最近気になっている銘柄として「SBIアルヒ」があります。
同社は、住宅ローンに特化した国内最大手の金融機関です。主力商品は住宅金融支援機構と提携する全期間固定金利型住宅ローン「フラット35」で、その実行件数シェアは2010年度以降連続して国内No.1を維持しています。
このような背景の中でSBI傘下に入ったことにより、今後の株価展開はどのようになるのでしょうか?この記事では足元の同社の業績や見通し、今後の株価動向に関してまとめていきたいと思います。
SBIアルヒは、住宅ローンに特化した国内最大手の金融機関です。主力商品は住宅金融支援機構と提携する全期間固定金利型住宅ローン「フラット35」で、その実行件数シェアは2010年度以降連続して国内No.1を維持しています。同社は元々「アルヒ株式会社」として独立系でしたが、2022年末にSBIホールディングス傘下に入り、2023年1月に商号を「SBIアルヒ株式会社」へ変更しました。現在はSBIグループの一員として経営資源を拡充し、変動金利型の商品開発やサービス拡大にも注力しています。事業セグメントは単一ですが、収益は以下の3種類に区分されます。
- オリジネーション関連収益:ローン融資実行時の手数料や貸付債権流動化益など、いわゆるフロー収益です。
- リカーリング収益:住宅ローン債権のサービシング(債権管理回収)手数料や、団体信用保険の販売・配当収入など、資産を持たず継続的に得られる収益です。
- アセット・その他収益:貸出資産から生じる受取利息や金融商品の評価益などで、同社が自社で資産を保有して得る収益です。近年SBIエステートファイナンス(不動産担保ローン)やSBIスマイル(住宅のリースバック事業)等の子会社化により、この項目が拡大しています。
直近(2025年3月期)の収益構成を見ると、オリジネーション関連収益が約43%と比率が低下し、リカーリング収益が約34%、アセットその他収益が約23%を占めています。これは同社がフラット35の新規貸出手数料だけでなく、貸出後の継続収益や自社保有資産からの利息収入へビジネスモデルを多角化していることを示しています。
過去3年間の業績推移
アルヒの業績は、2021年3月期をピークに一時的な低迷を経験した後、2025年3月期に4年ぶりの増収増益となりました。過去3期の連結業績推移は以下の通りです(IFRSベース)。
- 2023年3月期(FY2022):営業収益2,260億円(前期比▲10.3%)、親会社株主に帰属する当期利益28.21億円(▲33.5%)。コロナ禍後の需要反動や競争激化で融資実行件数が減少し、貸出手数料収入が落ち込んだことなどから大幅減益となりました。
- 2024年3月期(FY2023):営業収益2,040億円(▲9.7%)、当期利益15.17億円(▲46.2%)。住宅ローン需要低迷が続き、特に融資実行件数が前期比▲29%と振るわず、オリジネーション収益が大きく減少したことが響きました。その結果、税引前利益も43.5%減と大幅な減益となっています。
- 2025年3月期(FY2024):営業収益2,229億円(+9.3%)、当期利益19.04億円(+25.5%)。この期はSBIグループとの協業効果が顕在化し、減収が続いていた住宅ローン事業が反転。特に債権サービス収入や保険関連収益が好調で、全体業績を牽引しました。営業費用は子会社の連結などで増加したものの、収益拡大が上回り増益に転じています。
こうした業績推移から、同社の利益構造は新規貸出件数の変動に左右されるフロー収益依存型から、保有資産やサービス収入を含むストック収益型へ徐々にシフトしつつあることが読み取れます。実際、2025年3月期は融資実行件数が前年から約▲19%減少しながらも、1件あたり収益性の向上やリカーリング収益の増加によって増収増益を達成しました。一方で、人件費削減や広告費効率化などコスト面の構造改革も進めており(2025年3月期の親会社部門人件費は前期比▲9.6%)、利益率の底上げに注力しています。
最新四季報に見る事業動向
最新の『会社四季報』では、アルヒの特色を「固定金利住宅ローン『フラット35』販売首位、債権回収も。変動金利商品に注力。SBI傘下」と要約しています。この記述からも、同社が業界内でフラット35シェアトップの地位を占めつつ、親会社SBIの支援のもとで変動金利型ローンや債権回収ビジネスへ戦略の軸足を広げていることが読み取れます。実際、従来アルヒは証券化ローンであるフラット35を中心に成長してきましたが、SBI参画後は自社で金利リスクを負う変動金利型商品の拡充にも積極姿勢を示しています。
四季報の業績欄によれば、2025年3月期は前述の通り増収増益となったものの、2026年3月期は最終減益見通しと記載されています(会社計画に基づく)。これは後述するように、足元で貸出金利環境が上昇局面にあり競争が激化していることや、前期にあった一時的利益要因の剥落を織り込んでいるためです。もっとも、四季報では事業の方向性について「変動金利商品の拡販や新サービス投入による巻き返し余地」に言及しており、業績回復への期待も示唆されています。SBIグループ傘下での協業メリットや、新機軸商品の投入による収益底上げがどこまで実現するかが、今後の業績を左右すると考えられます。加えて、同社は全国に独自の直営・FC店ネットワークを持ち、銀行窓口ではリーチできない顧客層への対応力も強みとして四季報で評価されています(業界でのユニークなポジション)。総じて「住宅ローン専業最大手」かつ「新規事業で成長を模索中」というのが最新四季報におけるアルヒ像と言えるでしょう。
最近のニュース・動向と注目ポイント
直近1年間で、アルヒに関する注目ニュースやトピックスが数多く報じられました。主なポイントを整理します。
変動金利ローンへのシフト戦略:2023年5月、日経金融新聞は「アルヒ、住宅ローンの変動比率5割に」と報じました。記事によれば、同社は2027年度までに自社の住宅ローンに占める変動金利型比率を現在の約10%から50%程度まで高める方針を打ち出しています。これは超低金利の下で各行が変動型ローンを武器に市場拡大を図る中、フラット35一本足打法から脱却して収益改善を狙う戦略です。具体策として、SBI新生銀行と共同で新たな変動金利商品の開発に着手し、多様な属性の顧客に対応できるスピード審査の商品提供を目指すとのことです。すでに2025年4月には、アルヒ独自の変動型ローン「ARUHI住宅ローン(SBI信用保証)」の取扱いを開始し、金利タイプを固定・変動含め3種類(最長50年返済も選択可)に拡充しました。また同年5月からは、SBI新生銀行の住宅ローンをアルヒ店舗で取り次ぐ業務提携も開始しており、グループ内外のプロダクトミックス向上によって顧客流出防止と収益源多様化を図っています。
住宅ローン保証事業への参入:2025年2月、アルヒは住宅ローン債務保証ビジネスに乗り出すと発表しました。SBIグループ内に新会社を設立し、地域金融機関向けに住宅ローン保証サービスを提供する計画で、同社も出資・関与します。これにより、住宅ローンの貸付だけでなく保証料収入を得る新たな収益源を確保し、地方銀行との提携強化も視野に入れる狙いです。保証事業参入は住宅ローン専業としては異例であり、業界内でも注目されています。
新商品の投入とサービス拡充:上記の変動ローンや保証事業のほか、リバースモーゲージにも進出しました。2025年1月、「ARUHIリ・バース60」という自宅を担保に高齢者が資金借入できる商品を開始しています。毎月利息のみ支払いで元本は亡くなった後に精算する仕組みで、全期間固定金利型の安心感を打ち出しています。超高齢社会に対応した商品として、今後の市場開拓が期待されます。また、同社は不動産売買支援にも注力しており、「ARUHI住み替えコンシェルジュ」を設立(2021年)して買い替え需要向けブリッジローンの提供や、SBIエステートファイナンスと連携した「住み替え実現ローン」の提供も行っています。このように、住宅取得前後の資金ニーズ全般を幅広くカバーするサービス展開が進んでいます。
外部評価・株主還元:財務面では、アルヒの信用力は高く評価されており、日本格付研究所(JCR)とR&Iから長期発行体格付「A(安定的)」を取得しています。これは同社の事業安定性やSBIグループとしての信用を反映したものです。また株主還元方針として配当性向35~40%・DOE4%程度を下限とする安定配当を掲げており、2025年3月期も1株当たり40円の配当(配当性向93%)を実施しました。株価は足元で800円台半ばで推移しており、予想PER約22倍、PBR約0.9倍と収益に対してやや割高・純資産に対して割安な水準です。市場からは成長期待と収益力に対する慎重な見方が交錯している状況といえます。
業界動向:昨今の住宅ローン業界は金利上昇と競争激化という局面です。大手銀行は超低金利を武器に変動型中心の攻勢を続け、2025年1月にはメガバンクが「10年固定型」金利を一斉に引き上げるなど、動向に変化が出ています。他方で変動型の店頭金利水準はなお低く、最大手行があえて低金利政策を継続する「衝撃の一手」に出たとの報道もあり、競争は一段と熾烈です。こうした中、固定金利の需要も見直されつつあると毎日新聞も指摘しており、借り手サイドで固定・変動を組み合わせる動きも出ています。アルヒにとっては、長期固定の専門性を活かしつつ変動商品の品揃えを強化し、金利上昇局面でも選ばれる商品の提供が課題となっています。
以上のように、SBI参画後の事業拡張、新商品の投入、競争環境の変化がアルヒを取り巻く最近のトピックスと言えます。特に変動金利ローン強化と保証事業への参入は今後の収益構造を変える可能性があり、要注目です。
来期(2026年3月期)のEPS予想
これらの情報を踏まえ、アルヒの2026年3月期(来期)1株当たり利益(EPS)を予想します。
会社側は2026年3月期の業績予想として、営業収益2,300億円(前期比+3.2%)、税引前利益25億円(+3.0%)、親会社株主に帰属する当期利益17億円(▲10.7%)を示しています。これに基づく予想EPSは約38.3円となります。減収減益要因としては、前期に計上されたグループ再編益(子会社合併に伴う一時利益約2.8億円)の剥落や、事業拡大に伴う金融費用の増加(前期比+24%)による利ザヤ縮小などが考えられます。また、足元の金利上昇でフラット35の需要が前年割れとなっており、2023年度のフラット35申請戸数は前年度比▲39.3%と大きく落ち込んだことも影響しています。こうした背景から会社計画は慎重な減益見通しとなっています。
しかし当レポートでは、新商品の拡販効果や政策支援による下支えを考慮し、来期のEPSは会社計画をやや上回る40円程度になると予想します。理由は以下の通りです:
- 変動金利ローン拡大による手数料・利息収入増:前期後半から開始した変動型ローンの販売が通年寄与し、金利上昇局面でも一定の貸出ボリュームを確保すると期待します。アルヒは2027年までに変動型比率50%を目指しており、来期はその途上として融資実行件数の下げ止まりが見込まれます。実行件数が横ばい圏となれば、単価向上策(付帯収益の拡大)と相まってオリジネーション収益の下げ幅は縮小するでしょう。
- リカーリング収益の堅調:前期に引き続き、債権管理手数料や保険収入が安定成長すると見込まれます。とりわけ同社は保証事業を開始予定であり、地域金融機関からの保証料収入が発生すれば新たなリカーリング収益となります。まだ初年度のため小幅ながらもプラス寄与を期待します。
- コスト削減効果:店舗統廃合やバックオフィスの効率化など構造改革を前期に実施しており、その効果が来期に本格顕在化します。例えば前期は人件費や広告費を抑制できており、来期も費用増を最小限に抑えることで利益率改善が図られるでしょう。
以上より、多少の減益圧力はあるものの営業収益は前期比+3~5%増、当期利益は横ばい程度を維持できるシナリオを想定します。具体的には、営業収益2,300~2,350億円、当期純利益18億円程度を予測し、発行株式数(約4,471万株)で割るとEPSは約40円となります。この水準は会社予想38.3円を数円上回るものの、依然として前々期(2024年3月期EPS 39.4円)並みであり、保守的な見通しと言えます。今後、変動型ローンの市場浸透度や競争環境次第では業績変動のブレも大きくなり得るため、引き続き注視が必要です。
DCF評価による想定株価
続いて、将来の利益予想に基づき**ディスカウント・キャッシュフロー法(DCF法)**でアルヒの理論株価を試算します。保守的に、来期以降も大幅な成長は見込まず、横ばいから緩やかな増益を前提に評価しました。主な前提は以下の通りです。
- 基本シナリオ:2026年3月期以降5年間は純利益が年率+3%程度で成長し、その後は長期的にゼロ成長~微増と仮定(日本の住宅市場の成熟を踏まえ、成長率低めに設定)。
- 割引率:住宅ローン専業という業態に照らし、自己資本コスト(Equity Cost)を**7%**と設定しました。これは無リスク金利0.5%程度+株式リスクプレミアム5.5%+事業固有リスク1%相当を合算した水準です(同社の信用格付や低ベータ性を踏まえると妥当な水準)。
- ターミナル成長率:永続段階の成長率は0.5%としました。日本の経済成長率・人口動向を鑑み極めて低く設定しています。
これらの前提でFCF(フリー・キャッシュフロー)を株主価値に還元すると、理論株価はおおよそ900~1,000円前後との結果になりました。以下に主要な前提と算定結果をまとめます。
| 指標・前提項目 | 数値・内容 |
|---|---|
| 来期予想EPS(2026年3月期) | 約40円 (当記事予想) |
| 想定純利益成長率(中期) | 年率+3%程度を想定 |
| 割引率(株主資本コスト) | 7.0% |
| 永続成長率(ターミナルグロース) | 0.5% |
| DCF算出の理論株価 | 950円 (概算) |
※DCF算出にはFCFE(株主フリーキャッシュフロー)ベースで算定。純利益に減価償却等を加えたキャッシュフロー=約30億円強を基礎とし、上記成長率で現在価値を合計。
この950円前後という理論株価は、現在の株価(845円前後)と比べ1割程度の割高水準です。一見するとDCF上は上昇余地がありますが、成長率や割引率のわずかな違いで変動し得る範囲でもあります。例えば、ターミナル成長率をゼロに引き下げれば理論値は約870円となり現状妥当と評価されますし、逆に中期成長が+5%に加速すれば1,100円超も視野に入ります。従って現時点の株価はおおむねDCF評価と大きな乖離はないとの見方が適切でしょう。市場は同社の低成長リスクを織り込み、割引率や成長率を厳しめに見積もっている可能性があります。
相対評価(PER・PBR等)による株価妥当性検討
DCFによる内在価値は上述の通り概ね現株価と整合的でしたが、相対的な株価指標からも妥当性を検証します。2025年7月時点でのアルヒ株の予想PERは約22倍、実績PBRは0.88倍程度です。これを競合他社や業界平均と比べると以下のような特徴が見えます。
PER(水準22倍)について:その他金融業セクター平均のPERはおおむね10~15倍前後と言われ、メガバンクなどは10倍を下回る例もあります。一方、フィンテック系金融や高成長のネット銀行では20倍超も散見されます。アルヒの22倍というPERは、現在の低いROE(4%台)と今後の成長期待を織り込んだ水準と考えられます。つまり利益水準に対し株価がやや高めに評価されている反面、裏を返せば市場は将来的な利益成長やROE改善を期待しているとも解釈できます。実際、変動ローン拡販や保証事業などの新展開が収益寄与すれば、ROE向上余地は大きく、PERは低下(利益増による)する可能性があります。
PBR(水準0.9倍)について:PBRが1倍を下回っていることは、純資産ベースでは割安と評価されていることを示します。他の国内銀行も概ねPBR1倍以下が多いため特段割安とは言えないものの、アルヒの場合は自己資本比率が高く(2025年3月期自己資本比率20.4%)、財務健全性は高水準です。それにもかかわらず市場が簿価をディスカウントしているのは、低い資本収益率(ROE)やビジネスの成長性への懸念を織り込んでいるためでしょう。しかし、仮に先述の政策支援や新規事業で収益が底上げされROEが改善すれば、PBR1倍超への評価修正も期待できます。たとえばROEが8%程度まで上昇すれば、金融業として適正なPBR1.2~1.5倍がついても不思議ではなく、その場合株価は1,200円前後まで評価され得ます(PER換算では30倍程度だが高ROEゆえ許容されるイメージ)。
配当利回り(約4.7%)について:同社は高配当利回り株としても注目されます。現行の年間40円配当が維持されれば利回り4%以上で、これは銀行株平均より高く魅力的です。但し前述の通り利益水準に対して配当性向が9割を超えており、配当維持には今後の利益回復が不可欠です。市場もその点を注視しており、業績が予想以上に落ち込めば減配リスクを織り込んで株価下落要因となり得ます。逆に業績改善で配当性向が標準的水準(50%程度)まで低下すれば、増配余力や持続可能性が評価され株価支援材料となるでしょう。
以上を踏まえると、現在の株価水準はおおむね妥当~やや割安との判断です。PER面では利益成長期待込みの水準ですが、PBRや配当利回りから下値は限定的と考えられます。他社比でも、ネット専業銀行など高PER銘柄と比べ成長余地は小さいものの財務安定性は高く、ディフェンシブな高配当株として一定の評価を受けている状況です。従って、今後利益が当レポート予想どおり回復基調に乗れば、株価はDCF試算の950円程度までは十分射程圏内であり、逆に業績失速なら800円割れもあり得るという、中長期で見た適正レンジが浮かび上がります。
政策金融公庫の中古住宅購入優遇策と業績への影響
日本政策金融公庫が実施する中古住宅購入支援策についても調べてみました。正確には、住宅ローン分野では独立行政法人住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)が中心的役割を担っており、同機構が2025年4月に開始した新制度「【フラット35】中古プラス」が中古住宅流通促進の目玉政策となっています。この制度の内容とアルヒ業績へのプラス影響について以下にまとめます。
制度の内容と対象条件:フラット35中古プラスは、一定の基準を満たした良質な中古住宅を購入する際に、フラット35の借入金利を当初5年間0.25%引き下げる優遇制度です。具体的には、住宅の劣化状態や耐久性等について所定の検査をパスし、既存住宅売買瑕疵保険への加入や性能評価書の取得など一定条件を満たす中古物件が対象となります。こうした物件にはフラット35融資の際に「1ポイント」が加算され、5年間▲0.25%の金利引下げが適用されます(他の金利優遇制度とのポイント加算も可能で、最大▲1.0%まで拡大可)。要は中古住宅版フラット35Sとも言える制度で、2025年度予算の範囲内で実施されます。
申込件数の動向:中古プラス自体は2025年4月開始の新制度ですが、その先行的効果もあり中古住宅向けフラット35の申請件数が急増しています。住宅金融支援機構によれば、2024年10月~2025年2月の中古住宅でのフラット35申請件数は前年同期比165%に達しました。また制度開始直後の2024年度第4四半期(1-3月)では、フラット35全体に占める「子育てプラス」等の優遇適用件数が4割超となり、3月単月の申請は前年同期比で増加に転じたと報告されています。中古プラス自体の件数統計は今後公表予定ですが、この傾向から中古物件でフラット35を利用する借り手が大幅に増えていることは明らかです。アルヒ担当者によれば、同社取扱いでも中古プラス開始後に問い合わせ・申し込みが増加しており、需要喚起効果を実感しているとのことです(※業界紙取材情報)。
アルヒ業績へのプラス影響:中古住宅市場の活性化は、アルヒの融資機会拡大につながる追い風です。同社はフラット35シェアトップであるため、政策効果で市場全体の貸出件数が増えれば恩恵を真っ先に受けます。前述のとおり2024年度はフラット35全体では申請戸数が半減する厳しい状況でしたが、中古プラス等の施策で需要底打ちの兆しが見えています。特に新築志向の強かった日本の住宅購入者が、中古にも目を向け始めたことはアルヒにとって商機です。中古住宅ローンは物件評価や検査のプロセスが増えるものの、その分手数料収入も得やすく、同社にとっては収益性の高い案件となり得ます。またアルヒは全国の不動産会社やFC店ネットワークを通じ、中古物件購入者への訴求力を持っています。住宅情報サイトや自社サービス「TownU」でリノベ向き中古物件×住宅ローンの提案を強化しており、政策追い風を営業現場で取り込む動きを加速中です。
以上から、政策金融公庫(住宅金融支援機構)の中古住宅優遇策はアルヒの業績に潜在的なプラス効果をもたらすと分析できます。申込件数の増加が既に数字に表れており、2025年度はその融資実行が本格化してくるでしょう。フラット35中古プラスは予算上限に達し次第受付終了となる可能性がありますが、政府も中古流通拡大を中長期政策に掲げており、類似の優遇措置が継続・拡充されることが予想されます。その意味で、同社にとって中古住宅ローンは今後の成長ドライバーの一つとなるでしょう。もっとも、優遇金利による利ザヤ圧縮部分は機構負担とはいえ、自社保有ローンの場合は収益減となる点には留意が必要です。しかし大半のフラット35は証券化モデルでアルヒの金利リスクは限定的なため、件数増による手数料収入アップメリットが勝ると考えられます。総合すると、中古住宅優遇策の追い風でフラット35需要が下支えされ、アルヒの業績下振れリスクを軽減する効果が期待できると結論付けます。
競合他社との比較・相対的ポジションと成長可能性
最後に、アルヒと同業他社を比較し、その相対的なポジションと将来の成長可能性を評価します。競合として考えられるのは、大きく分けて住宅ローン専門会社と住宅ローンに強い銀行(含むネット銀行)の2つです。それぞれについてアルヒとの比較を述べます。
①他の住宅ローン専門金融機関
アルヒ同様にフラット35を主要業務とする専門会社として、「優良住宅ローン」や「JNF(日本モーゲージ)」などが挙げられます。しかし業界シェアはアルヒが突出しており、優良住宅ローン株式会社はかつて2位でしたが規模はアルヒの数分の一程度でした。その優良住宅ローンが扱っていたフラット35事業の一部は、2023年にアルヒへ事業譲渡されており、専業他社の地位はアルヒに集約されつつあるのが実情です。従って、住宅ローン専業分野においてアルヒのブランド力・販売網は他社を大きくリードしており、「住宅ローン専業=アルヒ」という独特のポジションを築いています。この優位性は簡単に崩れるものではなく、専門会社間の競争よりも、むしろ銀行勢との競争が主戦場と言えます。
②銀行(特にネット銀行・信託銀行等)
住宅ローン市場ではメガバンクや地銀も含め多数の銀行が競合ですが、近年顧客を奪っているのはネット系銀行です。住信SBIネット銀行、楽天銀行、auじぶん銀行などはインターネット経由で全国展開し、店舗を持たない分0.3%台という超低金利の変動ローンを武器にシェアを伸ばしました。
これらネット銀行と比べたアルヒの強みは、
(a)フラット35など長期固定商品の品揃え
(b)リアル店舗での対面コンサルによるきめ細かいサービス
(c)SBIグループ連携による多様な商品提案
です。一方で弱みは、ネット専業に比べコスト構造が重い(店舗人員コスト)こと、そして資金調達力(低コストの預金がない)で銀行に劣る点です。
実際、大手銀行は預金を背景に優遇金利を長期間提供できますが、アルヒは市場調達頼みのため金利競争では不利です。この弱点を補うために、アルヒはSBI新生銀行との提携など「銀行API×専業ノウハウ」のハイブリッド戦略を取っており、今後も銀行との協業路線で競争力を確保する可能性があります。特に住信SBIネット銀行は同じSBI系であり、棲み分け・連携が模索されるかもしれません(例:住信SBIは変動特化、アルヒは固定特化で紹介し合う等)。総合すると、ネット銀行の台頭でアルヒの旧来モデルは脅かされているものの、対面相談ニーズや固定ニーズというニッチで差別化しつつ、銀行資源を取り込む戦略で生き残りを図っていると評価できます。
③その他の競合領域
近年ではフィンテック企業による住宅ローン媒介サービス(オンライン審査プラットフォーム等)も登場しています。例えばMFS社のモゲチェックやiYell株式会社などが、複数金融機関の住宅ローンを一括比較・申込できるサービスを展開しています。一部ではアルヒのローンもそれらプラットフォームで扱われており、ある意味では協力関係ですが、将来的にフィンテック企業が独自の住宅ローン商品を出す可能性も否定できません。ただ現時点では、規制や資金力の壁からフィンテック単独での参入は限定的で、既存金融機関のチャネル強化役に留まっています。そのため競合の主軸はやはり既存の銀行 vs アルヒという構図になります。
以上を踏まえ、アルヒの相対的ポジションは「住宅ローン市場における最大手の専門プレイヤーかつ業界のイノベーター」というものです。他社比で見れば、プロダクト多様性や顧客提案力では銀行に劣後しない一方、調達面や規模では銀行の厚みには及ばない状況です。しかしSBI傘下で経営資源を得たことにより、今後は銀行の強みを部分的に内包しつつ自社の専門性を発揮するという独自路線を取れる可能性があります。その成否が成長ポテンシャルを決めるでしょう。
今後の成長可能性については、以下の要素から慎重ながらも一定の期待が持てます
- 政策支援(前述の中古住宅優遇策や住宅ローン減税拡充など)による市場底上げ。
- SBIグループ内シナジーの顕在化(顧客紹介、商品の共同開発など)により、新規顧客層の開拓や販売増。
- 自社の強み領域(長期固定、リバースモーゲージ等)での需要拡大。超高齢化や住宅の質重視志向の高まりは、アルヒの商機となります。
もっとも、日本の住宅ローン市場全体は人口減少下で縮小傾向にあり、成長余地は限られます。その中でシェアを高める戦略が必要であり、アルヒが相対的優位を活かしてどれだけ他から顧客を獲得できるかが鍵です。現状の競争環境を見る限り、ネット銀行など強力なプレイヤーもいるため二桁成長は難しいかもしれません。しかしアルヒは「住宅ローンの顔」としてのブランド知名度が高く、専門性ゆえの顧客信頼も得ています。このブランドアセットと新戦略を組み合わせれば、緩やかながら安定成長軌道**に乗る可能性は十分あります。信用格付Aの財務基盤を背景にRMBS発行やCP調達で低コスト資金を確保し、新事業で収益源を増やせれば、銀行にはない独自モデルで成長する余地もあるでしょう。
総合評価として、アルヒは「ニッチトップから総合住宅金融サービス企業への転換期」にあります。他社比較では依然トップクラスの専門力を有しつつ、銀行的機能を取り込み中で、その成果次第で今後の成長軌道が決まる局面です。現時点では大幅な成長は見込みにくいものの、堅実な経営と政策追い風で下振れリスクも限定的と考えられます。
ただし、今期予想EPS40円とした場合、7/15現在の株価836円だと、PERは20倍超。これを割高とみるか適正とみるか、正直判断に迷う状況ではあります。
一方で、SBIグループにあった住信SBI銀行は住宅ローン攻勢により、業績の底上げ及び今後の見通しが明るいものになっていましたが、NTTグループへの吸収が決定しています。その中でSBIグループ最大の住宅ローンを保有するSBIアルヒが今後どのような展開になるのか?SBIグループの資本力も背景に何か起きそうな気もしています。今後が楽しみな銘柄です。
★この記事は個人の株取引のメモであり、登場する銘柄は売買を推奨するものではありません。




