ハートシード続編記事です。先ほどの記事ではこの1年程度の予想株価についてまとめてみましたが、この記事ではその先のシナリオをまとめてみました。
前提条件とシナリオ設定
ハートシード社(219A)は慶應義塾大学発の再生医療ベンチャーで、重症心不全向けのiPS細胞由来心筋再生治療を開発しています。主力パイプラインは以下の2製品です。
- HS-001:他家iPS細胞由来の心筋細胞スフェロイドを開胸下に移植する治療法。日本で第1/2相LAPiS試験を完了し、2026年内の承認申請、2027年内の承認・販売開始を目指すと公表されています。2026年に条件付き承認を取得し、追加治験後2029年までに正式承認される計画です。
- HS-005:HS-001の改良版で、心臓カテーテルで投与可能な治療法。2025年に治験届提出、2026年中に患者組み入れ開始を目指して開発。日本では2028年以降に上市予定で、将来的にグローバル展開も視野に入れています。
グローバル展開については、Heartseed社は2021年にノボノルディスク社とHS-001に関する世界独占ライセンス契約を締結しており、日本以外(米欧中など)の開発・商業化はノボノルディスク社が担当します。Heartseed社は日本国内の開発・販売権を保持しつつ、ノボ社と日本市場を共同販促(利益とコストを50/50シェア)し、海外市場では販売額に応じたロイヤルティ収入を得る契約です。
- 市場浸透シナリオ
2030年前後までに日米欧中で承認取得し、グローバルで年「数万人」規模の治療が定着すると想定(例:2030年頃に日本で数千例、米欧各1万例以上、中国等含め全世界で累計3〜5万例/年程度の患者に治療を提供)。 - 治療単価
1症例あたりの治療価格は日本約1,500万円、米国換算で約2,500万円(米欧も同程度の価格帯と仮定)。 - 収益配分:Heartseed社は日本市場では販売利益の50%を得る(共同販売による利益シェア)。海外市場では売上高の約10%をロイヤルティ収入として受領する(契約上は「高い一桁台〜低い二桁台」の段階的ロイヤルティで、本シナリオでは平均10%程度と仮定)。
以上の前提に基づき、2025年から3〜5年後(2028〜2030年)におけるハートシード社の想定最大株価(株価上限)およびその時の適正時価総額を、3つの株価評価手法で試算します(全て楽観シナリオに基づく内容)。
評価手法1:DCF法による企業価値試算
ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)法では、将来創出される事業キャッシュフローを現在価値に割り引いて企業価値を算定します。HS-001/005が計画通り商業化しグローバルに展開した場合、Heartseed社には以下のようなキャッシュフローが見込まれます。
- 日本市場
2026年に条件付承認取得後、2027年に販売開始。当初は限定的な使用ですが、正式承認後の2029年以降は重症心不全患者の一部に本治療が定着し、2030年前後には年間数千例規模に拡大すると想定。例えば2030年に日本で2,000例実施なら売上規模約300億円(1,500万円×2,000例)。Heartseed社は共同販促の利益シェア契約によりその約25%程度を自社収益として得る(販売利益50%のシェアだがコスト控除後ベースで約25%相当)と仮定し、2030年の日本からの収入は75億円程度。 - 海外市場
ノボノルディスク社がグローバル展開を進め、米欧での臨床第2/3相試験成功を経て2030年前後に承認取得(米国FDAや欧州EMAで申請)すると想定。2030年頃から米欧中で本格販売が始まり、当初数千例から数年で年2〜3万例規模へ拡大(重症心不全患者のアンメットニーズが高いため迅速に普及するシナリオ)。2030年時点で海外累計1万〜2万例程度の治療実施と仮定すると、海外売上は少なく見積もって2,500億〜5,000億円規模(例:1.5万例×2,500万円=3,750億円)。Heartseed社は売上高の10%のロイヤルティ収入を得るため、この場合375億円前後が海外からの収入になります。
以上を合算すると、2030年頃にはHeartseed社の年間収益(キャッシュインフロー)は数百億円規模(仮に450億円程度)に達する可能性があります。以降も適応拡大(軽症の心不全や他の心疾患への応用)や治療普及により収益はさらに増加または維持され、2030年代前半にピークを迎えた後も一定期間は継続すると考えられます。
これら将来キャッシュフローをリスク調整後の割引率(例えば10%)で現在価値に割り引いて合計すると、本シナリオの企業価値は数千億円規模となります。粗い試算ですが、DCF法では時価総額で約5,000億〜8,000億円程度となる可能性があります。
これは1株あたり約23,000〜36,000円(発行株数約2,200万株で換算)に相当します。実際には割引率の設定や将来の追加パイプラインの価値次第で変動しますが、DCF法では株価3万円台まで上昇する余地があるとみてよさそうです。
評価手法2:PSR法(売上高倍率)による比較評価
PSR(株価売上高倍率)法は、企業の時価総額を売上高で割った倍率(Price to Sales Ratio)で評価する手法です。バイオテクノロジー企業の場合、製品上市前は売上がほぼ無いためPSRが極めて高くなる傾向があります。例えばHeartseed社はIPO時点では売上高数億円規模で、想定発行価格1,110円に対するPSRは約70.8倍にも達していました(赤字バイオ企業では将来期待でPSRが高騰する典型例)。
しかし、本シナリオでは2030年にHeartseed社自身の年間売上高(収益)が数百億円規模に達します。Heartseed社の収益は前述の通り日本利益シェアと海外ロイヤルティ収入が中心で、仮に2030年に450億円とすると、以下のようなPSR水準が考えられます。
- 保守的なケース(PSR=5倍)
時価総額約2,250億円(=450億円×5)。→株価目安約10,000円。 - 業界平均的ケース(PSR=8〜10倍):時価総額約3,600〜4,500億円。日本の創薬企業やグローバルバイオ企業では売上高の5〜10倍程度で評価される例があり、再生医療の高成長性を考慮すると10倍近辺も十分可能です。この場合株価2万〜3万円程度となります。
- 強気ケース(PSR=12倍超)
画期的治療への期待が非常に高い場合、PSRが二桁台半ばに達することも考えられます(例:ピーク時のペプチドリームは売上高数十億円に対し時価総額数千億円になりました)。PSR=15倍なら時価総額6,750億円、株価約30,000円となります。
上述より、PSR法では株価2万前後から最大3万数千円まで上振れし得る結果と考えられます。
この水準は後述の類似事例(サンバイオなど)とも整合します。
評価手法3:PER法(株価収益率)による利益倍率評価
PER(株価収益率)法では、最終利益と平均的なPER倍率から株価を算定します。Heartseed社が2030年時点で本事業から大きな利益を計上しているとの前提に基づき、予想純利益と業界平均PERから評価します。
先述のDCF/PSRシナリオから、2030年前後のHeartseed社の年間純利益はおおよそ300〜400億円規模と推定されます(売上450億円、営業利益率7〜8割程度=営業利益約350億円、税引後純利益300億円強というイメージ)。再生医療ベンチャーとはいえ製品上市後は製薬企業並みに利益率が高くなる可能性があります。創薬・再生医療企業のPERは、市場平均よりやや高めの20〜30倍程度が一つの目安です。
上場バイオベンチャーの多くは赤字のためPER比較は困難ですが、黒字転換後の成長企業であればPER30倍前後も許容されます。
これを踏まえ、本シナリオの適正PERレンジを20〜30倍と仮定すると
- PER20倍の場合:時価総額 = 300〜400億円×20 = 6,000〜8,000億円。→株価目安27,000〜36,000円前後。
- PER25倍の場合:時価総額 = 300〜400億円×25 = 7,500〜10,000億円。→株価目安34,000〜45,000円程度。
- PER30倍の場合:時価総額 = 300〜400億円×30 = 9,000〜12,000億円。→株価目安40,000〜54,000円。
保守的に見れば製薬大手並みのPER20前後が妥当ですが、Heartseed社は2030年時点でも成長途上(適応拡大や次世代パイプライン開発が続く)と考えられるため、市場が成長性を織り込めばPER25〜30倍も十分射程に入ります。その場合、株価3〜4万円台の計算となります。よってPER法では概ね3万円台半ばまで上値余地があると推定されます。
類似企業のマルチプル比較と上場時価総額の参考例
日本のバイオベンチャー株は、開発進捗に応じて非常に高いマルチプルが付与されるケースがあります。過去の例を挙げると:
- サンバイオ(4592)
再生細胞薬の期待で株価が急騰し、時価総額がピーク時6,000億円超に達しました。当時の売上高はわずか7億円、最終赤字29億円と業績面の裏付けはなく、将来期待だけで評価されていた状況です。その後臨床試験失敗で株価は急落しましたが、期待先行で数千億円規模まで買われた典型例です。 - ペプチドリーム(4587)
創薬ベンチャーの成功例で、グローバル製薬との提携収入を積み上げながら株価上昇。ピーク時の時価総額は5,000〜7,000億円規模に達したと推定されます(売上高数十億円に対しPER数百倍・PBR数十倍という水準)。こちらはライセンス収入という安定売上があったため、一定のファンダメンタルズ裏付けで評価されました。 - ステムリム(4599)、ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC, 7774)・セルシード(7776)等
再生医療関連の上場企業も開発段階ではPER数百倍(実質赤字)・PSR数十倍といった水準で推移しています製品化に成功した例はまだ少ないものの、期待相場では時価総額数百億〜千億円規模に乗せるケースもあります。
ハートシード社について見ると、IPO時の想定時価総額は約244億円(公募価格1,160円×約2,200万株)でした。初値は1,548円(+33%)となり時価総額約330億円を付けました。その後順調な治験進捗により株価は一時3,000円を超え、時価総額700億円台に到達しています。これは既に「日本での承認・商業化成功」を相当織り込んだ水準といえます。
しかし、本格的なグローバル展開成功時には時価総額1兆円(=1兆円=1兆円)超えも視野に入ります。実際、サンバイオは未実現にも関わらず5〜6千億円に達した経緯があり、Heartseed社が世界初の心筋再生医療を実現すれば同等かそれ以上の評価を受けても不思議ではありません。
特にハートシード社の場合、ノボノルディスクという大手との提携により営業面の信頼感も高く、上場バイオベンチャー史上最高クラスの時価総額に手が届く可能性があります。
なお、日本の創薬ベンチャーでは時価総額100億円の壁が語られることもありましたが、Heartseed社は既にその桁を一つ上げており、成功時には桁違いの水準となるでしょう。
想定収益規模ごとの段階別株価予測
開発ステージの進展に伴い、株価は段階的に評価修正されると考えられます。以下に、本シナリオにおけるマイルストン達成時の収益規模と株価目安を表にまとめます。
ステージ(達成時期) | 主な進展 | Heartseed社の年間収益(概算) | 想定株価レンジ | 想定時価総額レンジ |
---|---|---|---|---|
① 日本承認・上市段階 (2026〜2027年) | HS-001日本条件付き承認取得・販売開始。HS-005治験開始。 日本国内で症例数徐々に拡大(年間数百例規模)。 | 10億円台(※初年度は治験費用が先行し赤字継続) | 1,000〜2,000円程度 (承認期待含み上昇) | 200〜400億円程度 |
② 日本本承認・単独展開 (2028〜2029年) | HS-001正式承認取得(国内フル承認)。HS-005国内上市開始(条件付き承認想定)。 日本で治療が本格普及(年間数千例規模)。海外はまだ治験段階。 | 50〜100億円規模 (国内売上拡大に伴い黒字化達成) | 5,000〜10,000円程度 (国内事業価値を織込) | 1,000〜2,000億円規模 |
③ グローバル展開成功 (2030年前後) | 米国・欧州でHS-001承認取得・発売開始。中国等でも承認進行。 世界初の心筋再生治療として各国で普及(年間数万例規模)。適応拡大も進行。 | 300〜500億円規模 (国内外ロイヤルティ収入の急増) | 20,000〜40,000円程度 (グローバル展開フル評価) | 4,000〜8,000億円規模 |
※上記株価・時価総額レンジは楽観シナリオにおける目安であり、開発リスクや資金調達による希薄化要因等は考慮していません。また将来の市場環境や競合状況により変動し得ます。
段階別に見ると、まず日本国内で承認・上市を達成した段階①では、まだ収益は小さいものの「世界初の心不全再生医療」の期待から時価総額数百億円規模(株価数千円)に到達すると予想されます。続く段階②で国内事業が軌道に乗り黒字化すれば、収益規模拡大と相まって時価総額1,000〜2,000億円台(株価1万円前後)に評価される可能性があります。最終的に段階③で海外展開が成功しグローバル収益が本格化すれば、桁違いの収益を背景に時価総額数兆円に迫る可能性までジャンプアップすると期待されます。
3〜5年後の適正株価レンジ(ブルシナリオ)と想定時価総額
以上の分析を総合すると、Heartseed社が今後3〜5年で計画通りに開発・承認・商業化を果たすブルシナリオにおいて、株価は少なくとも数倍〜数十倍に飛躍する潜在力があります。特に2030年頃にグローバル展開が実現した時点では、適正株価レンジはおおよそ「2万円〜4万円」程度と推定されます。これは時価総額で4,000億〜8,000億円規模に相当し、再生医療分野のベンチャーとして前例のない高水準です。各評価手法の上限値もこのレンジに概ね収まっており、例えば:
- DCF法では将来キャッシュフローの現在価値から株価3万円台(時価総額〜6,000億円超)が算出。
- PSR法では売上高10倍前後の倍率を適用し株価2〜3万円台(時価総額4,000〜6,000億円)を試算。
- PER法ではPER20〜30倍で株価3〜4万円台(時価総額6,000〜9,000億円)が見込まれる。
このように楽観シナリオにおける3〜5年後の株価目安は20,000〜40,000円程度となり、中心値として3万円前後が一つの上限目標になるでしょう。この場合の適正時価総額は約6,000億円規模となり、かつて期待先行で急騰したサンバイオのピーク時価総額(約6,000億円)に匹敵します。
ただしハートシード社の場合は実際にグローバル収益を伴う点でサンバイオとは質が異なり、収益裏付けのある6,000億円は十分に「適正」と言える水準です。さらに適応拡大や追加パイプラインが成功すれば、1兆円超も視野に入る可能性があります。
まとめ
Heartseed社の株価は、2028〜2030年にかけてHS-001/005の開発成功と国内外での商業的成功が実現した場合、おおよそ2万〜4万円のレンジで推移することが適正と考えられます(時価総額4,000〜8,000億円規模)。
このレンジの上限である株価3〜4万円(時価総額約6,000〜8,000億円)が、妥当な楽観ケースの目標値と言えるでしょう。
★この記事は個人の株取引のメモであり、登場する銘柄は売買を推奨するものではありません。