先日の上方修発表で、好業績ながら売られた放電精密が今日突如急騰しました。正確なところはまだ私自身掴めてないのですが、そもそもかなりの好決算を発表したにも関わらず下落していた銘柄です。そこが上がってくるのはなんら不思議ではないのですが、それにしても今日の株価上昇は急騰でした。
そこで、ここで改めて放電精密の状況をザックリですがまとめておきたいと思います。
1. 放電精密工業のLNG関連事業・製品
放電精密工業(正式社名: 株式会社放電精密加工研究所〈HSK〉)は、その高精度な加工技術を活かし エネルギー産業向けの部品製造 を行っています。特に 天然ガス火力発電(LNGを燃料とする発電)関連 の機器部品を一貫製造しており、以下のような製品がLNG分野に関連します。
ガスタービン部品
天然ガス(LNG)発電所で発電に用いられるガスタービンに、同社製の高温耐久部品が組み込まれています。長孔加工(冷却用の細長い穴の加工)や耐熱コーティング(独自導入のSermeTelコーティング)など、過酷環境下で使われるタービンブレード等に不可欠な加工技術を保有しています。
蒸気タービン部品
LNG火力発電のコンバインドサイクル(二次的に蒸気でも発電する方式)などで使われる蒸気タービンにも、同社製の部品が採用されています。
遠心圧縮機(コンプレッサー)部品
LNGプラントやパイプラインで天然ガスを液化・圧送するための 遠心圧縮機 において、同社が製造した部品が使われています。これら圧縮機器は超高圧でガスを圧縮する装置であり、高い機械強度と精密さが要求されます。
以上のように、放電精密は LNG関連インフラ(発電設備やプラント)向けの重要部品サプライヤー として位置付けられます。実際、同社は1980年代から火力発電用ガスタービン分野に参入し、独自技術を蓄積して多様なソリューションを提供してきました。近年では、世界的な電力需要増加や再生可能エネルギーの不安定さを補うための天然ガス火力発電需要の増加を背景に、同社のガスタービン部品の受注が伸びています。また 石油・ガス産業における精製・輸送需要の増加に伴い、遠心圧縮機向け部品の受注も拡大しています。これらはすべて、LNGを含むエネルギー分野で同社の製品・技術が重要な役割を果たしていることを示しています。
2. エネルギー業界(LNG関連企業)との取引状況
放電精密工業は エネルギー・重工業分野の大手企業を主要取引先 に持ち、その取引関係からもLNG関連への深い関与がうかがえます。公式資料によれば、同社の主要顧客には以下のような企業が名を連ねています。
重工業・プラント関連
三菱重工業、川崎重工業、IHI、神戸製鋼所、荏原エリオット(荏原製作所グループの圧縮機メーカー)など。これらはガスタービン発電設備やLNGプラント用コンプレッサー等の製造企業であり、同社はそれら向けに部品供給や加工受託を行っています。特に荏原エリオットはLNG液化プロセスなどで用いられるターボ圧縮機のメーカーであり、その名前が主要取引先にある点からも同社がLNG関連設備に関与していることが分かります。
電力・重電関連
東芝(重電部門)、日本ガイシ(LNG関連技術ではないもののエネルギーインフラ部材メーカー)なども顧客に挙げられています。東芝は発電タービンや送変電機器を手掛け、日本ガイシはエネルギーインフラ用セラミックスを扱う企業で、これらとの取引もエネルギー関連ビジネスの一端です。
その他関連
デンソー、トヨタ自動車、本田技研工業、マレリ、LIXIL、UACJ等。自動車部品大手や建材大手も含まれていますが、これらは主に同社の他分野(自動車向け表面処理や住宅用金型など)の取引です。エネルギー関連に絞れば、三菱重工業グループとの関係が特筆され、2024年には 三菱重工と資本業務提携 を結んでいます(詳細は後述)。三菱重工は世界有数のガスタービンメーカーであり、この提携により放電精密はMHIの持つエネルギー大型案件への更なる関与や技術協力が期待されています。
以上から、放電精密加工研究所はエネルギー業界、とりわけ LNG関連設備・ガスタービン分野のリーディング企業(重工各社)との強固な取引関係 を有しており、それが同社のビジネスの柱の一つとなっています。主要顧客の顔ぶれが同社の立ち位置を裏付けており、エネルギー・インフラ領域で不可欠なサプライヤーであることが読み取れます。
3. LNG・再生可能エネルギー・インフラを巡るテーマ背景
近年、LNG(液化天然ガス)や再生可能エネルギー、社会インフラ整備といったテーマが市場や政策で注目を集めています。その背景として、大きく以下のポイントが挙げられます。
脱炭素時代におけるLNG火力の位置付け
地球規模で再生可能エネルギーへの転換が進む一方、その不安定な出力を補完するバックアップ電源として 天然ガス火力(LNG火力) が重要視されています。実際、同社IRでも「再エネの不安定さを補うバックアップ電源として天然ガス火力発電の需要増加」によりガスタービン部品受注が伸びたと述べられており、LNGは低炭素で機動的な発電源として注目されています。日本国内でもエネルギー基本計画の中で2030年に向け一定割合の天然ガス火力が位置付けられており、再エネ大量導入を支える調整力電源としてLNGが再評価されています。こうした潮流に乗り、ガスタービン関連技術を持つ同社にも追い風が吹いています。
インフラ投資・エネルギー安全保障
世界的なエネルギー需給逼迫(例:欧州でのロシアガス代替需要の増大)を受けて、LNG受入基地や発電設備など エネルギーインフラへの投資 が加速しています。日本政府も安定的なLNG調達や備蓄の強化策を打ち出し、発電設備の高効率化・更新を進める方針です。これら国策的な動きにより、インフラ関連銘柄 としてエネルギー設備メーカーが脚光を浴びています。放電精密も 「エネルギーインフラ関連」「脱炭素インフラ関連」銘柄の一つ とみなされており、市場のテーマ株リストでは「LNGガスタービン関連銘柄」の一つに挙げられています。実際、資本業務提携先の三菱重工業は政府のエネルギー政策に絡む事業(発電所の更新や次世代火力技術)を担う企業であり、そのパートナーである同社も 国策テーマの裾野 に位置しているといえます。
再生可能エネルギーと次世代技術
再エネ分野そのものへの直接的な関与は大きくありませんが、同社は 水素・アンモニア燃焼ガスタービン といった次世代エネルギー技術にも間接的に関わる可能性があります。カーボンニュートラル実現に向け各国で開発が進む「水素やアンモニアを燃料とするガスタービン」は、現行のLNGタービン技術をベースにした革新技術であり、三菱重工なども開発を推進中です。同社はこれらガスタービンの特殊加工や部品製造ノウハウを持つため、将来的に水素エネルギー関連銘柄としても注目されうる立場です。事実、同社は「蓄積した技術力を脱炭素分野に活用して存在感を高める」方針を掲げており、再エネ大量導入時代のニーズに応える構えです。
以上のようなマクロ環境・政策動向により、放電精密加工研究所は LNG・エネルギー関連のテーマ株 としてマーケットでも取り上げられています。実際の業績面でも前述の通りエネルギー向け事業が好調であり、テーマ性と実需(ファンダメンタル)の両面から注目度が上がっている状況です。
4. 2025年7月31日現在の株価急騰要因
2025年7月末時点までに、放電精密加工研究所の株価は大きく上昇し、市場で話題となりました。その急騰の背景には、好材料の発表やテーマ性の高まりが複合的に作用しています。主な要因を整理すると以下のとおりです。
業績上方修正(IR発表)
最大の直接要因は、2025年7月3日に発表された業績上方修正です。同社はこの日、2026年2月期(※2025年3月〜2026年2月の期)の第1四半期決算を発表すると同時に、上期(第2四半期累計)の業績予想を大幅に上方修正しました。具体的には、3〜5月期(1Q)の連結経常利益が前年同期比5倍(3.5億円)と急拡大し、それを受けて 3〜8月期(上期)の経常利益見通しを従来予想2億円から2.7億円へ約30%上方修正(前年同期比では97.8%増益見通しに上方修正)しています。営業利益も2.63億円→3.24億円、純利益も1.27億円→1.41億円へと引き上げられ、前年同期比でそれぞれ約95%増、75%増となる予想です。
好調なエネルギー分野の寄与
上方修正の背景には、環境・エネルギー分野における計画外の高付加価値アイテムの売上計上があったことがIR資料で言及されています。要するに予定になかった大口案件や高収益案件(おそらくLNG関連部品など)が売上・利益を押し上げた格好です。同時に進めていた経費削減効果も利益増に寄与しました。このように エネルギー関連事業の好調が業績を牽引している構図が明確になったことで、「脱炭素インフラ需要の恩恵を享受する銘柄」として投資家の評価が一段と高まりました。
株価の連続上昇と材料株人気
上記IRの好感を受けて、株式市場では同社株に買いが殺到し、発表翌日の7月4日には株価が年初来高値を更新して9営業日連騰という急騰劇となりました。実際、7月4日付の株探ニュースでも「放電精密が9連騰、上期利益予想の上方修正を好感」と伝えられており、その時点で株価は前日比+94円(+5.4%)高の1928円まで上昇、一時は2019円の高値を付けています。出来高も急増し、短期資金・個人投資家による物色が進んだことがうかがえます。業績修正という確かな材料に加え、前述のLNG関連テーマ性も相まって、「国策銘柄」「高成長小型株」として注目度が一気に高まっていると考えられます。
その他の材料・要因
上記以外に、2025年7月時点で特筆すべきIRやニュースリリースは限定的ですが、強いて挙げれば 三菱重工との資本業務提携効果 も中長期の支援材料です。同提携は2024年初に発表されたものですが、三菱重工からの出資受け入れにより財務基盤や信用力が強化され、共同開発や受注機会拡大への期待が高まりました。このような戦略的パートナーシップは投資家から見ても安心感材料であり、株価を下支えする要因となっています。また、国策テーマへの合致(脱炭素・防衛・インフラなど複数領域に関連)や、小型株ゆえの値動きの軽さも手伝って、短期的な物色人気に拍車をかけた面もあります。総じて、確かな業績改善にテーマ性が伴ったことが2025年7月時点の株価急騰の根底にあると言えるでしょう。
5. その他のLNG・エネルギー関連で注目される要因
上記までに触れた点以外で、放電精密工業が LNG・エネルギー関連銘柄として注目される要因 を補足します。
三菱重工業との資本業務提携
繰り返しになりますが、2024年2月に実施された三菱重工による第三者割当増資(約20億円の出資)は、同社の戦略的位置付けを大きく高めました。三菱重工は100%子会社にガスタービン専業の三菱パワー(GTCC技術で世界トップクラス)を抱えており、放電精密はそのバリューチェーンに組み込まれる形です。提携発表資料によれば「当社技術・ノウハウが活かせる産業分野の需要が高まっており…本提携でそれら需要を確実に取り込む」ことを狙うとあります。言い換えれば、三菱重工と一体となってLNG火力の次世代需要(高効率ガスタービンや脱炭素型タービン)に対応していく体制が整ったとも解釈できます。資本業務提携により株主構成上も三菱重工が主要株主となったため、同社の経営安定性や大型案件受注力においてプラス材料であり、市場からの信頼も増しています。
独自技術と多角的展開
同社は 電気放電加工のパイオニア であり、長年培った特殊加工・表面処理技術を強みに持ちます。その高度な加工技術はガスタービン分野のみならず、航空宇宙分野や自動車分野でも活用されており、各分野でニッチトップ的な地位を築いています。例えば耐熱コーティング技術(前述のSermeTel)やエンジン部品の精密加工は国内随一との評価もあります。その結果、防衛分野(ジェットエンジン部品)や将来の 水素エネルギー分野 にも展開余地があり、総合的に「エネルギー・産業インフラを支える隠れた技術銘柄」として注目される要因となっています。実際、資本提携のリリースでも 防衛力整備計画の拡充 や 水素・アンモニア焚きガスタービンへの期待 などが同社を取り巻く事業機会として挙げられており、エネルギー安全保障や次世代クリーンエネルギーといったテーマにも関連付けられています。
安定配当と株主還元方針
業績好調に伴い、同社は配当の増額や株主優待の新設など株主還元にも積極的です。2025年2月期は期末配当予想を従来計画より増配し、安定的な利益還元姿勢を示しました。エネルギー関連株としての成長性だけでなく、財務健全性と株主還元の両面で評価できる点も、投資家にとって魅力となり得ます(テーマ性の高い小型株は無配も多い中、同社はしっかり利益を出し配当している)。このような総合力も、注目理由の一つとして挙げられるでしょう。
同社は 「脱炭素社会を支える精密加工技術企業」 として位置付けられ、LNG関連を中心にエネルギーインフラ分野で重要な役割を担っています。その高い技術力と業績の好調さ、さらに国策テーマとの合致が相まって、2025年には株式市場でも大きな脚光を浴びるに至りました。今後も再生可能エネルギーの拡大やエネルギー安全保障ニーズの高まりに伴い、同社の存在感も株価も上昇していく可能性は大いにあると考えます。
★この記事は個人の株取引のメモであり、登場する銘柄は売買を推奨するものではありません。




