銘柄研究:2025/10/23(木)【参考案件】テクセンドフォトマスクの実力と今後の業績予想について

テクセンドフォトマスクが10/16に上場しました。凸版印刷とインテグラル(のファンド)による保有銘柄だった同社の上場は、今年2番目の規模の上場という事で注目を集めています。

この記事ではテクセンドフォトマスクの足元の業績状況や1~3年後の業績予想を会社発表資料をベースに推測した記事なります。

個人投資家の注目度も高い同銘柄の株価検討材料になれば幸いです。

目次

1. 今後1年および3年間の業績見通し(会社発表・アナリスト予想)

短期(1年)見通し
テクセンドフォトマスクは2025年10月にIPOを行った際、2026年3月期(現行年度)の業績予想を公表しています。それによると売上収益は前期比+6.2%の1,252.91億円、営業利益は同▲9.6%の255億円を見込んでいます。税引前利益は▲15.8%減の259.15億円、親会社株主に帰属する当期利益は188.78億円となり、1株当たり当期利益(EPS)は約197.65円の予想です。この減益予想の背景には、中国市場で「過去に無いレベルでの価格競争」が発生し利益を圧迫している点が挙げられています。一方、半導体市場全体では生成AI需要の拡大など明るい材料もあり、スマホ・自動車向け低迷から徐々に回復基調が継続する見通しとされています。会社側も上場後の成長に一定の期待を示しています。

中期(3年)見通し
3年後までの具体的な業績目標は会社から明示されていませんが、フォトマスク市場自体は年8~9%程度の成長が見込まれています。テクセンドフォトマスクもこの市場拡大を背景に売上高の着実な成長が期待されます。現行の2026年3月期の業績予想を起点に、もし今後3年間も売上が年率8%前後で伸び営業利益率も20%台前半を維持できれば、3年後(2029年3月期頃)には売上高1.5兆円規模・EPSで250円前後まで成長する可能性があります(筆者試算)。実際、同社は2025年3月期に先端フォトマスク需要の旺盛さから営業利益率23.9%を達成しており、市場環境が整えば業績拡大余地は大きいと考えられます。アナリスト予想も上場直後の現時点では限られるものの、中長期ではEUVリソグラフィの本格量産など成長機会により増収増益トレンドが期待されています。もっとも足元では前述のように中国向け価格下落の影響で今期は減益見通しのため、まずは2027年3月期に利益回復基調に転じられるかが注目ポイントとなります。

2. IR資料の想定為替レートと実際の為替動向による上方修正可能性

テクセンドフォトマスクは業績予想を立てるにあたり想定為替レートを1米ドル=140円と設定しています。一方で足元の為替相場は円安が進行しており、2025年10月時点では1米ドル=150円前後と想定を大きく上回る水準です。同社は海外売上比率が高く、ドル建て収益が多いと推察されるため、円安進行は業績にプラス要因となります。実際、2026年3月期第1四半期(2025年4-6月)時点では売上収益300.76億円で通期計画に対する進捗率24.0%となり、進捗は順調です。為替前提との差異で上振れ余地があることから、今期業績予想に上方修正の可能性があると考えられます。もっとも、同社は中国向け価格競争激化で今期利益を慎慎重に見積もっている経緯もあり、為替差益による上振れが生じても慎重な計画修正を行う可能性があります。ただ円相場がこのまま想定より約10円以上円安で推移すれば、売上・利益とも計画超過となる蓋然性は高まるでしょう。為替感応度の詳細は開示されていませんが、少なくとも1ドル=140円前提から現状150円程度への乖離は円建て換算で約7%の増収要因となる計算で、営業増益幅にも寄与すると見込まれます。

政権交代でドル円レートは円高方向に修正される可能性は大きいとも考えられるので、この点はあくまで参考程度に考えています。

3. ラピダスとの資本・業務・供給面での関係性

テクセンドフォトマスクと、次世代先端半導体製造を目指すラピダス社との業務・供給面では密接な関係が期待されています。ラピダスは最先端(2nm世代)の半導体製造においてフォトマスクを内製せず外部調達する方針を示しており、その有力な供給候補がテクセンドフォトマスクと大日本印刷(DNP)です。つまり、ラピダスが計画通り2027年以降に2nmチップ量産に成功すれば、テクセンドが先端EUVフォトマスクの主要サプライヤーとして大きな受注を得る可能性があります。実際、テクセンドはベルギーのimecやIBM社と2nm世代EUVフォトマスクのプロセス共同開発契約を締結しており、ラピダス向けを念頭に最先端マスク技術の開発を進めています。一方で、ラピダスの計画進捗が遅れたり不調に終わった場合、テクセンドが先行投資したEUV対応設備が遊休化するリスクもあります。総じて、資本提携こそないもののラピダスはテクセンドにとって将来の重要顧客候補であり、同社の成否がテクセンドの業績に大きな影響を及ぼし得る関係性と言えます。政府主導の国産先端半導体プロジェクトであるラピダスの動向について、テクセンドも「計画に基づき支援していく」旨を示唆しており(※上場時の市場関係者の言及)、今後具体的な取引や協業内容が公表される可能性があります。

4. 他企業(国内外の顧客・提携先・競合)との関係性

主要顧客と取引実績
テクセンドフォトマスクは世界各地の半導体メーカーにフォトマスクを供給しており、外販フォトマスク市場で世界シェア約40%を占めるトップ企業です。顧客層は、社内にフォトマスク内製部門を持たないファブレス設計企業や研究機関に加え、Intel・TSMC・Samsung等内製能力を持つ大手でも外注ニーズが発生した際には受託するなど幅広いです。例えば、製造未成熟な先端ノードではファウンドリ(TSMC等)が量産を請け負わないため、NVIDIAのような設計専業(ファブレス)企業が試作段階でテクセンドにマスク製造を委託するケースがあります。地域的にも顧客は欧米・アジアに分散しており、特定国に偏らない販売網は地政学リスク分散につながっています。

提携・協業関係
テクセンドは素材・装置メーカーや研究機関との共同開発に積極的です。例えばフォトマスクブランクス(原板ガラス)メーカーと共同で先端マスクブランクスを開発し、自社プロセス最適化や顧客プロセス最適化に生かしています。実績として、共同開発した高精度なOMOG材(バイナリーマスク用材料)が業界標準となり、パートナー企業経由で広く供給されています。現在は次世代EUV「High-NA」対応のマスクブランクス開発にも取り組み、当社技術を業界標準にすべく材料面から先端技術をリードしています。また前述のとおりIBM社やimecとの連携で2nm対応プロセス技術を開発中であり、ラピダスを含む将来の顧客ニーズに備えています。資本面では、中東の政府系ファンドであるカタール投資庁(QIA)が約80億円のIPO株式を引受け海外機関投資家として参画しており、これはビジネス上の提携ではないものの同社への国際的な期待の高さを示す動きです。

競合動向
フォトマスク業界は半導体大手の内製(市場の約60~70%)と、テクセンドのような専業メーカーによる外販(約30~40%)に大別されます。外販市場における主要競合は米国のフォトロニクス(Photronics)と日本の大日本印刷(DNP)で、テクセンドを含めた3社で寡占的な地位を占めています。シェアはテクセンドが約38.9%で統計によっては世界1位、他2社もトップクラスです。競合各社との関係は熾烈ながら、大手3社はいずれも高い利益率を維持しており(テクセンドも営業利益率20%以上)、ある程度の価格支配力を持っています。ただし近年台頭している中国の新興フォトマスク企業(Shanghai QI MaskやHG Technologiesなど)との競合が無視できなくなっています。中国ファウンドリSMICが7nm級マスクを内製化する動きも報じられ、国策の後押しで中国勢が利益度外視の低価格攻勢を仕掛けるケースも出始めました。既にTSMCが外注する1世代前のプロセス領域では、中国企業がテクセンドより安価にマスクを供給した事例もあります。テクセンドにとって中長期的な脅威となり得るため、こうした動向を注視しつつ技術優位性とサービスの質で差別化を図る必要があります。

5. 現在取り組んでいる新技術(EUV・NIL・量子関連・その他半導体製造技術)

テクセンドフォトマスクは最先端のリソグラフィ技術分野への挑戦を積極化しています。まずEUV(極端紫外線)リソグラフィ向けフォトマスクについては、2026年に向け量産対応を計画中と報じられています。現状同社は3nm・2nm世代の最先端マスク製造は未対応ですが、EUV対応設備投資と技術開発を進め、次世代半導体製造の鍵となるEUVマスク量産に参入しようとしています。とりわけEUVでも今後導入が見込まれる高開口数「High-NA」EUVに向け、対応ブランクス(原板)の共同開発にも着手しており、当社技術を業界標準に高めることを目指しています。さらに将来の2nm世代を見据え、前述の通りIBM社との共同研究でEUVマスクのプロセス技術を磨いており、Rapidusを含む将来顧客の要求に応えうる最先端EUVマスク技術の確立を急いでいます。

次にNIL(ナノインプリント・リソグラフィ)関連では、テクセンドはフォトマスク事業で培った微細加工技術を応用し、ナノインプリント用モールド(原板)製造にも取り組んでいます。実際、製品カテゴリとして「ナノインプリント用モールド」を掲げ、次世代の微細パターン転写技術にも対応できる体制です。ナノインプリントはEUVに続くリソグラフィ技術として期待される分野であり、同社が将来の事業柱の一つと位置付けて開発を進めているものと思われます。

また、公式には大きく打ち出していませんが、「シリコンステンシルマスク」の開発・製造にも取り組んでいます(※シリコンステンシルマスクは電子ビーム直描や電子デバイス向け特殊マスクと推測される)。このように半導体露光工程のみならず、微細加工全般に関わる商材を広げることで、同社は「フォトマスク専業」から関連する先端加工領域への事業拡大を図っています。

量子関連技術については、直接的な言及はIR資料等で確認できませんでした。考えられるのは、量子コンピューティング用デバイスの微細加工や、量子ビット形成に関するマスク需要などですが、現時点で具体的な取り組みは表面化していないようです。テクセンドとしてはまず半導体分野のEUV・NILといった直近の先端リソグラフィ技術の実用化に注力しており、それらが将来的に量子テクノロジー分野へ応用される可能性はありますが、現段階では量子分野は研究開発の射程外と推察されます。今後、量子半導体や量子計算機向けにナノスケールパターニング技術の需要が顕在化すれば、新たな取り組みが公表される可能性はあります。

6. 中国リスクに対するスタンス・リスク開示内容(輸出管理、拠点、需給、地政学など)

中国市場における需給リスク
テクセンドフォトマスクにとって、中国はこれまで最大の半導体需要地の一つでした。しかし近年の米中摩擦や中国政府の国産化政策により、市場環境が様変わりしています。実際、同社は2025年3月期に「中国で過去に無いレベルの価格競争」が発生したことを明かしており、これが現在の業績押し下げ要因となっています。今後も中国ローカル競合の台頭と価格圧力が続くリスクがあります。テクセンドはIR上で、「半導体市場のデカップリング進行により各国で新たなファウンドリが勃興する中、これまで成長を牽引してきた中国市場は米中対立と中国の国産化で競争が激化している」と分析しています。このため、同社の設備投資方針としては米国や中国を除くアジア諸国の需要増に注力し、生産能力拡大を進めるとしています。つまり、中国依存を相対的に低下させ、他地域での成長を重視する戦略です。

地政学・輸出規制リスクへの対応
安全保障上の輸出管理規制にも細心の注意を払っています。同社は「各国地域の安全保障政策や輸出規制の変化により競争力が低下し業績に悪影響を及ぼすリスク」「輸出規制に抵触した場合の罰則リスク」について有価証券報告書で開示し、各国の政策動向や規制情報を随時共有・把握していると述べています。特に米国の対中半導体規制強化や各国の輸出入規制変更に備え、自社輸出管理部門を中心に従業員教育を定期実施し、グループ全体で規制遵守を徹底する体制です。また、米中貿易摩擦による関税コスト増に対しては、生産拠点の見直しで発生関税を最小化し、必要な場合は価格への転嫁交渉も行うとしています。これらはリスク開示にとどまらず具体的な対応策として述べられており、中国リスクをコントロールしつつグローバル展開を図る姿勢が伺えます。さらに、2025年3月には中国事業の再編を行ったと開示されており(※詳細不明ですが、子会社再編等)、中国関連リスクを低減すべく組織・戦略面で手を打っているようです。

総じて、テクセンドは中国リスクについて「最大の成長市場が一転、競争激化と政策リスクの源になっている」と認識しつつ、違反時の罰則や市場縮小の影響を開示しています。その上で、他地域への軸足移し・規制遵守の徹底という二方向からリスク対応を講じている状況です。今後ラピダスのような国産先端プロジェクトが動けば日本国内需要が増える可能性もあり、中国に代わる成長機会の創出にも期待がかかります。

7. EPS予想(今期・来期・3年後)の試算(売上高・営業利益率・想定為替レート等の前提)

今期(2026年3月期)
会社計画では前述の通りEPS約197.7円が予想されています。前提となる売上高は1,252.9億円、営業利益率20.4%、想定為替レート1ドル=140円です。この計画は中国での値下げ圧力を織り込んだ保守的なもので、利益は前期比減益の見込みですが、為替前提より円安が進んでいる点はプラス材料です。

来期(2027年3月期)
来期について会社から公式予想は出ていませんが、筆者試算として為替レートを引き続き1ドル=140円程度と仮定し、売上高は市場成長率8%程度で約1,350億円、営業利益率は先端品比率の高まりで21%前後に改善すると想定してみます。その場合、営業利益は約283億円、税引前利益280億円規模となり、法人税負担を25%程度と仮定すると当期純利益は約210億円前後が見込まれます。発行済株式数約9,500万株強で計算すると来期EPSはおよそ220円前後と推定されます(増収効果で今期比+10%程度の増益イメージ)。この予想には、EUVマスク量産開始に向けた費用増加や中国価格競争の行方など不確定要素も多いため、実際の増益率は変動し得ますが、来期は増収増益に転じる可能性が高いと考えられます。

3年後(2029年3月期頃)
さらにその先3年後まで成長軌道が続いたケースを試算します。例えば年率8%の売上成長が3年間続けば売上高は約1,580億円に達し、営業利益率も先端EUV案件の本格化で22%程度まで向上すると仮定します。為替は保守的に1ドル=140円据え置きとして計算すると、営業利益約348億円、当期純利益は税率考慮後で約260~270億円規模が見込まれます。この場合のEPSは270〜280円程度となります。これはあくまでシナリオの一つですが、Rapidus向けを含む最先端EUVマスクの量産寄与や、新興国での半導体需要拡大を取り込めれば十分射程に入る水準です。一方で、中国勢との競合激化で成長率が低下したり価格下落が進む悲観シナリオでは、成長率5%・利益率20%程度にとどまりEPSも200円台前半で伸び悩む可能性もあります。従って3年後のEPSは200円台前半~後半まで幅がありますが、ベースラインでは250円前後を目安に置くのが妥当と考えられます。今後公表されるであろう中期計画やアナリスト予想において、このレンジ感がどう示されるか注目されます。

8. 同業他社・同セクターのPER平均から見た株価バリュエーション算出

テクセンドフォトマスクの適正株価を評価するため、同業各社の株価収益率(PER)水準と比較します。主な比較対象は、米Photronics社、国内ではHOYAおよび大日本印刷(DNP)などが挙げられます。

  • Photronics (米) – フォトマスク専業の競合他社。2025年10月時点の株価ベースPERは約12倍前後(TTMベース11~13倍)と算定されています。これは成熟市場における安定的な利益水準に対する評価で、フォトマスク専業メーカーの一つのベンチマークと言えます。
  • 大日本印刷 (DNP) – フォトマスク事業も営む国内大手。DNP全社の予想PERは約12.9倍(連結・会社予想ベース)で、純粋なフォトマスク事業だけの評価ではありませんが、印刷本業の低成長性から見ると市場は低い倍率を付与しています。DNPの株価純資産倍率(PBR)は約1倍程度と資産価値基準に近く、フォトマスク部門単体ではもう少し高い収益性評価も考えられますが、少なくともPER十数倍程度が参考になります。
  • HOYA – マスクブランクス(フォトマスク用基板ガラス)の世界トップ企業で、ライフケア事業等も含む複合企業です。HOYA全社の調整後PERは25~30倍前後とかなり高水準にあります。これはEUVブランクスという参入障壁の高い成長分野を独占的に担う事業ポートフォリオへの市場期待を反映しています。純粋なフォトマスク製造企業ではありませんが、「最先端露光関連ビジネス」は高PERが許容されている代表例です。

以上を踏まえると、フォトマスク専業ビジネスのPERレンジはおおむね12~15倍がベースと考えられます。一方で事業の中で先端技術分野の比率が高まるほどPERは20~30倍に近づき得ることをHOYAの例が示唆しています。テクセンドフォトマスクの場合、現状ではPhotronicsやDNPに近い低十数倍台の利益評価が妥当とみられ、実際IPO時の公募価格3,000円は今期予想EPS約200円の約15倍に設定されました(PER15倍前後)。しかし、中期的にRapidus向けEUVマスク供給など先端露光ビジネス比率が上昇すれば、市場からより高い成長性が織り込まれPER拡大余地もあります。

株価ターゲットプライス試算:
上述の予想EPSおよびPER水準を用いてテクセンドの妥当株価レンジを算出します。ベースシナリオとして3年後のEPSを約250円と置き、保守的なPER15倍を適用すると株価3,750円程度となります(=250円×15倍)。これは現在の株価水準(初値3,570円)をやや上回る水準で、同社の市場評価が妥当範囲内にあることを示唆します。

一方、先端事業の伸長によりPER20倍を許容できる局面では5,000円近い株価も見えてきます(=250円×20倍)。逆に競争激化で成長が鈍化しPER12倍程度(同業平均並み)にとどまる場合は3,000円前後(=250円×12倍)に留まる計算です。現段階では保守的に3,500~4,000円前後がターゲットレンジとして妥当であり、これはPERにして14~16倍程度に相当します。市場の平均的な半導体関連株のバリュエーションや同社の高利益率を考慮すると、このレンジは合理的です。さらにRapidusの量産寄与など成長イベントが現実化すれば株価上振れ(PER拡張)の余地もあり、逆に中国リスク顕在化などネガティブ要因では下振れ余地もあります。今後は同業他社の動向や業績トレンドと照らしつつ、このターゲットプライスのレンジを適宜見直す必要があるでしょう。

★この記事は個人の株取引のメモであり、登場する銘柄は売買を推奨するものではありません。

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