日本ケミコンについてまとめてみました。
2025年3月期(前期)業績の概要と背景
日本ケミコンの前期連結業績は、売上高1,226億84百万円(前期比約18%減)、営業利益37億40百万円(前期比約60%減)となり、大幅な減収減益となりました。当期純利益はわずか0.04億円(約4千万円)にとどまり、1株当たり利益(EPS)もわずか1.75円となっています。
これはコロナ禍に端を発した半導体不足による顧客側の在庫調整や、ウクライナ情勢の長期化、中国経済の減速などで需要が想定を下回り、前期から業績が悪化したためです。実際、同社は2024年3月期末時点で今期業績予想を大幅下方修正し、7期連続で無配とするなど厳しい状況にありました。このように2025年3月期はトップライン(売上)・利益とも落ち込みましたが、これは次期に向けた在庫調整の反動減と考えられます。
2026年3月期(今期)業績予想とV字回復の見通し
一方、2026年3月期(来期)の業績見通しは大幅な回復が予想されています。会社発表によれば、売上高は1,460億円(前期比+19.0%)、営業利益は75億円(前期比+100.5%、約2倍)とV字回復を見込んでいます。親会社株主に帰属する当期純利益も44億円と大幅増益が予想され、1株当たり利益は約206円に達する見通しです。
実際、日本ケミコンは2025年5月13日に発表した業績予想で「2026年3月期の連結純利益は前期比119倍の44億円になる見通し」と発表しており、7期ぶりの年20円の復配も計画しています。このような大幅増益予想は、車載・産業機器・ICT向け市場の需要回復によるものです。特に電気自動車(EV)やデータセンター向けを中心にアルミ電解コンデンサ、とりわけ新型のハイブリッドコンデンサの需要拡大が業績を牽引すると見られます。
日経新聞も、生成AI向けのデータセンター用サーバーでコンデンサ需要が好調なことから販売増が見込まれ、米国の対中関税(いわゆるトランプ関税)の悪影響も売上増で相殺できると報じています。これら市場環境の好転により、同社は2026年3月期に売上・利益とも二桁成長の大幅増益を達成できる見通しです。

以下に2025年3月期実績と2026年3月期予想の主要指標をまとめます。
| 指標 | 2025年3月期 実績 | 2026年3月期 会社予想 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,226億円 | 1,460億円 |
| 営業利益 | 37億円 | 75億円 |
| 1株当たり利益(EPS) | 1.75円 | 206円 |
※2025年3月期実績の前年比は▲18%(売上高)および▲60%(営業利益)となり、2026年3月期予想ではそれぞれ+19%、+100%の増益見通しです。
コンデンサ増産計画と業績への影響
日本ケミコンの業績回復予想の背景には、コンデンサ事業の増産投資と需要拡大があります。

同社は現在の中期経営計画(第10次中計)において、今後需要増が見込まれる導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ(HVコンデンサ)の増産体制確立を最重要戦略の一つと位置付けています。
実際、2024~2025年度の設備投資総額の約3分の1をハイブリッドコンデンサ関連に充てたとされ、2024年には宮城県大崎市のグループ工場敷地内にハイブリッドコンデンサ専用の新製造棟を完成させました。この新棟は自動化・IoT技術を取り入れた最新設備で、電動化が進む自動車向けに需要が急拡大しているHVコンデンサを量産します。
また、通信基地局やAIサーバー用途への採用拡大も見込まれており、2028年度にはHVコンデンサの月産能力を5年前の2倍となる1億個に引き上げる計画です。こうした積極的な増産投資により供給能力を高めることで、EV・産業機器・データセンターなど成長分野の需要に対応し、売上拡大と収益力向上につなげる狙いです。
以上のように、最新の会社発表資料や報道(日本経済新聞、会社四季報オンラインなど)によれば、日本ケミコンの2025年3月期業績は在庫調整の影響で低迷したものの、2026年3月期は主要市場での需要回復とコンデンサ増産効果により大幅な増収増益が予想されています。
特にハイブリッドコンデンサの増産体制強化が今期業績を押し上げる要因となっており、7期ぶりの復配(年間20円)実施という株主還元の再開も業績改善の裏付けと言えるでしょう。この業績予想は社内計画および現時点で入手可能な最新情報に基づくものであり、今後の市場動向や為替動向等によって変動する可能性がありますが、足元ではコンデンサ需要の回復基調が明確になってきており、同社の業績は今期・来期にかけて改善軌道に乗ると見込まれています。
日本ケミコンが関与した主な訴訟とその経緯
日本ケミコンは大きな訴訟に悩まされてきました。そのアウトラインと現状について以下にまとめてみました。
各国競争当局による制裁処分 (カルテル問題)
日本ケミコンは、自社が製造・販売するアルミ電解コンデンサ等について価格カルテルに関与した疑いで世界各国の競争当局から制裁を受けました。
日本では公正取引委員会が2016年にニチコン、日本ケミコン、ルビコン、松尾電機、NECトーキンの5社に対し総額約67億円の課徴金納付命令を発出しています。台湾でも2015年に日本企業10社(日本ケミコンおよびその台湾子会社を含む)に対し総額約215億円相当(約57.97億台湾ドル)の罰金が科されました。
さらに米国でも2018年にコンデンサメーカー9社に対し総額2.1億米ドル(約230億円)の罰金が科され、同件では企業のみならず個人の起訴にも発展しています。欧州連合(EU)では欧州委員会が2018年3月、日系メーカー8社によるカルテルに対し総額約2億5,400万ユーロ(約330億円)の制裁金賦課を決定し、日系各社はこれを不服として争いましたが、2021年に欧州一般裁判所が制裁金を支持し、日本ケミコンおよびニチコンは最終的に合計1億7080万ユーロ(約230億円)の支払い義務が確定しています。
なお、このEU制裁における日本ケミコン単独の科せられた金額は約9,792万ユーロで、これは対象企業中最大でした。
米国では刑事訴追も行われており、日本ケミコンは2017年10月に米司法省から独占禁止法違反(価格カルテル)で起訴され、2018年5月に有罪答弁のうえ罰金6,000万ドル(約66億円)の支払いと5年間の保護観察付き判決を言い渡されています。シンガポール競争委員会も同様の調査を行い、日本ケミコンのシンガポール子会社に対し制裁金の支払いを命じています(2017年11月発表)。
※上記事実関係より、1990年代末から2010年代前半(少なくとも1998~2014年頃)にかけて日米欧アジアの複数企業が関与した長期的な国際価格カルテルが存在し、日本ケミコンは主要関与企業の一つと認定されました。
米国での集団訴訟・民事賠償訴訟の経緯
米国では上記カルテル行為により影響を受けた顧客からの民事訴訟が相次ぎ、複数の集団訴訟(クラスアクション)が提起されました。日本ケミコンと米国子会社United Chemi-Conは、まず間接購入者クラスとの間で2018年1月に和解し、和解金1,350万ドル(約15億円)を支払い、この額を特別損失に計上しています。
その後、直接購入者クラス(製品を直接購入した米国内顧客の集団)についても2021年12月までに和解が成立し、これに伴う和解金や特別損失の計上が行われました。集団訴訟全体として、日本ケミコンは米国でのクラスアクションに対し累計で約1億6,000万ドル規模の和解金を支払ったと報じられています(※間接購買者向け1,350万ドル、直接購買者向けの追加支払いなど合計)。
さらに、集団訴訟に参加しなかった一部の個別原告(opt-outした直接購入企業)による損害賠償訴訟も提起されました。代表例が大手電子部品ディストリビュータのAvnet社とArrow Electronics社で、これらはクラス和解に加わらず独自に提訴したものです。Avnet訴訟では2023年5月、サンフランシスコ連邦地裁の陪審評決においてAvnet側勝訴(損害額8,924.4万ドル、これをトレブル計算で約2億6,770万ドルの賠償評決)という事態になりました。しかし日本ケミコン側は判決確定前に和解を選択し、2023年7月にAvnet社および他の原告3社に対し総額1億2,500万ドルの和解金支払いで合意しました。さらに2023年9月にはArrow社とも総額7,500万ドルの和解金支払いで合意し、それぞれ和解金を支払い済みです。
これら一連の和解成立により、米国において日本ケミコンおよびUnited Chemi-Conに対して提起されていたカルテル関連の民事訴訟はすべて終結しました。
その他の国での民事訴訟
カルテルによる価格高騰の被害を訴える訴訟は米国以外でも起きています。カナダでは、日本ケミコンとUCCが協議の末、2023年8月に総額1,450万ユーロの支払いで2件の集団民事訴訟と和解しています。イスラエルでも集団訴訟が提起されましたが、こちらは2024年12月に和解が成立し、日本ケミコンは同月25日付で和解に関する適時開示を行いました(和解金額等詳細は非公表)。台湾では、公正取引委員会による制裁(前述)のほか、民事の損害賠償請求も1件提起されていますが、同社は2024年末時点で「台湾で係属中の1件のみが未解決であり、重要な損失は発生しない見込み」と説明しています。つまりカルテル関連の法的リスクは、各国当局からの制裁金支払いと各国での民事訴訟対応を経て、ほぼ決着済みであり、ごく一部の残件を除き終息に向かっています。
業績・財務・株価への影響 (カルテル関連)
長年にわたるカルテル問題への対応は、日本ケミコンの業績・財務に大きな影響を及ぼしました。
同社は制裁金・和解金の支払いに伴い巨額の特別損失を計上しており、例えば2022年7月には米国民事訴訟の一部原告との和解金(3,150万ドル=約43億円)を特損計上すると発表し、このニュースを嫌気した株式市場では株価が3営業日続落する動きが見られました。
また2023年10月には、Avnet社やArrow社への巨額和解金支払いを反映し、2024年3月期通期の純利益予想を当初の62億円黒字見通しから一転205億円の赤字へ大幅下方修正しています。
実際に2024年3月期決算では最終損益が約205億円の赤字となり、前期(2023年3月期)の22億円の黒字から大幅に悪化しました。カルテル係争対応に起因する巨額コストのため、自社資本だけでは支払いに耐えられない懸念も生じ、同社は第三者割当増資(種類株発行や普通株発行による資金調達)やコミットメントライン契約の締結などで資金基盤の強化に踏み切っています。これら財務テコ入れ策は、相次ぐ和解金支払いに伴う自己資本の毀損に対応し、財務健全性を維持するための措置でした。
信用リスク面でも、国内格付機関が「米国訴訟の評決確定なら信用力にマイナス」と指摘するなど、訴訟問題は同社の信用度・株価にとって大きな不安要因となっていました。もっとも2023年後半以降、上述の通りカルテル関連の係争は相次いで終結し、法的リスクの顕在化に一応の区切りがついたことで、同社の業績も2025年3月期には黒字回復見通しへと転換しています(本業の改善と相まって、2025年3月期第1~3四半期累計で経常利益は前年同期比▲81%ながら黒字を維持)。株価も訴訟リスクのピーク時に比べ下げ止まりつつあり、今後は残る台湾での係争や新たに発生した案件に注視が集まります。
Dyson社による製品不具合訴訟 (シンガポール・2024年提起)
日本ケミコンに関する新たな係争案件として、2024年12月に公表されたDyson社による損害賠償請求訴訟があります。
Dysonは英国家電メーカーで、同社のマレーシア法人(Dyson Manufacturing Sdn. Bhd.)がシンガポール子会社Singapore Chemi-Con (Pte) Ltd.から購入した部品が原因で、自社製品の不具合率が上昇したと主張し、2024年11月29日付でシンガポール国際商事裁判所に提訴しました。Dyson側は不具合による損害として1億4,554万4762英ポンド(約276億円)の賠償などを求めており、係争中の金額規模は極めて大きいものです。
日本ケミコンは即座に反論・争う姿勢を示しており、2024年12月9日付の適時開示「シンガポール子会社に対する訴訟提起に関するお知らせ」にて「現時点で当社部品がDyson製品の不具合を生じさせたことは明確でなく、損害賠償請求は妥当ではない」と表明しました。
同社はDyson側の主張を一切受け入れがたいとしており、裁判の中で部品に起因しないことを立証し責任がないことを主張する方針です。現時点で訴訟による業績への影響は「合理的に算定することが困難」としつつ、必要が生じれば速やかに開示するとしています。つまり、日本ケミコン側は本件について引当金計上等は行わず、全面的に争う構えであり、訴訟が長期化する可能性もあります。
進行状況
Dyson訴訟は提起から日が浅く、2025年7月現在も係争中です。シンガポール国際商事裁判所で今後審理が進められ、事実認定や因果関係の有無が争点となる見通しです。
Dyson側は巨額の損害を主張していますが、日本ケミコンは自社製品の欠陥とは断定できないと強く反論しており、仮に敗訴して全額賠償となれば同社財務への打撃は避けられません。他方で同社が勝訴または低額の和解で決着すれば、金銭的影響は抑えられます。投資家の間でも「Dyson訴訟の影響がないとのリリースが出れば株価が上昇する」といった観測が語られるなど、本件の行方は日本ケミコンの株価動向にも影響を及ぼし得る材料となっています。
現状では結論が出ておらず、同社も業績予想に織り込んでいないため、Dyson訴訟は新たな潜在リスクとして今後の開示と進展が注目されます。
総括・今後の見通し
以上のように、日本ケミコンは主力製品コンデンサの価格カルテル問題で各国から制裁金と民事訴訟による巨額賠償を受け、2020年代前半にかけて業績悪化と財務圧迫を強いられました。もっとも、カルテル関連の法的問題は2023年までに概ね解決し、経営の不透明要因は一段落しています。
しかし新たに表面化したDyson訴訟など、製品品質を巡る係争リスクは依然残存しており、同社では引き続きリスク管理を強化するとともに、必要な場合は迅速な情報開示と法的対応を行う方針です。訴訟対応に伴うコストや不確実性は完全には払拭されていないものの、過去の経験から法務・コンプライアンス体制の見直しや競争法順守の徹底策も講じられており、2025年以降の業績回復に向けては訴訟リスク低減と本業回復の両立が課題となっています。
今後も日本ケミコンの開示資料や報道を通じ、係争案件の進捗と業績への影響を注視する必要があるでしょう。
日本ケミコンの予想EPSと同業他社PERによる適正株価試算
日本ケミコンは2026年3月期の1株当たり利益(EPS)を206円と会社予想しています。この予想EPSを基準に、同業他社(アルミ電解コンデンサメーカー各社や電子部品メーカー)の株価収益率(PER)を調査し、様々なPER水準を当てはめることで日本ケミコンの適正株価を試算します。以下では、国内外の競合企業の現在の予想PERやヒストリカルPER(過去平均のPER)を網羅的に整理し、それらを用いて日本ケミコン株の評価レンジを算出します。
比較対象企業の予想PER一覧
まず、主要な比較対象となる国内外メーカーの現在の予想PERをまとめます(表1)。国内メーカーとして、ニチコン、松尾電機などアルミ電解コンデンサ専業各社のほか、受動部品大手のTDK、村田製作所、京セラ、太陽誘電を含めました。海外メーカーの例として、台湾のヤゲオ(旧KEMET買収によりアルミ電解コンデンサ事業を含む)も挙げています。
表1では各社の予想PER(株価÷今期予想EPS)と、そのPERを日本ケミコンのEPS206円に乗じた場合の日本ケミコン株価換算を示しています(2025年7月中旬時点のデータに基づく)。日本ケミコン自身の値も参考として記載しました。
| 企業名 (証券コード) | 現在の予想PER (倍) | 日本ケミコン換算株価 (円) |
|---|---|---|
| 日本ケミコン (6997) | 5.8 倍 | 約1,198円 (7/17終値) |
| ニチコン (6996) | 13.7 倍 | 約2,820円 |
| 松尾電機 (6969) | 4.7 倍 | 約970円 |
| TDK (6762) | 23.3 倍 | 約4,800円 |
| 村田製作所 (6981) | 22.4 倍 | 約4,614円 |
| 京セラ (6971) | 32.2 倍 | 約6,633円 |
| 太陽誘電 (6976) | 39.8 倍 | 約8,384円 |
| ヤゲオ (Yageo, 台湾) | 11.6 倍 | 約2,472円 |
主要競合企業の予想PERと日本ケミコンEPS206円換算の株価
注: 予想PERは2025年7月中旬の株価と直近予想EPSに基づく値。同換算株価は各PERに206円を乗じた理論値。日本ケミコンの予想PERは会社予想EPS206円に基づくもの。
上記より、日本ケミコンの現在の予想PERは約5.8倍と極めて低水準であり、同業他社の水準と比べ割安となっています。他社ではニチコンが約13.7倍、TDKや村田製作所は20倍超えで23倍前後、京セラは30倍以上、太陽誘電は40倍近辺とばらつきがあります。海外大手のヤゲオは約12倍程度で、ニチコンに近い水準です。
過去の平均PER(ヒストリカルPER)の検証
次に、各社のヒストリカルPER、つまり過去数年の平均的なPER水準を確認します。一般に景気変動や業績サイクルの影響でPERは変動しますが、過去3年間程度の平均PERを把握することで「平常時」のバリュエーション水準を知る手掛かりになります。
- 日本ケミコン: 過去数年間は赤字年度もありPERが極端に跳ね上がった年も存在するため(例:2025年3月期実績PERは約521倍)、単純平均は参考になりません。しかし黒字化していた年度のPERを見ると、2017年3月期70.8倍、2019年3月期33.8倍、2021年3月期16.9倍、2023年3月期18.8倍などで、黒字の年は概ね10~20倍台で推移していました。このことから、日本ケミコンの平常時のPERはおよそ15倍前後と推測されます。
- ニチコン: 過去3年(2022~2024年3月期)のPERは10.17倍、12.08倍、10.65倍となっており平均約11~12倍です。5年平均では一時的な業績悪化による高PERの年(2021年3月期45倍)を含むためもう少し高くなりますが、それでも十数倍程度が通常水準と言えます。
- TDKや村田製作所: 電子部品大手は成長期待もあり歴史的に15~25倍程度で推移することが多いとされています。実際、村田製作所は2010年以降でPERが10.3倍~49.5倍のレンジで推移しました。業績好調期にはPERが低下(例:2024年3月期実績PERは約17.5倍)し、業績低迷期にはPERが上昇する傾向がありますが、平均すれば20倍前後が目安と考えられます。一方TDKも成長局面ではPERがやや高めで、近年は20倍超で推移しています。
- 京セラ: 京セラは近年業績低迷によりPERが異常値(最大120倍超)となっていますが、平常時は安定高収益企業としておおむね15~20倍程度で推移してきました。実績ベースでは2010年代にPER一桁台後半~十数倍程度の水準も見られました。
- 太陽誘電: 同社は業績変動が激しく、PERも高低の触れ幅が大きいですが、直近は業績減速見通しで異例の40倍前後に達しています。これは特殊事情と考えられ、平常時のPERは20倍程度(業績好転期にはPER低下)と推定されます。
以上より、同業各社の過去平均的なPERはおおむね15~20倍程度に収まるケースが多いといえます(ニチコンのみやや低めで約12倍)。日本ケミコンの現状PER5.8倍は、過去平均と比べても著しく低い水準です。
日本ケミコンの適正株価試算
以上の比較を踏まえ、日本ケミコンの予想EPS206円に対し、いくつかのPER水準を当てはめた場合の理論株価を算出します(表2)。ケース別に 保守的なシナリオから強気シナリオまで複数パターン を提示します。
- ケースA:同業他社の現在の平均PER適用 – 表1の同業他社平均PER約21.3倍を適用します。この場合、日本ケミコンの株価は約4,390円となります(206円×21.3倍)。同業平均には極端に高い太陽誘電や低い松尾電機も含まれていますが、それでも現在株価(約1,200円)の3.7倍ほどの水準です。
- ケースB:同業他社の現在の中央値PER適用 – 表1の中央値である約22.4倍(村田製作所の水準と同程度)を適用すると、4,610円前後が算出されます。平均PERの場合と大きな差はなく、4,000円台後半が一つの目安といえます。
- ケースC:過去平均PER(ヒストリカルPER)適用 – 日本ケミコン自身の平時のPER水準(15倍前後)を適用すると、約3,090円(206円×15倍)となります。これは同業他社平均より低めの保守的シナリオですが、それでも現在株価の約2.6倍に相当します。仮にニチコンの過去平均並みの12倍を当てはめても約2,470円となり、現在より大幅に高い水準です。
- ケースD:強気シナリオ(高PER適用) – 電子部品大手並みの評価を受ける場合を想定し、たとえば25倍程度を適用すると約5,150円、京セラの現状並み30倍なら約6,180円となります。業績拡大が続き市場から高い成長期待を織り込まれれば、このような水準も理論上は考えられます。
以下にケースA~Cを中心にまとめます。
| 評価シナリオ | 想定PER (倍) | 試算株価 (円) |
|---|---|---|
| 同業他社 平均 (現行実勢) | 約21.3倍 | 約4,390円 |
| 同業他社 中央値 (現行実勢) | 約22.4倍 | 約4,610円 |
| 日本ケミコン 過去平均 (平常時) | 約15倍(推定) | 約3,090円 |
| (参考) ニチコン過去平均 | 約12倍 | 約2,470円 |
| (参考) 業界強気評価 | 20~30倍 | 約4,120~6,180円 |
表2:日本ケミコン株の適正株価シミュレーション(EPS206円に各種PERを乗算)
まとめ
上記試算から、日本ケミコンの適正株価レンジは概ね3,000円台前半~4,000円台後半と推定されます。保守的に見積もっても過去平均PERベースで3,000円前後、同業他社並みの評価を受ければ4,500円前後が期待できる計算です。現在の株価水準(1,200円前後)はこれら試算と比較して著しく低く、同業他社比で割安であることが浮き彫りになりました。
もっとも、PERには各社の成長性や財務状況の違いが反映される点に留意が必要です。同社の場合、大型の訴訟案件もあったため市場から低い評価を受けている側面があります。しかしながら、会社計画どおり2026年3月期に増収増益(最終益44億円)を達成しEPS206円を実現できれば、見直し買いによりPERが同業並みに収束していく可能性があります。
以上の分析から、日本ケミコン株の適正株価は少なくとも2,500~3,000円以上、業界平均並みでは4,000円台が視野に入ると考えられます。
★この記事は個人の株取引のメモであり、登場する銘柄は売買を推奨するものではありません。




