近年、日本の銀行業界は大きな変革期を迎えています。デジタル化が加速し、スマートフォン一つで完結できるサービスを求めるユーザーが増える中、ネット専業銀行は急速に存在感を高めてきました。その代表格のひとつが住信SBIネット銀行です。
2023年に上場し、その後も株価は上場来高値を更新する場面がありました。さらに、2024年末頃からは「NTTドコモが住信SBIネット銀行を買収するかもしれない」という報道が飛び出し、市場の注目を一気に集めています。この記事では、
- 住信SBIネット銀行の短期・中長期にわたる業績見通し
- リスク要因と株価上昇のカタリスト
- 銀行セクター平均PERから試算した“適正株価”の考え方
- NTTの買収報道が実現するかどうか、その可能性やインパクト
などをできるだけまとめてみます。
1. 住信SBIネット銀行の業績展望
1-1. 最新決算と短期的な業績動向
まず、住信SBIネット銀行(以下、同社)の足元の業績を確認しましょう。2025年3月期第3四半期(2024年4~12月)累計での経常利益は267億円(前年同期比+6.5%)、最終利益は**195億円(前年同期比+7.0%)と公表されています。これは、住宅ローンや個人ローンなどの貸出増加や、手数料ビジネスが好調であることを示す数字と言えるでしょう。
さらに、同社の2025年3月期通期の当期純利益予想は280億円(前期比+12.7%)で、二桁成長が続く見通しとなっています。ネット専業銀行としては、口座数の増大やSBIグループとの連携強化などにより、順調に成長している段階といえるでしょう。
1-2. 金利上昇局面のメリットと注意点
日本銀行は長らく続けてきた大規模金融緩和を徐々に修正し始めています。長期金利の上昇が鮮明になれば、銀行にとっては貸出金利の引き上げが可能になり、結果として利ざや(NIM)の拡大が期待できます。住信SBIネット銀行は変動金利型の住宅ローンを多く扱っており、金利上昇の恩恵を受けやすい構造とされます。
一方で、急激に金利が上昇すると、保有する債券の評価損や、借り手の返済負担増加による貸倒リスクが高まる可能性もあり、企業としての金利リスク管理が重要になります。現在の日銀の姿勢は「緩やかな正常化」路線を取るようにも見えますが、将来の政策変更によりシナリオが変わるリスクは否定できません。
1-3. 中長期的な成長ドライバー
中長期では、SBIホールディングスと三井住友信託銀行という二大株主(どちらも約34%弱の持分)を背景に、オープンな金融プラットフォームを展開する「NEOBANK”戦略」が注目されます。他企業が自社名義の銀行サービスを提供できるようにするBaaS(Banking as a Service)の仕組みを拡大し、今後も提携企業との連携を強化しています。
たとえば、大手企業や航空会社などが、住信SBIネット銀行のシステムを活用して独自ブランドのネット銀行サービスを顧客に提供できるようにする取り組みが進んでおり、これにより同社は提携先のブランド力・顧客基盤を取り込む形で、預金や決済関連サービスの拡大を図ることが可能となります。こうした取り組みは、ネット専業ならではの機動力と柔軟性を生かし、ますます存在感を高めると期待されます。
2. リスク要因とカタリスト
2-1. リスク要因
- 競合激化によるコスト増
国内のネット銀行市場では、楽天銀行やauじぶん銀行、PayPay銀行など、通信・EC大手を後ろ盾にしたプレーヤーが多数参入しています。住宅ローン金利やポイント付与などで競争が激化すれば、利ざや縮小や宣伝コスト増などで収益が圧迫される可能性があります。 - 景気後退による信用コスト増
景気が後退すれば、個人・中小企業向け融資の延滞率が上がり、貸倒引当金の繰り入れ(信用コスト)が増大します。住信SBIネット銀行は個人向けローンが多いだけに、雇用や所得環境の悪化が発生した場合、業績に影響を与えやすい構造ともいえます。 - 急激な金利変動リスク
金利がゆるやかに上昇する分にはメリットがあるものの、急激な金利上昇や、あるいは逆に利上げが見送られて超低金利が継続してしまう場合など、金利変動が想定通りに進まないリスクがあります。日本国債の急激な利回り上昇は、有価証券評価損や預金金利先行上げによる利ざや圧迫要因となるかもしれません。 - 株価バリュエーションの剥落
同社のPERは銀行セクター平均より高い傾向があります。市場がネット銀行としての成長性や買収思惑を織り込んでいるためですが、万が一業績が伸び悩んだり、期待されている買収報道が立ち消えになったりすると、一気に株価が下落するリスクも考えられます。
2-2. カタリスト(株価上昇要因)
- 緩やかな金利上昇による収益拡大
日本の金利正常化が進み、長期金利が少しずつ上昇するほど、貸出金利が引き上げられやすい住信SBIネット銀行には追い風が吹きます。変動金利型ローンの多さから、短期的な収益拡大が期待され、銀行株全体の見直し買いも含めて、株価を押し上げる要因になり得ます。 - NEOBANK(BaaS)の加速
他企業との提携戦略によって、銀行としての機能を提供するビジネスが順調に拡大すれば、提携先企業のブランド力と顧客基盤を取り込む形で口座数や手数料収入が増加します。これは中長期的に大きな株価上昇のドライバーとなるでしょう。 - SBIグループのシナジー
親会社SBIホールディングスの証券・保険・カードなど多彩な金融サービスとの連携が進めば、クロスセル(住宅ローン利用者に対して証券口座開設を促すなど)による手数料収入の拡充や運用商品の販売強化が期待できます。これはネット銀行としての拡張性をさらに高めると考えられます。 - 買収・業界再編観測
後述するNTTの買収報道に限らず、国内銀行業界は今後も再編や資本提携が進む可能性があります。競争力強化やデジタル化推進を狙う大手企業との連携・統合は、株価上昇の大きな引き金(カタリスト)となり得ます。
3. 適正株価はどのくらい? ~銀行セクター平均PERとの比較~
3-1. 現在のバリュエーション状況
住信SBIネット銀行のPER(株価収益率)は、2024年後半の買収報道なども相まって20倍台前半~後半で推移することが多いとされています。一方、メガバンクや地方銀行を含めた日本の銀行業平均のPERは、おおむね10~12倍前後というのが一般的です。こうした数値からみると、同社は明らかに銀行セクター平均を上回る評価を受けていると言えます。
3-2. 銀行セクター平均PERでの試算
一般的に、銀行セクター平均PERを用いてシンプルに“適正株価”を試算すると、同社の株価は現状よりもかなり低めに算出されます。
仮に2025年3月期の1株当たり利益(EPS)が約185~186円と想定し、銀行業平均のPER12倍を当てはめると、
EPS185~186円 × 12倍 = 2,220円~2,232円程度
といった水準になります。実際の株価が4,000円付近で推移している局面もあるため、単純計算で見ると「かなり割高なのでは?」という見方ができます。
3-3. 割高評価か? 成長プレミアムか?
では、住信SBIネット銀行が銀行セクター平均を大きく上回るPERで取引されているのは、なぜでしょうか。
それは、「ネット銀行×テック企業としての高い成長性を織り込んでいる」からだと考えます。加えて、後述するNTTなどの大手企業による買収・提携シナリオが現実味を帯びれば、さらに大きな成長余地やシナジーが期待されます。こうした“プレミアム”を投資家が評価しているため、伝統的な銀行業の尺度であるPER12倍程度よりも上振れしているのではないでしょうか。
とはいえ、もし思惑が外れたり、銀行特有の景気リスク・金利リスクによって利益成長が滞ったりした場合には、その高い評価が急速に剥落する可能性もあります。投資判断をする際には、こうした「期待」と「現実の業績」「マクロ金利環境」の3つをバランスよく見極める必要があるといえます。
4. NTTの買収報道はどうなる? 実現可能性とシナリオを考察
4-1. 報道の経緯
2024年秋頃から、複数のメディアで「NTTドコモが銀行業参入を狙っており、住信SBIネット銀行が有力候補」との観測が出始めました。特に11月末の一部週刊誌報道では、メガバンク幹部の証言を交えた具体的なストーリーが語られ、市場は「買収がほぼ本格化しているのでは?」とみて一気に盛り上がりました。実際、その頃には住信SBIネット銀行の株価がストップ高を付け、注目度がピークに達しています。
4-2. NTTが銀行を欲しがる理由
NTTドコモは国内最大級の携帯キャリアであり、約9,000万の契約者基盤を有しています。他方、ライバルであるKDDIグループは「auじぶん銀行」、ソフトバンクグループは「PayPay銀行」、楽天は「楽天銀行」と、各社がすでに銀行業を手中に収め、通信事業とのシナジーを最大限活用しています。
NTTドコモだけが未だ自前の銀行を持たない状況であり、キャッシュレス決済やフィンテック分野で出遅れているという危機感があると見られます。そこで、住信SBIネット銀行を買収すれば、設立済みのネット銀行を丸ごと取り込めるため、ゼロから銀行免許取得を目指すよりも時間短縮や顧客獲得メリットが大きいのではないか、と目されているわけです。
4-3. 買収実現のハードル
一方で、買収が本当に実現するかどうかはまだ不透明です。理由としては、
- NTTグループの公式コメントの曖昧さ
2025年2月頃のNTTの決算会見では、「自前で銀行を立ち上げることも検討している」と発言。買収そのものを否定していませんが、踏み込んだ言及も避け、曖昧なまま。 - 大株主の意向
住信SBIネット銀行の主要株主は三井住友信託銀行とSBIホールディングス。どちらも約34%強の株式を保有しており、買収にはこれら大株主との合意が不可欠。価格や経営権をどう扱うかという交渉面で簡単には決まらない可能性があります。 - シナリオの選択肢
NTTドコモが「買収」よりも「自前で銀行を新設する」道を選ぶかもしれません。実際、大手通信・IT企業としての資本力があれば独自に免許を取得し、銀行システムを構築することも不可能ではありません。どちらが企業として得策か、時間とコスト、競合優位性などを秤にかけている段階と推測されています。
こうした背景から、専門家の間でも「買収の成立は五分五分」との見方が強いようです。
4-4. 買収が成立した場合のインパクト
もしNTTドコモによる買収が実現した場合、住信SBIネット銀行の成長が一気に加速する可能性があります。NTTドコモの強大な顧客基盤に対し、銀行サービスを横断的に提供できるようになれば、口座開設数や決済サービスの利用拡大が爆発的に増えうるからです。
さらに、NTTグループの資本力・技術力を背景に、スマホアプリの開発や新しい決済プラットフォームの整備などに投資できるため、競合他社に対して優位性を確立しやすくなるでしょう。投資家にとっても、買収プレミアムとしてTOB(公開買付)が行われれば、現在の株価以上の買取価格が提示される期待があり、大きなリターンを得られるかもしれません。
4-5. 買収が不成立になった場合
逆に買収が不発に終わった場合、短期的には株価の失望売りが起きる可能性があります。市場が期待していた“買収プレミアム”が剥落し、株価が調整することが考えられるためです。実際、NTTドコモが明確に否定的な発言をしていない段階でも、報道に一喜一憂して株価が大きく上下している現状があります。
ただし、中長期的に見れば、買収がなくても住信SBIネット銀行は既存の戦略(住宅ローンの拡大やBaaSビジネスなど)で堅実な成長を続けています。したがって、買収話が消滅したからといって事業基盤が揺らぐわけではなく、独立路線での成長を続けるというシナリオが現実的です。
むしろ、NTTドコモが独自に銀行免許を取得して新規参入した場合、住信SBIネット銀行にとっては将来的に大きな競合が現れることになります。しかし、銀行新設には時間と費用がかかるため、その期間中に同社がユーザー基盤やサービスを強化すれば、先行者優位をさらに伸ばすことも可能でしょう。
5. まとめ ~どう見る? 住信SBIネット銀行の今後~
- 業績面:
短期的には2025年3月期の通期利益が二桁成長を予想しており、住宅ローンや個人向けローンの伸長が続いています。金利上昇局面ではネット銀行としての強みを生かし、貸出金利上昇を素早く収益に反映できるため、中期的な収益アップが期待できます。 - リスク面:
強豪他社との競争激化、景気後退による信用コスト増、急激な金利変動リスクなどが挙げられます。また、PERが銀行平均を大きく上回っているため、高成長への期待が裏切られた場合は株価下落のリスクがあります。 - 適正株価:
銀行セクター平均のPER(約12倍)を当てはめると株価は2,300円前後という計算になる一方、同社の実際の株価はこれを大きく上回るケースが多いです。これはネット銀行としての高い成長性や買収思惑などが株価に織り込まれているためであり、今後の経営成績・金利動向・買収報道の進展によっては大きくぶれる可能性があります。 - NTT買収報道の行方:
買収実現となれば、ドコモの強大な顧客基盤を活用した事業シナジーと買収プレミアムにより株価が大きく上昇する余地があります。一方、買収が不発に終われば短期的には失望売りで下落するリスクがあるものの、同社自体の業績は堅調なため、長期的に見れば独自路線での成長も十分に想定可能です。NTT側が「新設」か「買収」か決断を下すには、まだ時間がかかりそうだとの見方も根強いです。
おわりに
住信SBIネット銀行は、日本のネット銀行業界の中でも存在感を増しつつあり、株式市場においても非常に注目度の高い銘柄です。金利上昇の恩恵を受けやすいビジネスモデルであり、また“NEOBANK”という独自の戦略で新規提携先を増やしている点も、これからの成長余地を期待できる材料と言えるでしょう。
一方で、株価には既に成長や買収期待が相当程度織り込まれているため、投資家としては「どこまで実際に収益が伸びるのか」「NTT買収の成否はどうなるのか」という点に注目が集まっています。とりわけ、投資で大きなリターンを狙う方は、買収関連の報道に左右されて急騰・急落する可能性を念頭に置きながら、リスク管理を徹底することが重要です。
そもそもですが、現在はNTT買収観測を材料に買っているホルダーが多いため、5,000円を一時突破するような株価になっていますが、それでも過去の社長インタビューでは、0.25%の金利上昇で収益が45%伸びるといった社長発言もメディアに取り上げられており、金利上昇局面の今後は、NTT買収の可否に関わらず同行の成長は疑う余地がないと思います。

しかも、同行は住宅ローン残高をこれまで積極的に増やしてきた経緯もあります。

住宅ローン金利は政策金利上昇に伴った急速な上昇hあ見込めない前提でも前述の利益改善幅があるのです。日銀は年内1%までの金利上昇を示唆しています。これは同行の収益力向上に間違いなく追い風に働くわけで、このNTT祭りが終わり、株価が底打ちをしたタイミングはむしろ絶好の買い場になると考えます。
★この記事は個人の株取引のメモであり、登場する銘柄は売買を推奨するものではありません。