銘柄研究:2025/8/7(木)【注目株】”千代田化工建設”に関するまとめ

トランプ関税の着地がスムーズに進んでいないようです。日米で意見の相違があるとか?「なんじゃそりゃ」ですが、早くここは収束してほしいところです。

また日本からの80兆円投資に関する見解の相違もあるとか?80兆円もの巨額資金をア日本にメリットが提示されないままアメリカが自由に使えるとかありえないと思うのですが・・・でもトランプさんなのでどういう話になっていくのか先が見えませんよね。

個人的にはアラスカLNG油田開発がどう進展していくのかが、今年後半~来年にかけて激熱案件になるのではないかと見守っています。



そんな中で、LNGプラントで実績があるのは日揮ともう1社、「千代田化工」があります。

直近では8/4に決算発表がありました。

2026年3月期・第1四半期・業績ハイライト(速報による内容)

  • 売上高:904.6億円(前年同期比−22.7%)
  • 経常利益:70.3億円(前年同期比+28.3%)、通期計画190億円に対して進捗率37.0%
  • 純利益(当期純利益):約63.7億円(前年同期比+58.6%)
  • EPS(一株当たり利益):22.57円 → 24.59円(前年同期は13.48円)

収益性

  • 売上営業利益率は前年同期の5.5% → 今回5.6%とほぼ横ばい

決算説明会 質疑応答内容

  • 完成工事総利益率は「10.4%」、通期計画の9.2%を上回る水準。昨年と違い一過性要因はなく、実力ベースの数字であるとの回答あり

2025年3月期で黒転し、今期も順調な立ち上がりに見えますよね。完成工事総利益率の改善も確認されており、安定した収益構造への変化が期待できそうです。

この記事ではその「千代田化工」について少し掘り下げてみようと思います。

目次

1. 過去3年間の決算動向と中期経営計画のまとめ

業績の推移(直近3期)

千代田化工は2019年度に巨額損失で債務超過に陥ったものの、三菱商事などの支援で再建に着手しました。しかし直近でも業績は大型案件の採算に左右され、2021年度に豪州LNG案件で約126億円の赤字、2023年度にも米国LNG案件で約158億円の赤字を計上し、複数年で最終赤字となりました。その結果、2024年3月期(前期)は売上高約5,069億円(推定)、営業損失150億円、当期純損失158億円と大幅赤字でした。

一方、2025年3月期(直近期)は売上高4,569億円(前期比▲9.7%)に減収でしたが、営業利益244億円(前期は150億円の赤字)と黒字転換し、親会社株主に帰属する当期純利益も269億円(前期は158億円の赤字)となり大幅な黒字回復を果たしました。主力のエンジニアリング事業ではカタール・米国のLNGプラント案件や国内LNG受入基地工事などが順調に進捗し、医薬・バッテリー関連設備の案件も堅調に推移したことが寄与しました。財務面では自己資本比率こそ5.1%と依然低いものの(前期1.1%)、有利子負債は236億円に留まり当期純利益の範囲内に収まる水準まで改善しています。

2019年の経営危機以降、三菱商事からの優先株700億円の資本注入と900億円の融資枠、三菱UFJ銀行の劣後ローン200億円という総額1,800億円の金融支援を受けて再建に取り組んできた経緯があり、その成果として巨額損失案件の処理をほぼ完了しつつある状況です。もっとも業績が大型案件一件で大きく振れる収益構造には課題が残り、安定収益基盤の構築が経営上の最重要テーマとなっています。

中期経営計画「経営計画2025」のポイント

千代田化工は2025年度から2027年度を対象とする新中期経営計画『経営計画2025』を策定し、持続的成長に向けた「収益の安定化と多様化」を掲げています。同計画では「自己変革」をテーマに、これまで依存してきた大型LNG案件の一括請負(LSTK)による高ボラティリティ事業モデルから脱却する方針を示しています。

具体的には、海外では大型案件への過度な依存を改め1件当たりの受注規模を抑制しつつ複数の中小案件を手掛けてリスク分散を図り、リスク共有型の契約形態への転換も検討します。

同時に国内ではライフサイエンス(医薬・バイオ等)、環境・新エネルギー、蓄電池など成長分野の案件を拡大し安定収益源とする計画です。さらに従来のEPC請負に加え、上流の企画・コンサルや下流の操業支援までサービス範囲を広げる「Non-EPC」ビジネスへの展開にも注力し、収益源の多様化を図ります。

中計の定量目標

経営計画2025では、この3年間で「年平均純利益150億円」(うちNon-EPC事業による純利益10億円)を達成することを定量目標としています。

売上高は年平均3,800億円程度、3年間の累計受注高9,500億円、受注残高は平均6,000億円規模を維持する計画です。また粗利率は3年平均で10%以上を目指すとしています。これは、再生計画期間中(2019~2024年度)の年平均純利益56億円から大きく飛躍させ、安定成長の基盤を築く狙いです。

さらに10年後(2035年頃)には「純利益300億円(Non-EPC比率20%)」という将来像を描いており、この3年間を次の成長への土台作りの期間と位置付けています。

過去の教訓から
「まず既受注の大型LNGプロジェクトを確実に完工させること」
「海外案件の受注ポートフォリオを見直しリスク管理を徹底すること」
「国内案件や新分野で安定収益を拡大すること」

といった重点施策が示されており、安定収益構造への転換と事業モデル多角化によって企業価値向上を目指す戦略です。

2. 証券会社アナリストのレポート・業績予想・目標株価の根拠

アナリストの投資判断と目標株価

千代田化工建設に対する証券各社のアナリストカバレッジは現在3社程度で、コンセンサスは「中立(ホールド)」水準です。2025年6月時点での目標株価のコンセンサス平均は約325円(アナリスト3名)となっており、直近株価(約375円)に対してやや下回る水準です。

個別のレポートでは、日系大手証券(具体名非開示)が2025年6月にレーティング「中立」を据え置きつつ目標株価を315円→330円に引き上げました。同証券は2月にも目標株価を350円に設定しており、足元の業績改善を受けて慎重なスタンスながら目標株価を段階的に引き上げている状況です。

大和証券は2025年2月時点でレーティング「3(中立)」継続、目標株価を380円から350円に引き下げ、みずほ証券は2024年1月に「中立」継続・目標株価310円→315円とわずかに上方修正するなど、各社とも概ね現株価付近の目標を示しています。

なおSMBC日興証券は2024年10月にレーティング「2(アウトパフォーム)」を継続しつつ目標株価を470円から310円へ大幅に引き下げた事例もあり、これは同年5月に米LNGプロジェクトのJVパートナー企業破綻が報じられリスク顕在化したことを受けた修正と考えられます(実際、2024年5月に米国Zachry社の破産法申請報道で千代田株は年初来安値まで急落しました)。

業績予想のポイント

アナリストレポートの論点としては、同社の業績ボラティリティの高さと再建計画の進捗が挙げられます。2025年3月期に営業・最終利益とも黒字転換したことで財務体質改善が確認された一方、自己資本比率が依然低水準である点や海外大型案件のリスクが完全には払拭されていない点から強気判断には至っていません。

ただし足元の受注・案件遂行は堅調であり、2026年3月期は売上高の大幅増収(前期比+63%の1兆9000億円)と営業増益+13%を会社計画が見込んでいるとの情報もあります


会社計画は市場コンセンサス(営業利益430億円)を下回る保守的な数字とも報じられており、今期業績の上振れ余地が評価ポイントです。また、中期計画に沿った「純利益150億円ペースの安定化」が実現できるかが株価評価のカギであり、アナリストは今後3年間の利益水準と案件リスク管理の状況を注視しています。

目標株価の根拠としては、「安定化後の想定EPS × 適正PER」で算出するケースが多く、後述のように業界平均並みのPER水準 (約10倍前後) に戻れば適正株価は現状より大幅上昇余地があるとの見方もあります。

3. 経済メディアの記事・社長インタビュー・業界動向

脱・大型案件への戦略転換

経済メディア各社でも、千代田化工建設の再建と戦略転換が取り上げられています。

ダイヤモンド・オンラインのインタビュー記事では、太田光治社長CEOが「大型LNGの一括請負はもうやらない」と明言し、過去6年で2度の巨額赤字を生んだ泥沼構造からの脱却策を語っています。同記事によれば、千代田は5月公表の中計で大型海外EPC依存を減らす方針を掲げ、実際に太田社長は「大型LNGプロジェクトを従来型のランプサムターンキー(LSTK)契約で請け負うつもりはもうない」と断言しています。

背景として、2023年に米国テキサス州の大型LNG案件でJVパートナーの破綻により同社が赤字転落したことへの反省があり、リスクの高い固定価格請負から撤退し受注モデルを見直す決断をしたとされています。

代わりに、プレFEEDやFEED(基本設計)の段階からプロジェクトに伴走して事業構想づくりに関与し、EPC本契約に進むかは採算やリスクを見極めて判断するという慎重策を取る方針です。この発言は業界内でも注目され、「プラント業界の老舗」である千代田が脱・EPCコントラクター路線を明確にしたものとして報じられています。

業界動向と脱炭素分野への展開

業界全体では、エンジニアリング各社が脱炭素や新エネルギー分野への事業シフトを図っています。千代田も例外でなく、水素エネルギーやCCS(CO₂回収・貯留)、再生可能エネルギー、医薬プラントなどの分野に積極展開していることが報じられています。

例えば日経新聞は、同社が「水素やライフサイエンスに注力し収益基盤の多様化を進めている」と紹介し、エネルギー構造転換を追い風に新領域での案件受注を増やしている点を評価しています。

また業界2位の日揮HDや東洋エンジなど同業他社も、ロシア・ウクライナ情勢以降のエネルギー安全保障ニーズ拡大を受けてLNGプラント需要に沸く一方、プロジェクト集中のリスクに直面しており、各社とも事業ポートフォリオ見直しが課題となっています。

千代田の太田社長は「気候変動や技術革新で事業機会は多様化しており、従来のプラント建設に加え上流のコンサルや下流の操業支援まで価値提供を広げる」と述べており、顧客との共創による新事業モデル創出に意欲を示しています。経済メディアの社長インタビューでは「10年後には純利益300億円規模の安定・高収益企業になることを目指す」とのビジョンも語られ、M&Aやパートナーシップも活用しながら収益源を多様化していく戦略が強調されています。

経営トップの発言と市場の受け止め

太田社長は各種インタビューで「再生計画の定量目標は未達だったが、受注管理面では一定の成果を上げた」と述べ、リスク管理強化によって再生計画後に受注した案件では着実に利益を積み上げた点を自信として挙げています。

また「財務管理を徹底しキャッシュフローを改善した結果、三菱商事からの融資枠は現状未使用、三菱UFJ銀行からの劣後ローンのみ残す状況にまで回復した」とし、金融支援の早期返済にも道筋が立っていることを示唆しています。

これら発言から、市場では「三菱商事グループとして次の成長ステージへ進みつつある」との評価も聞かれ、親会社の強力なバックアップの下で信用力が維持されている点はポジティブに受け止められています。

一方で「依然として自己資本比率は低く財務の脆弱性が残る」「一括請負を避ける戦略が受注拡大にどう影響するか不透明」といった懸念もメディアで指摘されており、社長インタビューでも「まずは既存大型案件の完工に注力し信頼を回復する」旨が語られています。

総じて経済メディアの記事は、再建途上の名門企業がビジネスモデル変革で復活を目指す姿として千代田化工建設を捉えており、業界動向としてもプラント各社の低PBR問題や親子上場問題など構造改革圧力の高まりを背景に注目される存在となっています。

4. EPS(1株当たり利益)の今後3〜5年の成長率予想

直近のEPS実績

千代田化工建設の2025年3月期は最終黒字転換し、EPS(1株当たり当期純利益)は96.1円となりました。

ただしこれは前期までの赤字からの反動および一過性要因を含む可能性があり、持続的な実力EPSとしてはやや高めの数字です。

会社側は2026年3月期の純利益予想を約150億円前後としており、実際、今期予想EPSは 57.9円となっています。アナリストの12ヶ月先予想ではEPS 65.6円とのデータもあり、市場では今期〜来期にかけてEPS60円台半ばまで成長する余地を見ている可能性があります。

今後3〜5年の成長率予想

中期経営計画では「向こう3年間で年平均純利益150億円を確保し、その後はNon-EPC事業の拡大で成長軌道に乗せる」戦略が示されています。したがって直近3年(2025-2027年度)はEPS横ばい~年数%程度の緩やかな成長を前提に、平均50~60円台後半のEPSを維持する見通しです。

例えば年率5%成長と仮定すれば、EPSは約58円→61円→64円というイメージで3年間で約10%強の累積成長となります。一方、中計終了後の2028年度以降はNon-EPC事業の収益化や小型案件積み上げによって再び成長軌道に回帰すると会社側は計画しており、仮に2028年度以降で年10%程度のEPS成長を実現できれば5年後には現在の1.6倍程度(EPS90~100円台)も視野に入ります。

ただ、これらは計画上の目安であり、実現には新規大型プロジェクトの損失リスクが完全に解消することや、Non-EPC領域での利益貢献が顕在化することが前提となります。アナリストの現時点での中期予想は公表情報が限られますが、概ね「今後数年はEPS50~70円程度で安定推移」し、その先業態変革が奏功すれば成長加速というシナリオを描いていると考えられます。

成長率数値の例示

仮に2025年度のEPS約60円を基点とし、今後5年間で平均年成長率(CAGR)5%を達成すれば5年後EPSは約76円、年成長率10%なら5年後約97円となります。前述の中計ターゲット「10年後純利益300億円」(EPS換算約120円超)を逆算すると、この10年で年平均12-15%程度の高成長が必要ですが、現実的にはまず3年間の横ばい安定→後半での二桁成長という二段階のイメージです。従って直近3年のEPS成長率は0~+5%程度、3年後から5年後にかけては+5~10%超へ加速、トータル5年スパンでは年率7~8%前後の成長を期待する見方が適当と考えられます。

いずれにせよ、LNG市況や受注環境に左右されやすい業態であることから、今後も保守的に見る向きが強く、会社自らも2028年以降に本格成長と位置付けています。

確実なEPS成長のためには大型損失案件を出さない経営管理の継続と新領域での利益積み上げが欠かせず、この点が投資家の注目点となっています。

5. 同業他社(日揮HD、東洋エンジニアリング等)の平均PER

主要同業の株価収益率(PER)

千代田化工建設と同じプラントエンジニアリング業界の主要企業として、日揮ホールディングス(日揮HD)と東洋エンジニアリングの指標を確認します。

日揮HD(東証プライム上場、コード1963)はLNGプラントで世界的実績を持つ独立系の最大手ですが、直近株価1,361円前後に対し予想PERはおよそ11.8倍(アナリスト予想ベース)と算定されています。

一方、東洋エンジニアリング(東証プライム上場、コード6330)は国内3位規模のエンジ会社で、株価1,571円前後に対し会社予想ベースのPERは約12.33倍となっています。

したがって、主要同業2社の平均PERは概ね12倍程度とみてよいでしょう。なお日揮HDについては会社側計画では一時的に業績が落ち込んでいるため会社予想PERは20倍超と高く出ていますが、これは2023年度に業績不振(純利益赤字)だった影響であり、来期以降の利益正常化を織り込めばアナリスト予想の11~12倍水準が実態に近いと考えられます。

業界平均PERの水準

プラント・エンジニアリング業界全体では、受注環境や原材料高騰リスクなどから近年PERが低めに抑えられる傾向がありました。しかしLNG需要増加や各社の再編・構造改革期待から株価が持ち直しつつあり、足元では10~15倍程度が一般的なPERレンジとなっています。

例えば東洋エンジニアリングは予想EPS約34.5円に対し株価1,215円(2023年末時点)でPER約17倍でしたが、その後業績改善で株価が上昇し現在はPER12倍前後まで低下しています。

日揮HDも、大型案件損失計上で赤字となった2023年度を挟みPERが一時的に算出不能(マイナス益)となったものの、2024年度の黒字化見通しで株価が反発し、実質的な期待PERは10倍台前半に落ち着いています。

従って「業界平均PER」としてはおおよそ12倍前後を目安にするのが妥当です。これは東証プライム市場全体の平均PER(14~15倍程度)よりやや低い水準で、プラント業界が依然としてマーケットから慎重な評価を受けていることを示しています。

補足(他社動向)

なお参考までに、海外のプラント大手ではTechnip EnergiesやFluorなどがPER10倍未満で取引されている例もあり、これは大型案件リスクや業績変動の大きさが嫌気されている面があります。

一方で将来的なエネルギー転換ニーズへの期待から業界再評価の余地も指摘されており、日本の同業他社も含め安定的な利益成長さえ実現すればPER水準が見直される可能性はあります。その意味で千代田化工建設が中計で目指す安定収益体質の確立は、株価バリュエーション向上(PER拡大)にも直結する重要課題といえます。

6. 予想EPSと業界平均PERを用いた適正株価の算出

適正株価算出の前提

千代田化工建設の予想EPSは前述の通り直近で約58円(2026年3月期予想)、中期的には60円台半ば程度が見込まれます。一方、業界平均PERはおよそ12倍前後と推定されます(同業の日揮HD・東洋エンジの平均値)。この2つを掛け合わせることで、株価収益率に基づく理論的な適正株価を試算できます。

算出例

仮にEPS 58円×PER 12倍で計算すると、適正株価は約696円となります。これは現在の株価水準(300円台後半)を大きく上回ります。アナリストが予想する来期EPS 65.6円を用いると、65.6円×12倍=約787円となり、さらに高い水準です。保守的にPER10倍(業界レンジ下限付近)で評価しても580~650円程度の価格帯が導かれます。従って、同社が安定的に業界平均並みの収益力を発揮できるならば、現在の株価は理論価値に対して半値以下と評価できる計算です。

考慮すべき要因

もっとも、実際の市場株価が低い理由としては業績変動リスクや財務基盤の脆弱性が織り込まれている点に留意が必要です。同社はこれまで度重なる損失計上で投資家の信頼を損ねてきた経緯があり、PERが同業より大きくディスカウントされ現在6倍台にとどまっています。適正株価696~700円台というのは「リスク要因が解消され、安定成長が見込める」という前提で初めて実現する水準です。今後、実際に中計目標の純利益150億円ペースを達成し続けられれば、市場のPER評価も徐々に修正されていくでしょう。逆に言えば、現状の株価水準(300円台)は依然高リスクプレミアムを反映した水準であり、投資家はまだ完全には業績安定化を信用していないことを示唆します。

シナリオ分析

適正株価のレンジを把握するため、いくつかのシナリオを示します。

ベースシナリオ
EPS 60円、PER 10倍 ⇒ 株価600円(堅実成長シナリオ。現在比+60%程度の上昇余地)

強気シナリオ
EPS 70円、PER 12倍 ⇒ 株価840円(成長軌道回復シナリオ。現在比2倍強)

リスクシナリオ
EPS据置50円、PER 8倍 ⇒ 株価400円(再建遅れシナリオ。現在株価と概ね同程度)

このように業績とバリュエーション次第で適正株価の評価は大きく変わり得るものの、業界平均的な水準で見れば現株価には上昇余地が大きいと言えます。市場がその余地を織り込むには、同社が実際に「大型損失の再発なく安定黒字を維持できる」こと、および「新規分野での成長ストーリーを実現できる」ことを示す必要があります。それが確認されればPERが改善し、適正株価レンジへ収斂していく可能性が高まるでしょう。

7. アラスカのLNGプロジェクト参画可能性と売上インパクトの予想

プロジェクトの概要と現地動向

アラスカ州で計画中の「アラスカLNG開発計画」は、北極圏のプルドーベイ油ガス田から南部ニキスキまで約1,300kmのパイプラインを敷設し、年産2,000万トン規模のLNG液化プラントを建設して日本やアジアへ輸出するという壮大なプロジェクトです。

総投資額は440億ドル(約6.6兆円)以上に達すると見込まれており、トランプ米政権(2025年1月再登板)の肝いり政策として日本に対して投資・協力要請が行われています

現地ではアラスカ州政府系のAGDC(アラスカ・ガスライン開発公社)が長年中心となって推進してきましたが具体化には時間がかかっていました。しかし最近、2025年3月に米エネルギー企業グレンファーン(Glenfarne Group)がプロジェクトの筆頭開発事業者となり、AGDCと提携して最終投資判断(FID)に向けた動きを加速させています。

グレンファーンはプロジェクト資産を管理するAGDC子会社の株式75%を取得し主導権を握る契約を結び、2025年末までにパイプライン部分のFIDを目指すと発表しました。

また同社は5月に豪州系エンジニア企業Worley社をパートナーに選定し、パイプラインの追加エンジニアリングと最終コスト見積もり作業を開始しています。さらにKiewit社(米大手建設会社)がEPCコントラクターとしてプロジェクトに参加することも明らかにされ、LNGプラントの能力(2,000万トン/年)の大半について既にオフテイク契約の引き合いがあり「処理能力はすでに満杯」とも報じられています。

このように現地報道や公式発表ではプロジェクト推進に向けた具体的動きが相次いでおり、2025年中に部分的な投資決定がなされる可能性が高まっています。

千代田化工の参画可能性

千代田化工建設はLNGプラント建設の老舗として周囲から本プロジェクトへの関与を期待されていますが、前述の通り経営トップは極めて慎重な姿勢を示しています

太田社長は「千代田がやるだろうとの期待は承知しているが、ああいう大型プロジェクトを固定価格の一括請負ではもうやらない。採算もスケジュールも見えない現時点で安易に飛び込むつもりはない」と述べています。

ただし同時に「3月に来日したダンリービー・アラスカ州知事には『関心はあります』と伝えた」とも明かしており、それは「この10年プレFEEDを手掛けてきた延長で、今後も検討業務(FEED等)をやらせてもらうことには関心がある」という意味だと説明しています。

すなわち千代田としては、まず初期設計やコンサル段階でプロジェクトに関与し、その上で最終的なEPC受注に進むかどうかは事業者側の計画次第で判断したいという立場です。

これは裏を返せば「工事費高騰リスクなどを含む一括請負には参加しないが、知見を活かせる部分では協力したい」とのメッセージとも取れます。現段階でグレンファーン側はWorleyやKiewitといった米豪の企業と提携を進めており、必ずしも千代田が不可欠という状況ではありません。しかし日本政府(経産省)や商社なども本プロジェクトに関心を示しており、日本側の調達多様化戦略上、千代田など日本企業の技術参画が期待される場面が出てくる可能性は残されています。

とくにLNG液化プラントの設計・施工においては千代田はカタール等で実績豊富なため、契約形態次第ではJoint Ventureの一角として参画する可能性も否定できません。総じて、千代田が参画する可能性は“ゼロではないが限定的”と見るのが現時点の妥当な評価でしょう。

参画した場合の売上インパクト試算

仮に千代田化工建設がこのアラスカLNGプロジェクトに何らかの形でEPC受注者として参画した場合、その売上インパクトは極めて大きなものとなります。

プロジェクト全体規模6.6兆円のうち、仮に液化プラント部分が半分の3兆円、残りがパイプライン等3.6兆円とします。このうち液化プラント建設を複数社JVで行う場合、仮に千代田のシェアが30%とすれば約0.9兆円(=9,000億円)の受注額となります。これは同社の年間売上高(約4,500億円)の2倍に相当し、数年間にわたり売上を押し上げる効果があります。

たとえば5年工期で均等に売上計上すると仮定すると年間1,800億円の増収となり、現在の売上規模を約40%押し上げる計算です。仮にシェア10%でも3,000億円の受注高(年間600億円の売上寄与)となり、約13%の上乗せ効果があります。つまり参画時の売上インパクトはシェア10%で+10%以上、シェア30%なら+40%以上というオーダーになります

ただし、同時にプロジェクトリスクも巨額である点を忘れてはなりません。上述のように千代田経営陣が慎重なのは、この規模の案件では1件で数百億円規模の損失が発生し得るためです。現地でも「総事業費が高すぎて採算が取れるのか」との疑問が出ており、州政府等もコスト削減に腐心しています。最終FID前に第三者の詳細経済性分析が実施され、その結果次第では計画見直しや段階的開発の可能性もあります。従って、千代田が仮に参画できた場合でも、当初見込み通りの売上・利益が計上できるかは不透明です。

関連企業の動き

日本側では三菱商事やJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)などが投資検討に名前が挙がることがあります。例えば2023年に当時の三菱商事社長が「アラスカLNGは相応の難易度がある」とコメントし、リスクの高さを示唆しました。

実際に三菱商事は2023年末、傘下の三菱食品に対しTOBを実施しグループ再編を進める一方、資源投資は慎重姿勢を崩していません。しかし2025年2月の日米首脳会談でアラスカ天然ガス開発推進が合意されるなど政治的後押しがあり、日本企業が事業パートナーやLNGオフテイカーとして関与する可能性は高まっています。

例えば、エクソンモービルやコンコフィリップスなど米資源メジャーの動向も鍵となりますが、彼らと組む形で日本側が参画するシナリオもあり得ます。千代田化工建設としては、**実現すれば文字通り「大型案件の虎の子」となるため、引き続き情報収集とコンサル業務での関与を深めつつ、参画チャンスを慎重に伺う構えと考えられます。

8. 三菱商事によるTOB実施の可能性と関連報道・戦略分析

三菱商事と千代田化工の資本関係

千代田化工建設は三菱商事が60.23%もの株式を保有する連結子会社です。この関係は2019年の経営危機時に三菱商事が700億円の優先株を引き受ける形で支援した結果生じたもので、2020年にその優先株を普通株転換したことで議決権比率が過半を超えました。

以来、三菱商事は筆頭株主として経営再建を主導しており、千代田は「三菱商事グループの総合エンジニアリング会社」という位置付けになっています。現在のところ三菱商事は千代田株の約40%を市場に残したまま連結子会社化しており、いわゆる「親子上場」の状態です。

TOB(株式公開買付)の可能性

日本市場では近年、親子上場の解消に向けた動きが加速しています。東京証券取引所も2023年末に親子上場企業へ独立性確保策の説明を求めるなど改革姿勢を示しており、実際に親会社による子会社TOBが相次いでいます

三菱商事も例外ではなく、2024年には子会社のローソン(株)をKDDIと共同でTOBし上場廃止にしたほか、2025年には三菱食品(7451)の完全子会社化を目的にTOBを発表しています。

これらは親子上場解消の一環であり、千代田化工建設も将来的に同様の措置が取られる可能性が取り沙汰されています。市場関係者の見方としては、三菱商事が千代田を再生させた上で適切なタイミングでTOBにより完全子会社化し、グループ内再編を進めるシナリオがあります。親子上場解消には他に「親会社が株式を売却する」方法もありますが、千代田の場合三菱商事が主要取引先でもあり戦略的関連が深いため、売却ではなく自社グループに取り込みたいと考える可能性が高いと考えます。

関連報道や過去事例

現時点で三菱商事が千代田化工建設に対してTOBを仕掛ける具体的報道は出ていません。しかし、前述のように三菱商事は2024~2025年にかけて立て続けに上場子会社の非上場化を実行しており、千代田も「親子上場関連株」として投資家の注目リストに挙がっています

株式市場では親子上場銘柄への投資は「いずれプレミアム付きTOBが期待できる」という思惑もあり、千代田株も再建進展で株価が低PBRのままならTOB思惑が浮上しやすい状況です。過去の類似ケースでは、日立製作所が日立化成をTOBで完全子会社化、NTTがNTTデータにTOB、ソフトバンクがZホールディングスを株式交換で完全子会社化など、大手親会社が事業戦略上重要な子会社を取り込む動きが顕著です。

三菱商事にとって千代田化工建設はエネルギー・プラント事業の中核子会社であり、同社のカーボンニュートラル関連の技術(CO2回収・利用技術等)やエンジニアリング力をグループ内で最大活用する戦略が考えられます。実際、三菱商事は社内外連携でCCU技術開発を進める際に千代田をパートナーとして参画させており、親子のシナジーを重視しています。

TOBの実施タイミングと株価への影響

三菱商事がTOBを行う場合、株価が低迷しているうちに実施する方が少数株主へのプレミアム支払い負担が小さいため、本来であれば今のような低PBR状態(PBR0.8倍前後)の時期は好機とも言えます。

もっとも現状では千代田の再建が緒についたばかりであり、業績が安定軌道に乗るまでは上場子会社として市場から資金調達や人材確保を図るメリットもあります。そのため直ちにTOBが仕掛けられる可能性は高くないものの、中期的には十分選択肢に入るでしょう。

特に中計最終年度の2027年頃までに目標達成し株価が適正水準に満たない場合や、逆に市場評価が急騰して親子上場の利益相反問題が意識される場合には、決断があり得ます

企業戦略的には、三菱商事はエネルギー・インフラ領域での脱炭素ビジネス拡大を掲げており、千代田を完全子会社化して機動的なグループ戦略(例えば他社とのアライアンス、M&A等)を推進しやすくするメリットも考えられます。過去の三菱グループの事例では、三菱UFJがジャパンネット銀行をTOBで完全子会社化(2021年)したり、三菱ケミカルHDが田辺三菱製薬をTOB(2020年)したケースなど、グループ戦略上重要な事業は完全子会社化する傾向があります。千代田も同様の位置付けにあるとすれば、将来的なTOB実施の可能性は十分あり得ると言えるでしょう。

9. TOB可能性に関するまとめ

三菱商事による千代田化工建設のTOBについて公式発表や具体報道はまだありませんが、親会社が6割超を握る現状や市場環境を踏まえると、将来的にはTOBで上場廃止となるシナリオも現実味を帯びています。投資家にとっては、同社株が親子上場解消の**“思惑銘柄”**であることも念頭に置きつつ、まずは本業の業績改善による株価上昇余地に注目する局面と考えられます。

10. 同社の主な訴訟・紛争案件の一覧表

同社は様々な紛争に遭遇してきました。以下の表に、千代田化工建設(以下「千代田」)が過去10年以上に直面した主要な訴訟・紛争・賠償案件をまとめます。各案件について、発生年や相手方、争点(訴因)、請求金額、判決・和解結果、会社への影響などを概観しています。

案件名(地域)期間(提訴年)相手方争点・訴因請求金額判決・和解結果会社への影響・備考
イクシス LNGプロジェクト契約紛争(豪州)2012–2021(提訴:2021年)ICHTHYS LNG Pty Ltd(インペックス関連会社)JV施工費用超過に伴う追加資金拠出の返還請求(親会社保証の履行要求)豪ドル7.577億(約642億円)2021年10月、裁判外和解。双方の全請求を取り下げる内容で合意千代田はJV出資30%分の責任。2021年7月に約300億円規模の特別損失を計上済み(和解金等の詳細非公表)
米国キャメロンLNGプロジェクト損失問題(米国)2015–2019頃(損失公表:2019年)(訴訟相手なし:自社プロジェクト)大型LNGプラントEPC契約での人件費高騰・生産性低下による大幅工事コスト超過(訴訟ではない)訴訟なし(千代田が損失を自社負担)2019年3月期に最終赤字2,149億円・債務超過592億円に陥り、筆頭株主の三菱商事による支援・資本増強で経営再建t。プロジェクトは2020年完工。
キャメロンLNG通勤バス残業代訴訟(米国)2019–2021(提訴:2019年)現地作業員1,307名(代表原告2名)労働争議:遠隔作業現場への通勤バス移動時間を労働時間とみなした未払い賃金請求不特定(集団訴訟、額明示なし)原告側敗訴(一部却下)。2019年8月一審で請求棄却。控訴審も2021年4月に大勢は原告敗訴、差戻後の2021年9月判決でも請求棄却千代田の米子会社CICやJV相手のMcDermott/CB&Iが被告。追加賃金支払い義務なしと確定し、千代田側の金銭負担なし。適時開示で経過報告。
プラント建設ICC仲裁(マレーシア他) <br/>(千代田サラワク案件)2010年代後半(仲裁判断:2019年)プラント建設契約の相手方(発注者)(千代田サラワクSdn. Bhd.と共同受注した案件)契約トラブル:工事遅延・瑕疵等を巡る損害賠償請求の応酬(発注者からの請求と千代田側反請求)発注者側:約60億円請求 千代田側反請求:約8億円2019年3月ICC仲裁判断:発注者側請求約60億円・千代田側約8億円が認容(千代田に約52億円の支払い命令)。発注者はさらに増額求めシンガポール高等裁に仲裁一部取消申立て→一部取消認め増額却下。千代田の上訴も2021年9月棄却千代田は仲裁判断に基づき約52億円の損失計上(2019年3月期)。最終的に支払い義務確定(増額リスクは回避)。適時開示・臨時報告書で開示。
フリーポートLNG事故保険金代位求償訴訟(米国)2022–2024(提訴:2023年頃)フリーポートLNG顧客の保険会社2グループ(計17社)損害保険代位求償:2022年6月フリーポートLNG設備火災・爆発事故で、保険会社が顧客に支払った保険金の返還をEPC請負企業に求償各グループとも100万ドル超(具体額不明)2024年11月、米テキサス南部地区連邦破産裁判所原告請求を全面棄却。保険会社側の敗訴確定(控訴の動き現時点なし)千代田の米子会社CICおよびJV相手(Zachry社、McDermott社等)が被告f。千代田への直接影響なし(損害賠償負担回避)。適時開示で経過開示。
フリーポートLNG設備不具合訴訟(米国)2024–(提訴:2024年4月)Freeport LNG社(プラント事業主)契約不履行(品質):LNG液化設備の電動機(モーター)据付工事に欠陥があり、度重なる故障・長期停止を招いたと主張100万ドル超(具体的な損害額は未公表)係争中(審理継続中):テキサス州地裁に提訴されたばかりで2024年6月現在審理中。被告3社(千代田インターナショナル、Zachry Industrial、CB&I/McDermott)は回答準備中Freeport社は原因調査報告を基に損害賠償を請求。Zachry社は提訴直後の2024年5月に破産申請しており訴訟継続に影響も。千代田は本件をリスク事項として注視中(6月時点で公式コメントなし)。
ゴールデンパスLNG JVパートナー破綻問題(米国)2019–(破綻:2024年)Zachry社(米国EPC企業、JVパートナー)JV紛争:米テキサス州ゴールデンパスLNGプラント建設JVにおけるパートナー企業の経営破綻。工事継続責任や追加費用負担を巡る問題(訴訟ではない)(法的紛争ではないがJV契約上の協議が必要)2024年5月21日にJVパートナーのZachry社がチャプター11申請し法的再建入り。工事一時中断・千代田に370億円の追加損失引当リスクが発生と公表。千代田は決算発表を延期し、株価は一時15%急落。現在、残るJV構成企業で工事続行策を協議中。

※上記の他にも、国内外で小規模な訴訟・紛争が発生していますが、いずれも会社業績への重要な影響は限定的でした。以下、表中の主要案件について詳述します。


11. イクシスLNGプロジェクトを巡るJV紛争(豪州・2021年)

千代田がINPEX社のイクシス(Ichthys) LNGプロジェクト(豪州)向けに参画したEPCジョイントベンチャー「JKC」(日揮ホールディングス・KBR社・千代田の3社JV)に関する紛争です。

プロジェクト途中で生じた大幅なコスト超過への対処として、発注者(Ichthys LNG Pty Ltd、INPEXの関連会社)がJVに約7.58億豪ドル(約642億円)もの追加資金を提供する契約(証書)が結ばれました。しかし追加資金の清算方法を巡って対立が生じ、JVと発注者は長期にわたり協議・仲裁で争う事態となりました。

発注者側は、2020年末にJVへ追加資金全額の返還を要求しましたが、JVは「清算手続きが適切に行われておらず仲裁判断もまだ出ていない」として支払いを拒否。そこで発注者は親会社保証を根拠に、2021年1月、JV各社の親会社(日揮HD・KBR・千代田)に対し同額の支払いを求めました。これに対しても支払いは拒まれたため、2021年4月、発注者はJV親会社の一つである日揮HD(旧日揮)を被告として横浜地方裁判所に訴訟を提起しました(※千代田自身は直接の被告とはなりませんでしたが、契約上JV内30%の負担義務があり得る立場でした)。

この訴訟について千代田は2021年6月、補助参加人(訴訟参加)として関与しつつ、並行する仲裁手続きに対応していました。最終的に2021年10月15日、発注者とJV各社は裁判外和解に合意します。

和解内容は「互いのEPC契約に関するすべてのクレームを相殺・取り下げる」という包括的なもので、発注者側の巨額返還請求もJV側の追加費用請求も白紙撤回されました。千代田はこの和解に伴う損失を既に織り込み済みで、2022年3月期第1四半期に特別損失を計上済みであると開示されています。和解金額の公表はありませんが、発注者提供の追加資金は事実上返還不要となった一方、JV側も自らの請求権を放棄する形で妥協したものとみられます。

この案件は巨額損失リスクが懸念されましたが、早期和解によって決着しました。千代田にとっては、2018年までの好業績を支えてきたLNGプロジェクトで起きた紛争であり、経営再建中の2021年に和解に漕ぎつけた点で重要な意味を持ちます。適時開示のとおり、本件は決算短信や有価証券報告書にも記載され、株主にも経緯が説明されています。

12. 米国キャメロンLNGプロジェクトの巨額損失と経営危機(2015–2019年)

「米国LNG案件」による巨額損失として特に言及されるのが、ルイジアナ州で千代田が受注したキャメロンLNG液化プラント建設プロジェクトです

千代田は米社CB&I(後にMcDermott社傘下)等とのJVでEPC契約を進めていましたが、現地人件費の高騰や工事の生産性低下などにより当初見積をはるかに上回るコスト超過が発生しました。プロジェクトは2019年から2020年にかけて完工しましたが、千代田は追加工事費約850億円を自己負担する羽目になり(※推計)、この影響で2019年3月期決算は最終赤字2,149億円、自己資本▲592億円の債務超過という深刻な事態に陥りました。

この経営危機に対し、千代田は筆頭株主である三菱商事に支援を要請。2019年3月には第三者割当増資(優先株式発行)による資本増強策が発表され、約800億円規模の財務支援が実行されています。また東京証券取引所の市場区分も一時的に第一部から第二部へ指定替えとなり、まさに経営再建局面を迎えました。プロジェクト損失の主要因は請負リスク管理の問題と分析され、以降千代田経営陣は「大型LNGプラントの一括請負は今後慎重に検討する」との方針転換を表明しています。

このキャメロンLNG損失問題自体は社内管理上の問題であり、対外的な訴訟には発展していません。発注元との契約上、千代田側がコスト超過分を相当程度負担する契約条件だったため、千代田は法的争訟ではなく自社損失計上で対応しました。ただし、巨額損失により株主からの経営責任追及の動きも懸念されました(幸いにも株主代表訴訟などの提起は確認されていません)。この案件は決算短信・有価証券報告書上で詳細に開示されており、千代田のリスク情報にも「大型案件における損失発生のリスク」として記載されています。

補足:労務紛争
キャメロンLNG現場では、後述のとおり作業員から残業代訴訟(集団訴訟)が提起されましたが、千代田自体がプロジェクトオーナーやJVパートナーと法廷で争う事態には至っていません。むしろ、JVパートナーであった米国McDermott社はプロジェクト完了後の2020年に連邦破産法11章適用を申請し経営破綻しています。その意味で、**キャメロンLNGプロジェクトは千代田の経営に甚大な影響を及ぼした「紛争案件」**といえますが、外部との訴訟というより契約上のリスク顕在化と内部処理の問題でした。

13. キャメロンLNG現地作業員による残業代集団訴訟(2019年提訴)

上記キャメロンLNG工事に関連して発生した労務紛争が、「通勤バス移動時間は労働時間か」を争点とする米国での集団訴訟です。2019年2月、キャメロンLNG建設現場の作業員(McDermott社子会社の従業員を含む)2名が代表となり、計1,307名の労働者が千代田の米国子会社CIC社およびJVパートナー企業(McDermott International社とその子会社CB&I、さらにプラントオーナーのCameron LNG社)を被告として提訴しました。主張の骨子は「遠隔作業サイトへの往復バス移動時間も勤務時間とみなし賃金を支払うべき」とするものです。

一審の連邦地方裁判所(ルイジアナ州西部地区)は2019年8月、「通勤バス移動は労働時間に当たらない」として原告の請求を全面棄却しました。原告団はこれを不服として第5巡回区控訴裁判所に控訴しましたが、2021年4月16日の控訴審判決でも原告側主張の大部分は退けられています。控訴審では連邦労働基準法(FLSA)に基づく主張について一部手続上の修正申立て受理余地を認め差し戻しましたが、一審に戻った差戻し審でも2021年9月27日付で原告の請求はほぼ棄却されました。

差戻し審判決の内容を千代田は適時開示で公表しており、それによれば:(A) 通勤時間を賃金未払いとする最低賃金違反の主張は棄却、(B) 1,305名のオプトイン原告についても「代表原告2名と類似状況にない」として請求却下(修正申立ての余地は残す)というものでした。事実上、集団訴訟は原告側の敗訴に終わり、千代田側に追加賃金支払等の負担が生じることは避けられました。

この裁判は米国の労働法に基づくもので、千代田本社ではなく米国現法CIC社が直接関与しました。千代田は2019年から2021年にかけて計3度、訴訟の提起・判決・控訴審結果について適時開示リリースを発表し、進捗を開示しています。最終的な和解金等も発生しておらず、会社業績への影響は軽微でした。

14. 国際仲裁案件:千代田サラワク案件の損害賠償請求(2019年 仲裁判断)

表中「プラント建設における損害賠償ICC仲裁」として挙げた案件は、千代田がマレーシア子会社Chiyoda Sarawak Sdn. Bhd. (CSSB)と共同受注したプラント建設プロジェクトに関する契約トラブルです。

発注者と千代田側との間で、工事遅延や出来高などを巡り互いに損害賠償を主張して紛争となり、ICC(国際商業会議所)仲裁で決着を図ることになりました

2019年3月20日に千代田が公表した仲裁判断によれば、仲裁廷は発注者側の請求をほぼ認め約60億円の損害賠償支払いを千代田側に命じ、一方で千代田側の反対請求についても約8億円の支払いを発注者に命じる内容でした。両者の請求を相殺すると、千代田は純額約52億円の支払い義務を負う計算になります。千代田はこの結果を受け、2019年3月期決算で約52億円の損失を特別損失として計上する見込みであると開示しました

ところが、発注者側はこの仲裁結果に不満を抱き、「損害賠償額の算定手続に不備があった」としてシンガポール高等裁判所に仲裁判断の一部取消と賠償金増額を求める申し立て(裁判)を起こしました。2021年1月29日に同高等裁判所は判決を下し、「仲裁判断の一部取消」は認めたものの「発注者への賠償金の増額請求」は認めないという判断を示しました。つまり発注者は追加の金銭は得られず、仲裁で認められた範囲以上の支払いは千代田に課されなかったことになります。千代田側(千代田本社およびCSSB)はこの判決中の仲裁判断一部取消にも不服として直ちに控訴しましたが、2021年9月22日付でシンガポール上訴裁判所(最終審)は千代田側の控訴を棄却し、高等裁判所の判決(仲裁一部取消・増額なし)が確定しています。

以上の経緯から、仲裁廷が認定した千代田の52億円支払い義務自体は概ね維持され、発注者による更なる増額請求は失敗に終わりました。千代田は仲裁判断直後に引当計上を済ませていたため、この裁判結末による新たな損失計上はありません。本件は適時開示のほか、臨時報告書としても開示されており、発注者名こそ伏せられているもののシンガポール司法手続の結果も含め株主に報告されています。

15. フリーポートLNGプラント火災事故と保険金代位求償訴訟(2022–2024年)

中東案件ではありませんが、千代田が関与した米国のプラント事故に絡む損害賠償・代位求償訴訟として、テキサス州のフリーポート(Freeport)LNG液化プラント事故に関するケースが発生しました。フリーポートLNGプラントは千代田が米Zachry社・McDermott社(旧CB&I社)とJVでEPCを手掛け、2019年〜2020年に稼働開始した大型施設です。しかし2022年6月に同プラントで大規模な火災爆発事故が発生し、約8ヶ月にわたり操業停止に追い込まれました。

この事故に関し、プラントオーナー(Freeport LNG社)の保険会社団が2023年頃、千代田の米国子会社CIC社およびJVパートナー企業(Zachry社、McDermott社など)を相手取り、保険金支払い分の代位求償を求める訴訟をテキサス州の裁判所に提起しました。原告となったのは5社と12社の2グループ計17社の保険会社で、訴状上はそれぞれ「100万ドル超」の損害賠償請求額が記載されています。保険会社側の主張は「施工者側の過失により事故が発生し巨額保険金を支払ったので、その分を施工JVに請求する」というものです。

この裁判は途中で連邦破産裁判所(テキサス南部地区)に移管されました。おそらく、被告の一社Zachry社が2024年5月に破産法を申請した影響で管轄が変更されたとみられます。そして2024年11月20日、破産裁判所は本件2件の訴訟について「原告(保険会社)の請求を全面棄却する」判決を下しました。この結果、保険会社側は施工JVに対し一切の求償を行えないことになり、千代田にとって最良の形での勝訴的解決となりました。千代田は11月22日にこの判決を適時開示で公表し、「当社業績への影響は現状想定していない」とコメントしています。なお今後、原告保険会社側が控訴する可能性も残りますが、その場合も適宜開示するとしています。

本件は事故そのものの補償を巡る間接的な訴訟であり、千代田自身が事故原因で直接訴えられたわけではありません。しかし同種事故のリスクとして注目され、訴訟進展は株式市場でも材料視されました(判決公表後、千代田株が急伸する場面も報じられています)。

結果的に千代田は賠償負担を免れたため、会社への金銭的影響はありませんでした。

16. フリーポートLNGにおける機器欠陥を巡る訴訟(2024年提訴・係属中)

上記フリーポートLNGでは、事故とは別に設備不具合に関する訴訟も新たに発生しています。2024年4月、プラント運営会社であるFreeport LNG社は、千代田インターナショナル(CIC社)とZachry社、McDermott社(子会社CB&I)の3社を相手取り、テキサス州の地元裁判所に訴訟を提起しました。訴状によると、同プラントで使用された大型電動機(LNG液化用コンプレッサー駆動モーター)に施工上の欠陥があり、2023年以降に度重なる不具合や停止トラブルが発生したとされています

具体的には、2023年1月にモーターの一基で電気的ショート事故が起き、調査の結果ゆるみかけたナット・ボルト類がショートの原因となっていたことが判明しました。さらに他のトレイン(系列)のモーターについても点検したところ、過長なケーブル取り回しによる部分放電障害など複数の施工不良が見つかり、プラントの一部運転停止と緊急補修を余儀なくされたと主張されています。Freeport社は「これら欠陥により重大な設備損傷と高額な修理費用を被った」として、施工JV各社に損害賠償を求めました。請求額は明示されていませんが、「100万ドルを超える」とのみ記載されています(実際には被害額は数千万ドル規模とも推測されます)

本件は提訴されたばかりで現在係争中です。被告の一社Zachry社が直後に破産を申請したこともあり、裁判手続にも影響を及ぼす可能性があります。現時点で千代田から公式なコメントは出ていませんが、プロジェクト契約上の品質保証義務やJV内部の責任分担が問われる訴訟と言えます。千代田にとっては、キャメロンLNGに続き米国LNGプラント案件で生じた新たな法的リスクであり、今後の推移次第では損害賠償金の支払いや補修コスト負担が発生しうる重要案件です。

もっとも、Freeport社自身も2022年事故対応で業績悪化しており、最終的には保険や交渉で解決が図られる可能性もあります。千代田はこの訴訟を含め、リスク情報として適時開示や決算資料で状況報告を行うとみられます(実際、2024年6月の株主総会資料で本件に言及されています)。

17. 財務上の潜在的支払い義務・リスク要因

1. 残存する賠償金支払い義務(和解金・仲裁決定等に基づくもの)

千代田化工建設(以下、千代田)は近年、大型プロジェクトの係争に伴う賠償金支払い義務を抱えましたが、現在それらの多くは和解や決着を見ています。前述のオーストラリアのイクシスLNGプロジェクトでは、JV(ジョイントベンチャー)であるJKCに対してオーナーから提供された約7億5,772万豪ドル(約6422億円)の追加資金をめぐり返還請求訴訟が起きました。

このケースでは、前述のとおり2021年に裁判外の包括的な和解が成立し、JKCと顧客双方が互いの請求を取り下げることで決着しています。千代田はこの和解に伴い、2022年3月期第1四半期に約204億円の特別損失を計上しており(自社負担分の損失計上)、当該係争に関する追加の支払い義務は生じない見通しです。

また、マレーシア関連プロジェクトでのICC国際仲裁でも約23億円の損害賠償金支払いが確定し、2021年末までに支払いを完了しています。以上より、現時点で公表されている大口の賠償金支払い義務は、いずれも和解金の支払い完了や費用計上済みにより残高は解消されています。

2. 未払い・未処理の契約上の損害賠償義務(JV解消精算金・保証金など)

千代田は過去に合弁事業の破綻や契約解除に伴う損失も経験しています。典型例が、米国のオイル・ガス向け海中設備子会社EMAS Chiyoda Subseaの破綻です。

2017年2月に同社がChapter11(連邦破産法)を申請したことで、千代田は関連損失として合計約368億円(営業外費用130億円+特別損失238億円)を計上しました。このJV破綻自体は清算済みで、追加の精算金支払い義務はありませんが、JV解消時には親会社が損失を肩代わりするリスクを示す事例といえます。

最近では、米国テキサス州の大型LNGプロジェクトゴールデン・パスLNGにおいて、JVパートナーであったZachry社が2024年5月にコスト超過(当初予算を24億ドル超過)を理由にChapter11申請しプロジェクトから撤退しました。このケースではJV継続中の離脱となり、Zachry社との間でプロジェクト引継ぎのための合意が成立しています(2024年7月、米破産裁判所が合意を承認)。

合意により千代田とCB&I(米マクダーモット傘下)がZachry社の作業範囲を引き受け、Zachry社はリードコントラクターの地位を放棄しました。この再編に伴う千代田からZachry社への精算金支払い義務は発生しておらず、プロジェクト契約自体を改定して継続する方向です。ただし、千代田は当初担当外であった工事範囲も追加で担うことになり、潜在的なコスト負担リスクが増加しています。

もっとも同社は「本件による2025年3月期業績への影響はない」と発表しており、追加費用については顧客(ExxonMobil・QatarEnergy)との契約改定で対応する見通しです。

以上のように、現時点で公表されている未払いの損害賠償義務やJV解消に伴う清算金は存在しないものの、JVパートナー撤退時には契約上の責任分担見直しにより追加コスト負担リスクが顕在化する可能性がある点に注意が必要です。

3. 財務諸表上の偶発債務・保証債務(JV・子会社の債務保証等)

千代田は大型プロジェクト遂行にあたり、親会社保証や債務保証を提供するケースがあります。

例えばイクシスLNGプロジェクトでは、JV各社(千代田・日揮・KBR)が顧客との契約上連帯責任を負う親会社保証を提供しており、オーナーの子会社(Ichthys LNG社)がJVに立て替えた資金の返還を親会社(日揮)に求める訴訟が起きました。この訴訟は上述の通り和解に至り、結果的に千代田への保証債務請求は回避されています。

また、千代田はプロジェクト履行保証(パフォーマンスボンド)や子会社の借入債務保証も行っています。開示資料によれば、2019年の経営再建時に三菱商事フィナンシャルサービス(MCFS)からの借入(300億円)および三菱UFJ銀行からの借入(200億円)を実行しており、その際三菱商事による債務保証を受けて資金調達しています。千代田はこの保証提供に対し保証料を支払い、自社保有の不動産や有価証券を担保差入れしています。つまり、三菱商事側の保証のもと銀行融資を受けた形で、借入金に対しても関係会社による保証契約が存在します。

さらに、契約上親会社保証を要する新規プロジェクトも考えられ、例えば中東・東南アジアの大規模案件では千代田が一定割合の債務保証を提供する場合があります。ただし、現時点で保証債務の具体的金額は有価証券報告書の注記で個別開示されていません。総じて、偶発債務としての保証債務リスクはゼロではないものの、同社は契約時にリスクを限定する条項を組み込む傾向にあり(後述のFreeport LNG事故の例など)、想定外の債務保証履行に至る可能性は相対的に低いと考えられます。

4. 三菱商事からの資本支援(優先株等)に伴う将来償還義務・契約制約

千代田の経営再建には筆頭株主である三菱商事からの大規模支援が不可欠でした。同社は2019年、三菱商事を引受先としてA種優先株175,000,000株(発行総額700億円)を発行し、加えて三菱商事系ファイナンス会社および銀行から計500億円規模の融資を受ける資金調達策を実行しました。

このA種優先株式には、将来的な資本構造に影響を与える特殊な権利が付与されています。第一に、普通株式への転換請求権(取得請求権)です。2019年7月1日以降、三菱商事は優先株1株につき4株の普通株式と交換する形で転換を請求可能であり、転換価額は当初100円に設定されています。

仮に三菱商事がこの転換権を全行使した場合、普通株式7億株が交付され、三菱商事の持株比率は現在の約33%から実質的に82.06%に達します。このため、必要な許認可取得後にはIFRS会計上、千代田は三菱商事の連結子会社と見做される状況となりました(実際、2019年9月に転換承認取得後、三菱商事は千代田を連結子会社化)。

第二に、金銭を対価とする取得請求権(優先株主による償還請求権)が付されています。これは2021年7月1日以降、三菱商事が千代田に対し優先株の買取を請求できる権利で、法令上可能な範囲で分配可能額の範囲内において行使可能です。

取得時に千代田が支払う償還金額は、償還請求前の一定期間の千代田株価平均(VWAP)に基づき算定されると定められています。つまり、将来三菱商事が優先株の現金償還を要求すれば、千代田は株価に応じた巨額の現金を要する可能性があります。ただし、実際の行使には千代田側の剰余金状況や取締役会決議などハードルもあります。

第三に、優先配当義務です。A種優先株には年率3.0%(1株当たり年12円)の優先配当が定められており、未払いの場合は累積されます。優先配当は普通株配当に優先して支払われるため、累積未払分も含め優先株主に所定配当を支払わない限り普通株主への配当は行えません。千代田は経営再建後しばらく無配が続いたため、この累積未払優先配当が蓄積している可能性があります(仮に2019~2024年度まで未払いなら優先1株当たり計72円、総額126億円超)。もっとも近年は業績黒字化しており、将来的に累積分解消と普通配当再開が課題となるでしょう。

以上のように、三菱商事からの資本支援策により千代田は当面の財務危機を脱しましたが、その代償として将来的な大規模希薄化リスク(三菱商事による転換で支配権強化)や現金償還リスク、および配当制約を抱えることになっています。これは同社株主にとって重要な留意点です。

5. メディア・アナリスト指摘の非公表の潜在債務・リスク

公的開示には現れないものの、報道や分析で指摘される潜在リスクも存在します。代表例は、前述米フリーポートLNGターミナル事故に関する損害賠償リスクです。

2022年6月、テキサス州のフリーポートLNG施設で火災爆発事故が発生し、8か月に及ぶ操業停止による損失補填のため、保険会社側が建設JV(Zachry・千代田インターナショナル・CB&I)に対し合計13億ドル(約1,900億円)の損害賠償請求訴訟を提起する事態となりました。この訴訟は2024年7月に米連邦破産裁判所が却下し、契約上のリスク分担条項(オーナーが保険をかけ、契約者に対する代位求償権を放棄する旨の取り決め)が有効と認定されています。結果として千代田側への賠償請求リスクは消滅しましたが、保険会社による想定外の訴訟という形で潜在債務が顕在化しかけたケースといえます。

このように大規模プロジェクトでは、契約上は責任限定されていても第三者(保険会社等)が法的請求を試みるリスクが指摘されることがあります。

また一部アナリストは、千代田が引き受けた複雑な新技術プロジェクトに関して、想定以上のコスト負担や技術上の不確実性から将来的な損失計上リスクを懸念しています(例えば、水素エネルギー関連の実証プラントで収益化が遅延する場合など)。もっとも千代田は契約時にリスクヘッジ条項を盛り込む姿勢を強めており、前述のフリーポート案件でも契約上の免責条項により請求棄却を勝ち取ったことから、現時点でメディアが示唆する潜在債務が顕在化する兆候は限定的です。

一方、業界アナリストの目線では「三菱商事による実質支配下で財務基盤は安定したものの、依然として自己資本比率は低水準で、プロジェクト損失耐性に課題が残る」との指摘もあります。このような指摘を踏まえ、今後も開示されていない潜在リスクについて注視が必要です。

18. 業績改善に寄与し得る将来の“カタリスト”期待案件(超重要)

1. LNG以外の大型エネルギー・インフラ案件(国内・海外)

千代田の伝統的な強みはLNGプラントですが、今後の成長カタリストとして非LNG分野の大型案件にも期待がかかります。同社は中東や東南アジアで石油精製・石油化学プラントの実績があり、例えば2021年にはカタール国営石油会社の北フィールド拡張計画(世界最大級のLNG生産拡張プロジェクト)において、テクニップ社と組んで約135億ドル規模のEPC契約を獲得しました(厳密にはLNG案件ですが、ガスバリューチェーン全般にわたる経験の証左です)。

一方、非LNG分野では、下流石油化学や発電プラントが注目されます。千代田は直近で国内化学メーカー向けの大型案件を受注しています。例えばクラレ株式会社からの高機能樹脂プラント住友化学や東ソーからの設備増強案件など、数十億~百億円規模のEPC契約受注が報じられています(これらはプレスリリースベースで公表)。

また、国内では2024年12月、出光興産よりリチウム硫化物大規模製造設備のEPCをKOBELCO-E&M社と組んで受注しました。リチウム硫化物は全固体電池電解質の材料であり、電池インフラ分野の大型案件として注目されています。本件は経産省の「蓄電池基盤強化計画」に採択されたプロジェクトで、2027年6月完工予定です。

海外では、インドネシアのタングーLNGトレイン3(BP社主導、Tripatra社とのJV)案件などガス関連プロジェクトを手掛けています。また近年増加が見込まれるガス火力発電+CCS併設型プラントや、大規模製油所近代化プロジェクトでも受注のチャンスがあります。

千代田経営陣も「従来7~8割を占めたオイル・ガス依存の事業ポートフォリオを多様化していく」方針を示しており、非LNG領域の受注拡大に意欲を見せています。特にアジアや中東でのインフラ需要(石化プラント新増設、老朽設備更新、脱炭素対応改造など)は旺盛であり、千代田にとって大型案件受注による収益拡大の起爆剤となり得ます。

2. 水素・CCUS・アンモニアなど脱炭素インフラ関連プロジェクト

脱炭素社会の実現に向け、水素エネルギー・カーボンリサイクル分野は千代田にとって新たな成長領域です。

同社は独自技術の有機ハイドライド法水素輸送(SPERA水素)を開発し、水素サプライチェーン実証で世界をリードしてきました。最近ではENEOS株式会社から、世界最大規模のメチルシクロヘキサン直接電解合成(Direct MCH)プラントのEPC契約を受注しています。このプラントはNEDOのグリーンイノベーション基金事業の一環で、グリーン水素キャリア製造技術の実証を目的としており、同社が誇る水素技術の社会実装を後押しするものです。また、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)分野でも動きがあります。千代田は国内で大規模CO2メタネーション実証プラントのEPC契約を獲得しており、CO2をメタン(合成天然ガス)へ転換する技術の実用化に参画しています。

この実証設備は世界最大級で、将来のカーボンリサイクル基盤構築に貢献すると期待されています。アンモニアについても、千代田は燃料アンモニアの製造・利用に関与し始めています。2023年にはJERA・日本触媒と共同でNEDOの補助事業としてアンモニア分解(クラック)技術の開発に着手しました。

また、英国リバプール湾のブルーアンモニア計画に関連し、CO2を一酸化炭素に転換する化学プラントのEPC契約も受注しています。

欧州ではCCSインフラやクリーン燃料プロジェクトの機会があり、千代田も国際コンソーシアムに参画する動きを見せています。

総じて、水素・CCUS・アンモニアといった脱炭素インフラ案件は官民の支援策も豊富で市場拡大が見込まれ、千代田にとって将来の受注高と収益の押上げ要因となる可能性が高い分野です。もっとも大型プロジェクト化には技術確立や採算性の見極めが必要であり、同社はトヨタ自動車・三菱重工業・JFEエンジなど各社と協業しつつ技術開発を進めています。

3. 医薬・バイオ・ライフサイエンス施設関連EPC案件

千代田はライフサイエンス分野(医薬プラント)にも事業ポートフォリオを拡大しています。

同社は過去にワクチン製造設備など医薬関連プラントの実績を有し、2017年までに原薬・製剤分野で500件以上のプロジェクトに関与したとされています。

近年、政府支援のもと国内医薬品生産基盤を強化する動きがあり、千代田にも大型EPC案件の受注が相次いでいます。2024年1月にはAGC(旧旭硝子)よりバイオ医薬品原薬製造設備のEPCを受注しました。この設備は横浜市のAGCテクニカルセンターに建設され、通常時はバイオ医薬品の製造設備として稼働しつつ、有事にはワクチン製造に転用できるデュアルユース仕様となっています。国内最大級(動物細胞培養槽規模)で、mRNA医薬や遺伝子・細胞治療薬の製造設備も備える先進的プラントです。

また過去には東ソーから抗体医薬品製造用分離精製剤プラント(山口県)をEPC受注し、2018年に完成させています。さらに2023年には塩野義製薬関連のワクチン原薬設備プロジェクトにも参画したと報じられました(官民連携の生産体制整備事業の一環)。

千代田はライフサイエンス事業を「人々の健康と安全に寄与する重要領域」と位置付けており、今後は低分子医薬からバイオ医薬、大分子(核酸医薬等)まで幅広く手掛ける方針です。

特にCDMO(医薬品受託開発生産)向けの新工場建設ニーズが国内外で高まっており、千代田にとって継続的な受注源となる可能性があります。海外ではシンガポールや米国での日系製薬企業プラント建設案件への参画も期待されます。

医薬プラント案件は規模こそ数百億円程度までですが、収益率が比較的高く安定性もある点で事業多角化のカタリストと言えるでしょう。千代田はこの分野で蓄積したエンジニアリングノウハウを武器に、「単なるEPC受注に留まらず計画段階から伴走する事業パートナーになる」戦略を掲げていま。これは装置産業プラントで培った総合調整力を他産業に展開する試みであり、今後の成長の柱の一つとなり得ます。

4. 原子力再稼働やSMR(小型モジュール炉)関連案件への参画

エネルギー安定供給と脱炭素の両立の観点から、原子力発電の再活用や小型モジュール炉(SMR)の開発が国内外で再び注目されています。

千代田は原子力分野で大規模な実績はないものの、プラントエンジニアリング企業として関連プロジェクトへの参画機会がありえます。日本国内では政府が原子炉の稼働延長や次世代炉(高速炉・SMR等)の開発支援を打ち出しており、原子力施設の改良工事や新技術実証といった領域で千代田が貢献する可能性があります。

例えば、既存原発の安全向上工事(冷却設備の改造や水素対策設備の設置)では千代田の配管・機器エンジニアリング能力が活かせるでしょう。

また、SMRについては日本企業では三菱重工業や日立GEなどが主体ですが、プラント全体の配置設計・建設には総合エンジニアリング会社の関与が必要です。千代田は他社との協業検討事項として「原子力発電の部分的復活によるCO<sub>2</sub>削減」も言及しており、三菱重工業などと協業の可能性を模索しているとみられます。

実際、三菱重工が開発中の高速ガス炉やSMR実証において、周辺設備のEPCを千代田が請け負うシナリオも考えられます。海外では米英で複数のSMRが2030年前後の実用化を目指しており、千代田も情報収集や国際提携を進めている模様です。

もっとも原子力案件は参入ハードルが高く規制も厳格なため、すぐに業績押上げとはならないでしょう。しかしながら、日本政府の後押しがあるプロジェクト(例:高速炉実証「ふげん」の後継設備や日米協力によるSMR実証)において、千代田が一部でも契約を獲得できれば技術蓄積と新収益源となり得ます。さらに、千代田は原子力周辺の分野、例えば放射性廃棄物の処理装置や老朽化した原発設備の解体支援など、ニッチだが需要のある領域で受注を目指す可能性もあります。総じて、原子力・SMR関連は不確実性はあるものの潜在的なカタリストとして存在し、政策動向次第で千代田にプラスの材料となるでしょう。

5. 日系・外資企業とのパートナーシップ/共同開発案件

千代田は自社単独での受注のみならず、戦略的パートナーシップを活用した案件創出を図っています。

前述の通り、脱炭素領域では三菱重工業(CCS技術)、日本郵船(CO2海上輸送)、JFEエンジ(CO2液化装置)など国内企業と協業検討中であり、水素製造ではトヨタ自動車と共同研究を進めています。これらの協業から具体案件(実証設備や商用プラント建設)が生まれる可能性は高いと考えます。

また海外企業との提携も積極化しています。例えばフランスのテクニップ社とはLNGプラントで長年協働関係にあり、カタールやモザンビークの巨大LNG契約を共同で獲得しました。同様に米KBR社や英国ウッド社ともプロジェクト単位で協業実績があります。今後伸長が見込まれるクリーン燃料・ペトロケミカル分野では、千代田は欧米のライセンサー(触媒メーカー等)や新興テック企業とのジョイントベンチャー型受注を狙っています。

実例として、千代田は豪州Hazelwood社とメタンから水素を製造する新プロセス開発でMOUを締結し、年内に本契約を目指すなど、技術開発段階から協業に参画する動きもあります。さらには中東での案件で、資本力のある現地国営企業(例:サウジアラムコ)や商社と組んで受注を目指す戦略も報じられています。

千代田アルマナ(カタール現地JV)のように海外拠点パートナーと組むケースも増えています。こうしたパートナーシップは千代田に新市場へのアクセスやリスクシェアのメリットをもたらし、大型案件を受注しやすくするカタリストです。

一方、千代田自身が他社案件に参画するパターンもあり、例えば東芝エネルギーシステムズが進める大規模メタネーション実証にEPCパートナーとして千代田が関与するなど、共同開発型の案件化が増えています。経営トップも「お客様の計画段階から伴走する“事業パートナー”として価値を提供する」と述べており、単なる下請ではない協創型ビジネスモデルへの転換を図っています。これが実れば、継続的な案件獲得と利益率向上につながるでしょう。

6. 三菱商事主導のTOBや戦略的再編による資本構造変化の可能性

三菱商事による支援以降、千代田の資本構成は大きく様変わりしました。

現状、三菱商事は議決権ベースで3割超(潜在株含め実質過半)を占める筆頭株主であり、実質的な親会社として影響力を持ちます。この状況下、将来的な資本構造の再編も十分考えられます。一つのシナリオは、三菱商事が優先株の転換や追加取得を通じて持株比率をさらに高め、完全子会社化(TOBによる残余株買収)に踏み切る可能性です。

三菱商事は既にIFRS上連結しているものの、議決権82%を得られる転換権を保有しているため、経営判断次第では株式公開買付け(TOB)で残りの株主から株式を取得し、千代田を非上場化することも選択肢となりえます。

これは千代田にとって安定的な長期資金供給を得やすくなる利点がある一方、既存株主にとっては株式プレミアム獲得の機会となる可能性があります。実際、三菱商事による支援額1,500億円超はきわめて大規模であり、将来的に自社グループ内で千代田を戦略的に位置付け直す(例えば他のエネルギー事業部門と統合する等)シナリオも議論されます。また、業界再編の文脈では、

もう一つのシナリオとして他プラントエンジニアリング大手との経営統合も指摘されています。日揮ホールディングスや東洋エンジニアリングなど同業他社も構造不況に苦しんだ経緯があり、国策的にエンジ会社の集約が議論されたことがあります。千代田は三菱グループの一員であるため第三者との統合のハードルは高いものの、例えば三菱商事主導で日揮HDと千代田を協働させるような形でプロジェクト遂行力を高める案が専門誌等で取り沙汰されたこともあります(正式な計画は公表されていません)。

さらに、三菱商事自身が追加出資や優先株の処理を通じて千代田への関与を調整する可能性もあります。例えば業績が安定して株価が上昇すれば優先株を転換・売却して資金回収を図る一方、逆に再度経営危機となれば追加支援する代わりに経営権を完全掌握するといった動きです。財界のインタビューでも千代田経営陣は「三菱商事などと財務体質強化策を協議中」と2019年当時コメントしており、支援企業との連携による戦略的再編を示唆していました。

現時点では具体的プランは見えませんが、親会社である三菱商事の意向次第で資本構造が大きく変化し得る点も、千代田の潜在的な“カタリスト”と言えます(市場ではむしろポジティブ材料として捉えられる可能性が高い)。例えば完全子会社化となれば四半期ごとの業績プレッシャーから解放され、中長期視点の事業運営が可能になる利点があります。一方で上場廃止となれば流動性が失われるため、一般株主にとってはTOB価格や条件次第の判断となるでしょう。いずれにせよ、資本政策・グループ戦略に起因する再編シナリオは頭の片隅に置いておく必要があります。

★この記事は個人の株取引のメモであり、登場する銘柄は売買を推奨するものではありません。

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