺工場(大阪府堺市)が、生成AI時代の最先端データセンターとして生まれ変わろうとしています。大手通信企業のKDDIは、この旧工場跡地を取得して大規模なAIデータセンターを建設し、2025年度中の本格稼働を目指しています。本記事では、その計画の経緯、データセンターの規模・技術的特徴、投資額と地域経済への影響、そしてこのプロジェクトにおける株式会社データセクションの関与について、一次情報や信頼できる報道に基づき分かりやすく解説します。
計画の経緯:シャープ堺工場跡地とKDDIの基本合意まで
シャープ堺工場は2009年に稼働を開始した巨大な液晶パネル工場でしたが、市場環境の変化により生産停止に追い込まれていました。親会社である鴻海(Foxconn)は、この広大な工場跡地をデータセンター拠点に転用する計画を検討していたとも報じられています。こうした中で、日本国内で急速に高まる生成AI計算需要を受け、シャープ、KDDI、米国のサーバーメーカーSupermicro、AI分析企業データセクションの4社が協力し、アジア最大級のAIデータセンターを同跡地に建設する協議を開始することで2024年6月に合意しました。この協議ではKDDIがネットワーク構築・運用を担い、データセクションが運営支援を担当する役割分担も検討されました。
しかしその後、データセンター計画は通信大手による個別プロジェクトとして動き出します。実はシャープ堺工場跡地をめぐってはソフトバンクも別途協議を進めており、敷地全体の約6割(約44万㎡)に150メガワット規模のAIデータセンターを建設する基本合意が2024年6月に発表されました。ソフトバンクは2024年秋頃の着工、2025年中の稼働開始を目指し、将来的には受電容量400MW超まで拡張可能としています。一方、KDDIは残る敷地の一部を活用する形で計画を進め、2024年12月9日にシャープとの間で堺工場跡地にAIデータセンターを構築する基本合意書を締結しました。この合意により、シャープからKDDIへ土地・建屋・電源設備が譲渡されることが決まり、KDDIは2024年度中に改修工事に着手、2025年度中に本格稼働を目指すことになりました。シャープ側はこの資産売却によるアセットライト化で事業構造を強化しつつ、KDDIの迅速なデータセンター構築を支援するとしています。
基本合意の成立に伴い、当初4社で進めていた協議体制は終了しましたが、KDDIは引き続きSupermicroおよびデータセクションと連携してAIデータセンターの構築・運用を進めると表明されています。そして翌2025年4月4日、KDDIは正式にシャープ堺工場の土地・建物の売買契約を締結し、資産取得を完了しました。これにより計画は実行段階に入り、データセンター名も「大阪堺データセンター」と発表されています。
データセンターの規模・用途・技術的特徴
KDDIが堺で稼働させるAIデータセンターは、国内でも前例のない超大規模・高性能な施設となる見込みです。シャープから取得した敷地の正確な規模は公表されていませんが、少なくとも数十万平方メートル規模の土地と大容量電源インフラが確保されており、KDDIは「兆単位パラメータの大規模生成AIモデルを高速に開発できる」計算基盤を構築するとしています。報道によれば、このデータセンターには少なくとも1,000台以上のサーバが設置され、その多くが最新のGPUを搭載する見通しです。実際、KDDIはNVIDIA社の最先端GPUである「NVIDIA GB200 NVL72」をはじめ最新のGPU基盤を導入予定で、生成AIの大規模モデル開発を支える計画です。これは、現在各国で開発が進む数十億〜数兆パラメータ規模のAIモデル(例:ChatGPTやGoogleのGeminiなど)を日本国内で高速に訓練・提供できる計算環境を目指すものです。
技術的特徴としては、冷却と電力効率の先進性が挙げられます。大阪堺データセンターでは直接液冷と空冷を組み合わせたハイブリッド冷却方式を採用し、高発熱なGPUサーバ群の効率的な冷却に対応します。また消費電力削減のため最新の電源技術を導入し、使用する電力は再生可能エネルギー由来100%とする方針で、環境負荷低減とカーボンニュートラルに貢献する計画です。大規模データセンターは電力消費が莫大になるため、こうした取り組みはSDGsや自治体の環境目標にも合致するものです。
用途面では、この施設はKDDIの新たなビジネスプラットフォーム「WAKONX(ワコンクロス)」の中核を成すと位置づけられています。WAKONXとはKDDIが掲げる生成AI時代の事業ブランドで、同社はこのプラットフォームを通じてAIを活用したソリューションを企業に提供していく考えです。具体的に大阪堺データセンターでは、以下のようなサービス提供が想定されています。
- 汎用型AIサービス:幅広い業界の企業向けに、大規模言語モデルなどを活用した汎用的なAIサービスを提供
- 特化型AIサービス:製造業・流通業など特定業界の課題を解決するドメイン特化型AIソリューションを開発・提供
- AIプラットフォームサービス:AIモデルやAIアプリの開発者向けに、高性能計算リソースや開発環境をクラウド経由で提供
- GPUリソース提供サービス:社外の大学・研究機関や企業に対し、大規模GPU計算資源をオンデマンドで貸し出すサービス
要するに、本データセンターはKDDI自身の生成AI研究開発のみならず、国内の幅広いプレイヤー(企業から研究機関まで)が先端AI計算資源を利用できるオープンなハブとなることが期待されています。実際、先行するソフトバンクの計画でも「大学や研究機関、企業に広く提供していく」ことが謳われており、大阪・堺の地が日本のAIインフラ拠点として機能する展望が示されています。
投資額と経済的インパクト
このプロジェクトには巨額の投資が伴います。まず、KDDIによるシャープ堺工場資産の取得費用は100億円と報じられています。これは土地・建物・設備の購入額であり、さらに実際のデータセンター転用工事やサーバー設備導入には追加コストがかかります。KDDIは生成AI開発を支える計算基盤整備のため、今後4年間で1,000億円規模の投資を行う計画も明らかにしており、この大阪堺データセンターはその中核プロジェクトと位置付けられます。高性能GPU数千基や電源・冷却設備への投資、そして運用開始後の維持費用まで含めれば、総投資額は数百億円規模に達する可能性があります。
地域経済へのインパクトも非常に大きいと見込まれます。堺市はこの計画を含む複数の企業投資を誘致・支援しており、2024年度にはKDDIやソフトバンク等6件の企業立地計画を認定しました。6件合計の投資見込額は約1,744億円、5年間で約1,300人の雇用創出が見込まれています。KDDIのデータセンター新設は、その中でも先端ICT分野の雇用を生み出すものです。データセンター自体の運用要員はそれほど多くないかもしれませんが、生成AIサービスの開発・提供に関わる人材や、設備保守、セキュリティ、周辺サービス産業への波及効果を考えると、雇用・経済波及効果は無視できません。また、長年当地に根付いてきたシャープの巨大工場が閉鎖され遊休化するより、最先端分野に転用されることで地域の産業活性化につながると期待されています。堺市は独自の「イノベーション投資促進条例」に基づき、固定資産税などの減免優遇を用意して企業誘致を図っています。KDDIやソフトバンクのデータセンター計画はまさにその成功例であり、将来的には関連企業の集積や、研究開発拠点の誘致など二次的な経済効果も見込まれます。
さらに、本プロジェクトはシャープにとっても重要な意味を持ちます。シャープは堺工場の一部売却で得た資金を原資に事業構造改革(アセットライト戦略)を進め、自社のコア事業であるブランド製品開発に経営資源を集中させる計画です。同時に、データセンター構築に技術面で協力し、日本国内のAIインフラ整備を後押しする立場を取ります。結果として、シャープ・KDDI・ソフトバンクといった異業種大手が協調して日本のAI基盤を強化しつつ、それぞれの企業価値向上を図るウィンウィンの構図が生まれています。
データセクションの関与と今後の協業可能性
今回の計画で異彩を放っているのが、株式会社データセクションというAI技術企業の存在です。データセクションは2000年創業のベンチャー企業で、AIを活用したデータ解析事業を手掛けており、画像認識(不適切画像のフィルタリング等)やSNSデータ分析などに強みを持っています。KDDIはこの技術力に着目し、2018年にデータセクションと資本業務提携を締結して発行済株式の約18%を取得、以降共同で画像解析・ソーシャル分析ソリューションの開発に乗り出しました。つまりデータセクションはKDDIの戦略的パートナーであり、KDDIのサービス創出拠点「KDDI DIGITAL GATE」への参画などを通じて5GやIoT時代のAI活用を支援してきた実績があります。
このような背景から、堺のAIデータセンター構想にもデータセクションは早期から関与していました。前述の通り、2024年6月の協議開始合意時にはシャープ・KDDI・データセクションの3社で合弁会社を設立しデータセンターを共同で構築・運営する構想が示されています。その中でデータセクションは運営支援(オペレーション面のサポート)を担当する計画でした。最終的にシャープとKDDIの直接契約によるプロジェクト推進となった後も、KDDIは「データセクションともAIデータセンターの構築・運用に向け引き続き連携していく」と明言しています。これは、データセクションが正式なJVパートナーではなくなったとしても、技術協力会社として本計画に深く関わり続けることを意味します。
では具体的に、データセクションはどのように関与し得るのでしょうか。考えられる役割の一つは、データセンター上で展開するAIサービスの開発・運用支援です。KDDIが提供を計画している産業別ソリューションや汎用AIサービスにおいて、データセクションの持つ画像解析・データ分析のノウハウが活かされる可能性があります。例えば製造業向けの外観検査AIや、マーケティング向けのSNSトレンド分析AIといった分野で、同社が培ってきたアルゴリズムやプラットフォーム(「MLFlow」など)がWAKONX経由のサービスとして組み込まれることも考えられます。
またデータセクション自身、生成AIの波に乗って大規模言語モデルの開発やAIインフラ事業に乗り出す意向を示しており、「大阪・堺を皮切りにアジア最大級の次世代AIデータセンターを構築していく」とのビジョンを語っています。同社は2024年に海外企業とAI分野のジョイントベンチャーを設立したり、AIインフラファンド組成に動くなど資金・事業両面で積極策を打ち出しており、堺のデータセンター計画はその核となるプロジェクトです。
さらに、データセクションは米国Supermicro社とのパートナー関係も有しています。SupermicroはGPUサーバーなどAI計算向けハードウェアの大手であり、今回のデータセンターでもNVIDIA製の最新半導体やAIサーバーの調達を担う計画です。データセクションは自社単独で大規模設備を持つ体力はないものの、ハードウェア面ではSupermicro、通信インフラ面ではKDDIという強力なパートナーと組むことで、自社も含めたユーザーに最適なAI基盤を構築できる立場にあります。言い換えれば、データセクションは堺データセンターを自社サービス開発・提供のプラットフォームとして活用しつつ、KDDIやシャープと協調して国内AIビジネスエコシステムを拡大していくキープレイヤーと言えるかもしれません。
データセクションとKDDIの協業は今後も深化する可能性があります。KDDIは通信事業者としての強みを活かし、本データセンターと全国のネットワークを直結させて超低遅延・広帯域の計算サービスを展開できますし、将来的には日本発の大規模AIクラウド基盤として海外展開を視野に入れるかもしれません。
一方のデータセクションは、国内外の先端AI技術を取り込みつつ、自社の解析ソフトウェアをこのインフラ上でサービス化することで事業拡大を図れます。実際、株式市場ではKDDIとの協業強化が期待されるニュースに反応してデータセクション株が急騰する場面もありました。それだけ市場も、本計画におけるデータセクションの存在を重要視していると言えるでしょう。
おわりに
シャープ堺工場跡地で進むKDDIのAIデータセンター計画は、単なる設備投資を超えて日本の産業構造転換を象徴するプロジェクトです。メーカーの巨大工場跡が通信・ICT企業のAI拠点に生まれ変わり、そこにスタートアップ的なAI企業が絡んでイノベーションを起こす——この構図は、日本が直面するデジタル変革と新産業創出の縮図とも言えるでしょう。2025年度中の稼働開始に向け、具体的な工事や設備導入がこれから本格化します。
関西圏では他にもデータセンター建設が相次いでおり、国内データセンターへの投資規模は2028年には年間1兆円にも達すると予測する調査もあります。その中で大阪・堺のプロジェクトはひときわ大きな注目を集めており、アジア最大級のAIデータセンターがどのように日本のAI産業を牽引していくのか、今後の展開が期待されます。
★この記事は個人の株取引のメモであり、登場する銘柄は売買を推奨するものではありません。