北海道電力(以下、北電)は、国内の10大電力会社の一角として北海道全域に電力供給を担う一般電気事業者です。北海道は、広大な面積と豊富な再生可能エネルギー資源を持ち、冬季の厳しい寒さに伴う暖房需要も大きいという特徴があります。一方、人口が道央や札幌圏に集中し、それ以外の地域では人口密度が低いため、送配電インフラの維持コストもかさんでしまうなど、道内ならではの課題も抱えています。
加えて、電力自由化や脱炭素への国際的な要請が加速する昨今、北電を含む電力業界全体は大きな変革期を迎えています。安定供給というミッションを果たしつつ、燃料価格の高騰・為替変動リスク、原子力規制の強化など、多くの経営課題に対応しなければなりません。
北海道電力のビジネスモデル
1. 電力供給事業
北電の主要事業は、いうまでもなく道内への電力供給です。従来は「発電・送電・配電・販売」を一体で担う垂直統合型のビジネスモデルでしたが、電気事業法改正により送配電部門は法的分離され、現在は北海道電力ネットワーク株式会社が送配電を担当。グループ連携で発電・販売と送配電を行っています。
- 発電部門
泊原子力発電所(停止中)や石炭火力・LNG火力などの火力発電所、水力発電所を保有し、再生可能エネルギー(風力・太陽光・バイオマス)への取り組みも拡大。 - 送配電部門
北海道の全域に張り巡らされた送配電網を維持し、新電力にも開放することで託送料金を得ています。 - 電力販売部門
電力自由化に伴い、道内では複数の新電力が参入。北電は家庭・企業向けの料金プランを提供する一方、厳しい競争環境にさらされています。
2. エネルギー関連サービス
北電は総合エネルギー企業として、省エネルギー支援やESCO事業、太陽光や風力などの再生可能エネルギー開発支援、さらに蓄電池の活用や電気・ガスのセット販売といった多角的なサービスを展開しています。近年、企業や自治体への省エネルギーコンサルティングや設備の最適化を提案する事業なども積極的に行っています。
3. 地域密着と再エネ活用
北海道には豊富な自然エネルギー資源があるため、風力や太陽光などの設備投資が今後も期待されます。一方で送電設備の強化や天候リスクなどもあり、コスト負担が大きくなる傾向も否定できません。こうした特性から、地域の自治体・企業と連携したプロジェクトを数多く手掛けているのも北電の特徴の一つです。
北海道電力の主力サービス・製品
- 一般家庭・企業向け電力供給
従来からの規制料金プランに加え、自由化後は多彩な料金メニューを開発。オール電化向けや季節・時間帯割引などの施策を行っています。 - 新電力への送配電サービス
北海道電力ネットワークが保有する送配電網を新電力会社にも開放し、託送料金を収益源としています。 - 省エネ関連機器の提案・販売
エコキュート、蓄電池、太陽光発電との併用など、家庭や法人向けに省エネルギー効果の高い機器の提案を行い、需要家側の光熱費を削減するソリューションを提供。 - 再生可能エネルギー事業
風力や太陽光、バイオマスの発電設備を自社・合弁会社などで保有し、FIT(固定価格買取制度)やFIPなどの制度を活用しながら売電収益を得ています。
直近の業績と今後の見通し
2024年3月期の連結業績では、北海道電力は以下のような好調な結果を記録しました。
- 売上高:9,537億円(前期比7.3%増)
- 営業利益:1,011億円(前期は225億円の赤字)
- 経常利益:873億円(前期は292億円の赤字)
- 当期純利益:662億円(前期は222億円の赤字)
好調の背景
この業績回復の背景には、以下の要因が挙げられます。
- 電力需要の回復:コロナ禍からの経済活動再開に伴い、電力需要が増加しました。
- 燃料費の低減:燃料費調整制度の適用や市場価格の安定化が寄与しました。
- 効率的な経営:コスト削減や資本効率化が利益改善に貢献しました。
今後の業績展望
2025年3月期の業績予想としては、以下の通りです。
- 売上高:9,020億円(前期比-5.4%)
- 営業利益:500億円(同-50.6%)
- 経常利益:370億円(同-57.6%)
- 当期純利益:430億円(同-35.0%)
減益要因
以下の要因が予想される減収減益の背景とされています。
- 電力需要の減少:経済状況や気候の影響で電力消費が鈍化する見通しです。
- 燃料価格の変動:国際市場の影響で燃料費が再び上昇する可能性があります。
- 固定価格買取制度(FIT)の影響:再生可能エネルギー普及のためのコスト負担が増加します。
ポジティブ要素
一方で、北海道電力は引き続きコスト削減や効率化、新サービス展開を通じた収益基盤の強化を目指しており、中長期的な成長の可能性は依然として期待されています。
以下は業績に影響が大きいと考えられるポイントです。
- 泊原子力発電所の再稼働決定
規制委員会の安全審査を通過し、地元自治体の同意が得られれば、年間数百億円規模の燃料費削減が期待できる。これは株価に対する最大のポジティブ材料となる可能性が高い。 - 燃料価格の安定・下落
北電のコスト構造は火力(石炭・LNG・石油)の占める割合が大きく、燃料調達コストの低減はダイレクトに利益を押し上げる。 - 電気料金値上げの認可・継続的な改定
北電のように原発が止まっている大手電力会社にとって、適正な電気料金改定は収益改善のカギとなる。大幅値上げが認められれば投資家の評価は一気に上向きやすい。 - 再生可能エネルギープロジェクトの拡大
脱炭素やカーボンニュートラルが加速する中で、国や自治体からの補助金、優遇措置を獲得しながら風力・太陽光・バイオマス事業を拡大できれば、中長期的な収益の安定化につながる。 - 財務体質の安定化
設備投資負担や赤字が続くと、自己資本比率の低下や増資リスクが懸念される。逆に、業績が回復して財務の安定性が高まれば、投資家の信頼を取り戻し、株価上昇要因となり得る。
適正株価の考え方
北海道電力の株価は、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)、配当利回りなどの指標で評価されますが、以下の点に留意が必要です。
- 原子力リスクの織り込み
再稼働がいつ実現するか、追加対策費用はいくらかかるのかなど、不確定要素が多い。再稼働が順調に進むシナリオでは、PERやPBRが見かけ上割安に見える可能性もある。 - 燃料費・為替リスク
燃料市況や円相場の変動で収益が大きくブレやすい構造。市場はこうした不安定要因をディスカウントして評価する傾向がある。 - ディフェンシブ銘柄としての性格変化
かつては“公共性が高く、業績が安定した高配当銘柄”との評価があった電力会社だが、原発停止や燃料費高騰で赤字が続けば、必ずしも安定的とは言えなくなる。配当政策も変わり得る。 - PBRの下限・PERの下限
電力株は悲観的な相場ではPBR0.5倍台、PER10倍を割り込む場面も珍しくない。逆に再稼働などの好材料が出ると、そこから短期間で大きく反発する場合もある。
参考シミュレーション
仮に来期(2026年3月期)に北電が黒字転換し、一株当たり利益(EPS)が100円前後に回復すると仮定すると、PER10倍で株価1,000円程度の評価となります。もし泊原発再稼働でEPS150円~200円が視野に入れば、同じPER10倍の計算で1,500~2,000円も十分想定される水準です。しかし、これはあくまで楽観的なシナリオで、再稼働のめどが立たなかったり、燃料価格が再び急騰したりすれば、赤字継続で株価が低迷するリスクもあります。
投資リスクと留意点
- 原子力規制リスク
原子力規制委員会の審査が長引き、再稼働時期が大幅に遅れるリスク。追加の安全対策投資が発生すると、財務悪化の原因に。 - 燃料価格・為替リスク
LNGや石炭の国際価格と円相場次第で、業績が急変動。地政学リスクにも敏感。 - 電気料金の認可リスク
大幅な値上げが認められない場合、コストの転嫁が進まず赤字拡大の恐れ。需給逼迫時の政治的批判もあり得る。 - 財務リスク(増資・社債発行など)
連続赤字で自己資本比率が低下すれば、増資や大型借入に追い込まれる。株式価値が希薄化し、株価下落圧力になる。 - 再エネ導入コストリスク
風力・太陽光などの設備投資、系統増強コストが膨らみ、短期的な利益を圧迫する可能性がある。 - 自然災害リスク
北海道は地震や台風、大雪など自然災害の影響を受けやすく、設備被害や停電による損失リスクがある。
まとめ
北海道電力は、北海道という地理的特性と原子力・火力・再生エネルギーを組み合わせた電源構成を特徴とし、地域インフラとして欠かせない役割を担っています。しかし近年、燃料費の高騰や円安、泊原発停止の長期化、電気料金改定の遅れなどにより業績が大幅に悪化する局面が続きました。前期(2024年3月期)は引き続き赤字だった可能性が高い一方、今期(2025年3月期)は電気料金値上げの効果もあって赤字幅の縮小や小幅黒字化が期待されています。来期(2026年3月期)に向けては、泊原発再稼働や燃料市況の安定を材料に、本格的な黒字転換シナリオが描ける可能性もあります。
一方で、再稼働が想定以上に遅れれば火力依存が続き、国際エネルギー価格や為替相場の影響をもろに受けて業績が再び悪化するリスクも否定できません。電力自由化による競争激化も進んでおり、需要家の奪い合いや料金引き下げ圧力に直面するケースもあり得ます。
投資家としては、泊原発再稼働の進捗、燃料価格・為替レートの推移、電気料金改定の可否、再エネ事業の拡充と送電網整備のコスト、そして財務体質の維持などを注意深くウォッチしながら、シナリオ分析を行うことが重要です。PERやPBRなどのバリュエーション指標は、これらのリスクや不確定要素をどの程度織り込んでいるかを理解したうえで活用する必要があります。
今後、もし泊原発が順調に再稼働し、燃料費削減効果と電気料金改定が組み合わされば、北海道電力の業績は劇的に改善する可能性があります。株価にとっても大きな上昇要因となり得るでしょう。しかしそれが一向に進まない場合、あるいは想定外の燃料高や円安が再燃すれば、増資リスクなども浮上し株価は低迷しかねません。したがって、北海道電力は“ハイリスク・ハイリターン”の要素をはらむ銘柄として注目度が高いといえます。
いずれにせよ、電力セクター全体が大きく変わりつつある現在、かつてのような“ディフェンシブ高配当”というイメージだけでは判断しきれない状況です。投資を検討する際は、必ず最新の決算短信やアナリストレポート等で足元の動向を把握し、原子力政策・国内外のエネルギー市況・為替相場などのマクロ要因にも目を配ることが大切です。
★この記事は個人の株取引のメモであり、登場する銘柄は売買を推奨するものではありません。