銘柄研究:2025/7/24(木 )【注目株】太陽誘電(6976)業績動向と株価分析

昨年注目された銘柄のひとつに「太陽誘電」があります。理由はここでは割愛しますが、色々な要素が組み合わさって昨年上昇を演じました。その後は下落と停滞局面に入りましたが、狙っている人は多いのではないでしょうか。というのも業績は悪くないからです。

この記事ではその「太陽誘電」を改めて深堀し、その業績見通しや適正株価について考察していこうと思います。

目次

太陽誘電の注目点

太陽誘電株式会社は、積層セラミックコンデンサ(MLCC)を主力とし、インダクタ(コイル)や通信デバイスなども手掛ける電子部品メーカーです。

特にコンデンサ事業の比率が高いことが特徴で、スマートフォン向けをはじめ、自動車、データセンター、通信基地局など幅広い分野で同社製品が利用されています。

近年はスマホ市場の成熟や在庫調整の影響で業績に山谷がある一方、5G通信インフラや電気自動車(EV)など新たな成長分野向け需要に対応した高信頼性・大容量製品の開発に注力しています。株価は同業大手と比べ変動が大きい傾向がありますが、それだけに電子部品市況の動向や新分野での成長期待がダイレクトに反映されやすい点が投資家の注目点と言えるでしょう。

業績動向と決算見通し(2025年3月期第1四半期~通期)

2025年3月期(FY2025)の連結業績は、売上高3,414億円(前期比+5.8%)、営業利益105億円(同+15.2%)と増収増益となりました。主力製品の一つであるインダクタの需要が想定を上回り、2025年2月時点で会社が公表していた業績予想を上回る着地となっています。もっとも、経常利益は105億円(同-23.6%)に減少し、当期純利益は特別損失の影響もあって23億円(同-72.0%)と大幅減益となりました。第2四半期に独占禁止法関連損失約17億円、第4四半期に事業構造改善費用約3億円を計上したことが純利益を押し下げています。また、製品別ではスマートフォン向け通信モジュール等を含む複合デバイス事業が前年比34%減と落ち込み、スマホ市況低迷の影響が顕著でした。

一方、主力の積層セラミックコンデンサ(MLCC)事業は堅調な伸びを示しました。コンデンサ売上高は2,321億円(同+12.7%増)に達し、インダクタ(コイル)も615億円(同+10.8%増)と増収となりました。MLCCはノートPC・タブレットなどの情報機器や自動車、サーバー等の情報インフラ・産業機器向け、さらにはゲーム機やワイヤレスイヤホンといった民生機器向けまで幅広い用途で需要が底堅く、在庫調整下でも増収を確保しました。インダクタもDDR5世代への移行に伴いメモリモジュール向けを中心に、情報機器や通信インフラ向けで出荷が伸びています。一方で中国スマートフォン市場の低迷を背景に、複合デバイス事業の売上は230億円(同-34.2%)まで縮小し、アルミ電解コンデンサ等を含むその他事業も248億円(同-5.6%)と減少しました。

需要分野別の売上構成比をみると、同社は近年ポートフォリオのシフトを進めています。2025年3月期は、通信インフラ・産業機器向けが売上全体の20%(前期15%程度)、タブレット・PCなど情報機器向けも18%(同16%程度)に高まり、ともに構成比を拡大しました。一方で従来主力だったスマートフォン向け(特に中国向け)は構成比が31%から24%へ低下しており、地域別・用途別の需要バランスに変化が生じています。スマホ向けの落ち込みを他分野で補完できたことは好材料ですが、中国スマホ市場の先行き不透明感は依然懸念材料あり、今後も同市場動向には注意が必要です。

こうした中、2026年3月期(FY2026)の会社計画では、売上高は3,400億円程度(前期比横ばい)を見込み、営業利益は160億円(前期比+約50%、大幅増益)へ改善する計画です。スマホ向け低迷を織り込みつつも、高付加価値品の伸長や採算改善で収益力向上を図る考えです。配当は前期と同額の年間1株90円を維持する方針が示されました。さらに新たな株主還元策としてDOE(株主資本配当率)3.5%を導入し、従来の配当性向30%と併用する形で安定的な株主還元を目指す方針も表明しています。

会社計画策定にあたっては、事業環境のリスク要素も織り込まれています。例えば米中対立に伴う関税措置については、北米向け売上比率が6.5%と低いため直接影響は限定的としながらも、最終製品価格への転嫁による需要減少を間接的なリスクと捉えています。同社試算では、関税の影響による世界的な需要目減りで売上が約90億円押し下げられる可能性があるとし、予想に保守的な形で織り込んでいます。また、為替前提は足元の円安水準から大きく乖離しないレベルとしつつ、仮に為替が前期並み(1ドル=152円程度)の場合はコンデンサ売上+11%、インダクタ+5%と増勢が続く半面、複合デバイスは-27%と一段の減収を見込むなど、慎重な需要見通しを立てています。昨今、電子部品市場では在庫調整一巡により需要回復の兆しも見られますが、同社は外部環境の不確実性(為替変動、関税問題、中国景気など)を意識しつつ計画を策定している状況です。

FY2026は増益転換が予想されるものの、「どこまでリスクを織り込めているか」が業績達成の鍵になるでしょう。

EPS予想とPER評価、適正株価試算

現時点での業績予想に基づき、太陽誘電株のバリュエーションを整理します。会社側の2026年3月期業績予想をもとに試算される1株当たり利益(EPS)は約64円とみられ、これを前提とした予想PER(株価収益率)は現在40倍以上に達します。

一方、証券アナリストのコンセンサス予想では、今後12ヶ月の予想EPSは100円前後まで回復する見通しとなっており、こちらを用いると先行PERは30倍弱にという計算です。実績ベースのPBR(株価純資産倍率)は約1.0倍で、株価(直近2,500円台)は1株あたり純資産(約2,550円)とほぼ同水準に位置しています。これは前期の純利益急減によりROEが低下しているためですが、来期以降の利益回復に伴いROEが改善すれば、PBR水準の切り上がりも期待できる局面です。

では、適正株価の水準をPER観点から試算してみます。仮に太陽誘電の中長期的な適正PER水準を20倍程度と仮定し、コンセンサス並みのEPS100円を前提に計算すると、理論株価は約2,000円となります。成長期待を加味して25倍まで許容すると試算株価は約2,500円となり、これは現在の株価水準(2,500円前後)とほぼ一致します。逆に、業績回復が会社予想ライン(EPS64円程度)に留まった場合、仮にPER25倍を適用しても理論株価は1,600円程度にとどまる計算です。つまり現状の株価にはある程度先行き業績回復期待が織り込まれていると言え、今後さらなる株価上昇にはコンセンサス以上の業績改善や成長ストーリーが求められる一方、万一業績が期待外れに終われば下振れ余地もあることを示唆しています。

同業他社比較とヒストリカルPERレンジ

電子部品セクター内で太陽誘電を主要同業他社と比較すると、その規模と安定性の差がバリュエーションに表れています。例えば世界首位のMLCCメーカーである村田製作所(6981)は売上高が1.8兆円規模と桁違いに大きく、スマホから車載まで事業ポートフォリオも分散されています。村田製作所株は現在予想PER約19倍、PBR約1.6倍で推移しており、安定成長企業らしい水準です。TDK(6762)もインダクタやセラミック部品で競合関係にありますが、同社はセンサや二次電池など多角化事業を有するため単純比較は難しいものの、予想PERは18倍前後、PBRは約1.9倍となっています(いずれも2025年夏時点の市場予想ベース)。

これに対し太陽誘電は、売上高3千億円規模と中堅ながらコンデンサ比率が高いため業績変動がどうしても大きく、株価指標にも循環的な振れ幅が現れます。実際、過去のPERレンジを見ると、電子部品市況が好転している局面では30倍近くまで買われることもある一方、市況悪化時や業績低迷時には15倍前後まで低下するなど変動レンジは広めです。またPBRに関しても、リーマンショック後の低迷期(2009年前後)には0.5倍近くまで低下した一方、直近10年では1.5~2倍程度で推移した時期もありました。総じて、太陽誘電の株価バリュエーションは同業大手に比べ投資家センチメントの影響を受けやすい傾向があります。株価が割安に放置される局面では大胆に売り込まれがちである一方、将来の需要拡大に期待が高まる局面では一気に買われるという性質があり、これが中長期のヒストリカルレンジにも反映されています。

成長ドライバー(スマホ、5G、データセンター、自動車電子化など)

今後の太陽誘電の成長を牽引する主な需要分野として、以下のようなテーマが挙げられます。

スマートフォン(高機能化・5G化)

スマホ市場全体の成長は鈍化していますが、5G対応や高機能モデルへのシフトによって1台あたりに搭載される電子部品点数は増加傾向です。最新の高級スマートフォンでは約1,000個ものMLCCが使われるとされ、カメラやセンサーの増設、処理能力向上に伴いコンデンサや高周波部品の需要は底堅く推移しています。ただし、中国市場を中心に直近はスマホ需要が低迷しており、同社の複合デバイス事業に逆風となりました。今後は主要端末メーカーの新製品サイクルや買い替え需要の動向が、この分野の復調に欠かせません。

5G通信インフラ

次世代通信規格5Gの基地局や通信ネットワーク設備は、旧世代よりも多くの電子部品を必要とします。基地局など情報インフラ向けには、温度変化や長期間稼働に耐える高信頼性のコンデンサやコイルが大量に使われます。太陽誘電の大型・高容量なMLCCやインダクタは、基地局の電源回路や通信モジュールで重要な役割を果たします。各国で5G整備が進むにつれ、こうしたインフラ需要が同社のビジネスを下支えすると期待されます。

データセンター(クラウド・AI需要)

インターネットサービスやクラウドコンピューティングの普及、さらにはAI(人工知能)ブームに伴い、世界中でデータセンターへの投資が拡大しています。サーバーやストレージ機器の高性能化に伴い、電源系統にはより多くのコンデンサやインダクタが求められています。太陽誘電は2018年に業界最大級となる静電容量1000マイクロファラドの超大容量MLCCを開発・量産化するなど、電解コンデンサの領域に迫る技術革新を進めてきました。これによりサーバー向け電源回路でMLCCを採用する動きが広がれば、新たな需要創出につながります。またAI処理向けの**高速メモリモジュール(DDR5)**でもインダクタ需要が伸びており、データセンター関連は同社にとって重要な成長ドライバーです。

車載向け電子化(EV・自動運転)

自動車の電動化・電子化も電子部品需要を牽引する大型テーマです。電気自動車(EV)では1台あたり搭載されるMLCC数がスマホの約6倍(6,000個前後)に達するとされ、走行用バッテリーやインバーター、各種制御ユニットに大量のコンデンサが使われます。さらに先進運転支援システム(ADAS)や車載センサー、コネクテッドカー機能の拡充により、電子部品点数は今後も増加が見込まれます。太陽誘電は高信頼性が要求される車載グレード品の開発・供給に注力しており、売上全体に占める車載向け比率は年々高まっています。自動車メーカー各社の生産動向に短期的な影響は受けるものの、EVシフト・自動運転化という長期トレンドを背景に、中長期的な成長エンジンとして期待される分野です。

以上のように、スマホ以外にも5Gインフラやクラウド、車載といった新たな需要源が拡大していることは、太陽誘電にとってポジティブです。同社も積極的に設備投資を継続し、増大する需要に備える姿勢を示しています。今後これら成長分野でどれだけシェアを獲得できるかが、業績拡大のカギを握るでしょう。

2025年7月時点の世界スマートフォン市場動向:需要、販売台数推移と予測

2023年~2025年上半期の販売実績と需要トレンド

2023年の世界スマートフォン出荷台数は約11億7,000万台となり、前年比3.2%減と10年ぶりの低水準に落ち込みました。高インフレや経済的不透明感から買い替え需要が低迷し、特に中国市場の回復遅れが響きました。しかし2023年下半期から市場は底打ちし、第三四半期以降は前年比プラスに転じています。実際、2024年に入ると需要は持ち直し、2024年通年では世界出荷台数が前年比6.4%増の約12億4,000万台と2年ぶりに成長に転じました。各社が多価格帯モデル投入や積極的なプロモーション(無金利分割や下取り強化等)で需要喚起を図ったことが奏功し、低調だった市場に回復の勢いが生まれたと分析されています。

2024年前半の四半期別動向を見ると、1Q 2024は前年同期比+7.8%の2億8,940万台、2Q 2024も+6.5%の2億8,540万台と4四半期連続のプラス成長でした。ただし成長の主因は前年が低調だった反動であり、需要そのものは依然として慎重との指摘があります。直近の2025年前半も微増傾向が続き、1Q 2025は前年比1.5%増の3億490万台、2Q 2025も+1.0%の2億9,520万台と僅かながら拡大しました。ただし、地域ごとの不況やインフレ、高関税リスクなどマクロ要因による不確実性が依然残り、特に低価格帯の需要回復が鈍化しています。実際、中国では政府補助による販促(6月「618」セール等)にも関わらず期待ほど需要が伸びず、在庫整理にとどまったと報告されています。総じて2024年から市場は回復基調に入ったものの、そのペースは緩やかで、2025年上半期も慎重な拡大にとどまっている状況です。

2025年以降の販売予測と業界見通し(2026~2028年)

主要調査会社の見通しによれば、2025年以降も緩やかな成長が続くものの急回復には至らないと予想されています。IDCの予測では、2024年に+4.0%成長した後、2025年はさらに+2.3%の成長が見込まれ、その後2026~2028年も低い一桁台の成長率が続く見通しで、2023~2028年の年平均成長率は約2.3%とされています。このペースで推移すれば、2028年の年間出荷台数は13億台強と、過去ピーク(約15億台)には届かない水準ながら緩やかな右肩上がりとなります。実際、2023年の底打ち後にスマートフォン市場は「明確な回復軌道に入った」とIDCは評価しており、少なくとも減少トレンドは脱したと言えます。

もっとも足元の景気動向を受け、各社は短期予測を下方修正しています。IDCは2025年通年の世界出荷台数予測を当初の+2.3%から+0.6%(約12億5,000万台)に引き下げました。これは世界各地で続く経済の不確実性(インフレや失業率の高止まり、関税の変動など)がスマホ需要を押さえ込むとみられるためです。

例えば最大市場の中国は政府の補助金策で2025年は+3%程度の小幅成長が見込まれるものの、米中対立による先行き不安や競合Huawei復調でAppleの販売が押さえ込まれ、米国市場も+1.9%成長に留まると予測されています。各予測とも緩やかな成長シナリオを描く一方、経済情勢や地政学リスク次第で市場は大きく変動し得ると注意喚起しています。

したがって2026~2028年にかけても安定成長は期待されるものの、世界経済の先行き次第では需要見通しに下振れリスクが残る状況です。

主要スマートフォンメーカーの販売動向(Apple、Samsung他)

世界市場は依然としてAppleとSamsungの二大メーカーが牽引していますが、近年は中国勢の追い上げが激化しています。特に2023年はAppleが初めて年間出荷台数でSamsungを逆転しシェア約20%で首位となりました。以下、主要メーカーの動向をまとめます。

Apple(iPhone)
2023年に前年比+3.7%の2億3,460万台を出荷し、市場シェア20.1%で初の世界首位に立ちました。高価格にも関わらず堅調なプレミアム需要を取り込み、特に2023年Q4には世界シェア24%と過去最高を記録しています。ただし中国市場ではHuawei復活や安価な地場ブランドの台頭で苦戦し、一部モデルで最大5%の値下げ販売に踏み切るなどテコ入れを図っています。Apple製品は高価格帯中心のため販売台数シェアは2割前後ですが、利益シェアでは他社を圧倒しています。

Samsung
長年世界首位を維持してきましたが、2023年は出荷台数が前年比▲13.6%と大きく落ち込み、シェア19.4%で2位となりました。特に低価格帯で中国メーカーにシェアを奪われたことが響いています。収益性重視で中高価格モデル(Galaxy SやAシリーズ)に注力する戦略を取っていますが、その分エントリー市場での存在感低下が課題です。しかし2024年以降は新モデル投入で持ち直し、たとえば2024年Q2には新Galaxy A36/A56のヒットにより前年同期比+7.9%の出荷増を達成しシェア首位を維持しました。引き続きフラッグシップ機の販売力と中価格帯のテコ入れでシェア奪回を図っています。

Xiaomi(小米科技)
中国勢トップのシャオミは2023年通年シェア約12.5%で世界3位を維持しました。前年比では若干の増減に留まりましたが、下半期から新興国を中心に勢いを取り戻し、2023年Q3~Q4には二桁%の出荷増を記録しています。中国・インド・東南アジアなどでミッドレンジ~ローエンドの幅広い製品展開が奏功し、特にインドではシェア1位となる四半期もありました。引き続き低価格帯でのボリューム確保策によって弱い市場環境下でも健闘しています。

OPPO(一加を含む)
OPPOは2023年シェア約8~9%で世界4位グループにつけました(一部統計ではvivoと接戦)。中国市場減速の逆風下にありますが、海外展開を強化し2024年Q2には前年比+1.8%の微増ながら中国国外での販売拡大に成功しました。OnePlusブランドなどを通じた欧州・インド市場攻略にも注力しています。親会社のBBKエレクトロニクス傘下にはvivoやRealmeもあり、グループ全体では依然世界有数のスマホ供給勢力です。

vivo
vivoは中国・インドで堅調な売上を維持しつつ、2024年Q2時点で世界シェア約9.1%を記録しています。カメラ性能や音響など特徴ある機能で差別化し、新興市場でのブランド力向上を図っています。2023年は出荷微減でしたが、新モデル攻勢により下半期に回復傾向です。OPPO同様に親会社BBKのリソースを活かしつつ、オンライン販売にも強みを持っています。

Transsion Holdings
中国の新興メーカーTranssion(ブランド:Tecno, itel, Infinix)は2023年に世界シェア8.1%まで躍進し、トップ5メーカーに食い込みました。特にサハラ以南アフリカや南アジアなど新興国市場で圧倒的な強さを持ち、シンプルな機能と低価格を武器に2023年はトップ5中唯一Appleと並び出荷を増やした企業です。同社の躍進により、2023年はvivoを抑えて世界4位タイとなったとの分析もありますf。今後も未開拓市場の需要を取り込みつつ、より収益性の高い中価格帯への進出も狙っています。

こうした主要各社の競争は激化しており、ハイエンドとローエンドで「価格帯の二極化」が進んでいます。AppleとSamsungがプレミアム市場(ハイエンド)で収益を伸ばす一方、中国メーカー各社は需要が低迷する中でもボリュームシェア獲得を狙い低価格帯モデルの出荷を増やしています。その結果、以前は主力だった中価格帯市場の比率が縮小しつつあり、各社の戦略も高価格帯重視か低価格帯重視かに分かれる傾向があります。また2023年はAppleとTranssion以外の主要メーカーが販売台数を落とした**のに対し、2024年には各社とも前年比プラスに転じています。特にHuawei(中国)やHONORなど、一時低迷したブランドも新製品投入で巻き返しを見せており、今後シェア争いがさらに熾烈になることが予想されます。

AndroidとiOSのシェアとプラットフォーム競争

スマートフォン市場のOSシェアは、Android陣営とApple (iOS) の二大プラットフォームによって占められています。全世界の新規販売台数ベースでは、おおよそAndroid搭載機種が8割、iPhone (iOS) が2割という比率が近年続いています。2023年はAppleの販売好調でiOS比率がやや上昇しましたが、それでも依然多数は様々なメーカーから供給されるAndroidスマホです。一方、利用ベース(稼働端末シェア)で見ると低価格機が行き渡る新興国を中心にAndroidが優勢で、2025年時点で**Android約74%、iOS約25%**程度との調査もあります。特に価格帯の制約から、北米や日本など購買力の高い市場ではiPhoneの存在感が大きい一方、インドやアフリカではAndroid(特に安価な機種)が事実上独占しています。

今後のプラットフォーム競争の見通しとして、Android陣営の方が成長率で上回るとの予測もあります。IDCによれば2024年のOS別出荷はAndroidが前年比+4.8%と伸長するのに対し、iOSは+0.7%程度と微増に留まる見通しです。これは2022~23年にかけてiPhoneが相対的に堅調だった反動と、中国市場での競争激化によるApple成長鈍化が背景にあります。ただしAppleも将来的にAI機能などで革新的な戦略を打ち出せば需要を再加速できる可能性があり、市場シェアは各社のイノベーション動向に左右される余地があります。いずれにせよ、Android対iOSの二極体制は当面続くとみられ、市場全体の成熟化に伴い両プラットフォーム間の既存ユーザー囲い込み競争が一段と重要になるでしょう。

地域別の市場傾向(北米、欧州、アジア他)

スマートフォン需要の動向は地域によって濃淡が見られます。成熟市場と新興市場で明暗が分かれており、2023年は北米・欧州など先進国で出荷台数が前年割れとなる一方、インドや中東・アフリカなど一部新興市場では成長を維持しました。

実際2023年Q2時点で、中東・アフリカ(MEA)は前年同期比プラスを確保した唯一の地域だったのに対し、北米は最大の落ち込みを記録しています。欧州もウクライナ情勢やインフレの影響で需要低迷が続き、2023年通年で地域全体のスマホ出荷は大きく減少しました。一方、インドを筆頭とするアジア新興国やアフリカでは堅調な需要が市場を下支えしています。インド市場は2023~2028年に年平均6.3%成長するとの予測もあり、世界最大の未開拓需要を秘めた成長エンジンと位置付けられています。インドや東南アジアでは低~中価格帯のAndroid機種が牽引役であり、現地生産の促進や通信インフラ整備も相まってスマホ普及が加速しています。

中国は依然として世界最大のスマートフォン市場ですが、その需要動向は不安定です。コロナ禍後の景気減速や米中対立に伴う先行き不透明感から、2023年の中国スマホ出荷台数は低迷しました。政府主導の購買補助金や大型セール(618など)でテコ入れが図られたものの効果は限定的で、在庫消化が中心となったようです。ただ2024年には緩やかに回復し始めており、IDCは2025年の中国市場は前年比+3%程度の成長に持ち直すと予測しています。中国ではHuaweiが高性能独自チップ機で復活するなど特殊要因もありますが、同国の動向は世界市場全体の成長可否を左右する重要なファクターです。

北米市場(特に米国)はスマホの世帯浸透率が非常に高く、需要の大半が買い替え需要です。2022~2023年はインフレによる消費者心理悪化で買い控えが発生し出荷が減少しましたが、通信キャリアによる端末割引や下取り補助が需要下支えとなっています。IDCは米国の2025年出荷台数を前年比+1.9%成長と予測しましたが、これは当初見通し(+3.3%)から下方修正された数字であり、依然として慎重な消費マインドがうかがえます。北米はApple比率が特に高い市場でもあり、ハイエンド需要は底堅いものの全体の数量成長は限定的とみられます。

西欧も北米同様に高い普及率ゆえ成長余地は小さく、近年は買い替えサイクル長期化で需要が伸び悩んでいます。2022年のエネルギー価格高騰や景気不振も影響し、一時は二桁%の出荷減となりました。2024年は各国でインフレが和らぎつつあり下げ止まりの兆しはありますが、今後も横ばい圏の推移が予想されます。対照的に中南米やアフリカは携帯電話からスマートフォンへの切り替え需要が残っており、一部地域では年率二桁成長も見込まれています。特にサハラ以南アフリカでは前述のTranssionの低価格スマホが市場を席巻しており、同地域のスマホ普及率向上が世界需要を底上げする重要な要因となっています。このように、地域別に見ると新興国が伸び、成熟国は停滞という構図が鮮明になっています。各メーカーも地域戦略を明確に分けており、今後もインド・東南アジア・アフリカといった成長市場の取り込みが業界の鍵となるでしょう。

新技術やトレンドの影響(5G、AI搭載スマホ、折りたたみ端末、サステナビリティ)

スマートフォン市場では技術トレンドが需要に大きな影響を与えています。主なトピックである5G、AI、折りたたみ端末、そしてサステナビリティ(持続可能性)それぞれについて最新動向を整理します。

5G普及の波及効果
5G(第5世代移動通信)は依然として重要な買い替え促進要因です。先進国市場では2020~21年にかけて5G対応機種への置き換え需要がピークを迎えましたが、新興国ではこれから本格化する地域もあります。2024年の市場回復も、各国で進む4G→5Gへの移行が下支えしたとされています。すでに世界の主要メーカーはフラッグシップからミッドレンジまで5G対応を進めており、低価格帯にも5Gスマホが浸透しつつあります。5Gは高性能チップ搭載やバッテリー持続性向上など端末スペック全般の底上げにも寄与しており、消費者の買い替え価値を高める要因となっています。一方、5G普及が一巡しつつある地域では、次なる差別化要素が求められており、業界では「ポスト5G」のキラーアプリ探しが課題となっています。

AI搭載スマホの台頭
生成AI(Generative AI)ブームを背景に、AI機能を前面に打ち出した「AIスマートフォン」が新たなトレンドとなっています。例えばカメラの高度なAI画像処理、AIアシスタントによるユーザー体験向上などが各社フラッグシップの売りとなっています。IDCによると、2024年には「次世代AIスマホ」が2億3,400万台出荷に達し、世界市場の19%を占める見通しです。さらに今後数年で急拡大し、2028年にはAIスマホ比率が54%(台数ベース約9億1,200万台)に達するとの予測もあります。Samsungは中価格帯の新モデルにもAIカメラ機能を搭載し店頭での訴求に成功、売上増につなげています。こうした流れから、メーカー各社は折りたたみ機能よりAI機能へと研究開発の重点を移しつつあるとも言われます。実際、2023年後半以降に登場した主要モデルの多くが「AIプロセッサ搭載」や「オンデバイスAI対応」を謳っており、2025年には出荷されるスマホの80%が何らかの端末AI機能を備えるとの予測もあります。AIはスマホの使い勝手を飛躍的に向上させるだけでなく、買い替え需要そのものを刺激する新たな原動力として期待されています。

折りたたみスマホの現状
ディスプレイ折りたたみ型のスマートフォン(フォルダブルフォン)は、SamsungやHuaweiを中心にここ数年投入が相次ぎました。技術革新として注目を集めたものの、消費者受けは当初期待ほど大きくなく、市場全体に占める比率は依然数%以下のニッチ市場に留まっています。しかしながら着実に改良が進み故障リスクや厚み・重量の課題も改善されつつあるため、中長期的には成長余地が見込まれます。ある調査では折りたたみスマホ市場は2023年から2033年に年平均25.7%という高成長率が予想されています。実際2023年は前年より多い約1,400万台程度の折りたたみ機種が出荷され(全体の1%弱)、2024年もさらに増加が見込まれています。とはいえ折りたたみ機種は高価で一般化には時間を要するため、メーカーの戦略も「折りたたみ一辺倒」からAIや他の革新技術へシフトし始めています。当面、折りたたみモデルはSamsungのGalaxy Zシリーズなどハイエンド中心に展開され、市場全体への影響は限定的ですが、技術の成熟に伴い今後5年でミッドレンジ帯にも波及する可能性があります。

サステナビリティ(持続可能性)への対応
環境意識の高まりと規制強化により、スマートフォンのサステナビリティが重要なテーマとなっています。欧州連合は充電端子の統一規格(USB-C)義務付けや、将来的にバッテリー交換容易化の要求など環境規制を強めており、メーカー各社もこれに対応した製品改良を進めています。実際、最近のフラッグシップモデルでは再生素材(リサイクルプラスチックやアルミ)の使用、梱包から充電器同梱廃止による廃棄物削減、ソフトウェアアップデート期間延長による端末寿命の延伸など、持続可能性を意識した取り組みが一般化しました。消費者側の意識変化もあり、長く使える耐久性や修理のしやすさを製品選定の基準とする動きも広がっています。例えばフェアフォン(Fairphone)のようにモジュール式でユーザー自ら部品交換できる機種も注目を集めています。調査によれば「修理可能で長持ちするスマホ」への需要増加は今後の市場トレンドの一つとされ、各社とも環境ブランドイメージ向上を図りつつ持続可能なビジネスモデルへの転換を模索しています。

世界経済・サプライチェーンなどマクロ環境の影響

世界スマートフォン市場はマクロ経済や供給網の状況に大きく左右される面があります。まず、近年の高インフレ・高金利や景気減速はスマホ需要に直接的な逆風となりました。所得の実質目減りや生活必需品価格の上昇により、消費者は端末の買い替えを先送りしがちで、「スマホの優先順位が下がっている」状況と指摘されています。実際2022~2023年にかけて多くの国でスマホ販売が減少したのは、こうした可処分所得圧迫と将来不安による需要冷え込みが主因でした。特に新興国では通貨安や失業率上昇も重なり、ローエンド市場の落ち込みが顕著だったと報告されています。一方で2024年以降はインフレ率の低下や景気刺激策により徐々に消費マインドが改善しつつあり、市場回復を支える追い風となっています。

サプライチェーン面では、パンデミック期の半導体不足や物流停滞といった課題は徐々に緩和しましたが、地政学リスクによる供給網再編が進行中です。米中対立の長期化を受け、米政府は中国製スマホへの追加関税や輸出規制を検討しており、メーカー各社はリスク分散の対応を迫られています。IDCは「米国向けスマホに20~30%の関税上乗せ」が現実になれば米市場の需要見通しに深刻な下振れリスクをもたらすと警告しています。こうした中、中国に生産拠点を集中してきたAppleや各中国系メーカーは、インドやベトナムへの生産移転を加速しています。

インドは政府の製造奨励策もありiPhoneやGalaxyの現地生産が拡大、ベトナムも部品調達拠点として重要性を増しています。サプライチェーンの地域分散は一朝一夕には進みませんが、中長期的にはスマホ生産の地図を書き換える可能性があり、各社とも調達先や組立工場の多元化戦略を打ち出しています。

また、為替相場の変動も収益と価格戦略に影響します。新興国通貨の下落局面ではスマホ輸入価格が上昇し販売減速につながるケースがあり、メーカーは為替ヘッジや柔軟な価格設定で対応を迫られます。加えて、ウクライナ紛争に起因するエネルギー価格高騰や物流コスト増もデバイス価格を押し上げ、需要にマイナス要因となりました。こうしたマクロ環境の変動に対し、各メーカーは在庫調整や販促タイミングの調整、製品ポートフォリオの見直しなどで乗り切ろうとしています。

幸い2024年には市場が持ち直し、為替・インフレなど外部環境の悪化を跳ね返す「スマホ市場のレジリエンス(復元力)」も示されました。もっとも先行きの不透明感は拭えず、戦争・景気後退・貿易摩擦といったリスク要因が再燃すれば、再び需要減退もあり得る状況です。各社・各国はこうしたシナリオも視野に入れ、地政学的リスクの高まりに備えた調達戦略や市場戦略を強化しています。

以上のように、2025年7月時点でのスマートフォン市場は緩やかな回復基調にありますが、その先行きは新技術の進展とともに世界経済や地政学的環境にも大きく依存しています。主要各社はAI時代を見据えた競争力強化と同時に、サステナブルな市場成長を目指す局面に入っています。今後の数年間、スマートフォン業界は需要の地域格差や技術トレンド、新たな外的リスクへの対応を軸に変革を続けていくことでしょう。

太陽誘電の総合評価と投資判断の視点

太陽誘電の現状を総合すると、足元ではスマートフォン市場低迷の逆風を受けつつも、データセンターや車載向けなど次の成長領域へのシフトが着実に進んでいるように見受けられます。2025年3月期は減益決算となったものの、在庫調整の長期化や特殊要因を吸収しつつ増収・営業増益を確保した点は評価できます。また、配当維持に加えDOE導入による株主還元強化は、経営陣の株主意識の高さを示すものと言えます。

一方で、投資判断の難しさも併存しています。株価水準を見ると、前述のとおり既に将来の利益回復を織り込んだ水準にあり、決して割安感があるわけではありません。PERやPBRからは同業大手に比べやや割高にも映り、短期的なリターンを求める投資には慎重さが求められます。特にスマートフォン需要の回復時期や、中国経済・地政学リスク(対中関税措置など)の行方によっては、業績が再度予想を下振れし株価が調整する可能性も否定できません。また、電子部品業界は海外勢との競争も激しく、中国メーカーの台頭による市況変動にも注意が必要です。

しかしながら、中長期の視点では、同社が注力する車載・5G・データセンターといった分野は構造的な成長が見込める領域です。太陽誘電は高付加価値製品に経営資源を振り向け、収益力の改善余地を秘めています。仮に会社計画以上の業績拡大(例えばコンセンサス並みの利益回復)が実現すれば、株価の一段高も期待できるでしょう。その際は低水準にあるPBRが切り上がり、株価評価が見直される可能性があります。

太陽誘電は電子部品セクターの中で高い成長ポテンシャルとボラティリティを併せ持つ銘柄です。現在の株価水準は決して割安とは言えませんが、将来の業績拡大が確認されればさらなる評価余地も生まれるのではないかと考えています。

チャート的には月足ベースで近々一旦底を打ち、反転上昇を始めたように見えなくもありません。慎重な立ち回りは必須だと思いますが、今後の上昇に、個人的には強く期待してしまいます。

という訳で個人的にも買っているこの銘柄。今後の上昇を期待しています。ターゲットプライスは不明です(汗)



★この記事は個人の株取引のメモであり、登場する銘柄は売買を推奨するものではありません。

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