年明けからフジテレビのニュースが世間を賑わせているのは皆さんご存じの事と思います。
フジテレビは他局と比べて特徴的な歴史がある放送局です。
この記事では、フジテレビの開業(1957年)から現在に至るまでの沿革を振り返りつつ、昨今の性加害疑惑騒動後にもかかわらず株価が急上昇している背景について出来る限りの範囲ではありますが、まとめてみました。
Part 1:フジテレビの歴史(1957〜現在)
1. 開業と初期の経営
設立背景:
フジテレビジョン(フジテレビ)は、1957年にラジオ局のニッポン放送と文化放送が中心となり、東宝・松竹・大映の映画会社3社も出資して開局準備が進められました。1957年7月にチャンネル8(コールサインJOCX)の予備免許を取得し、同年11月に「株式会社フジテレビジョン」を設立(資本金6億円、東京・有楽町に本社)。1959年1月に本免許と東京・河田町の社屋が完成し、1959年3月1日に本放送を開始します。開局直後の4月10日には皇太子明仁親王と正田美智子さんの結婚式特番を15時間以上放送し、日本におけるテレビの普及を後押ししました。
初期の経営陣:
フジテレビは財界主導で設立された異色の局で、ニッポン放送社長の鹿内信隆(しかない のぶたか)氏と文化放送社長の水野成夫氏が中心人物でした。鹿内信隆は元経団連専務理事で「財界の青年将校」と呼ばれ、新聞資本に属さないニッポン放送を1954年に立ち上げた実績を持ちます。
1960年代には産経新聞社なども加わり、フジサンケイグループとして新聞・ラジオ・テレビ連携の経営基盤を築きました。1966年にはニュースネットワークFNNを発足、1969年には全国系列網FNSを整備するなど、鹿内信隆体制で放送網の拡大が進められます。
経営者の変遷:
1980年までフジテレビのオーナー経営者だった鹿内信隆氏は、1985年に第一線を退き長男の鹿内春雄(はるお)氏に経営を継承させました。しかし1988年に春雄氏が42歳の若さで急逝し、信隆氏は会長職に復帰した上で妹婿で日本興業銀行出身の鹿内宏明(ひろあき)氏を養子に迎えて後継に指名します。
一方、1988年4月にはフジテレビ生え抜きの日枝久(ひえだ ひさし)氏が社長に就任し、創業家ではない“プロパー社長”が誕生しました。1990年に鹿内信隆が没すると、鹿内宏明氏がグループ議長(会長)としてグループ企業のトップに立つものの、後述するクーデターによって鹿内家の支配は終焉を迎えます。
2. 1970年代の「クーデター」事件
内部クーデターの詳細:
フジテレビでは創業者一族によるワンマン経営が長く続きましたが、これに終止符を打つ事件が1992年に起こりました。鹿内宏明氏がフジサンケイグループを統括する「フジサンケイコーポレーション」を設立(1991年)して権力を強化したのに対し、日枝久氏(フジテレビ社長)や産経新聞社長の羽佐間重彰氏らが強く反発し、電撃的な解任劇を仕掛けます。
1992年7月21日の産経新聞社取締役会で宏明氏を会長職から解任し、翌22日にはフジテレビ・ニッポン放送・サンケイビル各社の会長やフジサンケイグループ議長職も辞任、事実上のクーデター成功となりました。この結果、鹿内家による支配は終焉し、日枝久体制へ転換していきます。日枝氏は1997年にフジテレビの株式上場を実現し、2001年に社長から会長兼CEOへと就任して長期政権を築きました。
3. 番組編成と社会的影響
初期~1970年代:「母と子のフジテレビ」
開局当初から1960~70年代にかけてフジテレビは「母と子のフジテレビ」というキャッチフレーズでファミリー向け番組を展開しました。【17†L45-L52】。子ども向けの『ママとあそぼう!ピンポンパン』(1966年〜)、『ひらけ!ポンキッキ』(1973年〜)、そして日曜夜の『サザエさん』(1969年〜)などが看板番組として定着します。しかし日本テレビやTBSが視聴率で先行し、フジは苦戦を強いられ“万年3位”の時代が続きました。
1980年代:視聴率三冠王と「楽しくなければテレビじゃない」
1980年代に入り、フジテレビは大胆な編成改革を断行。1981年秋に掲げた「楽しくなければテレビじゃない」のスローガンの下、若者向けバラエティ番組を続々投入します。『オレたちひょうきん族』(1981〜1989年)、『笑っていいとも!』(1982〜2014年)、深夜番組『オールナイトフジ』(1983〜1991年)などが人気を博し、1982年から1993年まで視聴率三冠王を他局に譲りませんでした。
トレンディドラマの社会現象化
1990年代には月曜9時枠(いわゆる「月9」)で『東京ラブストーリー』(1991年)や『ロングバケーション』(1996年)といった恋愛ドラマを量産し、社会現象を生み出します。1997年の『踊る大捜査線』は映画化が大成功を収め、フジのドラマ制作力を象徴しました。またバラエティでも『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』(1994年〜)や『めちゃ×2イケてるッ!』(1996年〜)など若者に支持される番組が続きました。
視聴率戦争と他局との競争
1990年代以降、日本テレビやTBSも巻き返しを図り、1993年にフジは三冠王の座を失うものの、2000年代前半には首位に返り咲き(2004〜2010年頃)、三冠王を再度奪取しました。しかし2011年以降はフジの視聴率低下が顕著となり、長期にわたり日本テレビが三冠王の座を維持しています。
4. スキャンダル・政治との関わり
政治的・経済的背景
創業者の鹿内信隆が経団連や政界と密接な関係を持ち、メディアを通じた世論形成に深く関与していたことから、フジテレビは保守系・企業寄りの論調をとることが多いとされます。またフジサンケイグループ全体で大型キャンペーンや映画・イベントを仕掛けるなど、新聞・ラジオ・テレビを束ねたメディア戦略を展開してきました。
買収騒動:ライブドア事件
2005年のライブドアによるニッポン放送株買収騒動では、フジテレビを巡る経営権争いが激化し、最終的にフジはニッポン放送を完全子会社化して再編を進め、2008年には放送持株会社「フジ・メディア・ホールディングス」へ移行しました。
韓流偏重批判デモ(2011年)
2011年には「韓流番組が多すぎる」との批判からお台場のフジテレビ本社前で抗議デモが行われ、大きな社会的反響を呼びました。こうした報道姿勢の問題や政治的バイアスの指摘は絶えず、一方で新しい手法やコンテンツでチャレンジを続ける局としての側面も評価されています。
5. 近年の性加害疑惑騒動
発端(いつ・誰が・どんな疑惑か)
2023年に発生したフジテレビの性加害疑惑は、翌年末の2024年12月に週刊誌報道で表面化しました。元SMAPメンバー・中居正広氏と女性Xさんとのトラブルが存在し、解決金9,000万円が支払われたというスクープです。この場をセッティングしたとされるフジテレビ編成局の幹部社員A氏が「ハニートラップ」に関与したのではないかという疑惑まで浮上し、社内外で大問題に発展しました。
フジテレビの対応と企業への影響
フジテレビは一度「当該幹部社員の関与はない」とコメントしたものの、続報が相次ぎ広告主の大手スポンサーが続々とCM出稿を停止。フジ・メディアHDの株価も一時急落し、広告収入は年間で数百億円単位の下振れが見込まれる事態となります。その後、港浩一社長と嘉納修治会長が辞任し、2025年1月27日の臨時取締役会でトップ人事の刷新を決定しました。さらに外部有識者を交えた第三者委員会を3月に設置し、再発防止策やガバナンス改革を急ぐとしています。
社会的反響と今後の展開
株主や視聴者からの厳しい批判にさらされる中、フジテレビは大きな転換期を迎えています。長年にわたりフジテレビを経営してきた日枝久相談役の去就も注目され、ガバナンス強化に向けた新体制が軌道に乗るかが焦点となっています。事件の全貌が第三者委員会の調査で解明され、コンプライアンスや企業統治の実効性を高められるかが今後の信頼回復に直結すると考えられます。
Part 2:フジテレビ性加害疑惑後の株価上昇の背景
1. 株価の回復時期と具体的な推移
問題が公になった2024年12月19日頃には約1,858円だったフジ・メディアHDの株価は、その後年明けにかけて急速に回復し、2025年1月末には2,000円台を回復。さらに2月には2,600円超まで急騰するなど、わずか数週間で50%以上の上昇を見せました。
他局(日本テレビ・TBS・テレビ朝日など)も市場全体の見直しで株価は上昇基調にあるものの、不祥事を抱えるフジが特に激しいV字回復を示した点が注目されます。市場では「スポンサー離れで長期低迷か」との予想が覆される格好となり、謎の急騰劇に市場の注目度はますます高まっています。
2. 株価上昇の要因
- 経営陣の交代とガバナンス改革期待
性加害疑惑を受けた批判を機に、フジは経営体制の刷新を断行。港浩一社長・嘉納修治会長が辞任し、第三者委員会の設置や再発防止策の公約など、ガバナンス改善への動きを具体化しました。結果として“コーポレートガバナンスの正常化”を評価する声もあるようで、それが株式の買いを集める要因になっているという説もあります。 - スポンサーの復帰への期待
大手企業のCM差し替えが相次いだとはいえ、経営トップの交代や公の謝罪によってスポンサー側も徐々に態度を軟化させる兆しもあるようで、広告収入激減という“最悪シナリオ”が回避されつつあるとの見方が広がり、業績面の悲観が後退しているようにも見えます。 - 機関投資家の動向
性加害疑惑で株価が下落した際、割安感を理由に機関投資家がフジ株を買い増し(当初PBR0.5)。特にダルトン・インベストメンツはフジHD株式の7〜8%超を保有する大株主となり、経営刷新を強く要求。さらに国内勢としてレオス・キャピタルワークスが大量取得に踏み切ったことが株価を一段高へ押し上げました。 - メディアや市場関係者の再評価
フジテレビは不祥事対応で厳しい批判を受けながらも、保有する不動産(お台場の社屋など)やコンテンツ資産などの潜在価値が高いと再認識され、「改革しだいで企業価値は大きく上がる」との見方が強まっています。これが投資家の期待を高め、株価の押し上げ要因となりました。
3. レオス・キャピタルワークスの株式大量取得
- 取得時期と規模
レオス・キャピタルワークスは、フジの不祥事後に段階的に株式を買い増し、2025年2月7日付で大量保有報告書を提出。この時点で5.12%(約1,200万株)を保有する大株主となったことが明らかになりました。 - 取得の背景(投資戦略・狙い)
レオス側は従来から日本のメディア株の割安さに注目しており、フジ株については「不祥事対応後のガバナンス改革と潜在的資産価値」に魅力を感じたと説明しています。藤野英人社長は「経営陣の若返りとデジタル化推進が必要」と主張し、中長期視点で投資を決断したとされています。 - フジ・メディアHD側の反応
フジ側は公にはコメントを控えているものの、レオスが議決権行使や株主提案で積極介入する動きは今のところないため、「友好的株主」という位置付けの可能性があります。一方で大株主として一定の影響力を持つことは確かで、経営側は今後の株主総会で外部株主との対話を迫られる可能性があります。 - 株価上昇との関係性
レオスの大量保有が2月に公表されると、フジ株は一段高となり年初来高値を連日更新しました。市場では「大手運用会社が本気でフジを買っている」との安心感が広がり、他の機関投資家や個人投資家の買いも呼び込んだ格好です。大量保有報告によって買い手の正体が判明し、株価急騰がさらに加速しました。
4. 市場の反応と今後の展望
専門家の評価
当初は不祥事による株価下落を懸念する声が支配的でしたが、ガバナンス改革の進展や機関投資家の積極関与がプラスに働く余地があるとわかり、評価が一変した印象です。国内外のアナリストからは「フジが改革を実行し、潜在価値を活かせれば更なる株価上昇もあり得る」との見方が出ています。一方で、「改革が中途半端なら失望売りに転じる危険もある」という指摘も依然根強いです。
フジ・メディアHDの経営戦略・株主対応
6月の株主総会に向け、筆頭株主ダルトンやレオスを含む主要株主との折衝が焦点となります。第三者委員会の調査報告(3月末予定)を踏まえ、責任者の処分や取締役会の改革が求められる見込みです。株主還元策(配当・自社株買い)を含む経営計画の立て直しも課題となるでしょう。長期政権を築いた日枝久相談役の処遇も大きな論点であり、社内外の注目が集まっています。
メディア業界での立ち位置
性加害疑惑で大きくブランドを損ねた一方、これを機に業界をリードするガバナンス改革が実現すれば、フジは再び“業界の雄”として存在感を高める可能性があります。不祥事に対するコンプライアンス意識の再点検は他局にも波及しており、フジの動向が業界全体の改革の試金石になると見る向きもあります。市場は現在の株価上昇に「期待票」を投じていますが、最終的な評価は改革の実行力と業績回復にかかっているといえます。
まとめ
フジテレビは、開局から60年余りの長い歴史の中で、メディア業界の最先端を走り続けてきました。「母と子のフジテレビ」「楽しくなければテレビじゃない」というキャッチフレーズをはじめ、バラエティやドラマで日本のエンターテインメントをリードした実績は揺るぎません。一方で、創業家支配からのクーデター、不祥事への対応、スポンサーとの関係など、経営面では常に波乱と革新が同居してきました。
近年の性加害疑惑はフジのガバナンス体制や企業文化に深刻な問題を浮き彫りにしましたが、同時に経営刷新と投資家からの監視強化という外圧によって、組織を変革する大きなチャンスを得た面もあると考えます。
一方で、第三者委員会の調査報告や今後の株主総会など これからが正念場と考えます。フジテレビがこの転機をどう乗り越えるのか、注目していきたいと思います。
★この記事は個人の株取引のメモであり、登場する銘柄は売買を推奨するものではありません。