トランプ関税が8月7日発効で大統領署名されたというニュースが今朝出ました。関税15%は既に決まっていたことなので、このこと自体はマーケットは織り込んでいるように見えます。この関税は日本経済の2026年度下期業績に暗い影を落とすことになると思います。セクターによって強弱はあると思いますが・・・。
一方、今回のトランプ関税は日本からアメリカへの80兆円投資もセットで進んでいる話です。その内容は米や農産物、自動車半導体など多岐にわたりますが、恐らく一番大きなインパクトになるのがアラスカの油田&LNG開発になると考えています。
過去記事でトランプ政権によるアラスカ開発の概要はまとめましたが、日本政府としても関わることになるアラスカ開発は、資源がない日本にとって福音になる可能性も秘めており、あながち悪い話ばかりではないのではないかと思っています。

アラスカ開発には当然日本企業も深くかかわることになるわけで、その企業は政府を後ろ盾にした投資に基づいて事業自体をオペレーションする立ち位置になります。つまりある意味この案件に関わる企業は国策案件に関わることになるわけで、業績的にも大きなインパクトが見込めるのではないかと期待できます。
ではいったいどのあたりが関わることになるのか?まだ推測の域を超えませんが、商社各社に加え、日揮は個人的に本線。その他千代田化工、場合によっては東洋エンジなど、色々な候補が上がってくると思います。
恐らくスタートすれば息の長い案件にもなるので、株価的にも大きなカタリストになる可能性を感じています。
この記事では日揮について少し掘り下げてみようと思います。
1. 財務実績の推移と収益構造評価
日揮ホールディングスは2022年3月期から売上高は2期連続で大幅増収となり、2025年3月期には8,580億円に達しましたが、一方で利益面は変動が激しく、2023年3月期以外は最終赤字に陥っています。これにより、増収が必ずしも利益に結びついていない収益構造上の課題が浮き彫りになっています。例えば2024年3月期は売上高8,326億円(前期比+37%)ながら-78億円の純損失を計上し、2025年3月期も純利益-3.98億円とほぼ収支トントンの状況でした。
この収益悪化の背景として、主力事業であるプラントEPC(総合エンジニアリング)部門の採算悪化が指摘できます。実際、2024年3月期は総合エンジ部門で営業損失221億円を計上し、2025年3月期も同部門は146億円の赤字でした。一方、機能材製造部門は安定して黒字(同期間の営業利益72~82億円)を維持しており、プラント案件におけるコスト超過や一過性損失(例:特別損失計上や海外プロジェクトの減損等)の影響が全社業績を大きく左右したと考えられます。実際、ロシア向け案件に関連した減損やコロナ禍での工期遅延コスト計上などにより、2022年3月期と2024年3月期に数百億円規模の特別損失が発生したことが業績を押し下げました。このように、日揮の業績推移は大型案件の採算に大きく依存しており、利益率の安定確保が課題となっています。
2. アナリスト予想と最新レーティング動向
株式市場における日揮株の評価は総じて慎重(中立)です。金融情報サイトのコンセンサスによれば、アナリストの投資判断は「中立」が多数を占め、直近の目標株価の平均値はおよそ1,316円で現在の株価水準と近い水準です。
一部には1,500円前後の目標株価を提示する強気シナリオも見られますが、概ね市場予想は業績回復ペースに見合った適正水準は1,300円台との見方です。実際、主要証券各社のレーティングでも「ホールド(中立)」継続が多く、現状では強い「買い」推奨は限定的です。
もっとも、今後の業績改善が鮮明となれば評価も変わり得ます。市場予想では2026年3月期の純利益は150億円程度までの大幅黒字転換が見込まれており、これが達成されれば一株利益(EPS)は50~60円台に回復する計算です。
アナリスト予想の達成可否や、後述する大型案件の受注可能性などがレーティング引き上げのカギとなるでしょう。
3. 適正株価の算出:PER・PBR・DCFによる評価
適正株価の評価にあたって、PERやPBRなど代表的な指標とDCF法の試算結果を総合的に検討します。
PER(株価収益率)による評価
日揮の現在の予想PERは約20倍程度で、同業他社(プラント建設業界)の平均的なPER水準(おおむね10~15倍台)に比べるとやや割高です。しかしこれは直近の業績低迷でEPSが低いためであり、今後予想どおり年間150億円規模の純利益(EPS約60円前後)を安定的に稼げるようになれば、PER15~20倍を適用して900~1,200円程度の株価水準が妥当とみられます。一方、さらなる収益拡大(EPS100円超)が実現すれば1,500~2,000円程度までPER水準で評価余地が広がります。
PBR(株価純資産倍率)による評価
日揮の直近期のPBRは約0.8倍であり、解散価値(純資産)に対して株価が2割程度割安となっています。これは過去の同社PBRレンジ(0.4~2.8倍)でも下限に近い水準です。仮に標準的なPBR1倍(直近期の1株純資産約1,504円)まで評価されると1,500円前後が適正株価となります。また、安定黒字化により自己資本利益率(ROE)が向上すれば、PBR1倍超えも十分に考えられ、その場合1,800円程度まで株価水準が是正されても不自然ではありません。
DCF(割引キャッシュフロー)による評価
将来のキャッシュフロー創出力から評価するDCF法では、独立系分析による試算として1株あたり約1,883円という結果もあります。この試算では現在の株価1,347円に対しておよそ28%の割安との分析が示されており、日揮の中長期的な収益力を考慮すれば市場価格には上昇余地があることを示唆しています。ただし、このDCF評価では将来の業績回復シナリオを織り込んでいるため、前提どおり収益改善が進むかが重要です。
以上を総合すると、現時点の適正株価は概ね1,400~1,600円程度と推定されます。これはPBR1倍水準(約1,500円)を中心に、DCFの強気シナリオ(1,800円弱)も勘案したレンジです。
現在の株価水準(1,300円前後)はこのレンジ下限をやや下回っており、やや割安との評価になります。もっとも、今後の業績回復の実現度や、次章で述べる大型案件の受注可能性によって適正株価レンジも動的に変化すると考えられます。
4. トランプ政権下(2025年)のアラスカ開発動向
2025年に再登場したトランプ政権の下、米国アラスカ州における資源開発プロジェクトが再び活発化しています。アメリカ国内および現地アラスカの主要メディア報道から、その動向と主要案件を以下に整理します。
以上のように、トランプ政権下では「掘れるものは掘る」方針でアラスカのエネルギー・資源開発が押し進められている状況です。
特にウィロー油田とアラスカLNGはその中核をなすプロジェクトであり、前者は原油生産量の押上げによる米国エネルギー安全保障強化、後者は対アジア輸出拡大による地政学的利益を狙った国家的プロジェクトと言えます。
アラスカLNGについては州知事が「世界最大級の未開発ガス田を活用し、日本や韓国など同盟国のエネルギー需要に応える」と発信するなど、政治的支援も強まっています。もっとも、実現には巨額の民間投資確保と国際協調が不可欠であり、今後の進展を注視する必要があります。
5. 日揮が関与する可能性と業績・株価への影響
上述のアラスカ大型案件群のうち、日揮が関与し得ると考えられるのは主に「アラスカLNGプロジェクト」です。
ウィロー油田開発は既に主要部分を石油メジャー(ConocoPhillips)とその契約業者が担っており、日揮のような海外EPC企業が新規参画する余地は限定的です。またアンブラー道路やペブル鉱山といった鉱物系プロジェクトも、建設工事自体は土木主体で日揮のコア事業とはやや趣を異にします。その点、アラスカLNGプロジェクトは日揮の得意とする大規模プラントEPC(液化天然ガスプラント建設)分野であり、受注獲得のチャンスが存在します。
実際、日揮は過去に世界各地で多数のLNGプラントを建設してきた実績があり、同規模のプロジェクトであれば国際ジョイントベンチャーの一角を担う有力候補です。仮にアラスカLNG(総事業費約6兆円)の液化プラント建設部分を日揮が受注できれば、受注額は兆円単位となり得ます。
例えば事業費のうちプラント建設費を約半分の3兆円(約300億ドル)と見積もり、そのうち日揮が1/2を担当すると仮定すると1.5兆円規模(=15,000億円)の受注です。これは現在の日揮の年間売上高8,500億円の約2年分に相当し、仮に工期5年で進行すると単純計算で年間3,000億円の売上増加につながる規模です。
利益面でもEPC案件の利益率を5%程度とすれば、年間150億円の営業利益押し上げ要因となります。日揮の会社計画(2026年3月期純利益予想230億円)と比較すると、さらに約6割増の利益インパクトをもたらし得る計算です。実現すれば業績は一変し、株価に対しても大きなプラス材料となるでしょう。
もっとも、これらはあくまで最大想定シナリオです。実際には国際コンソーシアムでの分担や競合他社との受注競争もあり、日揮がどの程度の範囲を受注できるかは不透明です。また大型プロジェクト特有の**リスク(投資最終判断の遅延、中止の可能性や、受注後のコスト増による採算悪化リスク)も織り込む必要があります。しかしながら、市場はこうした「アラスカ案件による成長オプション」**に期待しており、日揮株の評価にも一定のプレミアムを与える可能性があります。
以上を踏まえ、日揮の適正株価レンジ(1,400~1,600円前後)に対し、アラスカLNG受注が現実味を帯びた場合にはさらなる上振れ余地が生まれます。
具体的には、受注成功時には業績予想の大幅な上方修正が見込まれるため、適正株価レンジも20~30%程度切り上がり1,800~2,000円程度を目指す展開もあり得ます。反対に、案件不成立や遅延となれば期待分が剥落し株価の調整要因となり得る点には注意が必要です。
個人的には子供の頃見たCMソングを今も覚えていたりして子供のころから名前を憶えている会社です。
トランプ関税による今期下期業績悪化を予想している中で、アラスカ案件の香りがする企業には先行して資金流入が起こる可能性に期待しています。
昨日の放電精密の突然の急騰など、LNG絡みでマーケットが動き出している気がしているのは私だけでしょうか。
さて、もしかしたら激アツ確変モードに入りつつあるのかもしれないLNGセクターが、今後どうなっていくのか?個人的に大変楽しみしています。
私はもちろん日揮、買ってます。
★この記事は個人の株取引のメモであり、登場する銘柄は売買を推奨するものではありません。




