銘柄研究:2025/2/11(火)三井金属の銅箔事業と関税政策、そして半導体材料開発の行方

近年、米国の関税政策は国内産業保護や貿易赤字の是正などを目的として、品目別に追加関税の導入や強化を行ってきました。トランプ前大統領の政権時には、鉄鋼やアルミなど基幹素材への追加関税が注目されましたが、銅や銅製品も対象に含まれる可能性が示唆されたことがあります。

もし銅箔に対しても関税強化が行われれば、世界トップクラスのシェアを誇る三井金属の銅箔事業にどのような影響が出るのでしょうか。

この記事では、三井金属の事業構造や業績に基づき、関税影響の想定と同社が進める次世代半導体材料(HRDP®など)の取り組み、さらには主要セグメントの売上構成や今後の成長シナリオについて詳しく見ていきます。

目次

三井金属の全体概要

連結売上高とセグメント構成

最新の決算期(参考値)における三井金属の連結売上高は約6,467億円とされています。同社の事業は大きく4つのセグメントに区分されるのが一般的です。

  1. 金属セグメント (Metals)
  2. 機能材料セグメント (Engineered Materials)
  3. 自動車部品セグメント (Automotive Parts)
  4. その他 (Others)

セグメント別の売上高や全体比率、主要製品・サービス、そして拡大・縮小傾向は以下のとおりです。

1. 金属セグメント (Metals)

  • 売上高(概算)2,500億円前後
  • 連結に占める比率約38~40%
  • 主要製品・サービス
    • 亜鉛、鉛、貴金属などの製錬・販売
    • 銅精製・リサイクル事業
    • スラグ(副産物)を利用した環境リサイクル事業 など
  • 事業の特徴・トレンド
    • 非鉄金属の市況(特に亜鉛や銅など)の影響を受けやすく、景気や資源価格に左右されやすい。
    • 脱炭素ニーズの高まりやEV向け金属のリサイクル需要などでプラス要素がある一方、世界経済の減速などマイナス材料も存在。
    • 横ばいからやや拡大寄りの推移との見方もあるが、市況次第で業績の振れ幅が大きい。

2. 機能材料セグメント (Engineered Materials)

  • 売上高(概算)1,240億円前後
  • 連結に占める比率約19~20%
  • 主要製品・サービス
    • 銅箔(世界トップクラスシェア)
    • 電池材料(正極材・負極材・機能性粉末など)
    • 機能粉末材料(触媒担体や磁性材料など)
    • 半導体実装用材料(HRDP®などの先端材料)
  • 事業の特徴・トレンド
    • スマートフォン、PC、サーバなどの電子部品や、EVバッテリー用部材など、デジタル・クリーンエネルギー分野の需要に支えられ、拡大が続いている
    • 特に銅箔事業は三井金属の看板とも言える存在であり、世界シェア1位クラス。最先端半導体パッケージ材料や電池材料も今後の成長ドライバー。

3. 自動車部品セグメント (Automotive Parts)

  • 売上高(概算)2,400億円前後
  • 連結に占める比率約37%
  • 主要製品・サービス
    • 自動車用ドアロックや制御システム
    • 自動車排ガス触媒(ガソリン車・ディーゼル車向け)
    • サスペンション部品などの機構部品
  • 事業の特徴・トレンド
    • 長年にわたり安定的に同社を支えてきた基幹事業の一つ。
    • 世界的なEVシフトが進む中でガソリン車向け触媒などは長期的な縮小が見込まれるが、新興国やアジア地域を中心に内燃機関車の需要は短~中期的に残る見通し。
    • EV対応の新製品開発や既存技術の転換による事業再構築を進め、徐々に次世代モビリティ対応へシフトを図る。

4. その他 (Others)

  • 売上高(概算)300~400億円前後
  • 連結に占める比率約5%
  • 主要製品・サービス
    • グループ内の設備エンジニアリングや機械製造
    • 物流・不動産などのサービス事業
  • 事業の特徴・トレンド
    • グループ全体を支える内部受注的な性格も強く、外部売上規模は大きくない。
    • 安定推移しやすく、大幅な伸びやしぼみは想定しにくい。

銅箔事業の現状と売上比率

三井金属の“顔”とも言えるのが銅箔事業です。最新の決算では、銅箔だけで約753億円程度の売上を計上しているとの推計があり、これは連結売上全体(約6,467億円)の凡そ11~12%にあたります。機能材料セグメント(1,240億円前後)の中でも大きなウェイトを占める中核事業です。

銅箔はプリント基板(PCB)やリチウムイオン電池向け集電体などに使われ、スマホからPC、データセンター用サーバ、さらにはEVなど用途が幅広い素材。三井金属は高品質・薄型の「電解銅箔」で高い評価を得ており、同分野での世界シェアはトップクラスを維持しています。

トランプ関税政策の影響想定

1. 米国向け売上規模

三井金属の地域別売上では、北米(主にアメリカ)向けが直近で約417億円(連結売上の約6.4%)とされています。日本やアジア(中国・東南アジア等)向けが大部分を占めるため、米国の比率は比較的小さいともいえます。

しかし、電子材料や自動車関連など一部には米国の大口顧客が存在し、その中に銅箔製品の供給も含まれます。銅箔自体を直接米国に輸出しているだけでなく、最終的に米国市場で組み立てられる電子機器に間接的に組み込まれるケースも多いため、実際の最終需要としてはもう少し大きいかもしれません。

2. 関税賦課によるリスク

トランプ前大統領が銅やアルミなど一部の非鉄金属・製品への関税を引き上げた場合、以下のようなリスクが想定されます。

  1. 米国国内の価格競争力低下
    関税率10~25%が課されれば、三井金属の銅箔は米国市場で相対的に割高になり、顧客企業にコスト上昇を招きます。これにより競合他社製品(米国内生産や関税対象外国からの輸入)のシェア拡大につながる可能性があります。
  2. 売上減少の可能性
    米国への直接輸出分が減るほか、値引き対応などで採算が悪化するリスクもあります。
    参考までに、米国向け売上417億円のうち一部が銅箔だとして仮に10%ほどの需要減が起きれば、数億~十数億円規模の売上減少もあり得ます。関税率25%などさらに高くなると影響は拡大し、数量ベースで2割近い落ち込みが見込まれるケースも考えられます。
  3. 全社業績への影響は限定的か
    たとえ米国向け銅箔が大きく減少しても、三井金属全体の売上・利益に占める割合を勘案すると、全体業績を揺るがすほどではないとの見方が一般的です。銅箔は重要な収益源ですが、同社の販路は欧州・アジアなど世界各地に広がっており、多角化が進んでいます。
    ただし、米国市場が先端技術開発や次世代電子機器の需要でリードしている面もあり、中長期的には新規案件の機会損失につながる懸念があります。

ジオマテック社との半導体材料開発:HRDP®の可能性

三井金属はジオマテック社と協業し、次世代半導体パッケージ向けの新材料としてHRDP®(High Resolution De-bondable Panel)を開発・量産化に乗り出しています。

  • HRDP®とは?
    ガラスやシリコンなどの基板上に微細な金属膜を形成し、最先端の3Dパッケージやファンアウト型パッケージなどで半導体チップを高密度に実装する際に使用されるキャリア基板。
  • 市場背景
    近年、生成AIや5G/6G通信、データセンターの高性能化などにより、より微細で高性能なパッケージング技術が求められている。シリコンの微細化が限界に近づく中、パッケージレベルでの付加価値向上が競争力のカギとなっている。
  • 三井金属の強み
    HRDP®に代表される微細加工・薄膜形成技術は、従来からの銅箔開発で培われたノウハウを応用している。既に複数の半導体メーカーと開発案件を進め、小規模量産出荷も開始している。2025年前後にはフル量産ラインの拡大が計画され、今後の大きな成長エンジンとなる可能性が高い。

つまり、銅箔ビジネスの安定基盤に加え、新たな高付加価値材料(HRDP®)で半導体パッケージ領域を開拓できれば、三井金属の機能材料セグメントはますます存在感を高めることになります。加えて、米国の関税政策の影響が出たとしても、付加価値の高い領域で強いポジションを確保できれば、価格競争に巻き込まれにくいというメリットも見込まれます。

部門別まとめと今後の展望

ここまで見てきたように、三井金属の事業は「金属」「機能材料」「自動車部品」「その他」の4つから成り立ち、それぞれに特徴的な製品や市場があります。部門別の売上比率は以下のとおりです(概算):

  1. 金属セグメント:2,500億円前後(38~40%)
  2. 機能材料セグメント:1,240億円前後(19~20%)
  3. 自動車部品セグメント:2,400億円前後(37%)
  4. その他:300~400億円(5%前後)

このうち、機能材料セグメントは銅箔や電池材料、そして半導体向け新材料(HRDP®など)といった高付加価値領域が中心であり、今後大きな成長を見込まれています。

一方で、金属セグメントは非鉄金属市況次第の側面が強く、自動車部品セグメントもガソリン車向け部材の先行きに不透明感があります。

しかし、これら成熟事業による安定収益と、新材料・新技術への積極投資がバランスよく組み合わさることで、同社は安定と成長の両輪を目指していると考えられます。

トランプ関税がもたらす可能性とその対策

  • 米国向け銅箔など一部売上が減少し、利益面で多少の影響が出るシナリオがある。
  • ただし、全社業績へのインパクトは限定的な可能性が高く、中長期的には高機能・高付加価値製品へのシフトで米国顧客との協力関係を維持・発展させる余地がある。

半導体事業のシナリオ

  • ジオマテック社との協業によるHRDPは、最先端半導体パッケージのキーテクノロジーとして成長が期待される。
  • 2025年以降にかけて複数の大手半導体メーカーが新パッケージを本格採用する見込みがあり、これが三井金属全体の収益構造を一段押し上げる可能性もある。
  • EV化・デジタル化の進展に伴い、同社の機能材料分野への需要拡大が続くと見られるため、中長期的には事業ポートフォリオの中核となると予想される。

まとめ

  • 三井金属の連結売上高は約6,467億円。このうち、
    • 金属セグメントが約2,500億円前後(38~40%)
    • 機能材料が約1,240億円前後(19~20%)
    • 自動車部品が約2,400億円前後(37%)
    • その他が300~400億円(5%前後)
  • 銅箔事業の売上は約753億円(連結比率は11~12%)で、世界トップクラスシェアを誇る同社の重要領域。
  • トランプ前大統領の関税政策強化などで米国向け売上が一時的に減少するリスクはあるものの、全社売上への影響は限定的であると考えられる。
  • 一方、「次世代半導体材料(HRDP®)」や「EV向け電池材料」など、機能材料セグメントでの新技術・新市場への攻勢が進んでおり、今後の成長エンジンとして期待が高まっている。
  • 自動車部品分野ではEVシフトへの対応が課題となりつつも、新興国需要や内燃機関車が依然として一定数残るため、段階的な事業再編と次世代モビリティ対応を模索中。
  • 非鉄金属を扱う金属セグメントは景気や資源価格の影響を受けやすいが、リサイクルや環境事業の強化で安定化を目指している。

総じて、三井金属は“成熟事業の安定+先端材料の成長”という複合的な収益構造を作り上げようとしています。

米国関税リスクが現実化しても、世界的なEV化やデジタル化の大潮流は同社が得意とする高機能材料への需要を後押しする要因となるでしょう。

銅箔を軸に、半導体パッケージ材料や電池材料など、高付加価値の分野でシェアと技術力を高め続けられるかが、今後の三井金属の成長を左右する大きなポイントと考えます。

★この記事は個人の株取引のメモであり、登場する銘柄は売買を推奨するものではありません。


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